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再転の姫君  作者: 須磨彰
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チャプター69

文化祭二日目





秋たちのクラスは一日目、観客動員数NO1を取り、さらに写真の売り上げも好調で、T高の文化祭は有名とはいえ、それでもかなりの記録を出した。



「な、何故私の写真が売れていないのですか?」



「まぁまぁ、予想していたことじゃないか。つーちゃんの写真がトップになるのは当然さ。」



「それは解ってますわ。蟹津さんだけでなく、川瀬さんや長田さん、さらには着ぐるみの鈴木さんにまで負けているのはどういうことですの?」



一日目の写真の売り上げ結果は、秋の写真がダントツで売れ、さらに魔女の格好をした明実や猫耳メイドの和美をしのぐ勢いで優花の写真が売れていた。



その次に美香の写真となり、受付を任された5人の写真の売れ行きは好調で、その次にクラスのメンバーが少しずつ売れているといった様子だ。



「まぁ、今日はお稲荷さんの衣装も作ってきたから、ミーちゃんの写真も売れると思うよ。昨日はお化け屋敷なのに普通にドレス着ただけだったからね。」



秋はそう言って、お稲荷さんの狐耳をとりつける。美香は、確かに昨日の自分は妖怪ではなく、ただのコスプレだったと、納得するのだが、そこに一人のメイドが現れる。



「さぁ、今日もがんばりましょう。」



「長田さんは、妖怪というよりも、コスプレですわよね?」



猫耳メイドの和美は今日も元気だった。実は秋にばれないように先日の写真を押収という形で数枚手に入れており、とってもご機嫌なのだ。



「今日はわたぁしも、受付をしまぁす。」



「そうだね。ケイティがどうしてもお化け役をしたいって言っていたから、昨日は中に入ってもらってたけど、やっぱりケイティは外の方がいいと思うよ。」



昨日は中で十分人を脅かせて楽しんだケイティも、今日は巫女さんの格好で受付を行う。日本の伝統を見たいと留学してきたケイティに間違った教育をしているような気がしてならない秋たちだったが、とにかく本人が喜んでいるので問題ないだろう。



『今日は、ケイティの写真もかなり売れるだろうなぁ。』



中で驚かしているクラスメイトと比べて、外で受付をしている子たちは、たくさんのファンができやすく、秋の影響で見にきた男子も女子も、いつの間にか受付の子たちの写真を手に取っているのだ。



「今日はボクと和美は午前中だけ受付したら、用事でいなくなるから、後はみんなに頼んだよ。」



昨日の半日と今日の午前でクラスの仕事は終わりにして、あとは秋と和美は文化祭を楽しむつもりでいる。



お化け屋敷で脅かすことにはまって、一日中ここにいると言うものも中には存在するが、基本的にはローテーションを組んで休んだり、他のクラスの出し物を見にいったりしている。



「ツン先生がいなくなったら、うちらすっごい寂しいよ。」



「それに、クーちゃん人気で繁盛しているところはあるとおもうもん。」



「最初はそうみたいだったけど、中に入った人の口コミで、すっごい怖いって有名になったから、そればっかりじゃなくなってきたんじゃないかな?」



「なんでボクがいるとお客が増えるの?」



「ファンクラブの子たちが見に来てくれるでしょ?まぁ、午後から秋がいなくってもおそらく文化祭の売り上げのNO1はいただいたも同然よ。」



「模擬店よりも売り上げが高いなんて、滅多にないことだから、ひょっとしたら何か特別な賞をおくるかもしれませんわ。昨日の執行部の反省会でも、ここのお化け屋敷の話題はでていましたもの。」



美香の発言により、クラスのやる気が一段と上がった。実際しょぼい遊園地のお化け屋敷と比べても怖いくらいのかなり本格的なお化け屋敷に、T高文化祭に来たら、ここにまず行けといった案内がされているらしい。



二日目は、開会式などはなく、それぞれのクラスで準備ができ次第始まる。そのため、秋たちのクラスは急いで衣装を着替え、証明を落とすと、受付を始める。



「何で先頭に花梨部長が並んでるんですか?」



「いやぁ、昨日すっごく面白かったから、今度は美術部のメンバーで来ようとおもってね。」



受付の席に着いた秋は、朝一番から並んでいたであろう花梨を見つけると、あきれて良いやら、喜んでいいやらと言った顔をする。



「しかし、中々面白いものを作ったわね。秋ちゃんも一緒に中に入りましょうよ。どこを自分で作ったのか教えてほしいわ。」



「静香先輩、それはできませんが、あえて言うなら、ほとんどがボクと今美術部に所属しているメンバーの作品ですよ。この衣装や被りものも、ほとんどボクらが作りましたから。」



「ボクらねぇ。寝る間も惜しんで針仕事していたのは秋くらいのものよ。私たちは、基本的に一人一着と前日からのセットの作成くらいだもの。」



「うん。うちもツン先生みたいに手先が器用だったらもっと手伝えたのかもしれないけど、ほとんどツン先生が作ってくれたよね。」



優花と和美によって秋の作ったものが多いことがバラされる。といっても、別に隠すようなことでもないのだが、秋的には、以前花梨に言われたみんなに頼るということを実行したつもりだったのだ。



「まぁ、できるものがするという考えも悪くはないが、それで君の体調が悪くなったらいけないんだ。ある程度は妥協も必要だよ。」



「妥協なんて、優花たちの作った衣装もすっごく良いものができましたよ。今日は二度目ですし、ゆっくりそのあたりも注目して楽しんでください。」



お化け屋敷に二度目はいるということは、どこでお化けが出てくるかがわかるということだ。花梨はそう言った意味でも心のゆとりがあることだろう。



ただし、出てくるお化け等は、時間帯によって違うし、多少のパターンも用意しているので、全く同じにはなっていない。



『それに、今日は昨日よりもなんだか、守護の力が強いみたい。これなら、いつもの花梨先輩だ。やっぱり河野先輩の影響だったのかな?』



「それでは、”用意”がありますので、これで。」



「ああ、早く開いてもらえると私も嬉しいよ。」



「秋ちゃんの作品早く見てみたいわ。」



「・・・」



陽子はお化けにはあまり興味がないらしい。静香と花梨と比べると口数も少なく、かと言っておびえている様子も見られない。



10分ほどたつと、中から、準備ができたと合図があり、秋たちはお客を順番に通す。



「いらっしゃいませ。こちらはお化け屋敷のブースとなっております。冥界への道を進みたいお方は、列にお並びくださいませ。もし、列からはみ出しますと、そのまま冥界から帰って来れなくなるかもしれません。その時は私どもも責任を一切とることはできません。」



お約束となったセリフを秋が言うと、それまで雑然としていた列がきれいになる。秋は冥界に行くのがそんなに怖いのかな?という的外れな感想を抱いていたが、秋の言葉に聞き入ってそれに従っている者が多くいることは気付いていない。



午前は昨日と同じように大量のお客が押し寄せ、午後からもその列は減る様子も見えず、中でも受け付けでも、休憩に中々入れずに、順番に休憩をとるしかない。



特に、中は3分後に次の客を入れるようにしているのだが、怖がりな子とスタスタと進める子ではどうしても差が出てしまうらしく、狭い教室を一回りするだけだというのに、中々客が引き切ることがない。



「とりあえず、秋と私はそろそろ抜けるわよ。このままじゃらちが明かないわ。中でお化けやってる子から受付にまわってもらえるみたいだし、さっさと休憩に入っちゃいましょ。」



「う、うん。ちょっと、和美、待って。」



秋は和美に多少強引に引っ張られてお化け屋敷を後にする。和美は秋の性格からして、忙しいあの場を離れることに罪悪感が湧き、中々離れられないと考えたのだ。



実際は、秋が離れることによって、少しだが、客足が減ったことにより、落ち着いてお化け屋敷をすることができるのだが、そのあたりは秋には黙っておく。



「とりあえず、この衣装を着替えましょ。美術室なら誰にも見られずに着替えられるかしら?」



「うん。じゃあそこに行こうか。」



秋と和美は美術室に向かう。美術部員でない秋は鍵を持っていないのだが、文化祭中は何があっても避難できるようにと花梨の計らいで鍵は開きっぱなしになっている。



二人はここでお化け屋敷の衣装から制服に着替える。秋は準備が整うと、電話をかける。



「ごめんね。ちょっと待ったかな?今から合流できるから、今どこにいる?」



(お疲れ様、竜くんと一緒に体育館の側の模擬店にいるわよ。)



「解った。今から和美と一緒に行くから、そこで待っててね。」




(はいはい。約束のもの持ってきた?)



「もちろんだよ。じゃあ、すぐに着くと思うから。」



秋は電源を切ると、和美と一緒に体育館の方へと歩いて行く。



秋と和美が体育館の側に着くと、そこでは演劇部の子たちが今日上演される舞台の看板とビラを配っており、中々の人気を誇っているようだ。



「メグ〜遅いぞ。」



「ごめん、おまたせ。」



「今から、ご飯を食べて演劇でも見に行こうと思うんだけど、良いかな?」



「うん、それは別に良いけど。ボクの学校なのに、案内する必要がないなんて、不思議だね。」



「相変わらずの情報通だからね。でも、最近面白いことが起こらないから、廃業しようかなんて言ってるのよ。」



「そうなんだよ。中学までと違って、メグちゃんと同じ学校じゃないから、どんな情報も一歩後れをとるから面白くなくってね。」



「そこで何で秋が出てくるのよ。自分の学校の情報屋してればいいじゃないの。」



「和美ちゃんは解ってないね。メグちゃんの情報は、Y高でも高く売れるくらい知名度の高いものなんだよ。もし僕らが、幼少期の写真なんかを売りさばいたら、それこそ何十万というお金を手に入れられるはずさ。」



昨日、実際に写真が売られ、一万円という学生にはかなりの高額にも関わらず飛ぶようにして売れてしまったことを話す。



「そうだろ?しかも、僕らは、それ以上のレアな写真だって多数持っているんだ。それこそ、いくらだって儲けれるさ。」



「やめてよ。誰か知らない人が、ボクの写真を持ってるなんてなんだか嫌だよ。」



「そうだね。僕らもそれはしないようにしているさ。」



「それよりぃ。早くお昼ごはんにしようよぉ。」



「そうだね。じゃあ、ここだと目立つし、少し移動しよう。」



「何で私たちT高の生徒よりも前を歩くかな・・・」



「当然、お昼をゆっくり食べられる場所を事前に調べておいたからだよ。」



浩太の後に続いて、ぞろぞろとみんなが歩いて行く。もう会話で気づいているかもしれないが、T高の文化祭に集まったのは、秋の中学からの心友メンバーだ。



文化祭の喧騒から少し離れた場所に、浩太の言うゆっくりとできる場所はあった。秋もその場所のことは知っていたが、文化祭という日に上手いこと人が通らない場所があるなんて思っておらず、驚く。



「やっぱり、浩太がいるとこういう時に便利だよね。ボクなんて自分のクラスと隣のクラスが何をしているかと、そんなくらいしか調べて無かったもんな。」



「確かにそうよね。私たちだって、浩太くんに全部任せて、後は自分たちの準備さえしてくればいいんだもん。すっごく助かるわ。」



麻美も今回は何にも調べずに来たようだ。麻美や司は、裏で画策をするときには事前に色々と準備を怠らないが、最近ではこうして遊ぶ時全て計画を浩太に任せることが多くなっていた。



「麻美と司の場合は、そういう計画はしないもんね。いつも麻美と司にはめられてたけどね。」



「はめたなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ。私たちは一緒に楽しんでいただけよ。」



「楽しむ内容が全部ボクたちのことをからかう内容だった気がするのは、ボクの気のせいかな?」



「当然よ。ね?鈴だってそうでしょ?」



「うん。メグには幸せになって欲しいもの。からかうなんて以ての外よ。」



鈴はそうは言いながらも、口元を手で隠していた。秋はそんな二人の様子に何故か顔をほころばせるのだった。



「なんだか、すっごく久し振りな気がするわね。こうしてみんなで集まるの。」



「そうだね。夏休み中も何度か会ってはいたけど、こうして全員が集まったのは春以来じゃないかな?」



「そうかもしれないわね。それで、春からどうなってるのかしら?」



「クラスにも馴染んだし、もうほとんど問題ないよ。それは夏休みに逢った時にいったじゃないか。」



「そっちじゃなくて、竜くんとの進展。」



「ちょ、べ、別に何もないよ・・・」



先ほどから、竜と司はずっと何かについて話こんでおり、秋の方には話題を振ってこないし、何も聞いていない。しかし、自分自身がこれくらいの距離なら会話を認識できるので、秋は竜にも聞かれていると思ってしまう。



「あのね。秋ちゃんは結構特別なのよ?そこら辺を理解してるかしら?」



「え?へ?」



「普通他人と会話をしていて、自分の名前が呼ばれでもしない限り、人はそっちに注意を向けることはないのよ。それで、今さっき名前を言ったのに話こんでいるということは、こっちの会話なんて聞こえていないの。」



「ああ、カクテルパーティ現象だっけ?」



「そこまでは知らないけど、今あっちは別の話をしてるんだから、心配しないで全部話しちゃっていいわよ。」



相変わらずの麻美だった。秋が何かを隠していること、何かを心配していることを鋭く読み取ると、周りに配慮しながらも胸の内を聞いてくる。



秋はみんなで話して問題ないところは後に回し、とにかく今一番相談したいことを話した。



「え?じゃあ、秋と竜くんは結婚しちゃうの?」



「ちょっと、声が大きいよ。」



状況を察した浩太が竜と司の方に加わり、こちらの話を聞こえないようにしてくれているとはいえ、和美の声は聞こえてしまっただろう。



「ん?どないしたんや?」



「何でもないわ。それよりも、そろそろご飯にしない?つもり話はあるだろうけど、お腹がすいたんじゃない?」



麻美のフォローにより、竜の意識はお弁当へと向かう。



「そうだね。久し振りにボクら美女三人が腕を振るうんだから、残しちゃダメだぞ。」



秋もひとまず麻美の提案に乗る。しかし、秋自身は毎日のように作っているのだが、こうしてみんなで集まってお弁当を持ってくるのは久しぶりだった。



「せやな。鈴ちゃんの和食や麻美ちゃんのデザートも久し振りに食べさせてもらわないかんでな。」



「秋ちゃんと違って、私たちは毎日作ってるわけじゃないんだから、そんなに上達はしてないわよ。」



それでも、麻美や鈴の作ってくれたお弁当もすごく美味しそうだった。秋は自分と家族以外が作った料理でこんなに安心して口にできる料理は他には無い。



「「いただきます。」」



それぞれ思い思いに食べ始めたかに見えるが、きちんと彼女の作った料理を彼氏がまず食べている。このあたりは、昔からの習慣なのだろう。そして、次に箸が伸びるのが秋の作ったお弁当で、全員の箸が集中するのもまた、いつものことだ。



「美味しい♪」



「ありがと、そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ。」



「私ももう少し練習しないよいけないわね。秋ちゃんにいつまでも任せっきりじゃいけないもの。」



「そんなことないよ。麻美が作ったサンドイッチもすっごく美味しいよ。」



そう言って、秋は嬉しそうに麻美のサンドイッチを頬張る。



「ありがとう。前に食中毒を起こしてからは、あんまり他人が作ったものを口にしてないんでしょ?」



「そうなんだよね。でも、麻美や鈴が作ったものなら絶対に平気でしょ?」



「信頼っていうのかしら?嬉しいわ。そんなに喜んでもらえるなら、毎日でも作ってあげたいわ。」



「女の子ってそんなもんなんか?前に秋もそんなこというてたよな?」



「言葉のあやよ。本当に毎日作るのはすっごく大変よ。でも、それくらい嬉しいってことなの。竜くんは本当に毎日秋ちゃんにお弁当作ってもらってるんでしょ?感謝しなきゃダメよ。」



「そっか、いつもありがとうな。」



「う、うん。」



秋は真赤になりながら頷く。秋としては高校に入ってから毎日しているとことなので、今さら感謝されても当然のことになってしまいつつある。



しかし、こうやって改めて感謝されるのも悪い気分じゃない。その様子が顔に出ていたのか、麻美に耳元でささやかれてしまった。



「どうせ、喜んでもらえるなら毎日作ってもいいよとか思ってるんでしょ?」



「はぅ・・・」



真赤になった秋に視線が集まるものの、竜以外はそれだけで理解すると、また談笑にもどっていく。和美と鈴は幼馴染ということもあり、二人で話。



竜と司と浩太は男の子同士の話があるようだ。そして、麻美と秋は先ほどの続きを話しだす。



「なるほどね。相変わらずお酒に弱いのね。でも、竜くんはそれで良いって思ってくれたんでしょ?だったら何も心配することないんじゃないかしら?」



「ボクってすっごく不幸体質だから、この前も死にかけたり、事故にあったりしたし・・・」



「そんなことは、昔からじゃないの。それでも良いって思ってくれてるから、竜くんは秋ちゃんと付き合ってるんでしょ?そんなことで嫌気がさすなら、中学の時に別れてるわよ。」



「だって、中学の時とは比べモノにならないくらい一杯不幸なことが起こってるんだよ?」



「確かにそうね。高校に入ってから、急に増えたわよね。どうしちゃったのかしら。」



「それは簡単だ。今まで君たちの側にいたから起きなかった不幸が、一気にしわ寄せとして高校に入ってから起こっただけだよ。」



「そうだったの。じゃあ、もうしばらくしたら、安定するかもしれないわね。」



「確かにそうだね。じゃあ、これからは少しは安全になるのかな?」



「そうとも限らないさ。何よりも、君が自分の周りの人間を守りたいと思っている以上事故や事件に巻き込まれることは決してなくなることはないからね。」



「どうにか、ならないんでしょうか?」



「さぁ。そこまでは私にもわからないね。ところで、驚かせるつもりだったのだが、どうして二人とも自然に会話を続けているんだい?」



「前からあなたのことは聞いていましたから。河合花梨先輩ですよね?はじめまして、私は藤田麻美です。」



「は、はじめまして。」



「花梨部長。麻美たちを驚かせたかったら、それこそ大きな事故や事件の一つくらい持ってこないとだめですよ。」



「いや、普通の人は十分驚くくらいのタイミングだったと思うんだが、流石は君の心友たちといったところだね。ところで、その事故なんだが、起こったらしいぞ。」



「本当ですか?どこで?」



「なんでも、演劇部のメンバーが午前の公演で問題があったとかで一人出れなくなって、午後の公演は中止するそうだ。つまり、君たちのプランは変更せざる得ないというわけだね。」



「ん〜。じゃあこのまま話てても良いんだけど、せっかく文化祭に来たんだし、どこか廻る?」



「そうね。浩太くん。どうしたらいいかしら?」



「屋外のものは、メグちゃんを待っている間にほとんど回ってしまったし、屋内の展示でも見て回ろうか?」



「そうね。どうせだったら、秋ちゃんのクラスにも行ってみたいわ。」



「え?あそこに行くの?」



麻美たちは秋のクラスがお化け屋敷をしていることを知っているため、わざとそう言ったのだが、そこに花梨が食いついた。



「あそこは素晴らしいぞ。高校生であれほどのクオリティを出すお化け屋敷は今までに見たことがない。是非とも行くべきだ。そうだ、私も一緒に行こう。」



「花梨部長。何度あのお化け屋敷に行くつもりですか?」



「実はこれで四度目になるな。君と一緒なら、あの長蛇の列を並ばずに済みそうだし是非とも一緒に行こう。」



秋たちのクラスのお化け屋敷はかなりの人気で一日に何度も入れるようなものではない。それを既に三回行ったということは、朝一番に入ってまた入ってきていたのだろう。



秋の休憩のシフトを考えると、おそらく秋が抜けてすぐくらいにお化け屋敷に入ることができたといった感じだろう。



「できるか分かりませんが、クラスの子に頼んでみますよ。」



「あれ?あんまり怖がらないんだね。」



「お化けも怖いですが、一番怖いのは暗い所で予期せぬ事故が起こることですから、このメンバーがいれば、そんなことも起こりませんし、そこまで怖がる必要はありません。」



「なるほど、あくまで君自身の心配はないわけなんだね。君はもう少し自分のことを大切にした方がいいと前にも言ったよね?君が君自身を大切にすることは、周りを救うことにもなるんだ。そのことを学んだ方がいい。」



「ボクがボクを?周りを守る?」



「まぁ、そのことはまた今度でいいさ。さぁ、今からは楽しいお化け屋敷だ。」



花梨はそう言うと、自分が先頭になっていこうとする。しかし、秋たちは先ほど広げたお弁当を片づけなくてはならず、急いで包みをしまう。



「話には聞いていたけど、本当に独特な人ね。」



「うん。何て言うのかな、不思議と悪い気はしないんだけど、どこか見透かされているようなきがするんだよね。」



「そうだねぇ。でもぉ、秋の考えてることなんてぇ、僕らだって解るんだからぁ。あんまり気にしない方がいいよぉ。」



「司の言う通りかもしれないわね。秋ちゃんってすっごくわかり易いもの。竜くんもだけどね。」



「そ、そんな、ボクらを単純カップルみたいに言わないでくれないかな?」



「実際そうじゃないのぉ?お化け屋敷に行くって解ったとたんにさぁ。秋の心配しだすんだよぉ。自分が一番被害を受けることには全く気付いてないからねぇ。」



「ボクの心配?」



「ほら、今も秋が考えてることが解ったぁ。”ボクの心配してくれるなんて嬉しい。やっぱり、竜はボクのこと一番に考えてくれてるんだな。”ってところでしょぉ?」



「そ、そんなことは・・・無くはないけど・・・」



「付けくわえましょうか?”ボクの心配ばっかりしないで、自分のことも心配して欲しいよ”なんてのも考えたでしょ?自分のことは棚において人の心配ばっかりする秋ちゃんらしいけどね。さっきの河合先輩の言っていたこともあながち嘘じゃないわね。」



「か、勝手に決めないでよ。ボクがいつそんなことを言ったんだよ。」



「じゃあ、違うの?」



「ち・・・違わないけど・・・」



「秋ちゃん。本当に私たちは秋ちゃんが心配よ。もう少し自分を大切にしていいのよ。我がままになって良いのよ。中学までは側に我がままを言える私達がいたかもしれないけど、高校にはいってから、誰にも甘えていないんじゃない?」



「そんなこと、高校生になって甘えるなんて。」



「高校生って、体は大人っぽくなってるけど、まだ子どもよ。甘えて何が悪いの?物わかり良い子で過ごすのもいいかもしれないけど、もう少し自分に正直になって良いんじゃないかしら?」



「別に、自分に嘘を付いているわけじゃないよ。ただ・・・」



「そうね。いきなりは無理かもしれないけど、クラスの子とも仲良くなったんでしょ?竜くんもいいけど、そのクラスの子たちにも少し甘えてみたらいいんじゃないかしら?」



昔から麻美はどこか秋のお姉さんのような雰囲気があった。司や竜と一緒にいる時に感じるほっとするような感覚と麻美と一緒にいるときに感じる感覚は全く違うものだったが、それでも悪い気分はしない。



むしろ、女の子同士ではやはり一番安心できるものを持っているような気がする秋だった。



そして、もう一人安心して接することができるのが鈴なのだが、鈴は今日はあまり秋に話しかけてこない。秋はそれが何故だか解っていた。鈴も高校生になって、成長している。



高校に入りたてのころ、秋が中学時代の心友たちがいないことを寂しがったことと同じことを鈴も感じ、何度もくじけそうになった。そんな時に浩太を中心として支えてくれ、やっと秋がいない生活に慣れてきたのだ。



そんなことから、秋に依存していた自分が成長したんだと秋に見せたくて、秋に自分の姿を見せているのだ。秋なら気づいてくれると信じ、そしてその信頼をきちんと秋は受け止め応えていた。










更新が遅くなってしまい本当に申し訳ありません。

しかも、まだ納得ができていないため、次回に続きます。

今回のテーマは〜変わらないもの変わったもの〜です。心友たちの出現に伴い、一番に出したいものは、昔の心友たちとの変わらないものだったのですが、書いていくうちに、それだけではいけない。そんな風に感じ、変わった部分をテーマと内容につけ足しました。

本当はもっとドタバタコメディ風にしたかったのですが、まとまり切らず、一万文字を超えてしまったため、次回に持ち越させていただきたいと思います。



ここまで読んでくださいまして、本当にありがとうございました。

このような作者ではございますが、これからもどうかよろしくお願いいたします。


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