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再転の姫君  作者: 須磨彰
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チャプター59

緑の妖精は甘えるのが嫌い?






夏休み中練習試合なども消化し、バスケ部の活動ばかりしていたボクが9月1日、二学期初めての登校をする。



「おはよう。」



「おはよう。クーちゃん。染めるの辞めたんだね。」



「うん。少しまだ毛先は黒いけど、半年もしたら全部緑になっちゃうよ。」



「緑のポニーテールをゆらゆらさせてるクーちゃんを見られるのね。」



「秋の髪の毛って生きてるみたいね。黒染めもそうだし、半年で緑になるの?」



「たぶんなるよ。だって、染めてたはずの場所が夏休み中に緑に変わって来たからね。」



「え?それって大丈夫なの?そんな簡単に色落ちしないやつ使って無かったかしら?」



「和美ちゃんはクーちゃんのことになると、詳しいわね。ひょっとしてストーカー??」



「違うわよ。前に言っていたのを覚えてただけよ。」



和美がそんな細かいところまで覚えてるのってボクのことくらいじゃないっけ?まぁ物覚えの悪い方ではないけどね。



「緑の髪になって竜くんはなんて言ってたの?」



「何にも言われなかったよ。第一、みんなと違っていきなり変わったんじゃなくて、毎日部活で顔を合わせていたからね。」



「でもキャプテンや河野先輩はつーちゃんの髪の毛見て綺麗だねって言ってたぞ。」



「先輩はプレイボーイだから良いの。」



川本部長はプレイボーイでも無いが、河野先輩が女の子の特徴を誉めることは日常茶飯事だから挨拶みたいなものだ。



心友達と話をしていると、森君が登校してきた。



「おはよう。ちょっと問題はあったけど、森君のおかげで髪の毛染めなくて良くなったよ。ありがとう。」



「え?あ、うん。」



「そんな緊張しないでよ。ボクはもう怒ってないよ。でも、これからはあんなことしないでよ?」



「わ、解ったよ。」



「こら、悪いことしたらちゃんと謝らないといけないんだぞ。」



ボクはそう言って、森君のおでこを人差し指でつっ突く。



「え?うん。ごめんね。」



「いいよ。」



真赤になりながら謝る森君を許してあげると、心友たちの視線が絡みつく。



「な、なんだよ?ボクが何かした?」



「ツン先生は甘いなぁって。」



「それ以上に、そういう行動は誤解を招くから気をつけた方がいいわよ。」



「そうね。秋から優しくされたら、男の子なんて一発で惚れちゃうんだから、罪な女よね。」



「もう、ボクはそんな風に言われるのは嫌なんだからやめてよ。こう、殴りあったあとに、笑顔で握手して友情を確かめあうみたいな?あんな感じが好きなの。」



「つーちゃんは男の子みたいな友情の作り方をしたいんだね。」



「だって・・・」



それ以上はここでは何も言えない。高校に入ってから、前世の記憶についてなど、中学の時と同じように話していた。



しかし、投稿日の森君の事件で、どこに目があるのか分からないことが認識できたので、今後は安全な場所でしかその話題はしないことにしたのだ。



「まぁ、そんなところも秋のいいところよ。私はそんな秋が好きよ。」



「あ、ありがとう。」



和美の好きには、どのような意味が込められているのか分からないので、素直に感謝できないところがあったが、それでも和美から好きといわれることに違和感がなくなってきた。



ガラガラ



「おはようございます。皆様。」



「ミーちゃん、おはよう。」



「その呼び方ができるのも今日まででしてよ。今日と明日のテストで蟹津さん。あなたを完膚なきまでに叩きのめして差し上げましてよ。」



「無理じゃないかしら?クーちゃんっていっつも満点よね?同点以上は無いわよ?」



「そんなはずは無いわ。きっと、何問かは間違えるはずですもの。それに全統模試と違って範囲が狭いとはいえ、時間も限られている今回のテストで満点なんて滅多に取れるものではありませんわ。」



「じゃあさ、もしボクがミーちゃんに勝ったら一つお願いをきいてくれる?」



「私が負けることなど、絶対にありえませんわ。」



「すごい自信だね。それじゃあ、ボクが勝ったら、ミーちゃんの別荘に冬に遊びに行かせてよ。もちろんみんなも一緒に招待してね。」



「良いですわ。もし私が負けたらあなたとあなたの心友を私の別荘に招待して、パーティだろうと何だろうと開いてあげましてよ。」



「え?じゃあ、今からドレスを作らないとね。優花も一緒に作る?」



「え?ツン先生が手作りするの?うちも挑戦してみようかな。」



「ドレス作りはテストが終わってからにしなさいよ。北条さんが不機嫌オーラ出しまくってるよ。」



明実の言う通りで、ミーちゃんはボクが勝つ気でいることに大変ご立腹のようだ。



「そうだね。でも、テスト終わったら部活が始まっちゃうから、デザインだけ今日の放課後一緒に考えちゃダメ?」



「今日は美術室も空いてるから、そこで描こう。部長にお願いしてうちが鍵を借りてくるからさ。」



「優花は美術関係になると止められないんだから、明日もテストがあるんだから、早めに切り上げるのよ。」



「大丈夫だって、明実のおかげで優花は宿題全部やってきたんでしょ?宿題の範囲からテストなんだから、それほど勉強必要ないって。」



普段なら優花のために勉強をというボクだが、夏休み中に、自分の力で、一生懸命宿題を終わらせた優花にご褒美を兼ねて、今日の放課後は息抜きをさせてあげたいのだ。



「クーちゃんはテストできるから良いかも知れないけど、優花は前日まで勉強した方がいいんじゃないかな?」



「一夜漬けで覚えた内容では、次のテストにつながらないから、テストが終わった後にきちんとテスト直しをした方がずっといいはずだよ。夏休み明けのテストで満点を取るよりも、夏休み明けのテストで出たことをきちんと覚える方が大切だからね。」



「つーちゃんにそう言われたら、勝てないな。俺や上田も放課後体育館で自主トレしてるから、終わったら体育館に来てくれよ。一緒に帰ろうぜ。」



「うん。明実と和美はドレスのデザイン見においでよ。二人の希望とかも聞きたいからね。」



こうして、ボクらは午前中に休み明けのテストを受け、午後から美術室に集まることになった。ミーちゃんにも声をかけたのだが、自分の分は持っているということで、参加しないようだ。



というよりも、今日のテストが終わったら明日のテストの勉強をして是が非でもボクに勝ちたいといった様子だった。



「ツン先生。本当に勉強しなくて大丈夫?」



「大丈夫じゃないよ。もちろんきちんと勉強するのが一番いいことには変わりはないからね。だけど、今さら勉強するって言っても集中できないでしょ?」



「確かにそうかも。」



「集中して勉強しないと、頭には入らないからね。優花も、デザインを描き終えたら、勉強するんだぞ?」



「了解しました。」



「まずは午前中のテストだね。これで成績が落ちたら、流石に美術室に行くのを明実や和美に怒られちゃうから、午前中はテストに集中だね。」
















テストは一学期の期末までの範囲の問題と宿題から出たので、優花もかなり納得のいく出来栄えだったらしく、ニコニコ顔で合流し、美術室へと向かった。



「あれ?今日は部活無いんじゃなかったんでしたっけ?」



「君たちが来ると聞いて私が参加しないわけがないだろ?静香と陽子も後で来ると言っていたよ。」



「なんだか、気を使わせてしまったみたいですみません。花梨部長も何か作品を作っていきますか?」



「いや、今日は君の実力をこの目で見てみたいから、見学させてもらうよ。」



美術室に行くと、花梨部長が既に来ており、鍵を開けていつでも作品に取り掛かれるように準備をしておいてくれていた。



「ツン先生の分のキャンバスや筆も用意しておいたから、ここ使ってね。」



「ボクは兼部だから、そんなの良いのに。優花が用意してたの?」



「だって、一緒に絵を描けるんだったら、きちんとしたのを用意したかったんだ。」



「優花のクーちゃん贔屓は本当に異常なほどね。これだけ期待をかけたんだから、きちんとしたドレスを作らないと、納得してもらえないかもしれないわよ。」



「そんなことを言っても、冬までに4着も作るんだから、あまり凝ったデザインは無理だよ?」



「そんなこと言って、秋はいっつも素敵な作品を作るんだから良いわよね。私にも何か才能があったらいいのに。」



「そんなこと言わないの。クーちゃん早くデザイン作らないと、本当に明日のテスト勉強できなくなっちゃうわよ。」



明実に促されて、ボクはキャンバスへと向かう。筆も用意してくれてあったが、今回は下書きの鉛筆のみで十分だった。



「手慣れてるわね。それに、前から構想を練っていたのかしら?」



「はい。自分の分と和美の分は既に構想ができていたんです。明実と優花の分だけ二人と相談しながら一から作るつもりです。」



ボクが何の迷いもなく鉛筆を動かしだしたことに花梨部長が反応した。




「ツン先生が描いているんだから、部長も邪魔しないで下さいよ。」



「今は大丈夫だよ。構想を練っている時と違って、作業だからね。この絵も芸術にしたいならあとで、もう一度描き直さなきゃだけどね。」



「それでも、上手ね。さっき描きだしたばかりだというのに、もう形ができてるじゃないの。」



「ボクは全体のイメージから描きだすからね。あとで細かいところも作業していくから、その時は、またこんなにしゃべっている余裕ないかも。」



そうは言うものの、既にどんなデザインにするのか決めてあったために、ボクの絵は30分ほどで出来上がった。



「どうかな?胸元がちょっと開き過ぎかもしれないけど、パーティ用のドレスならこれくらいしてもいいよね?」



「すごい。今にも飛び出してきそうなリアルな絵になったわ。」



「優花は言いすぎだよ。まだ下書きだから、陰とかも鉛筆で軽くつけただけじゃないか。これを布で表現した時に上手にできるかが大事でしょ?」



「でも、そこら辺も当然考えてあるんだろ?」



「花梨部長はボクのことを何でもお見通しなんですか?一応布の発注先くらいまではすでに考えてありますけど・・・」



「そうか、君の弱点がやっとわかったよ。確かに君は絵も上手いし、おそらくこのデザインをそのままドレスにできることだろう。しかし、すべて自分でやろうと考えていないかい?」



「え?まぁそうですけど・・・」



「どんな布が欲しいのか言ってくれたら、私が注文してあげよう。糸やその他必要な器具なんかもリストアップしてくれたら私が手伝うことはできるだろう。しかし、君は全部自分でしようとしたね?」



河合花梨という人物を過小評価していたわけではないのだが、ここで以前までの評価を上方修正する必要があるだろう。絵を目の前で描いて、これからのプランを少し言っただけで、ボクの弱点ともいえる、人に頼ることが苦手なところを言い当てられてしまった。



「確かにそうよね。秋って何でもできちゃう代わりに、何でも自分でやっちゃうのよね。」



「そんなことないよ。ボクはみんなに頼り切って生きていると思うよ?」



「それでいいのよ。心友なんだからもっと頼りなさいよ。秋は頼ることが当然だなんて思わないんでしょ?確かに頼ることになれて努力しない人間よりは良いけど、人を信じられないことにも繋がるのよ?」



「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんだよ。じゃあ、布だけはこだわりもあるしみんなで買いに行かない?注文するよりも間近で見て決めた方が絶対いいと思うんだ。」



「そうだな。君のドレスは君自身で作ったら良いだろうけど、みんなのドレスは各自で協力しながら作った方が良いだろう。」



花梨部長は、一方的なプレゼントという形ではなくて、それぞれにできることを割り振って、みんなで作ったという事実を残すことを大切と思っているようだ。



今までプレゼントしてきた作品はすべてボクが一から作ったものが多かったので、こうして協力して作るのも楽しさそうだ。



「じゃあ、デザインは四人ともボクが担当しようかな?その代り、布を買って製作に入ったら、ボクは補助はしても自分たちで作るって言うのはどう?」



「うちはそれでいいよ。ツン先生オリジナルを着てみたかったって気持ちはあるけど、それは水着の時に叶っているし、次はツン先生のデザインを自分で作ってみるってのもいいかも。」



「ちょっと、私お裁縫なんてしたことないわよ?明実だって秋に作ってもらった方がいいでしょ?」



「う〜ん。私もそれほどできるわけじゃないけど、隣にクーちゃんがいてくれるなら自分で作ってみるのもいいかもしれない。」



「ええ?明実まで、仕方がない私も頑張るか。」



「和美だって、中学の時の家庭科実習の時お裁縫できていたじゃないの。」



「あれは、みんなの前で恥をかかないように家で猛特訓してきたんだから。得意なわけじゃないのよ。」



そんな話をしていたら、静香先輩と陽子先輩も部室へやってきた。



「今日は賑やかね。私たちも仲間に入れてよ。」



「みんな来てる。うふふふふ。」



静香先輩の発言はともかく、陽子先輩の発言に和美とボクは冷や汗を垂らす。



「前に言っていたモデルも今日します?」



「今日はやめておくわ。」



言葉すくな目だが、それでも、ボク達がやることがあってきていることを伝えてあったので、遠慮してくれたことが分かる。



「そのまま、意識しない状態の方が良い絵になりそうだし。」



そうでもなかったようだ。和美には陽子先輩の趣味を伝えてあり、三人だけの鑑賞ならばということで納得してもらっているので問題はないだろう。



先輩達が来ても、やることには大差無かった。ボクが三人の希望を交えながら、先ほどデザインした絵などを参考にしてデザインに起こしていく。



「私はもうちょっと控えめな方がいいわ。フリルなんかも少ない方がいいかも。」



「じゃあ、襟元だけ少しふわっと浮かせるのがいいかな?スリットは短めにデザインしておくね。」



明実のドレスのデザインを描き終えて、すべて終了した頃には、もう夕方になっていた。




「ツン先生。本当にこのデザインのドレスを作るの?」



「当然でしょ。デザインの他に注意書きなんかも作らないとね。ボクが作るわけじゃないから、どこがどうなっているのか分からないところもあるでしょ?」



正面からと後ろからのデザイン画だけでは表せられないような細かい部分もあるので、それらの裁縫の仕方は、一緒に作る時に一つずつ丁寧に教えて行くつもりだ。



「しかし、大木鈴の実力はたいしたものね。このデザインのドレスが本当に出来上がったら、私だって欲しいわ。」



「花梨部長も作ってみたらどうですか?」



「こんなデザイン私じゃとてもじゃないけど作れないわ。ドレスが出来上がったら是非作品展示も兼ねてモデルショーを開きましょ。」



「勘弁してくださいよ。ただでさえ、ここのところボクの認知度が上がってきてるんですから、もしやるなら、この美術室で、仲間うちだけにしてくださいね。」



「解った。じゃあ、冬までにこのドレスが完成するのを楽しみにしているよ。ところで、半年に一度は作品を提出するように展示会の人から依頼を受けているんじゃないのかい?」



「そっちの方はもう提出してきました。夏休み中にバスケ部の人たちをスケッチさせてもらって、それを全部油絵にしてみたんですが、中々好評らしいですよ。10月くらいには全部の作品を小冊子にしていただけるみたいなので、持ってきますね。」



夏休みに描いた絵は、展示会で大木鈴の名前で展示されているらしい。二年生の子たちに協力をしてもらって描いたので、8枚なのだが、どれも臨場感あふれる絵になった。



「良いのだが、人物画だと、この高校ってばれてしまうのではないかい?」



「大丈夫ですよ。横顔が描かれている人もいますが、基本は後ろからの絵が多いですし、絵のピントをすべてボールに合わせているので、ユニフォームも練習用のあえて違う種類のものにしてもらったので、どこの学校のかもわかりませんしね。」



「なるほどな。しかし、抜かりないと思っていたところに意外と穴があるものだ。気をつけるに越したことはない。小冊子が出来上がったらあまり人には見せずに、内々のものだけに留めておきなさい。」



花梨部長の鋭さは異常だが、同じ様に鋭く見抜く人物がいないとも限らないので、良い教訓かもしれない。自分の尺度で測ることが間違いだと気づいて一般の人に合わせようと心掛けてきたことが、逆に間違った解釈になっていたのかもしれない。



確かにボクなら描かれている人物が見抜けるような絵もあった。



「解りました。協力してくれたバスケ部のこともありますし、心友の証を持った人以外には見せないようにします。」



「それがいいだろう。」



「それじゃあ、そろそろ竜や敦君も待っているし、帰ろうか。帰ったら優花も勉強するんだぞ?冬まで時間はあるんだから、ドレスのことで頭がいっぱいで勉強をおろそかにするんじゃないぞ?」



「え?あ、うん。分かってるわよ。」



「無理みたいね。今の優花はクーちゃんにデザインしてもらったドレスを着てダンスでも踊っているわ。」



「そんなことないわよ。うちだって勉強のことも少しは考えていたんだから。」



以前だったら間違いなく頭の隅に追いやられて考えもしない勉強のことを思うようになってくれただけでも成長と言えるのだろうか?翌日のテストに不安を残しながらも今日は解散となった。












もう少し和美との絡みを作りたかったと後悔しているAKIです。

今回のテーマは〜次回への繋ぎ〜です。

美香の家、ドレス作り、髪の毛を含む秋の不思議etc

次につながりそうな話をまとめてみました。二学期は陸上競技会や文化祭があるんですが、それだけでは何となく心もとないので、このような話を挿入していきたいと思います。


ここまで読んでくださった読者の皆様に心からの感謝を送ります。本当にありがとうございました。



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