チャプター71
秋の一日
文化祭は久し振りに中学時代の心友とも遊べたし、ボクの中ではとっても満足だった。それが終わると、期末テストまであと一か月と迫り、ボクたちはまだ一年生といっても進学校で通っているT高は一年生の時からかなり広い範囲のテストが待っている。
そんなわけで、手を抜くことはできないのだが、まだ一年生ということもあって、あまりきちんと勉強をしない子もいる。
「竜、もうすぐ期末なんだから、きちんと勉強してるの?」
「まだ一か月もあるやん。流石にそんな早くから勉強はじめとらへんって。」
「そんなこと言ってまたボクの対策プリントをあてにしてるんじゃないでしょうね?」
「そりゃそうやろ。秋の対策プリントやっとけば満点とは言わへんけど、高得点は間違いあらへんからな。」
「もう、またそんなこと言って。」
そうはいうものの、頼りにされるのは嬉しい気持ちもあり、既に作成済みのプリントの束をカバンの中から出す。
「お、もうはいできたんや。ほんま助かるわぁ。」
「竜はこのプリント渡すと二回くらい解いてくれるからいつも早めに渡すでしょ?」
そうなのだ。竜は中学の時から対策用のノートやプリントを渡すと一回自分の力で解いてみて、解けないところをもう一度といった方法で解いている。解るところを飛ばせるのでかなり効率の良い方法ではあるが、それでも時間がかかるだろうといつもボクは竜には早めに渡している。
「二回で済む時はな。秋の対策を完全にしとけば困ることはあらへんから、この問題集を満点取れるようにだけしとくんて。」
「まさか学校の課題やらずにだしてたりしないでしょうね。」
「一応答え書いて出しとるけど、対策プリント終わってたらそんな時間かからへんからな。ほんま秋には感謝やわ。」
きちんと学校の課題も提出していることを確認してボクは竜にプリントの束を渡す。中学時代よりもプリントに代わってやり易くなったと言っていたので、その効果は意外とあるようだ。
竜に朝一番にプリントを渡せるのには理由がある。竜とボクは毎日一緒に学校に通っており、バスケ部の朝練に参加しているからだ。ここのところ毎日朝練に行くことが普通になっていたのだが、普通の生徒よりも30分以上早く学校に着く。
「おはようございます。」
ボクと竜が学校に着くと、既に朝練を始めている人が数名いる。部長の川本先輩と副部長の管崎先輩だ。二人は毎日一番に来てストレッチなどをしてシュート練習をしている。この二人がいつも頑張っているのを知っているので、ボクも二人の頑張りに笑顔になる。
「今日も早いですね。」
そして、夏休み以降もう二人ボクらよりも早く来る人がいる。それが河野先輩と、同じ学年でボクと一緒のクラスの敦君だ。敦君は最近めきめきと実力を伸ばしており、先輩たちに負けない練習量とセンスでレギュラー確実と思われる。
「つーちゃんたちだって、俺らが来たのはついさっきだから。」
「秋ちゃんより先に来ると、時々秋ちゃんお手製のクッキーがもらえるって解ったしな。」
努力家の敦君は純粋に朝練に参加している様だが、河野先輩は以前ボクよりも先に来た時にボクよりも早く来た先輩と竜と一緒にクッキーを食べていることを知って早く来るようになったみたい。それでも練習にきちんと参加してるんだし、ボクとしても問題はないんだけどね。
「じゃあ、御期待に応えて明日は何か作ってこようかな。みんなには内緒ですよ?」
「もちろんだよ。秋ちゃんの手作りお菓子をあいつらにまでごちそうする気はないしね。」
「少しくらい人数増えたからって、先輩が食べられる量が変わったりしませんよ。朝からあんまりたくさん食べて授業中に寝ないでくださいね。」
「秋ちゃんは解ってないなぁ。男っていうのは独占したいものなんだよ。秋ちゃんからもたらされる幸せを独占したいって気持ちは誰だってあるんだよ。」
「そうなんですか?」
ボクは河野先輩の言葉の意味は分からなかったけど、とにかくあまり朝から大量のお菓子を持ってくるのも大変なので、少数にしかこの事実は教えていない。ボクは明日のお菓子を何にしようかと考えながらも、朝のうちにできることをしておく。
夕方の準備をしていると、他の部員の子たちも続々とやってくる。放課後と違って自由参加としているのだが、ほぼ全員が参加して、中にはボクのことを手伝ってくれる子もいる。
「そろそろ、HR始まっちゃうよ。」
ボクがみんなに朝の練習の終りを告げると、みんな思い思いに片づけをはじめ更衣室に行き制服に着替えると教室へと向かっていく。
「おつかれさん。いこっか。」
練習が終わった後は基本的には、いつも竜と敦君と一緒に教室に戻る。基本的にはといったのは、優花たちが朝から体育館まで押しかけてくることもあり、そうなるとボクは着替えが必要ないので先に教室にいくこともあるからだ。
「最近二人とも調子良いみたいね。これならレギュラー入れるわよ。」
「本当?つーちゃんのお墨付きがあれば安心だね。顧問の先生も部長でさえもそのあたりはつーちゃんの意見を取り入れてるみたいだしね。」
「部員の様子を見るのがマネージャーの仕事の一つだからね。そのあたりは信用してもらってるわ。」
「それだけじゃないやろ。川本部長も先生も秋には鼻の下のばしまくっとるからな。」
「そんなことないよ。川本先輩はもうボクのことはあきらめてるみたいだしね。」
そうなのだ。竜と別れたという噂が学校中に広まったことが一度あったため、その時はたくさんの人から告白を受けたのだが、誤解だったことをみんなにきちんと説明して、告白を全員から断ったことによって、ボクのことを好きだといってくれる人はずいぶん減った。
「いや、絶対にあきらめとるのとはちゃうと思うぞ?」
「そう?確かに優しくはしてくれるけど、先輩とは適度な距離を保ててると思うよ。それよりも問題なのは女の子たちだよ。最近は減ってきたとはいえ、やっぱりまだ告白してくる子は絶えないからね。」
「せやな。男は諦めが入った奴が多いけど、女の子の方は、ダメ元って感じな子が多いから余計に増えたよな。まさか前世の話がバレとるとは迂闊やったわな。」
度重なる屋上での盗聴器による会話漏れと森君からの情報によって女の子たちの中ではボクの前世が男の子だったことがばれてしまっており、最近は本当に女の子からの告白ばかりを受けている。そして何度断ってもファンクラブに所属し、何度でもアタックしてくるのが彼女たちの特徴だ。
ボクもはっきりと女の子とのお付き合いはできないと言っているにもかかわらず、和美との仲を知ってる人などから、あきらめなければ可能性があるのでは?という考えが出ているらしい。
そんなことを話、考えているうちに、いつの間にやら教室の近くまで来ており、竜は隣のクラスに入り、ボクと敦君は一緒に教室へと入っていくのだが、ここでも問題が起こる。
「秋~。」
「今日は女の子たちのがんばった日だったんだね。」
ボクは被害を受けた敦君に同情しつつも、毎回ボクの代わりに被害を受けているにも関わらず、文句ひとつ言わない敦君に奇異の目を向ける。
「いや、そこはつーちゃんが悪くないのは解ってるんだけど、冷静に状況を確かめていないで対処して欲しいかな。」
「でも、毎日のようにこんな悪戯がされているのに、むしろ嬉しそうじゃない?ひょっとして敦君ってエムなの?」
「違うから。というか、今回は痛いわけでもないのに何でエム呼ばわりされなきゃいけないんだい?」
中学時代にボクが入ってくると野球ボールなどが飛んできたこともあり、そう言った飛来物程度ならボクが投げ返していたのだが、今日みたいな女の子が入口で待っていて抱きついて来たりする時は、下手に避けて怪我をしたら可愛そうなので、敦君をクッション代わりに使っている。
「だって、このあとの展開はいつものことじゃないか?」
そういって、ボクは教室の隅の方でゴウゴウと怒りの炎を燃やしている女の子に指を指示してあげる。
「ちょま、優花。これは俺が悪いんじゃ・・・」
そこまで言って敦君は逃げようと試みたが、授業ももうすぐ始まる時間なので、外にいけないようにボクが邪魔をする。
「つーちゃん。頼むから俺を逃がしてくれ。」
「授業始まっちゃうから今から廊下に出るのはダメだよ。さ、和美も、敦君がかわいそうだからそろそろ自分の席に戻ろうね。」
ボクが避けたせいで敦君に突っ込んで行った和美は、ボクの顔を見ると恨みがましそうにずっとその場で止まっていたのだが、ボクが笑顔で席に着くように言うと、顔を赤くして自分の席へと帰っていった。
「あ~つ~し~。あんた私の友達を抱きしめて何をニヤニヤしてたのかなぁ?」
「ちょ、だから、和美ちゃんはつーちゃんに飛びついたんだから、俺は何にも悪くないだろ?」
「そうねぇ。だから和美ちゃんにはなぁんにもおとがめなしよ。」
そう言って、優花の右ストレートが敦君のみぞおちに当たる。あ、優花は空手をしてるんだからこれは正拳突きなのかな?まぁどちらにしても敦君はこうして毎朝被害を受ける可愛そうなキャラなんだよ。
敦君のかわいそうな状況も教室内ではもう見慣れてしまった。クラスのみんながクスクスと笑いながらも誰も手を貸そうとしない中、明実だけは一応優花に可愛そうだから許してあげなさいといった発言をして席について行く。
ボクもHRがすぐに始ってしまうので、自分の席に着くと、優花がボクの隣の席へと移動してきて、前の席の明実と三人で今日はどんなことをしようかと話しだす。
そうそう、ボクの席は、ボクの周りを心友達で固めることが決まっている。一番後ろの廊下側の席をつかっているのは小学校の時からだが、前と後は昔は竜や司が座っていたけど、二人とも今はいないので、その他でもボクが安心できる人が座ってくれるように担任の先生にお願いしている。
先週まで敦君が隣で和美が前だったのだが、そうなると和美がボクに必要以上のスキンシップを図り、その度に敦君は被害を受けていた。(主に嫉妬した優花の鉄鎚が下りていたのだが)そんなわけで、ボクの周囲の席は和美・優花・明実・敦君が多い。
あと、あんまりにも優花や和美がボクとべったりしていると、クラスから文句が出て来るので、森君とかミーちゃんが隣や前に来ることがある。森君はボクの近くの席に座ると勉強に全然集中できないので、そのことを叱ってあげたら、至上命令と勘違い?最近は近くの席に来たいといわなくなってきた。
そうそう、一時期ストーカーで大変だった森君んだけど、最近では引っ込み思案な性格を考えて、ボクの方から時々声をかけてあげてるんだ。そうすると、今までみたいに陰から覗いていることは少なくなった。でも、まだ時々ボクらの輪の中に入るのが恥ずかしいのか、教室の陰からボクの方を見ていることはあるけどね。
「ねね、今日のお昼はドレス作るんでしょ?」
「そうだね。じゃあ、みんなで屋上でお昼ごはん食べて、そのまま美術室に行こうか。」
年末にミーちゃんに招待してもらってパーティに出席することになっているボクらは、ドレス作りをしなければならない。といっても、ボクの分はもうずいぶん前にできあがっているんだけど、文化祭の準備の時に針仕事を教えたとはいっても、普段から慣れていない三人はまだ時間がかかるみたいで、まだ半分ほどしか出来上がっていない。
「そうしよっか。じゃあ、みんなにばれないように、竜くんと敦君も呼んで屋上に集合ね。」
美術室によくボクは行っているのだが、そのことはまだバレていないようだ。というのも、花梨部長への必死の説得もあって、まだボクは書類上美術部には所属していない。ボクが美術室に行っている間はボクの存在は学校中から隠されている。
「じゃあ、ツン先生はいつもと一緒で現地集合ね。」
「了解。」
こういった方法も美術室を隠しておけている大きな要因かもしれない。ボクと竜は毎回お昼や放課後に美術室に行く時は、基本的にみんなと一緒に行ったりしない。時々優花と一緒に行ったりすることもあるが、一番多いのは竜と二人で体育館の方に走ってとりまきの子たちを振り切って美術室に向かう。
そうすると、ボクと竜は体育館に向かったといったうわさは流れるが、美術室に行っているとは誰も思わないのだ。まぁボクや竜みたいな人並み外れた運動神経があって初めてできる荒業だけどね。
午前の授業が終わると、ボクはお弁当を持って竜の教室に向かい、いつものように体育館に向かうと見せかけてダッシュしてから、屋上へ行く。
「お待たせ、あら?まだ食べて無かったんだ。」
「ツン先生が来るまでまってたんだよ。うちも今日は自作のお弁当だから、見てもらおうと思ってね。」
「そうだったんだ。よっと。」
ボクはフェンスを飛び越えると、スカートの裾を直す。というか、当然のように現れたけど、ボクは今入口とは違う場所から入ってきた。
「秋、お前早過ぎやわ。どうやったらそんな素早く木登りできるねん。」
「鍛え方が足りないんじゃない?柔道をやめてから竜も鈍ったか?」
「んなわけあるかい。むしろあん時以上に運動に関してはやっとるちゅうの。」
確かにそうかもね。ボクと一緒にファンクラブをまいたり、朝練も放課後の練習も小学校の時とは比べモノにならないくらい運動している。そういえば、良く体がもつよね。
「そんなの、クーちゃんの愛妻弁当を食べるためだもの、一生懸命運動するに決まってるじゃないの。」
「べ、別にボクのお弁当を食べてるからってそんなに運動できるようになるわけじゃないよ。」
「そうかしら?でも、食事のバランスがいいのは確かよね。医食同源、竜くんの体調が常にベストに保たれているのは秋のおかげだと思うわよ。中学の時の友達だって秋のお弁当を食べて元気だったもの。」
「なるほど、ということは、竜にバスケで勝つにはつーちゃんのお弁当を食べればいいのか。」
「ちょっと、うちのお弁当が不満ってわけ?せっかく作ってあげたけど、敦にはあげない。」
「そんな。ごめん優花俺が悪かったって。」
今日も優花と敦君は仲良く夫婦ゲンカをしている。この二人はこうして定期的にケンカをしないとお互いにストレスがたまるみたいだね。
「よっと。」
そんなことを話している間に竜も木登りを終えて屋上に入って来たので、ボクは手に持ったお弁当の包みを開くと、みんなでお弁当を囲む。木登りをしてきて手が汚れている竜にはおしぼりを手渡す。
「サンキュ。んじゃ、早いとこ飯にしよか。」
「みんな、あんたを待ってたんだから、もう。」
そうは言うものの、みんなで揃っていただきますを言えるのは嬉しいので、顔はニヤケ顔かもしれない。さっきからボクと竜の様子を横で明実がニヤニヤしながら見ているのが分かる。
「「いただきます。」」
ボクらはお昼ごはんをみんなで食べだす。相変わらず竜は食べるのは早いが、きちんと噛んでいるみたいで、ノドに詰まらせているところを見たことはない。作ってきたボクとしてはもう少し味わって食べて欲しいところだが、昔から変わらないので今さらだ。
「もう少しゆっくり食べられないの?」
今日は優花が竜と敦君に突っ込みを入れた。敦君も竜もボクらに比べたらすごい勢いでお弁当の中身を消化しており、明実などはまだお弁当の10分の1も食べ終わっていないにもかかわらず、二人は半分以上食べてしまっている。
「そうしたいんやけどさ。秋の料理っていっつも美味しいから、箸がとまらへんねんな。」
「ありがと。」
ボクが美味しいと言ってくれた竜にお礼を言うと、竜はウマいものはウマいと当然のように言ってまた高速で箸を動かしだした。その隣で敦君は・・・
「俺元々早食いなだけやし・・・・」
あわれ敦君はお弁当もあと少しといったところで優花にお弁当を取り上げられて涙目になっている。優花に最近料理が上手になってきてお弁当が美味しいといって謝っていたが、しばらくはお説教のようだ。食べモノを前にマテをされているワンコの用でちょっとかわいかったので誰も助けようとはしない。
みんながお弁当を食べ終わって片づけが終わると敦君と竜以外はドレス作りのために美術室へと向かう。屋上から美術室はすぐ近くなので、誰にも見つかることなく移動すると、さっそく作業に取り掛かる。
「ねね、ここのレースはどうやって縫うの?」
「前にも教えてもらってたでしょ。たまには自分でしなさいよ。」
「ツン先生がいない時は自分でしてるわよ。」
優花がボクに作業の質問をしてきて、明実がそれを咎める。これも毎度のことで、優花はボクが側にいると何でもボクに頼ってしまう癖がついてしまったかもしれない。それでも、ボクは丁寧にやり方を教えてあげると、お昼の短い時間だけしかボクは一緒に作業ができないが、三人の分のドレスもずいぶん完成に近付いてきたみたいだ。
「クーちゃんって本当にすごいわよね。自分のドレスだけじゃなくって、竜くんと敦君の分までもう終わっちゃったんでしょ?どうやったらそんなに早く終わらせられるのよ?私たちの方がドレスを縫ってる時間は絶対に多いと思うわ。」
「そうだね。ボクは家に帰ってからもちょくちょくやってたからね。それに、慣れてるっていうのがあると思うよ。中学の時から何度も針仕事してるからね。」
明実や優花は結構できるのだが、和美は本当に自分で言っていたとおりかなり苦手らしく、中々進まないので、ボクがついてあげながら進める。優花がボクに質問をしてくるといっても、和美ほどできないわけじゃないので、基本は和美に教えてあげるのがメインでお昼はいつも集まっているようなものだ。
「和美ちゃんもそろそろ猫かぶりやめて仕上げなさいよ。三人でパーティ前に写真とれなくなっちゃうわよ。」
「ええ?秋につきっきりで教えてもらわないと私間に合わないぃ。」
「嘘言わないの。私たち三人でやった時普通にできてたじゃないの。」
「和美?いったいどういうことかな?」
「えへへ。ごめんなさい。」
和美が実はボクにつきっきりで指導してほしいためにドジをしていることを聞き、ボクが叱ろうとしたら、先手を打って謝られてしまった。こうなってはボクも強く叱ることができずに、今度からはちゃんと自分でやるように言いつけると、そろそろお昼の休み時間も終わるので美術室から出る。ボクは屋上でのんびりしているだろう二人を呼びに屋上へ行き、こうしてまた美術室にいたことを隠ぺいすると教室へと戻っていくのだった。
「お疲れ様でした。水分補給だけしっかりしてくださいね。」
放課後のバスケ部の練習が終わると、人数分のタオル等を用意してボクは片づけを始める。用具などをしまって戻ってくる頃にはストレッチを終えて水分補給をしている部員たちにモップがけをお願いして、マネージャーノートを一人ずつ手渡していく。
「今日の分です。明日の朝練か放課後の練習の時に渡してください。」
「いつも思うんだけど、どうやって毎日こんな大量のノートをつけているんだい?」
「授業中とか休み時間を使ってる時もありますね。」
「そうなんだ。蟹津さんも大変だろうし、本当に要点だけで構わないからね。蟹津さんだけに負担をかけるんじゃなくって、自分たちで気づいていかないことにはレベルアップしないだろうしね。」
「解ってます。本当に気付いたことを少し書いているだけですから、そんなにきにしないでください。」
ボクのノートはだから基本的に一日遅れの情報になることがおおい、朝ノートを渡してくれた人に、夕方までに書き込む場合は朝練の様子を見た結果もきちんと残せるのだが、夕方だけ参加したりノートを渡され忘れた時はどうしてもノートに書く内容が減ってしまう。
あと、ノートを見ていないだろう人には口頭で伝えるようにしている。特に怪我をかばっていることがバレバレな人などにはできるだけ早めに治療をするようにしている。
「秋。そろそろ帰るで。」
「うん。先に着替えてて。」
竜に呼ばれた。モップがけが終わっているにもかかわらず部長の川本先輩と話していたボクは先輩達に挨拶をすると、更衣室でジャージから着替えると、竜が外で待っており、一緒に自転車置き場へと歩いて行く。
「さっき、部長と何を話してたんや?」
「ん?マネージャーノートのことで質問されてたんだよ。」
「そっか、そういえば、俺だけマネージャーノートあらへんよな?なんでなん?」
「だって、竜とは一緒に登下校してるんだから、直接話をすればいいでしょ?それとも、自分だけマネージャーノートが無いのがさみしい?」
「いや、なんか俺だけのけ者にされとるみたいで、何となくな。」
「のけ者にしてるんじゃないよ。竜だけ特別なんだよ。」
「なるほどな。物は言いようってわけか。確かにそう言われたら悪い気はしいひんわな。」
「ホントだよ。だって、竜はボクの・・・」
そこまで言って、自分の言葉に恥ずかしくなって俯いていると、竜がどうしたのか覗きこんできた。ちょま、顔。近すぎ・・・
「あれ?二人先に帰ったんじゃなかったの?」
「あ、敦君。ちょっと話したいことがあって、少し話をしてたんだよ。」
真赤になってあわてて言いつくろっているボクに敦君がフムフムとわけしり顔で頷いて立ち去っていくと、ボクはそのあとを追いかけて三人で自転車置き場へと行く。
自転車置き場で自転車にのって、敦君とお別れをすると、当然また竜と二人っきりになるわけで、さっきのことは話題に出さないようにと部活中に気づいたこととかを竜に伝えながら自転車をこぐ。
「確かに、これだけ部活の話題を自転車に乗りながら話しとればマネージャーノートいらへんわな。」
「そうでしょ?だから、竜の分は無いの。解った?」
竜が話題をマネージャーノートに戻そうとしたので、ボクはそう言って、さっさと話題を切り換えようとしたが、今日の竜は意外と鋭かった。
「ほんでさっきは何を言おうとしたんや?」
「え、んっと・・・」
「そんなに真赤になるほど恥ずかしいことなんか?」
「だって、特別なのはさ、ボクと竜は・・・ゴニョゴニョ。」
「秋にとって、俺と付き合ってることって、そんなに恥ずかしいことなんか?」
「そんなことないよ。ボクは竜と付き合えてうれしいよ。」
「だったらさ、そんな毎回恥ずかしがらないでくれや。いっつもそんな態度ばっかりだと、俺ってそんなに魅力ないんかとなんや不安になるやん?」
「だって、竜の顔見るとなんだか恥ずかしいんだもん。」
そう言って、うつむいて自転車をこいでいると、竜からあきれたような溜息を吐かれ、了承の言葉が聞こえた。いつだってそうだ。ボクがこんな態度をとっても、どんなことをしたって竜は最後には許してくれる。自分でも考え直さないとと思ってはいるのだが、どうしても竜の側にいることを理解してしまうと、胸の中から何かキュンキュン音がして、心臓を鷲掴みにされているような不思議な気分になって、上手くできない。
でも、そんなに苦しいのに、絶対にその苦しみを話したくなくって、胸は苦しいはずなのに竜と一緒にいるとなんだか安心できて、そんな自分がどうなっているのか自分でもよくわからないけど、今のこうした関係を大切にしたいとおもっている。
「秋は秋のままでおり、そしたらずっと俺が守ってやるからさ。約束、しただろ?」
「うん。」
そのあとボクらは言葉は交わしていないが、日も短くなって暗くなった道を二人で自転車にのって家まで帰っていく。
「んじゃ、また明日な。いっつもお弁当作ってもらって悪いし、明日は一緒に学食でも行くか?」
「そういえば一回も行ってないもんね。でも、優花たちも一緒じゃないと前みたいにお腹壊して倒れちゃうかもしれないから、明後日にしよ?」
「せやったな。んじゃ、明日はお弁当期待しとるわ。」
「うん。気をつけて帰ってね。」
「おう。またな。」
ボクは竜が見えなくなるまで手を振ってから、自宅へ足を向ける。おっと、家に入る前に少しだけペコちゃんの様子を見て行こう。最近休日しか一緒に遊んであげてないから、拗ねてるかな?
制服姿なので、抱きしめてあげることはできないけど、頭を撫でてあげると、嬉しそうにしっぽを振る。ペコとも小学六年生の時からだから、四年の付き合いになる。ペコが満足するまで撫でてあげると、ボクは家の中に入っていく。
「ただいま。」
「おかえり。ペコの毛ついてないかしら?」
「あら、バレてたんだね。大丈夫ペコも分かってくれてるから。」
そう言って、ボクは鞄からお弁当を出して洗い物をしようとかがんだとたんに一匹の毛玉がボクの膝の上に現れた。
「あらあら、ペコの毛を心配しても無駄だったわね。」
「ジジ、お姉ちゃんは制服にあなたの毛がついちゃうから、着替えるまで甘えるのは待ってって前にも言ったでしょ?」
ボクはそう言って、ジジを床に下ろすが、ペコと違って本当に解っているのか分からない。というか、わざと知らん振りをするかのように、顔のを洗いだした。
ボクはジジの黒い毛がこれ以上付いてしまわないように、着替えてからお弁当を洗おうと、自分の部屋に向かうことにした。着替えを済まして、リビングに降りてくると、既に晩御飯が用意されており、お弁当もお母さんに洗われてしまっていた。
「もう、置いておいてくれたら自分でしたのに。」
「勝手にカバンを開けてごめんなさいね。まぁたまには私にも家事をさせてちょうだい。秋はまだ学生なんだもの。」
「お父さんが聞いたら怒るんじゃない?女の子は家事を手伝うものだっていっつもいってるじゃない?」
「お父さんは今日は残業で遅いから良いのよ。さ、晩ご飯にしましょ。秋が大好きなから揚げよ。」
「ボク別にから揚げ大好物じゃ・・・」
「あら?そうだったかしら?その割にはお弁当のメニューにから揚げが多い気がするんだけど、それは何でかしらね?」
お母さんは解って言ってるね。ボクが自分の分と竜の分のお弁当を作っていることはお母さんもきちんと理解している。週末の買い物などは一緒について行くが、基本的にお買い物はお母さんにお願いしているので、ボクのお弁当のメニューは筒抜け、その上でどれがボクの好みでどれが竜の好みかバレバレなのである。
「ボクもから揚げは大好きだよ。さぁ、食べよっか。」
「そうねぇ。秋ちゃん”も”から揚げ大好きよね。」
その、「も」ってところにアクセントをつけるのやめてくれないかな。そんな感じでちょっとボクらの仲をからかわれながらも、お母さんと一緒に晩ご飯を食べ終えると、ボクは明日の準備をしてお風呂に入って自分の部屋へと行く。
コンコン
「開いてるよ。」
というか、鍵なんて付いていない。特に隠し事もないのに、家族の中で鍵なんて必要ないとおもっている。家族全員鍵なんてつけていない。ボクの言葉が入室許可と受け取って、武兄ちゃんが入ってくる。
「おう。一応妹とはいえ、女の子の部屋だからな。」
「こんな時間にどうしたの?」
「いやな。今度の週末大学の友達と遊びに行くんだけど、秋も来るかなと思ってさ。」
「ごめん、週末は部活の練習があるんだよ。」
こんな会話は良くされる。ボクと武兄ちゃんは仲がいいので、こうして遊びに行く時に誘ってくれたりすることは良くある。六つも年上のお兄ちゃんだから、どこかに誘うことはお兄ちゃんからが圧倒的に多いけどね。
「そっか、じゃあいいや。もう寝るん?」
「うん。明日も朝練があるからね。武兄ちゃんはまだ起きてるの?」
「せやな。卒論そろそろ書きあげないといけないからな。」
「そっか、体壊さないようにね。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
武兄ちゃんが出て行くと、ボクは部屋の明かりを消して、良い夢が見れますようにってお願いしてから瞳を閉じる。
最近ストックを残しながら執筆する余裕が無く申し訳ありません。
今回のテーマは~ほのぼの~です。
秋の一日を追いかけるような一話を書いてみなさんにリラックスしていただければと思います。
相変わらずな秋の周りの人間たちを書いてきたのですが、一つ後悔していることは、登場人物を総出演することができなかったことです。
と、言うのも、何度文字数を確認しても一話分には長すぎるのです。これでも凝縮してほのぼのする部分だけ抜き出したつもりなのですが、こんなキャラが出てないじゃないかといった不満もおありかと思います。
そんなキャラたちが一回でも出番が多くなるように次からの話もがんばって書いてまいりますので、どうかこれからも応援をお願いいたします。
ここまで再転の姫君にお付き合いくださいまして本当にありがとうございました。