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再転の姫君  作者: 須磨彰
54/79

チャプター53

夏合宿〜サイド秋〜





夏休みが入って一週間後、ほとんど入ってすぐにバスケ部は夏合宿が始まった。

夏の大会が地区予選で敗退が決まり、全国への強化合宿ではなく、先輩たちからの引き継ぎのための合宿となったのは残念なことだが、それも仕方ないだろう。バスケ人口は多く、地区予選といえども中々勝ちあがることは難しいのだ。



「おはようございます。」



ボクは挨拶をして体育館に入っていく。合宿は、今回は引退合宿のため、学校で行われる。もし地区予選に勝ちあがって全国にいったら、顧問の先生との約束で、海の近くに行けたらしい。



「荷物は全部部屋に置いてきた?」



「はい。今年は先輩と二人ですが、来年からあの部屋ボク一人なんですか?」



「そうね。後輩でマネージャーが入らなければ、そうなるわね。」



そうはいっても、真奈美ちゃんはT高を受けると言っていたし、美術部か、バスケ部のマネージャーになってくれるだろうから、ボクが誘いさえすれば来年からも一人ぼっちじゃないかな?そうはいっても、三か月ちょっとしか一緒にいられなかったけど、この先輩には色々とお世話になっており、さみしいことに変わりはない。



「そんな心配そうな顔しないの。来年私も余裕があったら少しくらい顔出してあげるから。合宿中はBOやOGの先輩達がいっぱい来るからそれは賑やかなものよ。」



「そう言えば、昔はバスケ部の女子も一緒に合宿していたんですよね?なんで合同でしなくなったんですか?」



「昔ちょっとしたことがあってね。合宿中に女子バスケと男子バスケの子が赤ちゃんを作っちゃって、それからは他の部活も別に合宿をするようになったらしいわよ。」



「そ、それは大変なことがあったんですね。」



「まぁ、学校側も合同合宿だけやめることにしたんだけど、この学校って体育館を使う部活多いじゃない?」



「そうですね。第二体育館とか欲しいくらいですよね。」



格闘技系の部活は専用の道場があるので良いが、バスケ・バレー・バドミントン・卓球それぞれの部活が交代で練習を行っている。その中でバスケだけが女子バスケが無いが、他は男女両方あるため、練習のスペースは毎回取り合いである。



「仕方がないわよ。特待生制度とか、勉強には力を入れているけど、部活動の方にはあまりお金をかけたくないのよ。」



「そうですか。T高って全国行ったりする名門の部活とかないですよね。」



「男子バスケは昔は強かったみたいよ。その影響で、部費が少し周りの部活よりも多いのは前に教えたでしょ?」



「そうでしたね。」


ここまで話しながらも、練習の準備を進めている。男の子たちは、初日は体力作りとしてまずマラソンをしている。この夏に体力作りをしておくことが、試合中に最後まで走るためにとても重要なのだ。



準備が整うと、まだ帰ってこない男子たちを待ちながら先輩と話をする。出発のタイムだけ記録してあるので、到着するまではボクらは結構自由だ。こんな時間は結構あるのだが、先輩と二人だと昔の話やマネージャーの仕事について話せるので退屈したことはない。



「そういえば、いつも私の話ばかりね。たまには蟹津さんの昔話とかも聞きたいわ。」



「そんなこと言っても、ボクの話なんて面白いものはありませんよ。」



「そんなことはないわ。三年生でもうわさになってるわよ。一年生に現れたツンデレクイーンは不幸少女で、とっても濃い人生を送ってきたってね。」



三年生にまで一年生の話がされているということは、ボクの噂は学校中に広がっていると考えた方がいいだろう。



「そうですね。この前体育館で倒れたのも合わせて、臨死体験の数が、8回かな?小学校の時に2回、中学で3回高校に入って3回ですからね。」



「そ、そうなの。不幸っては聞いていたけど、そんなに多いのね。」



「臨死体験の数だけ数えたら8回ですが、サメに襲われたり、こわ面のおじさん達が銃をもって恐喝してきたり、交通事故や事件に会ったのは数え切れませんね。」



「確か海良町出身よね?海辺に接したのどかな田舎だったと思うんだけど。」



「そうですよ。友達と遊びに隣町に出かけるといっつも不幸が起こるんで、竜を含む心友たちとしか街には遊びに行けないんです。」



「隣町って、ここは平気なの?」



「近くに竜がいなければ、こんな危ない場所にはいれませんね。って泣かないでください。これでも上手く付き合っていれば幸せなことも多いんですから。」



「け、健気なのね。本当に神様はなんでこんな良い子に試練を与えるのかしら。」



あまりにもショックな話に先輩は涙を浮かべだしてしまった。



「先輩、そろそろ男の子達が帰ってきますよ。ボクが何か悪いことした気分になるので涙を収めてください。」



「む、無茶言わないでよ。というか、よくそんな濃い人生送ってきて、笑っていられるわね。」



「ボク一人で不幸に会ってきたわけではありませんから。先輩を含むいろんな人に親切にしてもらってるんで、それほど人生つらくありませんよ。」



「うぅ・・ひょんなこと・・・」



本格的に泣かせてしまったらしい。ボクはとりあえず先輩の分の記録帳も抱えて体育館の前のゴールで男子たちのタイムを記録していく。半分くらいゴールしたところで最初にゴールした部長さんや竜たちが手伝ってくれたが、先輩が泣いている理由については質問されなかった。



「大変やな。どうせ昔話でもしとったんやろ?」



「う、うん。まだ全部話す前から泣かれちゃったら、全部知ったらきっと一日中泣いていることになっちゃうね。」



「せやな。でも、この合宿がいい機会やし、きちんと話した方がええんとちゃうか?」



「そうだね。みんなにも、やっぱり話してそれでもマネージャーを続けてほしいって言われたらマネージャーとして頑張れると思うよ。」



今まで部長さんにも簡単にしか説明してこなかったが、三年生達が引退して本格的にボクのマネージャーとしての仕事が始まる前に事情をみんなに知ってもらおうというわけだ。



「はい。河野先輩が最後ですよ。ちゃんと今のうちに体力付けておかないと本当にレギュラーなれませんよ。」



「そんなこと言って、今でもレギュラーは無理だろ?」



「え?河野先輩ってガードもフォワードもできるすごく器用な選手だから、実力はあるんじゃないんですか?あとは毎回体力がなさ過ぎて最初から出せないだけかと思ってました。



最近では朝練もさぼらずに来てるから、技術ではバスケ部でもかなり高い方だと思いますよ。三年生が引退したらレギュラーだと思ってたんですけど?」



「本当か?色々なポジションに転向しすぎてどれもいまいちだと思ってたんだけど、そういう考え方ができるのか。」



「確かにセンターとかは無理かもしれませんが、試合が始まったら器用な選手って一人いるとすっごく助かると思うんですよ。」



「この合宿頑張ってみるかな。本当に体力がついたらレギュラーなれるかな?」



「はい。先輩のネックは体力なんでいつも控えですが、ベンチからは外れたこと無かったじゃないですか。」



河野先輩はこうやっておだてた方が実力を発揮する。技術的には結構高いにもかかわらずレギュラーじゃなかったのは体力のこともあるが、いまいちやる気がなかったことが大きいので、ここらでやる気を注入しておくのは大切だ。



「さて、先輩の記録も着け終わりましたから、体育館の中に移動しましょう。河野先輩は体力をつけるためにそれほど休憩を必要としないみたいですので、すぐに始めましょ。」



「そ、そんなぁ。」



実際は一番遅かった河野先輩は体力が切れているというよりも、やる気を出して走っていなかった感じなので問題ないだろう。他の子たちは河野先輩が戻ってくるまでにストレッチをして準備を整えてある。



「蟹津さんが言うんだから反論しないの。マネージャーはみんなの状態を見て言ってるんだから信頼しなさい。」



泣いていた先輩もそう言って後押しをしてくれる。というか、完全にボクの保護者といったオーラが出ており、ボクに文句があるなら私を通しなさいと言わんばかりだ。



「なぁ、あいつ何で泣いていたの?」



「ボクの昔話を少ししていたんです。みなさんにもきちんと話をしますね。」



「ああ、何か悪いことがあったわけじゃないならいいよ。」



部長さんも実は気になっていたらしく、みんなが体育館に入ってからボクにそっと耳打ちしてきた。彼女のことだもん気になって当然だよね。



それでも、部長さんは公私混同しないように、みんなに配慮しているところはバスケ部のメンバーのことをきちんと考えているようだ。



「まぁ、あいつが泣くのは良くあることだから、みんな慣れちまったってのもあるんだけどな。相談とかにいくとすぐに自分のことのようにして泣くからな。」



「でも、それって相手のことを真剣に考えていないとできませんよ。本当に先輩みたいなマネージャーになりたいです。」



「おう。俺らも応援するから、がんばってね。」



「はい。」



部長と一緒に体育館に入ると、練習の前にみんなが整列していた。

部長もその様子をみて、納得したのか、みんなの前に立つ。ボクは先輩に呼ばれてマネージャー二人で列の端に加わる。



「この合宿で俺たちは最後だ。合宿中に部長と副部長を含めた今後のメンバーの役割を決める。今年もマネージャーが一人になるので、レギュラー以外はできるだけ蟹津さんをサポートしてもらうことになる。レギュラーを取りたかったら、人の倍練習しろ。」



あれ?ここはみんな部長さんの声に燃える所じゃないのかな?なんだか、やる気がそがれているような気がするんだけど。



「ボクもレギュラーになった子たちが試合に向けて集中できるように目一杯サポートできるように頑張ります。努力する男の子ってかっこいいので、ボクにみんなの努力する姿を見せてください。きちんとマネージャーノートで評価します。」



「「おお!!」」



ボクと部長さんは目を合わせて笑ってしまった。三年生の子たちもそれぞれ後輩たちの現金な態度に苦笑しているが、それでも微笑ましいといった様子だ。



合宿初日の今日は準備もあって、午後にシュート練習千本ノック的なことをしたら終了だった。みんな腕が上がらなくなるまでゴールに向かってシュートの練習をしていた。



「お〜い。晩御飯を食べたらミーティングをするぞ。ご飯前にシャワー浴びて来い。」



実際に部長さんがこの部活を取り仕切るのは今日までだろう。今夜のミーティングか明日の昼くらいには部長と副部長だけは任命されるらしい。



「綺麗に洗ってきてくださいね。ボクと先輩で一生懸命作った晩御飯を汚い手で食べたら怒りますよ。」



「「はぁ〜い。」」



シャワーに行った男の子たちを送り出すと先輩と一緒に料理を再開する。



「蟹津さんすっごく手慣れてるわね。この前のクッキーの時も思ったけど、普段から料理とかするの?」



「はい。朝はもちろんですが、お弁当も自分で作ってますから。それに、心友がボクの家に遊びに来るとみんな良く食べるのでこんな風にいつも大勢で食べる食事も作るんですよ。」



「そう。本当に良いマネージャーを獲得したわ。上田君に感謝しなきゃね。上田君がいなかったら美術部に入っていたかもって聞いたわよ。」



「中学の時は美術部でしたから。今も時々絵とか描いてるんですよ。」



「そうなんだ。また今度私たちにも見せてね。」



「解りました。でも、ちょっとわけあって色々な問題があるので、現物を用意できなかったらごめんなさい。」



実は夏に入る前に、いつも作品を出展している展覧会場の人から、作品の著作権の話が来て、作品を見せる際に色々な規約を作るかもしれないと連絡があった。



その関係で、写真集にしたり、いろいろな方法でボクの手元に作品を残す工夫もしてくれるようだが、基本的に作品はその展覧会の時にしか見せられないようになってしまうかもしれない。



「良く分からないけど、楽しみにしてるわね。」



「そんな大したものではありませんけど、先輩たちの様子なんかも後でスケッチさせてもらえたら嬉しいです。今年の分の出展がまだなので、生き生きとした生徒の様子なんかが描ければきっと採用してくれると思うんです。」



???



先輩の頭に疑問符がたくさん浮かんだが、それらについてもミーティングの時にきちんと話すことにしよう。先輩は特別ボクのことを大事にしてくれたけど、やっぱりみんなの前できちんと話した方がいいと思う。



二人で分担して調理すると、みんながシャワーを浴びて揃う頃には立派な晩御飯ができていた。大人数の時はサラダの野菜を切るだけでも大変なので、やっぱり一人で作るのは大変そうだ。



「なんだかほとんど蟹津さんが作っちゃったわね。」



「そんなことありませんよ。ボク一人だったらこんなにたくさんの料理をこんな短時間で作れませんから。」



「私は配膳とかをしただけよ。私が引退したら配膳なんかは部員の子たちに手伝ってもらいなさい。蟹津さんって自分で何でもしてしまうところがあるでしょ?」



「すみません。中学の時に何度も注意されたんですが、癖になってるみたいで中々人に何かをしてもらうのって慣れなくって。」



「大丈夫よ。今年のバスケ部はそういう気配りができる子そろってるから、蟹津さんが困ってる様子を見せたら、何も言わないでもきっと助けてくれるわ。それでも、自分からお願いすることを学びなさい。」



「はい。」



確かに、重たいものを運んでいるときなど、男の子が声を掛けてくれることが多かった気がする。本当にみんな気配り上手なんだな。



「さて、料理も部員もそろったことだし、食べようか。いただきます。」



「「いただきます。」」



部長さんの合図でみんな食べだす。みんな運動してお腹が空いているのか、勢いよく食べだした。



「秋、おかわり。」



「はや!!竜ちゃんと噛んで食べてる?消化不良起こさないでよ。」



ボクはお茶碗を受け取るとちょっと多めにご飯を盛ってあげる。



「蟹津さん。こっちもおかわりちょうだい。」



「は〜い。」



「つーちゃん。おねがい。」



坂本君まで、バスケ部のみんなは早食いなのかな?ボクはそのあとお茶碗を掲げるみんなの間を順番に回って給仕を務めた。やっとみんなが落ち着くと、先輩と一緒にボクも食事を取る。



「みんな蟹津さんばかりに頼むんだから、お味噌汁を担当していた私には三年生の子たちしかおかわり頼まないのよ。」



「お味噌汁残っちゃったんですか?」



「大丈夫よ。蟹津さんが作ったって言ったらみんな我さきにとおかわりしだしたから、こっちも完売。」



「そ、そうですか。なんだか良く分からないけど、ボクの料理が気にってもらえて良かったです。」



「・・・そうね。蟹津さんの料理はとっても美味しいわよ。私もおかわりしちゃおうかしら?」



「ごめんなさい。もうご飯もおかわり残って無いんです。」



「そうなの。みんなこんなに食べて平気なのかしら?」



「その分運動してるし大丈夫ですよ。それに食べすぎたら胃薬も用意してありますから。」



そのあとは先輩とゆっくり食事をした。先輩の好意で男の子たちは自分たちの分の食器などは洗うように指示を出してくれたので、ご飯を食べ終わったらその食器を水を切って片づけるだけだ。



「食器を洗ったら、ミーティングをするから、3-Bの教室に来るように。」



部長さんが指示を出している。ボクらも片づけが終わったら行かなくてわ。















ミーティングをしている3-Bの教室に入ると、既に部長が決まっていた。部長は当初の予定通り、川本先輩がするようだ。副部長には管崎先輩が奨められて、今みんなで説得をしているようだ。



「私たちも後ろの方に座りましょ。」



「はい。」



ボクと先輩は後ろにあいている席を見つけて座る。三年生が多いので教室は空きが少ないが、二年生が6人、一年生も8人とあまり多くないので、三年生が引退したら教室内はさみしくなってしまうかもしれない。



結局管崎先輩も副部長になることを承認して、部長と副部長が決定した。その他の子たちもそれぞれサポート役をしっかりとするように言われている。



「部長になった。川本拓真です。ポジションもPGをすることが多く、試合中でも練習中でも全体を見れるような選手になりたいと思います。」



「副部長にならせてもらいました。本当に自分なんかで大丈夫なのか不安ですが、部長を支えていけるように頑張ります。ポジションはセンターなので、ポジションと同じように中心になれるように頑張ります。」



先輩達が自分のポジションに合わせたこれからの目標を言っていく。二年生の先輩たちもそれに続く。



「河野光輝です。シューティングフォワードやシューティングガードなど幅広いポジションをするので、今年は幅広い分野でがんばっていこうと思います。」



河野先輩はそう言ってボクにウィンクした。昼間に言ったことを覚えていて、オ―ルラウンダーとして頑張ると言ってくれたのだ。ボクは親指を立ててぐっと合図を送ると、周りから変な目で見られてしまった。



そのあとは、ガードの山田聡史先輩・鈴木純先輩・フォワードの佐藤大貴先輩が挨拶をしていく。一年生のみんなは中学の時のポジションと、今後目標にしていくポジションを言いながら、ちょっとだけ自分の目標を入れて行く。



「上田竜です。ポジションはセンター・フォワードです。二年生の先輩からレギュラーを取るつもりで頑張ります。先輩たちの胸を借りて一生懸命練習します。よろしくお願いします。」



もう既に竜はレギュラー取るんじゃない?管崎先輩がいるから今年はフォワードかな?でも、今日のマラソンで分かったけど、高校に入ったら上には上がいることが分かったから、努力をやめたら竜も危ないかな。



「上田はすでにレギュラー入り決定だろ。あの部長にマラソンで着いて行ったんだしな。」



「いえ、中学出たばかりの俺がまだまだってことを痛感しました。本当に死ぬ気でレギュラー目指します。」



部長さんは特にすごかったらしい。それでもマラソンで負けたことがない竜が部長さんに負けたことが悔しいらしく次こそは勝と闘志を燃やしていた。



「坂本敦です。ポジションはガードです。先輩にガードが多くてレギュラーの層が厚い部分ですが、上田にだけ良いかっこさせられないので、俺もレギュラー目指して頑張ります。」



坂本君かっこいい。ちょっと見なおしちゃったよ。今までこんなにライバル意識をむき出しにした坂本君を見たことがなかったけど、竜に対しても先輩達に対しても宣戦布告って雰囲気だね。他の一年生の子たちとはちょっと違うね。



毎日欠かさずに朝練に来ていたことを知っているから先輩たちも焦ってるよ。バスケ部の朝練は自由参加だけど、今度からはレギュラー陣は来ないとすぐにレギュラーなれ無くなりそうだね。



「蟹津さん出番よ。」



「はい。」



ボクはみんなと同じように壇上に立つと、みんなを見渡して話しだす。



「ボクは、この三ヶ月間マネージャーをしてきましたが、皆さんの結論次第では実はやめなければなりません。」



そこでみんなが一気に驚いた顔をする。しかし、ボクにとっては仕方がないことなのだ。



「ボクの昔のあだ名を知っている人も多いと思いますが、ボクは本当に不幸少女です。ボクの周りには不幸が絶えません。その理由についても、ここにいるみなさんにだけ公開します。これについては、絶対に誰にも言わないでください。その訳もきちんと話します。」



そのあと、不幸が起こる理由も含めて今まで遭遇してきた不幸についてみんなに説明をする。一つ一つの話にしっかりと耳を傾けて、真剣に聞いてくれた。



「そんなわけで、皆さんがボクのことを大切に思ってくださるのなら、不幸は起きないので、マネージャーを続けることができるのです。



もし皆さんがこんな子と一緒にいたらいつ不幸に会うか分からないと思われるのでしたら。今すぐマネージャーをやめなければなりません。」



少し長くなってしまったが、みんな最後まで聞いてくれた。先輩は昼間と同じように涙を流しながらもきちんと受け止めてくれたし、引退する三年生の方たちは、後輩たちの意見を尊重するといった様子だ。



ガタン



「んなの決まってるぜ。俺たちは秋ちゃんの笑顔に一杯助けられてるんだ。今日の晩御飯もすっごく上手かったじゃないか。みんな秋ちゃんを助けるよな?仲間だって認められるよな?」



「河野の言う通りだ。部長になった俺が蟹津さんを認める。もし蟹津さんを厭う奴がいたら、仲間を見捨てるやつだ。そんな奴はバスケ部員じゃない。」



河野先輩と川本先輩が立て続けに声をあげる。大きな声だったので視線が集まっているが、その視線はみんな納得したような顔をしている。



「あ、ありがとうご、ざいます。ヒック」



「泣くな。秋ちゃんは何も悪いことしてないじゃないか。秋ちゃんを嫌う奴がいたら。俺たちがそいつを秋ちゃんに近づけない。秋ちゃんの不幸を願う奴がいたら。みんなで説得してやる。だから、一緒にバスケ部に残ってくれ。」



「ふえぇぇん。」



ボクは涙をこらえきれ無くなって泣き出してしまった。先輩たちの温かい言葉に心の中にずっとあった自分がここにいていいのかという疑問が解けだし、みんなに甘えたい気持ちが加速する。



「秋はいつも自分を犠牲にしてきました。甘えん坊の癖に誰にも甘えられへんかった時期もありました。そんな時、俺ら心友は今まで支えてきました。今度からはバスケ部のみなさんにも秋のことを支えてやって欲しいんです。



これは、秋と秋を守ると心から決めた人たちに配るミサンガです。同意してくださった人はこれを手にとってください。もちろんまだ考えたいって思う人は考え抜いてください。さっき秋が言ったように、本当に危険なことも起きるかもしれません。



軽はずみに手に取るんじゃなくて、一生のものだと思ってください。ちなみに、ファンクラブにも公開してない極秘事項なので、このミサンガを持った人たちには特別に連絡を入れることがあるかもしれません。」



竜が泣きだしたボクの代わりにつないでくれた。そして、竜の手からはミサンガがすぐに消えて行った。



「さ、三年生の人たちまで。」



「当然だよ。俺たちは引退してもT高のバスケ部員だからね。蟹津さん。辛いこと一杯経験してきたんだね。俺らは仲間だから、絶対に一人で抱え込まないで相談するって誓ってくれ。そうしたら、俺らもきっと蟹津さんの力になれるよ。」



ボクはただ頷くことしかできなかった。引退した元部長さんの言葉をみんなも頷きながら聴いていた。たったの三か月だけど、その三ヶ月間にみんなに信頼してもらえる絆ができていたことが嬉しくて、自分勝手なわがままだと分かっているのにこの優しさに甘えてしまった自分がいた。













AKI的に超感動作といった話ができました。

テーマは〜秋にとってのわがまま〜だったのですが、そのわがままを包み込む周りの人たちの様子を描いているうちに涙がほろり。なんでこんなことで泣いたりするんだよ。釣られるじゃないかと場違いな突っ込みをいれたり、優しい先輩たち仲間意識の強いバスケ部の結束を描いているうちに、AKI的おススメ話になりました。


53話をお送りいたしました。最初のサイド秋のタイトルで分かるように、別目線からも書かせていただきます。さて、その人物とは??

また次回もよろしくお願いいたします。そしてここまで読んでいただきまして本当にありがとうございます。



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