チャプター60
暴露まさかの大暴走
夏休み明けのテストも終わり、平和な日常生活が送られる中、秋たちのクラスは陸上競技会の話でもちきりになった。
T高の二学期は陸上競技会を10月の初めにし中間テスト、11月の末に文化祭、文化祭終了後期末テストとかなり忙しい。
「今年は優勝できるかな?」
「あなたが私の足を引っ張らなければ優勝できるに決まってますわ。」
「ミーちゃん。陸上競技会はチーム戦なんだから、いくらボクやミーちゃんが頑張ってもダメなの。」
「そ、そんなことわ解ってますわ。でも、ポイントの高い競技に私たちが出ることは可能でしてよ?」
「そうだね。じゃあリレーをボクらでやろうか。一番得点高いし、これに勝てれば、優勝は無理でも、三位以内は確定したようなものだしね。」
「男子の方はどうなってますの?」
「敦がリレーでるみたいだよ。うちらのクラスは部活してる子が多いから有利だよね。」
確かにボクらのクラスは部活に入っている子が多い。というのも、T高で一番頭のいい子たちを集めたのがボクのクラスと隣の竜のクラスなのだが、文武両道といったところか、この二つのクラスは部活への加入率がかなり高い。
「ライバルは当然上級生と隣だね。とれる所は全部ポイント取っちゃおう。」
「そうね。じゃあ、秋は走り高跳びもお願いね。優花ちゃんは走り幅跳びね。北条さんは砲丸投げかな?」
「ちょっと待ちなさい。トラック競技とフィールド競技を兼ねるのはもちろん構わないですわ。しかし、私が砲丸投げというのはおかしくなくって?」
「ミーちゃん得意なのある?」
「私は走り高跳びを希望しますわ。」
明らかにボクと一緒の競技に出て競いたいといった様子がありありと浮かんでいるのだが、ボクはこっそり耳打ちする。
(ボクの記録世界新超えてるけどいける?優勝したらそこでとめちゃうつもりだったから別にどっちでもいいけど。)
「な・・・わ、わかりましたわ。でも砲丸は苦手ですので、交代してくださるかしら?」
「良いよ。ミーちゃんは背が高いから走り高跳び得意そうだもんね。」
「鈴木さんの方が高いですわ。でも、砲丸よりは良い結果を出せると思いますわ。」
こうして出る種目が決まると、体育の時間を使ってみんなで練習をしていく。ボクはバトン渡しの練習以外は、他の子の手伝いをしていた。
「蟹津さんあなたやる気があって?リレーの順番が三番というのも納得いかないわ。」
「アンカーはミーちゃんに任せるよ。優花と和美がトップで渡してくれると助かるんだけどなぁ。」
「私が全員抜き去ってご覧にいれるから、そんな心配はよろしくてよ。」
なんだか最近ミーちゃんの扱い方が分かってきたかもしれない。ボクが不安そうにすると、あんな風に尊大な態度で励ましてくれてるんだね。でも、ボクが心配しているのは、下手に早い人を抜いちゃって足が速いことを、気づかれなければ良いのにって意味なんだよね。
「それよりミーちゃん飛んだ後に足をあげるタイミングがちょっと遅かったよ。あと、助走で力を入れ過ぎているから、もう少しリラックスした方がいいよ。」
「解りましたわ。次こそはあなたの記録を超えて見せましてよ。」
「ボクの記録超えるって、オリンピック選手にでもなりたいの?」
「そ、そんなわけないでしょ。物の弾みですわ。ところで具体的に足の速さなど聞いてませんでしたわね。どれくらい速いんですの?」
「そうだね。一度みんなに隠れて測ってみたら、男の子と同じくらいの記録が出たよ。女の子では負けたことはないね。」
「そうですの。それなら十分に速いですわね。」
まぁ男の子ってオリンピック選手級と比べてるんだけどね。このことは言わない方がいいかな?
「まぁあれだよ。日本にはボクに勝てる子は今のところいないかな。でも、体質のことがあるから、内緒だけどね。」
「そうでしたわね。だからリレーも三番を走るんでしたわね。砲丸も優勝しない方がいいのでは?」
「大丈夫。女子の部門で優勝したくらいではそんなに注目されないよ。柔道の時もそうだったけど、男の子に勝っちゃうと、どうしても注目を浴びるみたいだから、それだけは注意してるんだよ。」
ミーちゃんってこうして二人で話してると結構いい子だよな。みんながいる時にはどうしてもプライドが優先しちゃってるみたいだけどね。
「じゃあ、ボクは今度は優花の走り幅跳び見てくるね。男子は問題ないみたいだけど、女子はボクらがポイント取らないとダメみたいだからさ。」
「ええ、いってらっしゃい。」
『悔しいけど、蟹津さんがアドバイスをしだしてから、10センチも高く飛べるようになってしまったわ。彼女の実力は認めないといけないみたいね。』
陸上競技大会まで、ボクはこんな風に、選手の子たちのサポートをしていた。
そんなとき、陸上競技大会も来週と迫った時に、優花から一つの依頼がきた。
「ツン先生。お願いがあるんだけどいいかな?」
「どうしたの?」
「陽子先輩が、どうしても絵のモデルをして欲しいって言うんだけど、ツン先生に聞いたら分かるっていってたんだけど、良いかな?」
「ああ、あの話ね。そう言えば、夏休み中に行く予定がいけなかったから、確認取ってみるね。」
ボクは、和美にメールを入れると、和美からも、元々了承を得ていたので、明後日の放課後に行くことになった。
「「お邪魔します。」」
「いらっしゃい。」
「あれ?陽子先輩一人じゃないんですね。」
陽子先輩からは、みんなに内緒にと言われていたのだが、どうやって知ったのか、花梨先輩も美術室に来ていた。
「私がこんな面白い話を逃すと思う?それよりも、もう一人は明実ちゃんって子じゃなかったの?」
「「え?」」
ボクと和美が顔を合わせて驚いていると、陽子先輩もコクリと頷いた。
「えっと、中学から同じなんで・・・・ごめんなさい。みんなには内緒にしてもらえますか?」
ここまで来て誤魔化すことが不可能と悟ったボクはとりあえず、これ以上の拡大を抑えることにした。
「それは、構わないと言いたいのだが、実はもう既に明実ちゃんを呼んであったり。」
ガラガラ
「失礼します。」
「「・・・」」
このタイミングの良さにはボクも和美も頭を抱えるしかなかった。陽子先輩にモデルを頼まれたこと、そして、それを受け入れたことが思わぬところで、今までずっと隠しとおしてきた秘密をばらす結果となってしまった。
「と、とりあえず。みんな座りなさい。私としても、事情が呑み込めなくて困っている。」
花梨部長に促されて、ボクらは椅子に座ると、落ち着いて話をすることになった。
「じゃあ、陽子先輩が描きたかったのは、ボクと明実の絵でいいんですか?」
「うん。」
「私は、それじゃあ、帰ってもいいかしら?」
「いや、ここまで来たんだ、隠すのではなく、きちんと事情を説明してから帰って欲しい。」
花梨先輩が和美を引き留める。その目には、説明をしなければ帰さないという意思が読み取れた。
「そうね。出来るだけ隠したかったけど、秋が認めた人たちだもの、きちんと説明しても問題はないわ。」
いや、たぶん問題あるな。というか、明実にだけは教えない方がいいような気がすっごくする。明実の性格を考えたら、ここはどうにか明実にだけは誤魔化したいかもしれない。
「私は、秋のことが好きよ。それは、友情じゃなくて恋愛関係で好きだったわ。でも、中学の時にフラれて今は心友として大切に思っているわ。」
引き止める隙も無く言っちゃったよ。どうしよう。花梨先輩は陽子先輩は納得したといった顔をして、頷いているが、そう思わない子が一人いた。
「そんな・・・」
「それなら、今日は陽子のモデルは和美ちゃんと秋ちゃんにお願いしたらどうだい?陽子もそれでいいだろ?今だけは恋人の様に接してもらえたら、君も本当の意味で諦めがつくんじゃないか?」
「ええ、私の思い出に残る一枚にしてください。」
花梨先輩は、和美をフォローしたが、今一番にフォローしないといけないのは明実だ。
ガタッ
「待って、最後まで話を聞いて。」
ガラガラ
ピシャン!!
明実は、ボクの声が聞こえていたはずだが、耳をふさいで走り去ってしまった。
「ごめんなさい。ちょっと、明実のことを追いかけます。きっとまたモデルはするんで許してください。」
ボクは陽子先輩に頭を下げると、明実を追いかけて走りだす。明実は運動は得意な方でもないので、すぐに追いついた。
「こんな場所に来ちゃって、先生に見つかったら怒られちゃうぞ。」
逃げ出した明実が向かったのは、美術室から近い学校の屋上だった。本来は鍵がかかっているはずなのだが、今日はモデルをするために花梨部長か誰かが空けておいたのだろう。
「許可は取ってあるから問題ないもん。それよりも、さっきの話はどういうこと?」
「ここで話をするよりも、みんながいるところできちんと話をしない?」
「はぐらかさないで、つーちゃんから聞きたいの。海での会話も和美ちゃんに関係あるんでしょ?」
「う・・・」
ボクは明実の言葉になんと応えていいのか返答に困る。
「私ね。海でつーちゃんが助けてくれた時、本当にうれしかったの。でも、それがこんな形で裏切られるなんて思ってなかった。」
「裏切ってなんかないよ。解った、ボクが話せる分は全部話すから、とりあえず落ち着いて。」
ボクは何とか落ち着かせようと試みるが、明実の怒りが、最高潮に達した時、事件は起こった。
ギシ!!
「きゃ!!」
明実が先ほどから寄りかかっているフェンスが何故か崩れ落ち、体重を乗せていたこともあり、フェンスと一緒に明実の体が落ちて行く。明実を刺激しないようにと距離を開けていたボクは助けようと駆け寄るが、間に合いそうにない。
ガッコ!!
ガシャン!!ズドン!!
『相変わらず、無茶するわね。』
『あれ?霞さん。今日は未緒さんじゃないの?』
『私も、こちらに。』
『二人ともお久し振り。夏休み以来だね。』
『普通の人間は、こんなに頻繁に鬼人と会わないわよ。』
『それは面目ないかぎりです。ところで、明実は?』
『問題ありません。秋さんが落下の途中で、壁をキックしたことと、体を使ってクッションになったことでただ気絶しているだけで、怪我はたいしたことありません。』
『本当に、秋ちゃんは無茶するわね。そこまで高くないとはいえ、屋上からダイビングなんて普通怪我じゃ済まないわよ。』
『本当だね。これが美術室のある特別塔じゃなかったら、もっと高かっただろうしね。』
『さて、二人とも無事なのは理解してもらったから、本題へと入るわよ。』
『鬼人にあっている時点で無事じゃ・・・。どうぞ本題に入ってください。』
突っ込みを入れようとしたのだが、霞さんの目が、以上な輝きを見せたので、ボクは続きを促した。
『率直に言うわ。秋ちゃんが臨死体験をするのは、誰の責任でもなく、秋ちゃんが原因よ。』
『え?どういうこと?』
『前の臨死体験の時に、世界を操る魔法を使えるって言ったわね?秋ちゃんが望さえすれば叶わない夢はほとんどないとも言ったわね?』
『う、うん。』
『秋ちゃんは、人に恨まれた時に、自分なんて居なくなれば良いと思わなかった?それが臨死体験を起こしている一番の原因よ。』
『ええ?』
『つまり、心の片隅で、自分なんかって思った度合いが大きければ、臨死体験をして、小さければ、軽い病気や怪我なんかをするのよ。』
霞さんの言葉に驚愕する。つまり、今までボクが不幸体質だったのは、ボク自身が自分の不幸を願っていたからに他ならない。
『じゃ、じゃあ、ボクはどうしたらいいの?』
『自分を好きになればいいのよ。自分がこの世界で生きていて、価値がある人間だと気が着けば、臨死体験なんてしなくなるわ。それどころか、エンマ帳に記載されている寿命なんか軽く超えるくらい生きていられるはずよ。』
『で、でも・・・』
『そうよね。秋ちゃんの性格だもの。自分のせいで人が傷ついたり、悲しむくらいなら自分がいなくなってしまえばって思っちゃうわよね。』
『霞様、そろそろお時間です。その話は次回に。』
『そうね。どっちにしろ、ここで話した内容は現世には持って帰れないんだもの、とにかく、今回はこのまま帰すけど、次回までに私の方でも対応策を考えておくわ。』
『はい。』
ボクは、霞さんに言われた内容を自分で深く考えながらも、どうしていいのか解らずに、頷くことしかできなかった。
「ただいま。」
「つーちゃん。ええぇん。良かった。ごめんね、ごめんね。」
ボクが目を覚ますと、そこは保健室のベットで、側には泣きながら謝る明実と花梨部長、陽子先輩、和美がいた。
「どうなったの?」
泣きじゃくる明実にではなく、この中で一番落ち着いていそうな花梨先輩へと目線を向けると、微笑みながら答えてくれる。
「屋上から落ちて、二人とも気絶して保健室にかつぎ込まれた。明実ちゃんはすぐに目をさまして、私と和美ちゃんから事情を聞いて今泣いているということさ。」
「そうなんだ。和美ごめんね。隠してあげるって言ったのに、結局バラす結果になっちゃって。」
「そんなことは良いわよ。それよりも、どこか痛いところはない?」
「とりあえず、手が痛いかな。明実、もう大丈夫だから離して。」
泣きながらギュッと手を握りしめている明実に優しく声をかけると、おずおずと離してくれた。
「明実、今まで隠してきてごめんね。でも、和美は本当に今は心友だから、嫌わないであげてね。」
明実は小さくうなずくと、まだ泣きながらなので、ゆっくりと話しだす。
「私、ヒック。つーちゃんのこと、大切に守るってグスッ。約束したのに、つーちゃんは、ヒック、約束を守って、いただけなのに。」
「ううん。それでも、和美ときちんと相談して、明実たちには教えることもできたんだから、明実は悪くないよ。」
「そんなことない。誰にだって隠し事はあるんだ。君は罪をすべて自分で背負いこもうとするが、良くないぞ。それぞれに今回は悪いところがあったんだ。みんなで反省しようじゃないか。」
「はい。」
花梨部長の言葉にボクが返事をすると、みんなも頷いてくれた。
「雪先生。そんなところで聞き耳を立てていないで、中に入ってきてもらえますか?」
「ごめんね。盗み聞きをするつもりじゃなかったんだけど、それでも、気になっちゃったから。」
カーテンの後ろでずっと話を聞いていた雪先生が中に入ってくる。
「先生に聞きたいのですが、目撃者は何名ほどいますか?ボクはこの事件で有名になるのは嫌なんです。」
「たぶん、あなたたち以外いないわ。あなたの体もここにいる河合さんが運んでくれたし、川瀬さんは斉藤さんと長田さんが運ぼうとして気が付いたみたいだしね。」
「それは良かったです。では、このことは先生も誰にも言わないでください。」
「そうはいかないわよ。病院にもいかないといけないし、そうなったら、学校としても隠しておくのは不可能よ。」
ボクは寝かせてもらっていたベッドから立ち上がると、笑顔で病院に行くことを断る。
「病院にはボクが自分で行きます。学校としても、放課後のことだったので、知らなかったと雪先生が言えば問題ないのではないでしょうか?」
「本当に屋上から落ちたの?」
「屋上のフェンスが崩れ落ちて、その側にいたので保健室に来ただけです。そうみんなには説明しておいてください。」
実際に屋上から飛び降りているし、フェンスも崩れ落ちてしまっているので、何もなかったことにすることは難しいが、目撃者がいないのであれば、逆にフェンスを原因にして、上手く言い逃れをすることができると思った。
「良いだろう。君たちはまだ書類上は美術部に所属していないから、私たちは屋上で模写をしていたらフェンスが崩れ落ち、落ちた先にいた君たちを発見して駆け寄ったことにしよう。」
花梨部長からも、同意を得た。あとは雪先生が承諾してくれたら、この事件は解決する。
「仕方がないわね。でも、体を少し見せてもらうわよ。流石に何もしなかったら保険医としてというよりも、私個人として後悔が残るわ。」
雪先生も許可してくれたので、ボクは先ほどのベッドに腰掛けると、雪先生に体を調べてもらう。全身の打撲は以前から飛躍的に上がっている回復力のおかげで、ほぼ完治しており、見た目も擦り傷程度しか残っていない。
「う〜ん。これだと、上から落ちてきたものに驚いて転んだ程度にしか私も診断できないわ。これだったら、事情を聞いていなかったら、本当に騙されていたかもしれないわね。」
「なに言ってるんですか、本当に屋上から物が落ちて来たので転んだだけですよ。」
冗談めかしてボクがそう言うと、雪先生は納得したのか頷くと、治療を終える。
「問題ないわ。これだったら、すぐに治るわ。フェンスは職員室にいって修理してもらうから、あなたたちはもう帰っていいわよ。」
あまりにもあっさりと帰る許可が出たのを不思議に思いながらも、ボクらは一旦荷物を置いてある美術室へと帰る。
もう、秋死にすぎ・・・
今回のテーマは〜和美と秋の秘密暴露〜です。
和美の事情をバラす時に秋に臨死体験をしてもらうことは前々から考えていたのですが、いつだそうと考えている時に、スランプになってしまったので、もう出してしまいました。陽子先輩や明実には良い感じで演出をお願いしました。
明実にはまだ活躍してもらう予定です。というか、秋にはもう少し不幸になってもらわないと、45歳までに臨死体験の数が足りません(汗
さてさて、裏設定ばかり面白いものが出てきて、今回も実はといった内容がたくさん盛り込まれていましたが、そこら辺も頑張ってみなさんに伝えるべく、次話からも一生懸命執筆をつづけたいと思います。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。