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再転の姫君  作者: 須磨彰
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チャプター50

夏休み突入






北条さんの体にも異状がないことが判明して、安堵したボクたちは、ひとまずみんな帰宅することになった。北条さんが別れの間際に言った言葉が印象的だ。



「蟹津さん。絶対にあなたに勉強も運動も勝って見せますわ。その時は、潔く負けを認めなさい。」



ボクとしては、竜のこと以外、どっちでもいいんだけどなぁ。でも、あんな風に言われたら、勉強や運動で負けたら、竜のことを奪うとか考えそうだし、負けられないけどね。



「秋って昔から、負けず嫌いやよな。まぁ、中学くらいから、何かについて誰かより劣っていると思うことがあらへんかったから、忘れかけとったんやけどさ。」



「女の子には引いてはいけない時があるんだよ。絶対に北条さんだけには負けられないよ。まぁ、高校を卒業した時に、真奈美ちゃんに個人的に会っちゃダメだよって言ったのと同じ理由だよ。」



「ん?真奈美ちゃんと北条さんがなんや関係あるんか?ひょっとして、北条さんってレ・・・グハッ。」



どうしてこの子は気付かないかな。真奈美ちゃんは強い人が好きなだけで、本来はノーマルだったなんてことはみんな知ってることなのに。そして、前世ではボクは男の子で野球をやってたため、格闘技なんてできずに、つまり、海良中学で一番強かったのが誰のことを指しているのかわかるだろうに・・・・



解らないんだろうなぁ。だって竜だもんね。



「いきなり、肘打ちとは酷くね?」



「気にしないの。そう言えば、ここのところ司たちとも遊んでないから、暗黒も残酷も出番がないね。体がなまるといけないし、フルコースで逝ってみる?」



「ちょっと待て、何かおかしくないか?行くってどこに行くのかわからんぞ?」



「大丈夫だよ。竜ならきっと、天国に行けるから。」



「いやいや、俺はまだこの世でやり残したことが多すぎる。美味しいごはんもまだまだ食べたいし、それに秋と結婚したいし・・・」





「・・・」



「秋ちゃん。竜くん。お母さんのことは心配しなくてもいいから、ブチューってやっちゃっていいわよ。」



「ちょま。そんなことしないもん。」



「流石に、それはちょっと俺も・・・」



「あらあら?将来を誓い合った仲じゃないの。お父さんには内緒にしておいてあげるわね。」



「はぅ・・・」



明らかにお母さんはからかいモードだ。ボクのことを秋ちゃんなんて呼んでいたのがいい証拠だ。竜も竜だよ。お母さんがいるの忘れてあんなこと言うなんてさ。でも、竜の中でボクとのことがすごく大切なことが分かって嬉しいかも。



「でも、竜くんも成長期の男の子よね。まず始めに食べ物のことが出るなんて、あれ?そう言えばお弁当って・・・」



「竜ぅ〜?あんたの頭の中にはご飯の心配しかないのかなぁ??」



「ちょま。そ、そんなことはないって、と、とりあえずその握りしめたこぶしをおろしてくれ、いえ、おろしてください。」



「じゃあ、絶対に浮気しないって誓う?ボク以外の老若男女問わずに心奪われないって誓って?」



「誓います。絶対に浮気しません。」



「うん。許してあげる。」



ボクはそう言って、掲げていたこぶしを下ろす。竜のことを信じていないわけではないが、北条さんは美人だし、やっぱり心配だった。でも、竜は約束を守ってくれるから、大丈夫だよね。



「勢いでいっちまったけど、大丈夫やって、俺が秋以外の女の子好きになるわけないやろ?」



ボン!!



「あらあら。本当に二人は仲がいいのね。そろそろ、学校に着くから、秋は荷物車の中に入れておいていいわよ。」



「う、うん。」



やばい、早く学校に着いてもらわないと、心臓がもたないかもしれない。北条さんに対して嫉妬していたから、竜に色々言っていたが、そのすべてをストレートに返されてボクの心臓は悲鳴を上げている。



「もう外もくらいから、後ろからライト照らしてついて行きましょうか?それとも、二人の邪魔をしたらいけないから、先に帰りましょうか?」



「自転車の速度に合わせていたら、事故すると危ないので、大丈夫です。俺が側にいて絶対に危険な目に合わせませんよ。」



「そう、竜くんがそう言ってくれるなら安心ね。昔から竜くんは秋のナイトだものね。」



「もう、お母さんもからかうのやめてよ。とにかく、二度も事故にあいたくないし、お母さんは先に帰っててよね。」



「はいはい。お邪魔虫は帰りますよ。」



そのあと、車は自転車置き場の側に着き、ボクと竜は明日から夏休みとはいえ、部活もあるので自転車を回収するのだった。



「秋のナイトか、俺って秋のこと守ってやれて無いやん。」



「ううん。そんなことないよ。肉体的には守ってもらう必要なんてないんだから良いんだけど、精神的には、すっごく守ってもらってるよ。もちろん心友みんなに言えることなんだけど、やっぱり竜が側にいてくれるのが一番うれしいよ。」



今日は事故もあったし、たくさん心配をかけて我がまましたい放題だったから、最後くらい素直な気持ちを伝えてあげた。



「秋・・・」



「竜・・・」



「キスしていい?」



ボクは小さく頷く。




竜が体を寄せ、大きな体で包み込むようにして、そして、ボクが目を閉じようとした時、気づいてしまった。



「お母さん?」



「へ?」



「そこで止めちゃダメじゃないの。」



「いや、なんでそこで止めもしないで、凝視しているのか、そっちの方が気になるんだけど。」



「カバンに着いていた反射材を持っていかなかったじゃない?夜道は危険だと思ってね。でも気にしないで、どうぞどうぞ続けて。」



「どうぞじゃない!!もう、自転車にだってたくさん反射材はついているんだから問題なかったのに。」



「確かにそうね。おほほほ、じゃあ、お邪魔虫はこれで・・・」



「待って、反射材はもらうよ。心配してくれたんでしょ?ありがと。」



夕方事故にあったボクのことを心配で迎えに来てくれたのは事実だし、反射材だって本当にボクのことを思って、態々車を止めて持ってきてくれたのだろう。受け取らないわけにはいかない。ただ、ちょっと間が悪かっただけだ。



「本当に気をつけて帰ってくるのよ。じゃあ、お家でね。」



「うん。」



お母さんが帰ったあと、とりあえず、ボクは自転車に向かって歩き出す。



「えっと、続きしても?」



「ダメ。お母さんが心配するから早く帰らないとね。」



「そんなぁ〜。」



なんてね。ちょっと意地悪しただけだよ。



「チュッ♪」



「ちょま。いきなり!!」



「本当に早く帰らないと心配するだろうから帰ろ。」



「お、おう。」



一瞬触れあうような、そんな短いキスだが、心配してくれたことへの謝罪と、一緒にいてくれることへの感謝をこめてキスをした。



そのあと、ボクらは二人並んで自転車に乗って家に帰った。もちろん、ボクの家の方が近いので、竜はボクの家まで送ってくれて、ボクを一人ぼっちにさせないでいてくれた。



「今日はありがと。また、明日終業式と夏休み部活でね。」



「おう。おやすみ。」



「おやすみ。」



竜が帰ると、ボクは玄関から家に入っていく。



「あ、お弁当洗ってくれたんだ。ありがとう。明日終業式だけど、午後から部活あるから、帰りは夕方になるね。」



「ええ、わかったわ。今日は遅くなっちゃったし、朝のお弁当はお母さんが作ってあげようか?」



「久しぶりにお母さんのお弁当を食べたいって気もするけど、やっぱり自分で作るよ。今日は迷惑をかけた人がたくさんいるから、その人たちにも何か作ってあげたいんだ。」



「もう、そんなに張り切っちゃって大丈夫なの?」



「うん。今日は美術部にお世話になって、マネージャーの仕事していないから、体力的には有り余ってるしね。」



「う〜ん。秋がそう言うならいいけど、武もそうだけど、あなたたちって、自分のことになると、配慮が足りないところがあるからお母さんは心配よ。」



「ごめんね。でも、ボクが自分のことを気にかけない分、お母さんや竜たちみたいな心友がボクのことを気にかけてくれてるから。大丈夫だよ。」



「秋には負けるわ。それじゃあ、お母さんは秋のことをきちんと見ないといけないわね。今日はもうご飯を食べて、お風呂に入ったら寝なさい。成績表はさっきお弁当を出した時に見たから、心配はないわ。というか、本当に手のかからない子なんだから、偶にはお母さんに甘えなさい。」



そう言って、お母さんは暖かいごはんを自分の分と一緒にボクの前に出してくれた。帰ってすぐにボクのために準備してくれたのだろう。夕食を作り終わるくらいに竜から連絡をしてもらったので、武兄ちゃんとお父さんは先に食べたみたいだ。



「いただきます。」



「いただきます。」



二人揃ってご飯を食べだす。作ってからだいぶ時間がたっているためか、味が染みすぎて濃い味付けになってしまっているが、それでも暖かいごはんがボクの心を癒してくれる。ボクはいま家に帰ってきたんだ。







翌朝



ボクは昨夜遅かったのにも関わらず早起きをした。実質睡眠時間は5時間ほどしかとれなかったが、それでも、昨日迷惑をかけた人にクッキーを焼いて行ってあげよう、といつもよりも早く起きたのだ。



朝食の準備とお弁当のおかずを作りながら、クッキーがオーブンの中で焼きあがるのを待つ。美術部の先輩や優花の分。バスケ部の人たち、あとは明実と和美にもプレゼントしよう。学校にお菓子を持って行くことになるけど、それくらい許してもらえるよね?



今日は夏休み前最後ということもあり、朝練はないので、みんなと同じ時間に登校するべく竜が迎えに来てくれた。



「おはよう。」



「おはよう。ん?秋からなんか甘い匂いがする。」



「あんたは犬か。これだよ。」



まず、竜にクッキーをプレゼント。竜はその場で袋を開けると、朝ご飯を食べてきたばかりのはずなのに、一つ口に入れる。



「うま!!昨日のお礼って感じで他の人にも配るん?」



「そそ、みんな喜んでくれるといいんだけど。」



「大丈夫やって、こんなにおいしいクッキーもらって喜んでくれへん人はおらんわな。」



いっつもこの笑顔に負けてる気がする。竜にそう言われたら、早起きした甲斐があったって気がするよ。竜の笑顔とストレートな誉め言葉で浮かれながら学校に向かう。




「ありがと、じゃあ学校に行こうか。」



学校に着くと、昨日メールで平気だったと伝えておいたにもかかわらず、明実・優花・和美に囲まれて質問攻めにあってしまった。クッキーを渡すと笑顔で受け取ってくれたが、竜と違いお昼に食べると言って優花以外はその場では食べなかった。



「うまぁぁい。ねね、今度はこのクッキーの作り方教えてよ。」



「いいよ。中学の時もそうやってクッキーの手作り教室ひらいたなぁ。美術部の人にも持って行くんだけど、今日って美術部の活動あるの?」



「ああ、今日はないわよ。だったら、うちが持って行こうか?先輩らの教室には何度も行ったことあるから、一緒に行く?」



「うん。やっぱり直接渡したいから。」



終業式のあと、通知表をもらったら優花と一緒に先輩たちの教室に向かうことになった。二年生の教室は階が違うので、あまり訪れることはないのだが、優花が一緒に行ってくれるならば心配はないだろう。



そのあと、事故のことはあらかた説明し終わったので、優花の話題へとなった。中間の成績をしっていた両親に期末の成績を見せたら、家族総出で祝いだしたとか。勉強嫌いの優花はもう卒業だね。



今まで赤点ギリギリアウトの優花が、平均点ギリギリとはいえ以前よりもかなりのレベルアップをした。周りから認められるとやる気も違ってくる。きっと夏休み中は勉強しないで良いとか思うので、そこだけボクが注意して見ていれば、優花はきっと成長できるよ。
















終業式は、特待生と一学期に賞などを獲得した人への授賞式が行われた。学年でトップ5になった、ボク・竜・北条さん・明実・森君が壇上に呼ばれる。入学の試験の時に既に学費が免除のボクと竜と北条さんには特別に毎月首席のボクは5万・他の二人には2万ずつ支給されるらしい。



ボクはこの首席のご褒美を盾ににして、みんなに水着をプレゼントした。勉強のご褒美は勉強でといった風にうまく言いくるめたつもりなのだが、元々資金に関して大量にあることを知っている子もいたので、すんなり受け取ってもらえた。



賞状の方は、学校を通して取ったのが英語の検定試験だけだったので、美術作品に対する物やスポーツでの賞は今回はない。いや、むしろ中学生の時が多すぎた。多すぎたために、吉川先生からクラスで渡される時に、全部まとめておめでとうといった雰囲気になってしまったのは懐かしい。



「あら?学年順位では負けましたが、認定試験などは私の方がたくさん賞を取っているようですわね。あなたはその一つだけかしら?」



「うん。今回はね。北条さんは秘書検なんて受けたんだ。すごいね。」



「淑女のたしなみでしてよ。おーほっほっほ。」



「あんなぁ、からかうんもそのくらいにしといたれって、こいつの場合、中学で全部うけちゃって受けられる検定がないだけやわ。秘書検だって自分3級やろ?凄いん分かるけど、こいつはもっと上やで?」



「な、じゃ、じゃあ。漢字は?私今回2級を合格しましてよ?」



「さっきこれ以上受けられないって言ったでしょ?」



そういって、ボクは人差し指を一本立てた。



「い、一級をもってるのね。う・・・」



北条さんは他にも一学期のうちに受けた検定をいくつか持っていたが、そのどれもがボクよりも低い級であることが理解できると、沈んでしまった。



「ま、まぁ。これ以上、上がないから、追い抜くことはできないけど、追いつくことならできるんじゃないかな?数学検定とか、結構簡単だったしすぐに北条さんならおいつけるよ。」



「まぁ、級や段だけならな。そのすべてを満点で合格しとる時点でおいついとるって言えるんか?」



「北条さんなら大丈夫だよ。がんばってね。」



北条さんは今さらながらボクの中学時代の異常さを理解したらしい。検定に関しては、部活引退後に何もやることがなくなった鈴と浩太の三人で端から順番に受けて行った結果だ。



浩太たちは中学卒業レベルを受けていったのだが、鈴の悪戯で漢字検定の一級を飛び級して受けたらうかったことから、それ以降は飛び級できるものは全部していったらこうなってしまった。



「ま、まだ私には勉強以外にも運動というジャンルが残されていますわ。わ、私こう見えても、護身術として、空手の段をもってましてよ。」



「へぇ。優花も持ってたし、みんな格闘技の段を持ってるんだね。海良では柔道の道場しかなかったし、ボク小学校までしかやってないから、段はもってないな。」



そういうと、北条さんは勝ち誇った笑みを浮かべる。



「その代り、日本で一番強い女の子やけどな。最強美少女ってこいつのことやからな。」



「わ、私としたことが忘れていましたわ。格闘技であなたよりも強い人間はいなかったのでしたね。」



「ちょま。空手とか型の稽古したことないから、リアルでそこは北条さんが勝ってると思うよ。格闘技って全体のくくりで見たら流石にねぇ。」



「ふん。そのようなところで勝っても嬉しくありませんわ。あなたが同じことをしてそれでも私の方が優れていると証明しなければ、本当の勝ちではありませんことよ。」



「はいはい。ホントプライド高いね。とりあえず、もう授賞終わったから席に帰らない?」



「ええ、夏休み明けを楽しみにしてらっしゃい。」



完全に敵意むき出しなのだが、今までのように一方的に嫌っているという雰囲気ではなくなった。こうして切磋琢磨して若者は成長していくんだな。うんうん。



「なにたそがれてるのよ。私たちも早く帰りましょ。」



明実にそう言われ、自分たちのクラスの場所に戻る。竜とはここで一旦お別れだ。ボクがいなくてもさみしがるんじゃないぞ。



って言っても、受賞の効率化を図るためにクラスの一番前に座るボクらは結構近くにいるんだけどね。教室と違って壁がないので本当にすぐ隣だ。



前の方には竜、明実、北条さんが中立?森君がおそらく悪い感情は持っていないといった様子であれば、問題ないはずである。実際終業式終了まで無事何事もなく終わった。















「いらっしゃい。」



「昨日はご心配をおかけしました。これはご迷惑をおかけしたお詫びです。みなさんで食べてください。」



事前に優花にメールをしてもらってあったので、教室に着くと花梨部長に迎え入れられた。



「花梨!!いつの間に秋ちゃんと仲良くなってやがったんだ。」



「昨日、美術部にお邪魔するって報告したじゃありませんか。まさかキャプテンから聞いてないんですか?」



「ああ、そういえば、秋ちゃんが来ないって言うから、帰っちゃったんだけど、あのあと学校で事故があったらしいぜ、知ってたか?」



「先輩、一つ目に、ボクは練習を真面目に頑張ってやるような人が好きです。二つ目にその事故にあったのボクです。」



「なにぃぃ!!花梨のせいで秋ちゃんに嫌われちゃったじゃないか。そのクッキーをよこせ!!」



そこで花梨部長の肘打ちが先輩に炸裂する。



「このあほのことは気にしなくていいぞ。それより本当になんともないのか?今日はマネージャーなんて力仕事のあるバスケ部なんかにいかないで、一緒に美術部で作品を書かないかい?」



体の心配をしてくれるのは嬉しいのだが、美術部に誘うあたり、したたかな花梨部長の言葉に苦笑いしながらやんわりと断る。



「車に接触したわけでもありませんし、お気づかいなく。それよりも、陽子先輩と静香先輩は?」



「ああ、ちょっと係の仕事で呼び出されてるだけだよ。優花ちゃんもそんなところに立っていないで教室の中に入ってきたらいいさ。」



「え、でも、ボクたち学年も違いますし。」



「ええって、河合部長はこのクラスのドンだから、部長がええっていったんだから大丈夫よ。じゃあ、お邪魔します。」



そういって、優花は中に入っていく。前にも何度か訪れた時も今日みたいにこうして教室の中まで入って行って、くつろいでいたらしい。



「お、お邪魔します。」



「ささ、どうぞどうぞ。秋ちゃんは俺の席使って良いよ。」



「椅子までとっては申し訳ありませんし、大丈夫です。」



「いや、立ってると、男子連中から質問攻めにあうと思うけどいいの?ファンクラブに入りたいって子は結構このクラスにもいるからね。」



「じゃ、じゃあ失礼します。」



おそらく、席に座ることで、花梨部長のテリトリーに入ったと認識され、周囲の男性から声をかけられることがなくなるのだろうと納得していると。



「ね、ね。君が一年生で有名な蟹津秋ちゃん?ぜひうちの茶道部に来ない?」



「ダメよ。秋ちゃんは運動神経抜群なんだから。テニス部に入りましょ。」



「ええ?男子バスケ部のマネージャーなんだから、女子バスケ部の助っ人をするって決まってるのよ。ね、秋ちゃん?」



花梨部長も女性に対しての障壁にはなってくれないらしい。二年生といえば、夏の大会後、部活を引っ張っていく一番部活に力をいれている時期であり、どのクラブからも勧誘を受けてしまった。



「本当に申し訳ないのですが、ボクはそんなにすごい人間ではありません。みなさんのご期待に添えなくてごめんなさい。」



「そうよ。蟹津さんは、もう既に、バスケ部のマネージャーになっているんだから、他の部活に入ったりはしないわ。ついでに、小学校の時の事故の影響で、お医者様から運動部への入部は許可が下りないから、私だって蟹津さんを独占したかったのに諦めたんだから。」



花梨部長は、ボクの話を聞いていたとはいえ、ここまで上手くみんなを納得させる理由を作るとは、確かにこれならば、ボクが運動部からの勧誘を断ることに違和感がない。



美術部も勧誘をあきらめたといったニュアンスで、美術部を避難所にしていることもバレにくく、美術部員の優花と仲が良い程度に周りから見えるだろう。



「本当にごめんなさい。実は小学校の時にバスに轢かれて、その時まで柔道をしていたのですが、それ以降は運動部などには所属していないんです。」



小学校の時に小さい子をかばってバスに轢かれた時の話をすると、涙を流しながら励ましてくださる人までおり、マネージャーがんばってねと応援されてしまった。そんなことをしていると、陽子先輩と静香先輩も帰ってきて、二人にもクッキーを渡す。



バスケ部の先輩も欲しそうにしていたのだが、部活の人用に別で焼いてきたことを伝えると、いそいそと部活に出る準備を始めた。



「じゃあ、ボクは準備がありますので、これで。また何かあったら連絡します。」



ボクは教室を後にした。二年生の先輩たちに、ボクの協力者が増えた気がする。








記念すべき50話なのですが、特別な話というよりも、区切りの話になりました。終業式の時に北条さんとの話はちょっとした裏設定を出す時に楽なので、出させていただきました。まぁ、AKI自体が検定試験とかどんなものがあってどこまでとることができるのか理解していないので、曖昧な表現でぼかしているのですが、それでも秋のすごさだけは理解していただけるかと思います。

臨死体験も増え、魂の融合が完成にちかづいてまいりました。そんな秋が今後どのような障害を乗り越えるのか、それを書いていこうと思います。

今回のテーマは〜秋のお礼〜です。秋から見た周囲への感謝を秋らしい描写で描いたつもりです。いかがだったでしょうか?事故後のほっと一息といった雰囲気を味わっていただけたら、成功だと思います。

それでは、ここまでAKIの作品にお付き合いくださって本当にありがとうございます。



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