チャプター66
誤解とすれ違い
文化祭の前日、今日は午後の練習はないものの、朝練はあるのでとおもっていつものようにお弁当を用意して待っていたにもかかわらず、竜はボクの家に迎えに来なかった。
時間ぎりぎりになって、風邪でもひいたのかと家に電話すると、お母さんにいつもと同じ時間に家を出発しており、学校に着いているはずだと教えてもらった。
「おはよう。」
「秋が遅刻なんて珍しいね。朝練で準備が遅くなったの?」
「今日は朝練に行ってないんだよ。川本部長にあとで謝りのメールを入れておかないと・・・」
和美とそんな会話をしながら、お昼には竜のところに行ってきちんと事情を聴かなければと思っていると、ボクのケータイにメールが入った。
〜上田と別れたのかい?俺との約束通り、フリーになったら、付き合ってね。〜
河野先輩からのメールに唖然とする。
〜別れていませんよ。ごめんなさい。〜
急いで誤解を解くためにメールを返信する。
すると、送信している間にメールがもう一通来ていた。
〜上田とのことがあったばかりでこんなことを言うのは本当はいけないことなんだろうけど、君の場合、フリーになったら、たくさんの人が君との交際を申し込むだろうから、俺もきちんと気持ちを伝えておこうと思う。
蟹津さん。君のことをずっと前から好きだったんだ。直ぐに返事をくれとは言わないが、よかったら、考えておいてくれないか?〜
性格が良く分かる。河野先輩は、ストレートに気持をぶつけてきて、川本部長は、ボクのことを思いやりながらもメールしたのだろう。しかし、二人に共通していることは、ボクと竜が別れたと思っていることだ。
〜川本部長の気持ちに今まで気づけずに申し訳ありません。そんな風に思っていただいていたことはありがたいのですが、ボクは竜と別れていませんので、お誘いを受けるわけにはいきません。
先ほど河野先輩からも同様のメールがあったのですが、どうしてバスケ部のみなさんはそのようにおもってらっしゃるのでしょうか?〜
疑問を解決するべく、朝から連絡を入れても返事が来ない竜を置いておいて、川本部長に事情をきく。
そのあと、ファンクラブの専用連絡先を確認すると、大量の求愛メッセージが届いており、さらに、ケータイのメールにも男女問わず連絡がひっきりなしに届くようになり、ケータイの充電が一気になくなってしまった。
「敦君。悪いんだけど、川本部長にメールしてもらえるかな?メッセージやメールが大量に来ちゃって、電池がなくなったから、メールを敦君経由でお願いしますって。」
「ああ、いいけど、本当にどうしたんだい?」
「ボクが聞きたいよ。なんで、竜とボクが別れたって噂が流れてるんだろう。」
「え?別れてないの?」
「は?」
どうやら、川本部長に事情をきくまでもなく、敦君に教えてもらえるようだ。そういえば、敦君のことをすっかり失念していた。
「今日の朝、つーちゃんが上田と一緒に登校してこなかったことが、学校中で噂になってて、上田の奴がどうしたのか周りに聞かれても、【あいつのことはもうええねん。】って悲しそうに言ってたってもっぱらの・・・」
ガタン!!
ボクは遅刻してHRにほとんど参加できずに、一時限目の授業が始まるちょっと前になっていたにもかかわらず、教室を飛び出すと、竜のところへと向かう。
「竜!!どういうこと?」
「授業はじまるで?教室に戻れや。」
「そんなことは良いの。竜にとって、ボクはどうでも良い存在なの?」
「そんなわけあらへんやないか。」
「じゃあ、何で・・・」
「何でか聞きたいんはこっちやわ。」
キーンコーン
教室にかけ込んですぐ、言いあいを始めたボクらをチャイムが止める。釈然としないものを抱えながらも、ボクは自分の教室へ戻らざるを得なくなってしまう。
「どうしたの?喧嘩なんて珍しいじゃないの?」
授業が始まり、先生も入ってきてしまったので、大人しく授業を受けているボクに明実から声がかかる。今は横に明実・前に和美・左前に優花となっているのだが、他の二人の耳もこちらを意識が向いていることがわかる。
「朝突然竜が迎えに来てくれなくって、そうしたら、竜と別れたって噂がたっちゃったみたい。さっき教室に行った時も、すっごく不機嫌できちんと話もできなかったよ。」
「それはお互い様でしょ?クーちゃんだって、きちんと事情を聴いてあげなかったんじゃないの?」
「う・・・確かに・・・」
ボクはさっきの失敗を反省して、お昼にはきちんと竜の話を聞くことにした。朝から竜にかけたり、大量のメールが来たりで連絡することができないので、明実にお願いして、お昼休みに美術室に来てもらうようにする。
明実にメールをしてもらったとはいえ、授業の休み時間になると、なんだか、お昼にと言ったことに後悔をしてしまう。今スグにでも逢いに行きたくなる。
そういえば、ここのところ、文化祭の準備で、忙しくって、きちんと竜と話をしていないな。そういえば、午後からはボクがやらなきゃいけない仕事なんてないんだし、ほとんど教室を暗くしたりするだけなんだから、竜と少し話をしてゆっくりするのも大丈夫かな?
どうしよう。そんなことを考えているうちに、逢いたくて、逢いたくてたまらない。何かいい訳を作って逢いに行こうかな。そんなことを考えていて、ぼーっとしていたのがまずかったのだろうか、反応が遅れる。
「和美!!危ない!!」
ボクは一メートルほど先の窓際でくつろいでいた和美に飛びつくと、突き飛ばす。
パリーン。
野球の球が窓を破ると、和美がさっきまでいた場所、つまり、今ボクがいる場所に飛んでくる。ボクは避けきれずに、頭を強打すると昨日と同じように気絶する。
割れた鏡で体中を切断されるかもしれないが、それを感じている余裕もなく、意識は暗転する。
『秋さん。大丈夫ですか?』
『ええ、大丈夫よ。前回の気絶は、時間が短かったから、記憶を完全消去したのかな?』
『ええ、そのように対処させていただきました。それよりも、先に謝罪をさせてください。』
『ああ、いいよ。それよりも、あの人はひょっとして?』
『ええ、御想像の通りの人物かと思います。しかし、本人ではなく、あくまで体を借りての憑依体のような形ではありますが。』
『なるほどね。ところで、霞さんは?今回は来ないのかな?』
『なんでも、現世の人間に情報を与えすぎたことによってエンマ様から謹慎処分を言い渡されたとかで、現在反省文を書かされております。』
『冥界にも反省文なんてあるんだね。』
『はい。鬼人として生まれてから今までの生活の様子まで一緒に提出させられるとかで、一年程かかるようです。』
『生まれてからって、50年以上も生きてるんだよね?それは大変だね。』
『はい。なので、しばらくは私と洋司様でサポートする形になるかと思われます。』
『了解それでいいよ。それよりも、前の魔法のことなんだけど、制御する方法はあるの?』
『はい。もちろんです。しかし、前回伝えたことで霞様が謹慎をもらっていることもあり、お伝えすることは叶いませんので、また中央議会の採決を待ってお伝えすることになるかと思います。』
『そっか、エンマの娘だからって霞さんは好き勝手にしていたところもあるもんね。でも、やっぱり霞さんが教えてくれてよかったと思うよ。』
『しかし、あれはかなり間違いがあったらしいです。今回の事故も、明らかに秋さん本人ではなく、本来ならば和美さんが当たっているはずですよね?つまり、秋さんは巻き込まれた事故や事件も多数存在するのです。』
『なるほどね。本当にボクが死にたい気分になって起こった事故もあるけど、基本的にはそうじゃないことが多いってことかな?』
『申し訳ありません。少ししゃべりすぎたみたいですね。では、そろそろお帰りの準備をさせていただきます。』
しゃべり過ぎたのは本当だろう。本来もう少し余裕があるだろうことは、普段はいらないはずの呪文を唱えていることからも明白で、これ以上話してしまっては今度は未緒さんが大変なことになるかもしれない。
ボクとしてもそんなことは望んではいないので、ゆっくりと構え、未緒さんに迷惑をかけないようにこれ以上の質問を控えた。
「ただいま。」
「おかえり。」
ボクが目を覚ましたのはまた保健室のベッドだった。
「秋?大丈夫か?」
「うん。ここまでは竜が運んでくれたの?」
「おう。あと、和美ちゃんから事情は聞いた。俺の勘違いやったらしい。」
「ん?どういうこと?」
授業中らしく、今この場には竜しかおらず、雪先生は相変わらずカーテンの後ろでボクらの会話を聞いている様だが、それ以外に人気もないこともあって、竜に事情を教えてもらう。
「はぁ?じゃあ、ボクが浮気をしたとおもったの?」
「す、すまん・・・」
「和美に告白されただけだよ。それも、前からあったんだけど、ずっと告白され続けても断ってきたんだから。」
「いや、だからごめんって。昔から好きだった子と浮気をって話を聞いて、おかしいとは思いながらも・・・」
「ボクのことを疑うなんて許さないんだから。」
「だから、ごめんって。」
「一生つぐなってもらうんだからね。」
「解った。一生やな。って?プロポーズ?」
「はぅぁぁぁ〜〜・・・」
ボクは顔まで真赤にして、うつむく。
しばらくして、ボクが復活すると、竜と一緒に保健室をでる。午後から暇があることを言うと、美術室の鍵を借りて二人で抜け出すことになった。竜も最近クラスのことで色々あったようで、ボクに話したいことがたくさんあったみたいだ。
ついでに、今回は雪先生に口止めするような話はしていない。二人は残り一時間しかなくなった午前の授業を受けると、それぞれに上手く教室を抜け出す。
ボクの場合は、明実たちにすべて任せると、優花から借りた鍵を使ってもちろん、ボクが作ったお弁当を持って美術室に向かい、竜が来るまでにお茶を入れておく。
「おまたせ。ちと人をまくのに時間がかかったわ。」
「竜って嘘をつけない性格だから、ボクと会うことなんてみんなにバレバレだったんだろうね。」
「せやな。でも、前よりは鈍感やなくなったやろ?和美ちゃんのことだって、ずいぶん前からしってたんやしな。」
「え?知ってたの?いつから?」
「いつからって・・・中学二年の文化祭くらいとちゃう?言っとくけど、俺もそやけど、秋だってそうとう解り易い性格しとるで?」
まさか、竜にまでバレていたなんて、ということは、今までは上手く話しにあわせてきていたのか?
「ねね。遠足の後に優花たちがボクの家に遊びに来たときあったじゃん?あの時和美は竜のことを好きって誤魔化したのに、竜は納得したよね?あれは演技だったの?」
「んにゃ。本当にそうなんかと思ってた。告白して断られたんやから、あきらめとるとおもってたしな。」
「もう、恋ってそんな簡単なものじゃないんだから、好きで好きで仕方がないって時は、周りなんて見えなくなって、逢いたくなって、どうしようもなく自分が抑えられなくなるんだから。」
「せやな。そんでもって、どれだけ一緒にいても、満たされることがないんやんな。」
「そういうこと、だから、和美だって、ずっとずっとボクのことを思ってくれてたんだよ。」
「でもな。悪いけど、譲る気はおきへんな。昨日、今日、秋が俺よりも好きな奴ができたかもしれへんと思っただけで、こんなにつらかってん。俺には秋しかおらへんわ。」
「ば、馬鹿・・・」
「二人っきりなんやから、そんなに恥ずかしがるなって。」
「う、うん。」
ボクは真赤になりながらも、竜に手まねきされるまま、抱きしめられた。
「離れられへんな。一生。」
「美味しい料理を毎日作ってあげるって約束したんだから、もう、浮気だなんて勘違いしないでよ。」
「せやな。ん?それってお酒に酔った時の話やなかったっけ??」
「あ・・・」
そのあと真赤になったボクは竜に言い訳をしまくった。お酒の時の前にも絶対に言ったと言い張り、お酒の時とは何の話?としらを切ると、竜がその時の様子を語りだし、ボクはそんなことは絶対にしていないとまたしらを切るのだった。
じゃ、ジャンルはファンタジーでございます。秋は最強ですし、鬼人との会話だって盛り込んでファンタジー色を出したつもりです。
今回のテーマは〜鬼人との会話を終わらせる〜です。
前後の内容は、秋と未緒との会話で秋の秘密を今後出さないというのを伝えるためのプラスアルファだったはずなんです。どうみてもラブコメ的な一話になってますよね?AKIの神経を疑います。もう少し未緒との絡みを押し出したいと思うものの、臨死体験が長引けば、当初の設定である両親が心配し過ぎない程度のといったものが揺らいでしまい、では、文字数を少なくして伝えたいことを完璧に・・・文章力が足りなくて伝えきれて無かったらごめんなさい。
これにて、鬼人から秋の秘密を暴露するお話を一旦休止したいとおもいます。高校時代にどうしても秋が臨死体験をする理由などを皆様に伝えたかったため、物語も長く、さらに秋の臨死体験も膨大な数になってしまったことをお詫び申し上げます。これにて、高校生編を・・・・
どうなるかは、次回をお楽しみを。
ここまで読んでくださった皆様に感謝を本当にありがとうございました。