チャプター52
食中毒の理由
帰り道、竜と自転車に乗りながら、今日のことについて話し合う。
「困ったね。あの様子だと、学校の中では自分が作ったもの以外を口入れたら死んじゃいそうじゃない?」
「今回は体育館で牛乳なんて特殊な環境やったとはいえ、自動販売機の飲み物なんかでもひょっとしたらあぶないな。」
「そうだね。同じ牛乳を飲んで同じクッキーを食べた人がみんな元気なのに、ボクだけ倒れたってことは明らかにボクの不幸補正が付いているよね。」
「あの時秋は気絶してたから、知らへんのやけど、秋の飲んだあと残ったクッキーを河野先輩が食べて、牛乳を川本先輩が飲んだんやけど、牛乳はちょっと不味かったけど腹を壊すほどでもなかったで。」
「な、何でそんな危ないことをしてるんだよ。ボクが倒れたってことは本当に危険だったかもしれないじゃないか。」
「せやけど、女の子達が、秋のクッキーにイチャモンをつけたんが許せへんかったんやろ。先輩らが原因は牛乳にあったことを証明してくれへんかったら、今後秋が持ってくるもん全部没収されるんとちゃうか?」
「う・・・確かにそうかもしれないけど、それにしても無謀だよ。」
「先輩らなりに秋の好意に応えたかったんやからそう言ったんなや。また大会の時とかレモンとか持ってきてくれよな。」
「う、うん。」
ボクが気絶している間にそんなことがあったなんて知らなかった。確かにあの場合クッキーが原因か牛乳が原因かなんて、実際にボク以外の人間には分からないだろう。それは竜ファンの子たちにとって、ボクを悪く言うための良い材料になっていたに違いない。
「何で、こんなにもみんなボクに良くしてくれるかな。」
「それはちゃうで。秋がみんなに良くしとるから、先輩らも恩返ししたいだけやねんて。本当に秋はマネージャーとしてがんばっとると思うで。」
「ありがと。でも、腐った牛乳を飲むのはやりすぎだから、先輩たちにどうやってお礼を言ったらいいか分からないよ。」
「ええねん。秋の気持ちそのままぶつけたれば、先輩らだってわかってくれるって。」
竜はいつも自分の気持ちそのままだから、良いかもしれないけど、ボクもそれでいいのかな?でも、確かにそこが竜のいいところではあるんだから、ボクも見習った方がいいのかもしれない。
「ところで、体に変化とかあらへんか?前回は異常な回復力がついとったやろ?今回もなんや変化しとるんやない?」
「うん。どうやら究極の舌を手に入れたかもしれない。牛乳に含まれていた成分から、クッキーの成分まで結構細かく分かるかも。これなら、有名料理店の食事とかお菓子とかを食べたらレシピも見ないでそのまま作れるかもしれない。」
「な、なんちゅう特殊能力ついとんねん。ってか、それマジ?」
「ちょっぴり冗談も入ってるけど、舌の感覚がすごいことになってるのは確かだね。さっき保健室で薬を飲んだ時に気づいたんだけど、薬をコーティングしている糖質が理解できちゃった。
流石に水で流しこんだから、薬の成分までは分からないけど、一瞬でも舌に触れた物はそれが何からできているのか分かるかも。」
「神の舌ってやつか?食中毒で死にかけたんやから結構自然な流れやねんけど、それってすっごい助かるな。今後食中毒になる確率がぐんと下がるんやないか?」
「そうでもないと思うよ。においで分かるならまだしも、一度食べないと分からないんだから、口に入れただけで判断しても遅いものとか、成分が分かっても意味がないものとかいろいろあると思うからね。」
「ま、まぁ確かにそうやな。せやけど、それにしてもええ能力がついたな。」
「うん。明日からのお弁当は期待してくれていいかも。もっと美味しいものを食べたかったら、竜がボクにおいしいものを食べられるところに連れて行ってね。」
「任しとけ、夏休み余裕ができたらうんと美味しいとこに連れてったるわな。」
そんなことを話していると、自宅に着いた。明日は部活が体育館の関係で午後からと言うこともあって、竜は夕ごはんをボクの家で食べて行くことになった。
「ただいま。」
「おじゃま・・・」「おかえりぃ〜。」
「和美??」
「そうよ。愛しの和美よぉ。」
ボクと竜を迎えたのは、お母さんでもお父さんでも、お兄ちゃんでもペコでもジジでもなく、和美だった。
「どうしたの?っていうか他にも来てる?」
「そそ、相変わらず勘がいいのに、入ってくるまで気づかなかったってことは、竜くんに夢中だったのかしら?」
和美はニヤリと笑うと、中で待っていたメンバーが見えるように道を開けてくれた。
「鈴!麻美!それに司と浩太も!!どうしたのよ急に。」
「久し振り。いてもたってもいられなくなって来ちゃったわよ。ちょうど明日から夏休みでみんな暇だったのもあるけど、昨日今日と散々だったみたいじゃないの。」
「面目ない。やっぱりみんながいないと、ボクの不幸率は急激にあがるみたい。」
「もう、そんなこと言われたら余計にほっておけないでしょ。早く上がって来なさいよ。秋ちゃんの家なんだから。」
麻美に促されて、ボクと竜は玄関から居間に上がっていく。まだ仕事中のお父さんはいないが、そこにはお母さん。お兄ちゃん。中学の時の心友メンバーが揃っていた。
「なんだか、そうそうたるメンバーだね。ボクを守ってくれてる人が一気に集まったような感じだよ。」
「にゃ〜!!」
「そうだね。ジジもボクのこと守ってくれてるよね。もちろん外にいるペコもね。」
まだ制服なのだが、ソファーに座ったとたん膝の上に甘えてきたジジに自己主張されたので撫でてあげる。
「それで、今回はどういうことになったの?竜と一緒なら何も問題なかったんじゃないっけ?メグのことだから、また変な誤解で恨まれたんじゃないでしょうね?」
「そのメグって呼び方懐かしいね。なんだか本当に中学校の時に戻ったみたいだよ。」
「いつも鈴とは電話で話してるでしょ。誤魔化すと、武満さんがいることを忘れてないかしら?」
麻美の言葉に素直にすべて洗いざらい話すことにした。武兄ちゃんはいつでもボクを怖がらせる怪談話のストックを絶やさないように日々精進しているらしい。そんな努力はいらないと思うのだが、こういったボクがみんなに心配させないように隠そうとしている時などにはそれが効果を発揮する。
「ってわけで、北条さんって子とは和解したから大丈夫だんだけど、竜のファンクラブの子と森君に関しては全く対処してないわ。」
「なるほどね。中学までと違って、竜くんとメグが幼馴染で仲がいいってあんまり知られていないから、どうしても両方とも恨みを買いそうね。その森君って子は竜くんにも秋ちゃんにも今のところは何もしてこないの?」
「うん。一回友達の机に盗聴器らしきものが見つかっただけで、そのあとは何にも問題が起こってないよ。和美、森君ってファンクラブ入ってる?」
「一応ね。同じクラスの子だし無碍に断ることもできなかったのよ。でも、浩太と違って抑制作用があるわけでもないし、正直いらないわ。」
「ちょま。それは言いすぎだよ。ファンクラブの規約についても浩太に相談したかったし本当に今日はみんなが来てくれて助かったよ。」
そのあと、高校で起きた出来事について色々と話し合った。その結果一つの事実が判明した。
「夏合宿の時もそうだったし、メグが何かを食べてお腹を壊すのっていっつも嫉妬の目を向けられてる時じゃないかな?」
「え?嫉妬されるとご飯が腐るの?」
「そういうとなんだか嫌な気分ね。でも、確かに鈴の意見も正しいと思うわ。秋ちゃんがお腹壊す時っていっつも恋愛関係だったりするもの。女性から嫉妬されると、その嫉妬の力で食べ物が腐敗するのかもしれないわね。」
「なんやそれ、女は怖いな。食べ物を粗末にしたらいかんって習わへんかったんやろか?」
「いや、相手も自分の嫉妬で食べ物が腐るなんて普通は考えないから。でも、確かにメグちゃんってファンクラブの子からの贈り物とかでお腹を壊すことが多かったよね。
特にそのファンの子に彼女や好きな子がいる時に多発していたことからも、あながち間違いじゃないと思うよ。」
この結論は認めたくない何かがあるが、これだけ状況証拠を突きつけられたら流石に疑い切ることもできない。今度恋愛がらみの贈り物などでお腹を壊したら確定だろう。
「つうことは、恋愛が絡みそうな送りもんの時だけは秋は食べないようにすれば不幸を減らせるんかな?」
「そうとは言い切れないんじゃない?食中毒にならなかったら、別の不幸がまってるかもしれないじゃないの?秋ちゃんの不幸は、起こらないことの方が少ないのよ?
むしろ、お腹を壊してでも事故や事件を避けたいときはそっちを優先するのもありね。」
「それはダメだよぉ。自分が食中毒になればぁ。誰も痛い思いをしなくて済むなんて考える人間だよぉ?竜が積極的に止める必要があるねぇ。」
司はボクの性格をよく理解している。他のみんなも、司の発言にうんうんと頷く。
「ま、まぁ、そっちの方が被害が少なそうな時だけにするよ。」
「「はぁ・・・」」
みんなして溜息を吐かれてしまった。むしろボク的には良いことを知ったと思ったのだが、心友メンバー的には、不要な真実に行き当たってしまったといった様子だ。
「で、でもさ。お家で食べたり、みんなと一緒に食事するときは本当に安心して食べれるんだから気にしないでよ。やっぱり今日は数が多かったから仕方がないけど、それでも即死しなかったのは、竜やバスケ部の人たちが一緒にいてくれたからだろうしね。」
「牛乳で即死ってそんな死に方嫌やろ。」
「た、確かにそれってすっごい恥ずかしかったかも。今度から、部活後の牛乳には手を出さないようにするよ。みんなにはアレルギーかもしれないから決められた牛乳しか飲めないとか言っておいて。」
「せやな。アレルギーなら上手くごまかせるかもしれへんな。」
そんなこんなで、牛乳事件に関する話し合いが終わると、高校に行ってからのお互いの近況報告が始まった。新しくできた友達の話、勉強の話、部活の話など、普段からメールや電話で連絡を取り合っているにもかかわらず、話題が尽きることがない。
「はいはい。それくらいにしておかないと、お腹と背中がくっついちゃうわよ。」
「お母さんごめんね。夕ごはんの手伝いもしないで。」
「秋はもっと甘えなさいって言ってるでしょ。友達が来たときくらいお母さんの手料理を披露させて頂戴。最近では夕ごはんしか作っていないから、このままだとお母さんの料理の腕が落ちちゃうわ。」
「なに言ってるんですか。お母様の料理はいつも美味しいですよ。」
和美とお母さんはすごく仲がいい。というか、和美、いつもおばさんとか絶対に言わないでお母様と呼ぶのはまだボクの隣をあきらめてないのか?
「まぁ和美ちゃんったら、和美ちゃんは絶対に良いお嫁さんになるわね。」
「そんな、お嫁さんだなんて早いですよ。三月までは15歳なので結婚もできませんし。」
いやいや、三月の誕生日で16歳になったら誰のところにお嫁に行くつもりですか?そしてお母さんも和美の誉め言葉に弱すぎる。明らかに取り入ろうとしているのが見え見えじゃないか。
「仕方がないよぉ。おばさんもぉ、和美ちゃんがぁ、秋を狙ってるなんてこれっぽっちも考えていないだろうからねぇ。ガードが甘くなってるんだよぉ。」
「相変わらずね。なんでボクが思ってることを分かるの?」
「じゃあぁ、もう一つぅ。”竜にもガード甘いけどねぇ。これって竜のことを認めてくれてるのかなぁ”って思ってるでしょぉ?」
「ちょま。」
ボクは司の発言に真赤になる。竜は浩太とファンクラブ関係の話で盛り上がっており、今の会話は聞いていないが、それでも意識してしまう。
「大丈夫だよぉ。女の子は16だけどぉ。男の子は18だから、まだ二年ほど猶予はあるよぉ。」
「そ、そんな急ぐわけないでしょ。第一二十歳を超えてない場合は親の承認が必要なんだよ?」
「承認がもらえないと思うぅ?」
「う・・・で、でも家お父さんが頑固だから、働いてもいない男のところになんてダメってなるに決まってるよ。」
「確かにそうだねぇ。でも、秋がどうしてもって言えばぁ、婚約くらいはできるんじゃないぃ?」
「ど、どうしても、なんて言わないもん。」
結局司とボクの様子を見ていた麻美や鈴も加わってボクのことをからかいだした。先ほどからチラチラ浩太の視線があることからも、浩太は竜を抑える役を買って出ていて、この展開も計画されていたようだ。
ご飯を食べ終わると、お皿を洗うのは流石に手伝うと言って、台所に立つと、麻美や鈴も手伝ってくれてすぐに終わってしまい。少しの間トランプなどをしながら過ごしたが、司と竜は明日も部活があり、浩太も帰ることになって、女の子三人だけが泊まっていくことになった。
「秋の家に泊まるのっていつ以来かしら?」
「受験の追い込みで勉強合宿した時依頼じゃないかな?結局メグの恋愛話で一晩中語り明かしちゃったけどね。」
「ホント久しぶりね。でも、家の家族も秋ちゃんの家に泊まるのだけは許してくれるのよね。」
「私も一緒よ。和美とは幼馴染だから平気なんだけど、その他にはメグの家以外はやっぱりお泊まりは許可出ないのよね。」
そんな会話から、やっぱり中学時代の懐かしい話になっていき。お風呂に順番で入ると、結局夜中まで四人でワイワイ話をすることになってしまった。
夏休み最初の日はこうして懐かしい中学の心友たちと共にスタートした。
「ところで、竜くんと秋ちゃんはお泊まりとかするの?」
「そんなわけないでしょ。秋がそんなこと許すわけないじゃないの。」
「メグって相変わらずうぶよね。」
「はぅあぁ・・・」
そんなこんなで夜が更けて行く。
久し振りの心友たちの登場いかがでしょうか?実はこのメンバーだけリストバンドをもっており、他のメンバーとは区別していることからも、本当にこのメンバーと一緒にいると何にも怖くないといった補正がかかっております。
だって、中学生編を書いていてみんなを大好きになってしまったんです。AKIが悪いわけではありません。AKIが書いたキャラたちが悪い(それってやっぱり・・・)
こ、今回のテーマは〜心友たちとの和やかな雰囲気を描く〜でした。目一杯羽を伸ばして息抜きをしている秋の様子がみなさんに伝わるように書いたつもりです。
それでは、中々誤字も減らず、申し訳ない限りではありますが、チャプター52を読んでくださってありがとうございました。