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再転の姫君  作者: 須磨彰
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チャプター61

花梨部長




「今日はご迷惑ばかりかけて本当に申し訳ありませんでした。」



「君はそうやっていつも、自分ばかり謝る。滅多に体験できない経験をさせてもらったんだ。それほど気にすることはない。それよりも、体の方は本当にもう大丈夫なのかい?」



「はい。もう痛みも残っていませんし、ほら。」



ボクは先ほど肘に貼られたばかりの絆創膏をはがす。そうすると、既に傷が小さくなっており、先ほどまであった事故の面影はなくなっていた。



「うん。君には本当に驚かされてばかりだ。陸上競技大会が終わったら、正式に君と川瀬明実さんを美術部の部員として登録しておくから、何かあったらここに来なさい。」



「え?私も美術部に入るんですか?」



「優花から以前から頼まれていたのだが、機会がなくて伝え忘れていたね。永田さんも入るかい?といっても、活動をしろと言っているわけではなく、君たちが訪れやすいようにといった配慮だからどちらでもいいんだがね。」



「じゃあ、私もお願いします。その代り、やっぱり秋の名前を入れるのは待ってくれませんか?名簿に載ってしまうと、秋の追っかけなんかが押し寄せる可能性があるかと思うんです。」



「なるほど、ここを隠れ家にしたいと言っていたね。なら、心友たちを人質に取る代わりに、名簿に載せるのはあきらめよう。」



「悪い魔女にとらわれたお姫様を秋が救うんですね。」



「おいおい、私は悪い魔女ではないさ。まぁ、君たちがここに集まってくれたら、きっと足しげく通ってくれることだろう。」



「花梨部長には負けます。じゃあ、ボクは和美と明実と優花という人質を救うために、これからもここに来させてもらいますね。」



みんなの冗談に合わせてボクもそう言うと、お互い笑いあい、荷物をまとめだす。



「陽子先輩。今日は無理でしたが、今度絶対にモデルするんで許してください。」



「うん。明実ちゃんと和美ちゃんもモデルになってくれる?」



「「は、はい。」」



明実と和美は顔を引きつらせながらも、今回色々と迷惑をかけたこともあって、了承する。



「ところで、少し気になったことがあるんですが、質問させてください。」



「何だい?私たちで答えられることでよければ応えるけど?」



花梨部長はさわやかに微笑むと、ボクの方を見る。



「花梨部長はどうやってボクを保健室に運んだんですか?屋上から落ちるのを見て駆け付けたにしても、女の子一人でボクのことを抱えられるとは思えないんです。」



「ふふ、乙女にはたくさんの秘密があるものだよ。」



「答えになってませんよ。」



ボクはそう言って、陽子先輩の方を向く。



「先輩は現場にいたし、答えてくれますよね?」



「えっと、二人が落ちて、えっと・・・」



陽子先輩は自分の趣味のこととなると雄弁に語りだすにもかかわらず、こうした話題を語るには少し役者が違うようだ。



「和美、きちんと説明してくれる?」



「私もそうしたいんだけど、どうすることもできないわ。屋上の入口であなたたちが落ちたのを確認した私と斉藤先輩が駆けつけた時にはすでに、河合先輩が秋を運び去った後だったんだもの。」



「え?三人一緒にいたわけじゃないの?」



「途中まではそうだったんだけど、で、私が二人に説明をしている途中で花梨先輩が駆け出して、私たちはそれで屋上に何かあったと思って、崩れ落ちたフェンスから下を覗いたのよ。」



なるほど、花梨先輩は状態を確認する前に下に走りだし、和美と陽子先輩は屋上から一度確認しに行ったため、同じタイミングで駆けつけていないというわけね。



「まぁそう言うわけだ。私は君たち二人の状態を見て、君の方が重体だと感じたから、君だけを担いで保健室へと駆け込んだというわけだよ。」



「解りました。今回は引き下がりますが、花梨部長はまだボクらに隠していることがありますよね?」



「そうだね。君が心から望めば、きっと答えは見えてくるだろう。」



花梨部長に言いくるめられた感がぬぐえないが、助けていただいた先輩の隠し事をここでこれ以上暴くのも悪いと感じ、引きさがる。



『相変わらず、勘は良いのに、そこで引き下がるのは君らしいね。』



「花梨部長、今ボクのことをお人よしとか思っていませんでした?」



「被害妄想だよ。そんなに気にすることはないさ。」



花梨部長はそう言って、ニヤリとほほ笑むと、事故もあって帰りが遅くなったボクらに帰るように促した。















帰り道、体育館にいる竜たちに連絡をいれ待つことになったボクらは、校門の前で話をする。



「明実ごめんね。よく考えたら、明実も一緒に落ちたんだから、病院行きたかったよね?」



「ううん。大丈夫よ。だって、クーちゃんが守ってくれたんでしょ?」



「それは、まぁそうなんだけど、後でちゃんと病院に行った方がいいよ。」



「本当に大丈夫だって、私ね。クーちゃんを信じることにしたの。」



「え?信じるって?」



「私のせいで今回事故が起きちゃったでしょ?それでも、ためらうことなく救ってくれたクーちゃんを見て思ったの。和美ちゃんが好きになっちゃうのも無理ないなって。クーちゃんを男の子とか女の子とかじゃなくって好きになっちゃう理由がわかったのよ。」



明実はそう言って、ボクに微笑みかける。



カシャ!



明実とボクをシャッターの音と、フラッシュの光が照らす。



「陽・・・何してるんですか?花梨部長。」



「いや、陽子のためにと思って使い捨てカメラを持ってきていたのだが、使わなかったので今出したんだけど、二人の笑顔がとても素敵だったから記録に残しておこうかとおもってね。」



「まぁ、別にかまわないですが、変な解釈をしないで下さいよ。」



「それについては、そこで鼻息を荒くしている陽子に言ってくれるかい?私は純粋にいい笑顔の写真を収めただけなんだから。」



「「・・・」」



「やっぱり今度きちんとモデルしてね。」



「りょ、了解しました。」



陽子先輩は承諾しなければ、今からでも美術室に連れ出そうといったオーラを出していたので、引きつりながらもボクは承諾すると、一人でうんうん頷きながら、何かをメモしていた。



「明実、秋はノーマルなんだから、そっちの世界に引き込まないの。」



「和美ちゃんにだけは言われたくないわ。私だって一応ノーマルよ。クーちゃんが特別なだけ。」



「まてまて、それじゃあボクが男女混合のハーレムでも作ろうとしているみたいじゃないか。」



「その時は私も入れてね。」



「和美は黙ってて!!」



こういう話題になると、元気になる和美を黙らせるが、今日は陽子先輩も和美を応援したいらしく、中々収集がつかなくなってしまった。



そんなこんなで、五人でおしゃべりをしていると、バスケ部の人たちが校門へとやってくる。



「秋ちゃんをたぶらかしたのはやっぱりお前か。河合、お前は秋ちゃんに二度と近づくな。」



「あら?今回呼び出したのは陽子よ。それに、彼女たちは陸上競技大会後は美術部の部員でもあるんだから問題ないはずよ。」



「今はまだバスケ部のマネージャのみなんだから、許可は出さない。」



「じゃあ、来週からはこっちに呼んでもいいってことね。」



「う・・・」



練習が終わったあとこっそり先輩達に見つからないように敦君と二人で抜け出した竜だったが、河野先輩に見つかり、川本先輩も含めて四人でここに来たようだ。



「河野、いい加減にしないか、蟹津さんが困ってるじゃないか。確かにバスケ部としても手放すことはできないが、蟹津さんは俺たちの所有物じゃないんだから、束縛することはできないよ。」



「すみません。でも、できる限りバスケ部の方を優先するので許してください。」



「いやいや、蟹津さんが気にすることではないよ。もし、絵が描きたいというなら、前みたいに、俺たちを題材にしてくれてもいいから、できるだけこっちに参加してくれ。」



「はい。わかりました。」



「ふん。いつかバスケ部から引き抜いてあげるんだから。」



花梨部長と河野先輩は、バチバチと火花を散らさんばかりににらみあうと、そっぽを向いてしまった。仲がいいのか悪いのかよくわからない二人だ。



「きっと、仲がいいのよ。だって、同じ人のために言いあってるんだもの。」



「また声に出していた?高校になってから減ったと思ってたんだけどな。」



「そうね。でも、それだけ秋がリラックスしているって証拠じゃないかしら?中学の時も、心友の前でしか思っていることを声に出すことはなかったでしょ?」



「そっか、それだけ、ここにいる人たちにボクが甘えているってことなんだね。」



「せやな。やっと秋らしくなってきたんとちゃうか?」



竜と和美に頷くと、先ほどまで言いあっていた花梨先輩や河野先輩までがボクの方を見て目を点にしていた。



「君って、甘え上手なのか下手なのかわからないな。」



「秋ちゃんに信頼されて、俺たちもしっかりしないとな。」



二人の言葉にボクがクスクスと笑いだすと、こらえきれなくなった竜と和美が笑いだし、釣られてみんなで大笑いしてしまった。



「本当に仲がいいんですね。」



「「そんなことない。」」



二人のセリフが被ったことにもう一度みんなで笑うと、今度は花梨部長と河野先輩も笑いだす。



「さぁ、笑ってばかりいないで、そろそろ暗くなってしまうから、帰ろうよ。」



「そうですね。ボクと竜と和美は自転車なんで、角まで一緒に行きましょう。」



「俺も自転車通学にしようかな。秋ちゃんと一緒に通学してみたいぜ。」



「君で彼女を守りきれるのかい?私こそ自転車で来ようかな。」



「ダメですよ。私だって、二人に誘われない時は遠慮してるんですから、ラブラブしながら通学してくるのを邪魔しちゃ悪いでしょ?」



「確かにそうかもしれないわね。でも、今度一緒に帰りましょ?私もクーちゃんのファンになったばかりだしね。」



「そ、そんな。普通に通学してますから、和美が朝も夕方も一緒じゃないのは、部活していないからでしょ?」



「じゃあ、今度からは、美術部で残っているから、夕方は一緒に帰ってもいいの?」



「別にボクは構わないけど、事故とか結構起こるけど平気?」



「平気よ。秋が助けてくれるもの。」



「どあほう。そんなことなったら俺の身がもたへんわ。」



「冗談よ。最近通学中の事故が減ったんじゃなかったの?」



「そうだね。中学の時に竜と一緒に登校していた影響か、ここのところ大きな事故には巻き込まれなくなったね。」



そう言って、ボクが和美が夕方一緒に帰ることを許可すると、竜からジト目を送られた。



「大丈夫よ。私の方が学校から家に近いんだから、そのあとは二人っきりでしょ。」



「いや、そういうわけじゃ・・・」



竜の馬鹿、ボクまで恥ずかしいじゃないか。



「二人の顔が赤いのは夕日のせいだけじゃないでしょぉ。」



「そ、そんなことないもん。」



「はいはい。蟹津さんが困ってるから、そろそろ行くぞ?通学に関してはまた今度はなしあってくれよ。」



川本先輩の提案にのってボクらは帰宅するが、竜のせいで恥ずかしい思いをしたが、それ以上に、心の中になんだかほっとするものが残った。



そのあと、方向は違うが、自転車通学の優花・敦君と一緒に帰る竜・和美と自転車置き場に行くと、会話を楽しみながら自転車に乗って帰った。







竜の登場少ない・・・

ここのところ竜の登場が少なくって、恋愛関係で秋のことをいじれなくなってしまったAKIです。

今回のテーマは〜花梨の秘密〜です。

タイトルのまんま・・・。まぁそんなことは気にしないでいきましょう。花梨部長の正体?役割?が解りましたら、こっそりメールをください。この時点で分かる人がいたら、尊敬いたします。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。



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