チャプター58
認めてあげて
秋の髪の色については、教室での話題の的にならなかった。
いや、実際に担任が教室に入るまで噂や憶測が飛び交っていたのだが、それを吹き飛ばすような話題が先に上がったので、話題が変換されてしまった。
「こんにちはぁ。わぁたしの名前はケイティ・キティー・ラスケットでぇす。」
担任と一緒に入って来たケイティはアクセントが所々おかしいものの、十分流暢な日本語で自己紹介をする。
なんでも、日本人のホームスティを毎年受け入れており、自由会話も普通に出来るまで練習していたらしい。その影響で是非一度日本に、来てみたかったのだということだった。
「ケイティはほとんど日本語を話すことができるから、みんなも積極的に話かけてあげなさい。異文化交流も大切だ。」
担任の先生はかなり無責任に生徒たちに交流を持つように促す。実際英会話などやったことがない人間も、ケイティの日本人とは違った魅力に声をかけようと思案していた。
「わたぁしの席は何処ですか??」
「蟹津さんの近くは席があいていたよな??そこに机を持って来て座ってもらう。今は席がないけど、全校集会の後に誰かとって来てくれるか?」
クラスの男子たちが一斉に挙手をして立候補する。
ケイティの気をひこうと必死だ。
「ケイティ、一緒に体育館に行こう。ボクらならさっき職員室で顔を見たから問題ないでしょ??」
「アキが学校案内してぇくるですか??ありがとうございまぁす。」
「ボクだけじゃなくてこのクラスの子たちみんながケイティのことを歓迎してるから何か尋ねたいことがあったら言ってね。あと、”くれる”だよ。」
「わかぁりました。もう覚えまぁした。」
ケイティの口癖は”もう覚えました”だ。日本語を学んだ時に何度も繰り返し教えられて、それに対して反応しているうちに何に対してもその様に言うようになった。
「ケイティの覚えましたは怪しいからな。もう一回ボクがなんて言ったか言ってみて。」
「アキが歓迎してくれて何でもたずねぇていいでぇす。あと、案内してくれるでぇすよね??」
「間違ってないけどちょっと違うよ。クラスみんなが歓迎してるからみんなにもいろいろきいて良いからね。」
「もう覚えました。」
クラスのみんなから本当に覚えたのかな?といった疑問の視線を浴びながらもケイティは秋たちと全校集会に参加する為に体育館に向かうのだった。
秋は朝から職員室に行ってしまい、英話を話せることを先生達に重宝されたため、体育館でもケイティの側にいるように言われているので調度良いと連れ立って向かう。
体育館につくと、朝の掲示板を見た人が秋に視線を送るが、横にいるケイティに視線が集まっていた。
秋にとっても心友にとっても都合が良いのでそのままケイティを上手く隠れみのにして不幸の発生を防ぐ。
秋にとって幸だったのはケイティのおかげで自分に対する視線が減ったこと、そして不幸だったのはケイティの側にいたため、自分一人や竜と一緒の時のように対処出来なかったことだ。
ケイティは全校集会で留学生として檀上で挨拶をするために、階段を登っており、当然その後ろについていた秋だった。
ケイティは階段の1番上で足を滑らせると、側に置いてあった大きな花瓶向かって倒れて行く。
「危ない!!」
秋はケイティを後ろから抱き寄せると、自分の体に頭を包み込むようにして階段を落ちる。
ガン!!
階段を落ちたまでは秋もなんとか受け身をとって大きな怪我も無かっただろう。
グラグラ
ガコン
花瓶の置いてある台座にぶつかった反動で揺れ、最期にはあわれ秋の頭上に落下するのだった。
『こんにちは。未緒さん。』
『こんにちは。秋さん。』
『毎回洋司さんは来なくて未緒さんが来るんですね。』
『ええ、でも今回はもう一人来ますよ。』
未緒さんの言うもう一人は少し遅刻したらしく、未緒さんがエンマ帳をだすと同時に、飛んで来た。
急いで来たのではなく文字通に飛んでやってきた。
和服姿に赤いポニーテールをゆらゆら、ボクのところまで来るとハイテンションに話出す。
『秋ちゃん!!私凄い事実が解っちゃったの。』
『はいはい。あまり時間もありませんし、要点をまとめて説明してもらえますか??』
『解ったわ。秋ちゃんの体はマリン様と同じ肉体の構造をしているらしいのよ。』
ボクはマリン様と言われても何のことだかさっぱりだった。
『ま、マリン様と同じ構造!?』
未緒さんはそれだけである程度理解できたらしい。
『要約し過ぎだよ。ボクはそのマリンって人を知らないから。』
『そうよね。いくら秋ちゃんでもマリン様を知っているわけはないわよね。マリン様は世界を作ったと言われる人の一人よ。』
『神様??』
『そう言っても差し支えないわ。マリン様は世界を自由に造り、操ることの出来る魔法を持っているお方なの。』
『え??どういうこと??何でも叶えられる魔法を持っている人ってことかな?』
『ほぼその考えで間違いはないわ。いくつか出来ないことも存在するみたいなんだけど、マリン様の体と同じということは、最強の体を手に入れたと言っても過言ではないわ。』
『しかし、霞様マリン様は男性では??エスカ様ならまだしも、女性である秋さんの体がマリン様と同じ構造というのは違和感があるかと…』
『そうなのよ。だから私も気付かなかったんだけど、以前の秋ちゃんは男性でしょ?恐らくマリン様の完全なコピーを作りたかったんだと思うわ。
ところが何故か上手くいかなかった。そのため、女性に再転したら、女性であることを除けば全てマリン様と同じ人間が出来たってわけよ。』
『それってやっぱり凄いことなのよね??』
秋は理解が追い付いておらず、一つずつ霞から聞き出そうとした。
『凄いなんてものじゃないわ。ひょっとしたら魔法の力も少しくらいなら使えるんじゃないかしら?』
『世界を操る魔法??』
『そうよ。秋ちゃんが願えばどんなことだって叶っちゃう魔法なのよ。』
『あの…大変申し訳ないのですが、そろそろ準備をしないと、間に合いません。その話は次回ということで…』
『そうね。こんな重要機密を現世に持って帰っちゃったらそれこそ大変だもの。』
霞はそんな風にいうと、秋の記憶操作の補助を申し出た。
霞と未緒という、優秀な鬼人二人に見送られて、秋は現世へと帰って行く。
『そんな重要機密なら教えないで欲しいな。ボク本当にどうなっちゃうんだろ…。』
「ただいま。」
「おかえり。」
いつもおはようとかボケて起き上がる秋がただいまと言って目が覚めたことに周りは違和感を覚えなかった。
「何で普通におかえりって言うかな??」
「しゃあないやろ?死の淵からの帰還って言うても、何回もあったら、生き返るって言うよりも帰って来たって感じやねん。」
「じゃあ今度からはただいまって毎回言った方がいい?」
「今度がないんが1番やっちゅうねん。」
「あはは、面目ない。」
「アキぃ。だいじょうぶでぇすか?わたぁしを庇って倒れた時は本当に心配しまぁした。」
「ケイティ。大丈夫だよ。それよりここは?保健室?」
「そうだよ。あなたにとっては保健室というよりも、帰って来る前に立ち寄る門出の場所かも知れないけどね。」
「毎回お世話になります。雪先生、ケイティがいるから難しい言葉を使おうとしてますが、使い方間違ってますよ。」
「う、うるさいわね。それだけ元気ならもう心配なさそうね。さっさと教室に帰りなさいよ。」
「「はぁい。」」
秋と秋を心配して保健室に集まっていたメンバーは雪先生に促されて教室へと戻って行く。
「ゆっこちゃんも、あんなにせっつかなくてもいいのにね。」
「そうだね。保健室だってそんなに忙しいわけでもないし、ゆっくり話して行きたかったよ。」
和美の言葉に明実が同調する。女の子たちはみんな保健室の先生とかなり親密に話しており、仲が良いのだ。
「仕方がないよ。ボクが雪先生の弱点を知ってるからね。それに、雪先生英語話せないみたいだし。」
「わたぁしは、日本語話せまぁす。そんなこと気にしなぁいで欲しかったでぇす。」
「そうだね。それよりも、ゆっこちゃんの弱点ってなに?秋には教えて私たちには教えてくれないの?」
「教えてくれないんじゃなくて、ボクが勝手に気付いただけだよ。ついでに、内緒にしてって言われてるから教えられないけどね。」
「クーちゃんその言い方は一番気になる言い方だよ。教えて欲しいなぁぁ。」
明実はそう言って、秋の背後から抱きつくと、お腹のあたりを撫でまわす。
「ちょま。明実やめて!!」
「そうそう。明実ちゃん。秋にそんなことしちゃダメでしょ。」
「和美が天使のように見える。」
「秋をいじめる時はちゃんとここを触ってあげなきゃ。あ、柔らかい♪」
「きゃ、いや・・・」
和美は背後から押さえている明実に、正面から加勢する。当然のごとく優花も右横から秋に飛びつくと、朝はいなかったケイティが秋の左から攻める。
「四面楚歌?」
「確かに朝よりもすごいことになってるけど、つーちゃんはさっき倒れたばかりなんだから止めなくていいのか?」
「坂本が止めろよ。俺にはできひんわ。」
「あなたたち、それでも蟹津さんと鈴木さんの彼氏ですの?」
「じゃあ、ミーちゃんがとめてや。俺にはこの空間に入っていく勇気はあらへんからさ。」
「み、ミーちゃんと呼ばないでいただけるかしら?」
美香は反論すると、秋たちの方へと歩いて行き、胸を鷲掴みにしている和美の手をどけようとする。
「北条さんも触ってみる?マシュマロみたいだよ?」
「わ、私は以前触ったことがありますから、御心配なく。」
「え?北条さんもクーちゃんの胸を触ったことあるの?じゃあ、私も。」
「うちも♪」
「わたぁしも。」
ケイティは自身もかなり大きな胸を持っているにもかかわらず、その場の雰囲気で話している。しかし、美香の行動と発言が完全な藪蛇になって秋を取り囲む四人の行動を助長させたことだけは間違いないだろう。
「な?言うたやろ?俺らにはどうしようもあらへんって。」
竜が美香にそう言うと
「竜、あ、あんた。ひゃ、助けなさいって。」
必死になって助けを求める秋がいた。
「しゃあないな。優花ちゃん。あんまりやり過ぎると一緒に絵描いてもらえへんぞ。明実ちゃんと和美ちゃんを止めたら許してもらえるかもしれへんな。」
「ツン先生の胸はうちのだから三人は触っちゃダメ!!」
「ええ?秋の胸はみんなのものだよ。」
「そうだそうだ。優花だけずるい。」
「ずるいでぇす。」
抗議の声を上げた三人だが、その油断が秋を解放する。優花と三人が言いあっている間に、竜は秋を回収すると落ち着ける場所へと座らせる。
「た、助かったよ。ありがと。」
「どういたしまして。和美ちゃんと優花ちゃんには拳骨でよかったんやない?」
「それすらできない状態だったの。よく分からないけど、すっごく感度が上がったかも。」
「じゃあ、ちょっと触っただけでもまずい?」
「竜ならたぶん大丈夫。あの四人と違って安心するから。」
「そ、そっか。」
「ちょっと。なに二人でいちゃいちゃしてるのよ。秋を一人占めなんて許さないんだから。」
竜に連れ出された秋に真っ先に気づいた和美はお門違いな言い分で竜に詰め寄る。
「ボクは誰のものでもない。ボクの体はボクのものだ。」
「そうよ。クーちゃんの体はクーちゃんのものよ。」
「明実、わかってるならあんなことしないでよ。」
「だって、クーちゃんが倒れて心配だったんだもの。」
つまり、明実も和美も優花も秋が倒れて心配になり、そこに秋が生きていることを確かめたくてあのような行動に出たのだという。
「なんや、中学校の時とはちゃうけど、これはこれで苦労しそうやな。」
竜の言葉に激しく同意して秋は一行を促して教室へと戻っていくのだった。
『ふむふむ。あのように反応すればみんなから人気がでるのね。』
「北条さん。つーちゃんを真似するのは悪いことじゃないけど、難しいとおもうよ?」
「ひ、人のメモを勝手に覗かないでくださる?」
教室に着くと、心配そうに見ているクラスメイト達がいた。
「た、ただいま?」
「クーちゃん、間違ってないけど何が違うよ。」
「心配をかけてごめんなさい。」
教室内の重たい雰囲気に秋が耐え切れ無かったようだ。
しかし、秋の元気そうな様子に次第に雰囲気が柔らかくなって行く。
「いつまでも入口に立っていないで、席に座りなさい。ケイティさんの分も男子が運び込んでくれたからそこに座って。」
「「はい。」」
担任に促されて席に着くと、普段から優等生の面々にとって、今更必要の無い夏休みの過ごし方についての話が始まる。
いや、約一名程頭を抱えている人物がいた。
「優花、夏休みサボって成績下がったら、ボクが勉強対策で美術部に行けないって解ってる?」
「ど、努力します。」
「明美にきっちり、監視してもらわないとね。」
「任せておいて、伊達に幼なじみしてないわ。優花が勉強しないでテレビを見そうな時間にメールすればいいんでしょ?」
「月曜の9時とかね。」
「ツン先生。あのドラマだけは見せて下さい。」
「解ったよ。月9のドラマ以外は我慢するみたいだから、それ以外にしてあげてね。」
「は?まさか、うち今、嵌められた?」
「優花、良い先生を持ったな。」
そんなこんなで、夏休みの登校日は、優花のテレビ時間というとおとい犠牲を払って無事に終えたのだった。
タイトル通りに、秋の髪の毛などを周囲から認めてもらう話にしようとしていたのですが、臨死体験をしてもらうことにしました。
テーマは〜秋の体などの説明〜です。
秋にクラスのみんなの前で、髪の毛の話をしてもらって認めてもらうか、鬼人たちに出てきてもらって体の構造について説明してもらうかで悩んで、結果として鬼人たちにでてきてもらいました。
これで合計臨死体験数9回となりました。全体の四分の一を消化して、臨死体験の時のシュチュエーションが大変だと感じているAKIです。
森君にもう少し頑張ってもらって不幸増加と思っていたのですが、森君意外と良い子になりそうだし・・・
課題は多いですが、これからもがんばって執筆したいと思います。
ここまでお付き合いくださってありがとうございました。