チャプター55
夏だ!!海だ!!サ○だ??
無事合宿が終わると、ボクらは少し休みが入った。合宿中はPB・OGの先輩たちがたくさん来てくれて、みんなのレベルがグングン上がっていくのがわかり、ボクもマネージャーとしてバスケのことしか頭になかったが、それが終われば、優花たちと約束していた遊ぶ約束が待っていた。
「クーちゃんこっちこっち。」
「ごめん。待った?」
「そんなことないよ。こっちも優花が寝坊したしね。」
今日は海難町の浜辺に行くことになっている。海良町にもビーチはあるのだが、小さいし、田舎なのであまり整備されていないため、サーファーの人が寄ってくるくらいだ。
それに比べて海難町は海に面している部分は少ないが、とっても大きくて、人が集まるビーチがある。
「昨日遅くまで寝れなくって。ツン先生の作った水着を着て泳ぐかと思ったら興奮しちゃってさ。むしろ泳がないで浜辺でショーウィンドウよろしくずっと見せびらかそうかな?」
「ちょま。それじゃあ水着である意味がないじゃないか。せっかく活発な性格の優花に合わせて泳ぎやすいデザインにしたんだから海に入ってよね。」
「一人ずつデザインが違うの?流石ツン先生だね。じゃあ、明実や和美ちゃんはどんなデザインなの?」
「二人だけじゃないぞ。竜や敦君のデザインだって別にしたんだから。」
ボクはそう言って胸を張る。そうすると、優花が早く水着がみたいと駄々をこねだしたので、5人でビーチに向かって歩き出す。集合場所にしていた駅からビーチまでは歩いてすぐの場所だ。ここまではみんな自転車で来た。
「わぁ〜。すごい人だね。」
「ちょっと多すぎないかしら?秋?大丈夫?」
「たぶん大丈夫だよ。これだけ人がいたら、ボクのことなんて注目する人もいないだろうし。」
「「・・・」」
え?何?何でそこでみんなボクのことを見るの?その憐れんだような瞳をボクに向けないで。
「ま、まぁ確かにボクの作った水着は特殊なのが多いから目立つかも知れないけど、大丈夫だよきっと。」
「良いわ。クーちゃんに言っても無駄みたいだから、とにかくクーちゃんはみんなから離れちゃダメよ?」
「う、うん。」
ボクはひたすらはてなマークを浮かべながらもみんなについて行く。ビーチパラソルを刺して、荷物をおいたら、みんな下に着てきた水着に変身する。
「相変わらず、うらやましい体をしてるわよね。」
「ちょま。和美、そんなにしげしげと見ないでよ。」
「じゃあ、触って良い?」
「だ、ダメに決まってるでしょ!!」
「ちょっとしたスキンシップじゃん。女の子同士なんだから、照れないの。」
「やだぁ。和美がやるとエロいんだもん。」
というか、和美はボクのことを好きなんじゃ?完全に周りに内緒にするという約束をボクが守っていることを盾にして言い寄ってきてるよね?卑怯だぁ。
「和美ちゃんじゃないけど、本当にうらやましいわ。これ、天然?」
「優花まで、って明実?鼻血出てる。ティッシュティッシュ。」
和美と優花と会話していたら、明実が鼻血を吹きだしてしまった。最近和美の影響なのか、明実もなんだかおかしくなってきた気がする。
「ご、ごめん。ちょっと暑かったのと、あまりにも二人の会話が刺激的だったから。」
「明実って結構うぶなんだね。ツン先生のこと言えないじゃない。」
「そ、そうね。あはは。」
そう言えば、明実って彼氏がいたとかいう話を聞かないな。というか、明実って可愛いのに周りに女の子しかいつもいない気が・・・。
「和美、明実ってこんな子だったっけ?」
「わかんないけど、ちょっと私と同じオーラをさっきは感じたかも。」
優花が明実の鼻にティッシュを詰めてあげている間にこっそりと和美と会話をする。どうやら和美も同じように感じたらしい。
「大丈夫か?明実って今まで彼氏とかいなかったから、こういうのに慣れてないんだな。今日はそんな可愛い水着を着てるんだしナンパされるかもよ。」
「敦は馬鹿なこと言わないの。水着はそりゃ可愛いけど、ナンパ男についてく見ないに明実は軽い女じゃないんだから、前にもナンパっぽい男に告白されて断ってたの知ってるでしょ。」
「まぁ確かにそうか。」
優花と敦君の会話はそこはかとなくボクを不安な気持ちにさせた。それってナンパな男じゃなくって男からの告白を軒並み断ってきたんじゃないよね?
「もう、大丈夫。血とまったみたい。ホントごめんね。それにしても、水着は確かに可愛いわよね。これを全部クーちゃんが作ったなんて信じられない。」
明実も優花もボクがデザインした水着を気にいってくれたみたいだ。
「それにしても、竜くんも敦くんもすごい筋肉ね。普段は制服を着ているからわからなかったけど超マッチョじゃん。」
お?やっぱり男の子の体にも興味があるのか?明実の真実がわからなくなってきた。和美の方を向くと、ウィンクを返してきた。どうやら、今から確かめる必要があるようだ。
「ねね、話してばっかりじゃなくて、せっかく海に来たんだから泳がない?って言ってもさっき鼻血を出したばかりだから、明実ちゃんは無理よね。秋も水着で長くいると危険だから、上着をきて荷物番してもらってもいい?」
「うん。分かったよ。明実はいいよね?」
どうやら、ボクが明実と話して確かめろということらしい。ボクはさっき脱いだばかりの上着を着ると、頷いてくれた明実と一緒に荷物番をすることになった。
竜たちはボクから離れるのを心配していたが、明実も一緒だからと言って送り出す。二人っきりになったところで、明実にストレートに話を切り出す。
「ねね、さっき今まで明実は彼氏いなかったって言ってたけど、ひょっとして男の子がダメなの?」
「え?何でそれを?」
「明実みたいに可愛い子が彼氏がいなかったらひょっとしたらって思うよ。ボクの周りにもそんな子がいたしね。よかったら相談してみない?力になれるかもよ。」
ここで言う相談とは和美のことも考えてのことだ。明確に和美の名前はまだ出していないが、同じ気持ちの人間が側にいるとわかれば、明実だって楽になるかもしれないので、今後相談して和美のことを打ち明けるのも悪くない。
「そっか、クーちゃんにはお見通しなんだね。実は昔ちょっとしたことがあって男性恐怖症なんだ。その時は未遂だったから、何ともないんだけど、トラウマになっちゃったらしくって、それからどうしても男性と仲良くなれないのよ。」
どうやら、和美とはちょっと毛色が違うらしい。女性が好きなのではなく、男性を好きになれないだけのようだ。
「そっか、辛いこと思い出させちゃった?ごめんね。でも、竜や敦君みたいに平気な子もいるんだね。」
「実は竜くんはまだちょっと怖いかも。でも、きっとそのうち平気になるから心配しないで。敦くんの時もそうだったんだけど、慣れみたいなものだもん。」
「うん。でも、無理しないでね。嫌だったら、ボクに言ってきて、上手な距離を見つけてあげるからさ。」
ボクがそう言って明実の頭を撫でてあげると頷いて嬉しそうにする。明実はボクよりも体がちっちゃいので本当に妹みたいだ。
「ねぇ。二人だけ?俺ら旅行で来てるんだけど、一緒に遊ばない?」
嫌なタイミングでナンパされてしまった。明実はビクッと怯え、ボクの体の後ろに隠れる。
「ボクらは友達と来てるから一緒に遊べない。ついでに男の子もいるからね。」
「いいじゃん。こんな可愛い子を置いて行くような男のことなんて放っておいて俺らと遊ぼうよ。」
ナンパをしてきた男はそう言って視線を仲間の方に向ける。向こうは三人もいるらしい。こちらがか弱い女の子二人なのを見て、逃げられないように三角形を作るようにしてボクらの周りを囲んでいる。
「サルには興味ないから。ボク彼氏いるから近づかないでくれる?」
ボクは威圧的に言い放つ。この手のナンパは下手に出るとつけ上がって来るので、こちらが興味ないことをきちんと伝えないといけない。
「サル?君面白いこというね。サル顔って結構言われるんだよね。彼氏がいるんだ。まぁそんなのはどうでもいいけどね。後ろの子はフリーなわけ?」
「理解できなかったみたいだからもう一度サルでもわかるように説明してあげるわ。あなたたちに興味はないから、どっかに言って頂戴。近づかないでくれる?それとも人間の言葉はサルには難しすぎた?」
ちょっと言いすぎかもしれないけど、明実もいるので、どうしても去って欲しかった。視線を一周させてみるが、竜たちがこの状況に気づいた様子はなく、ここはボクがどうにかするしかなさそうだ。
「そんな風に威圧しようとしても無駄だぜ。頼みの彼氏も近くにいないみたいだし、さっさと来いよ。」
どうやら選択肢を間違えたらしい。ただのナンパではなく、ボクらを強引に連れ去ろうとする。明実を人質に取られてボクも仕方がなく着いて行く。
「あ、サメ!?ほら、あそこみて。あんた早く係委員のところにいってサメが出たことを伝えてきて。」
「は?サメ?そんなわけないだろ?」
ボクらをパラソルの下から海の方に連れて行ってくれたので、ボクは沖の方向に向かってそう言う。ボクは態と指の先から血を一滴海に垂らす。
「あんたら目が悪すぎるのよ。あそこ見なさいよ。背びれが見えてるじゃないの。さっさと係員に知らせないと手遅れになっても知らないわよ?」
そう言って、沖の方を指さす。そうすると、本当に背びれが見える。
「ま、マジかよ。やべぇ。」
男たちは急いで海から離れて行った。そしてボクと明実はまだ浅いとはいえ、海の中に取り残されることになった。
「ちょっと、クーちゃんやばいって私たちも急いで逃げましょ。」
「そうだね。ボクもすぐ行くから、明実の方が遅いでしょ?急いで浜辺に上がって。」
ボクは明実を急かせると、明実に気付かれないように沖の方に向かい直る。以前と同じならば、サメは遊泳しているお客たちには構わずにボクの方に向かって泳いでくるはずだ。
浜辺や海の中は混乱しだした。突然サメが現れたことでパニックが起きているのだ。ボクはそんな周囲に目も向けずに、こちらに向かって一直線に泳いでくる背びれを睨みつける。
背びれがボクの近くに来た瞬間、ボクはジャンプして、海面の遥か上空へと逃げる。サメは目的物を見失って急停止しようとする。しかし、蛇足で多少前に進んでしまい、ちょうどボクの真下へと来る。
ボクは重力に任せて落下し、そのままサメの頭に思いっきりカカトを打ちつける。同時に、エラを狙って手刀もたたきつける。
「秋。何があったのかしらへんけど、無茶すんな。」
浜辺に戻ったボクに待っていたのは竜からのお説教だった。竜は以前にもボクがサメに襲われたことを知っており、サメが出たと聞いた時からボクの事を探していたらしく。すぐに駆けつけると、横抱きに抱きあげ海面から離すと浜辺に全力で走ってくれた。
「ごめんね。いきなりナンパされて、殴り飛ばすわけにもいかなかったから、態と血を一滴だけ海に落としたんだ。」
「明実ちゃんがおったから、無茶はできひんかったってことか?ナンパ男よりもサメの方が対処しやすいとか馬鹿なこと考えたんやないやろな?」
「だって、サメの方が本当に楽だったんだもん。」
「どんな神経しとんねん。」
明実が男性恐怖症であると聞いたばかりだったので、どうしてもナンパたちを如何こうするのではなく違う対応をしてしまった。しかし、一滴血を垂らしただけで本当にサメが来るなんて、どれだけボクの体はサメにとって魅力的なんだろう。
というか、絶対に血の匂いが届く前にサメは現れたよね?何か不思議なことが起こって、ボクはどう説明したらいいのか分からなくなってきた。
「まぁ、何にもあらへんかったからええけど、これ以上ここにおったら、また面倒なことが起こりそうやから一旦退避すんぞ。」
竜の言葉に従ってみんな移動を始める。サメ騒動があり、海の中に入っていた人がビーチに上がっており、逆にビーチは人込みとなっていた。こんな場所に長居しては次はサメどころではなくなるかもしれない。
後で聞いた話によると、今回ビーチに現れたサメは人食いサメではなく、無害なものだったらしい。ボクもとっさのことで攻撃してしまったが、ちょっとかわいそうなことをしてしまったかもしれない。
「ごめんね。ボクのせいでこんなあわただしくなっちゃって。」
「そんなことないわ。私をかばってくれたんでしょ?それより、怪我はない?」
「サメを呼ぶ時に自分でつけた傷だけなんだけど、もうふさがっちゃったみたい。」
「相変わらずの回復力やな。せやけど、サメに食われたら秋でもただじゃすまへんのやから、こんな無茶もうやめてくれよ。」
「うん。ボクもちょっとやりすぎたかなって思ってる。」
「つーちゃん。ひょっとして君ってサメを呼ぶことができるんじゃない?というか、ひょっとしたら、他の動物も自由に呼べたりして?」
「まさか、以前海に来た時に足を貝殻で切ったことがあって、その時に今回みたいにサメが来たから、ひょっとしたらって思ってやっただけで、偶然だと思うよ。不幸体質と同じようにある一定の条件を満たせば発生する災害みたいなもんだよ。」
ボクは不幸体質に関しても非科学的にしか証明できないことを盾にして反論する。
「信じられないんだったら、今から何か動物を呼んでみる?犬とか猫でいい?」
そう言って、ボクはワンコよ来いと念じる。
「ワンワン!!」
「明実。ボクはこんな人間みたいなワンコを見たことないよ。」
明実が犬の鳴きマネをして場を和ます。それでみんなも笑顔になる。
「動物の鳴きマネには自信があるのよ。猫もやってみる?にゃ〜。」
「あはは、上手い上手い。明実ってTVでいつも動物番組見てたもんね。」
「ボクも動物番組大好きだよ。動物好き過ぎて、ペコやジジを飼い出すくらいだからね。」
「この前クーちゃんの家にいた猫ちゃんだよね?うちも猫欲しいなぁ。」
そんな会話をしながらボクたちは浜辺を離れる。ボクたちの後ろを本物の犬や猫が通っていったことには誰ひとり気付かなかった。
かなり、真相に迫る回だったのではないでしょうか。
どこかでこんな場面を見たことがあるという読者様がおりましたら、その方はかなりの想像力をお持ちの方だと思います。
今回のテーマは〜明実と秋の設定をどのようにしてみなさんに伝えるか〜でした。
秋においては主人公ということもあり、皆さんの中でだいぶイメージが出来上がっている事とは思いますが、この物語中最も謎を持っている人物ですので、まだまだ隠れていた、設定が出てくるかと思います。
明実に関しては、中学までにいなかったキャラを出したいという作者の気持ちから、優花敦以上の特別な立場が出来上がったらと思っています。
それでは、55話までお付き合いくださって、本当にありがとうございました。