チャプター48
直接対決!?
「ちょっと、優花そんなにひっつかないでよ。」
「だって、憧れの先生に会えただけじゃなくて、先生からサインも新作までもらえたのが嬉しいんだもん。」
「本人にそういうこと言わないでよね。」
そう言って、ボクが赤くなっていると、
ポロリン♪
「よ、陽子先輩?何をしてらっしゃるのでしょうか?」
「優花ちゃんが攻めもありですね。」
「「・・・・」」
「は、離れて歩きましょ。」
「そ、そうね。うちが悪かったわ。」
こうして、距離を取ったのはいいのだが、先ほどからボクの第六感が何かを訴えている。このメンバーに囲まれているため今は何も起こっていないが、自転車置き場に近付くにつれ、その予感は濃くなってくる。
「あ、あの。このあと自転車置き場では彼氏もいるので、できれば一人で帰りたいんですが、ダメでしょうか?」
「まぁ私たちは電車通学だから、そこの角まで一緒に行くわよ。それとも何?一緒にいたら困ることでもあるのかしら?」
「実は・・・」
上手く引き離してしまおうとしたが、河合先輩の目を見て隠しとおすことが不可能と感じたのできちんと説明をして距離をあけてもらうことにした。今回は優花には三人の先輩の側にいてもらう。それは、ボクの側にいると危険というよりも、先輩たちに何かがあった時に対処できるようにだ。
そして、先ほど河合先輩が言った、自転車置き場と駅への別れ道になっている角のところには、予想外の人がいた。
「遅かったわね。こんな屈辱を受けたのは初めてよ。」
「ほ、北条さん。どうしたのこんな時間まで?夏とはいえ、そろそろ冷え出すから帰った方がいいよ?」
「そんなことはどうでもいいわ。これを見なさい。」
「学年順位4位北条美香。今回ボクと一緒に勉強した明実が北条さんを抜いたから、4位になったんだね。次は頑張って明実を抜いてね。北条さんが望むなら今回明実たちに渡した問題集は無料で渡すよ?」
「ふざけないで!!」
プライドの高い北条さんが中間の時にボクと竜に負けたことを根に持っていることは気付いていた。そして期末こそはと一生懸命勉強したのに今度は明実にまで負けたことで心底腹が立ったのだろう。
「ふざけてるのは、北条さん。あなただよ。今回の敗因は、順位にこだわるばかりで先生が出した基本問題をおろそかにしてケアレスミスを連発したんでしょ?問題を見ても北条さんができないような問題はなかったから、ケアレスミス以外に考えられないんだけど、どう?」
「た、確かに今回はケアレスミスが多かったのは認めるわ。でも、川瀬さんの点数の伸びは異常よ。問題集以外にもなにかしたんじゃないの?」
「ボクは先生のところに行って先に問題を見せてもらうなんて悪いことはしてないよ。知らないと思ったら大間違いだぞ。ボクはそういう裏でコソコソとするのが嫌いなんだ。」
「な、そ・・・それは・・・」
「別に誰かに言いふらしたりはしないよ。ただ、次にこんなことしたらタダではおかないから覚悟しておいてね。あと、先生が教えた問題なんて、北条さんなら自力でできる問題だったんだから、卑怯な真似なんてしないでテストに望んだらもっといい点だったかもね。」
後ろに優花たちがいるのだが、北条さんの声は流石に聞こえてるかもしれないが、ボクの方は優花たちに聞き取れないように配慮しているので北条さんがやった不正については分からないだろう。
「あくまでも上から目線なのね。そういうところが気に入らないのよ。」
「そう?ボクは北条さんのことそこまで嫌いじゃないよ。今回不正をしたのは許せないけど、クラスでも中心になって色々な行事とか進めてくれてるし、頼りになる、なんて言うのかな?お姉ちゃんみたいな雰囲気じゃない?」
「へ?な、何言ってんのよ!!」
「ボクって、結構誤解されやすいから、変に嫌われちゃったみたいだね。できれば、みんなと仲良くしたいんだけどな。もちろん北条さんとも仲良くしたいんだよ。」
「あなた。自分が言ってることの意味を分かってるの?」
「特に難しい言葉を使ったわけでもないし、わかってるつもりだけど?」
「今さっき私はあなたに喧嘩を売ったのよ?なんで仲良くしたいとか言えるわけよ?」
「仲良くしたいから。あ、そろそろ優花たちに声が聞こえちゃうから、変なこと言わないでね。」
「え?一緒にいた人がいるの?」
その瞬間だった。おそらく、仲間がいることで自分の秘密がばれたと感じ、先ほど言いふらさないと言っておきながらといった感情が爆発したのか、ボクに対する憎悪が増したのだろう。
こちらから見えない角度から夕方でライトをつけていない車が学校に乗り込んできて、北条さんとボクの方へと突っ込んできた。
「危ない!!」
ボクは体が勝手に動いており、間一発と言ったところで北条さんを抱きかかえると、車を避けた。
キキ〜〜ィィ〜ドカン!!
ボクと北条さんを避けようとしたのか、ハンドル操作を誤った車は学校の門の側に突っ込む。
「優花、車に近付いちゃダメ!!ガソリンがもれてるから、爆発しちゃうよ!!」
事故にかけつけようとしていた優花に牽制の言葉をかけると、抱えていた北条さんを下ろし、車に駆け寄る。ドアの鍵もかかっておらず、急いであけはなつと、そこには血まみれの運転手が一人気絶していた。
「大丈夫ですか?」
一応声をかけるも、意識がないことを確認すると、運転手の命を救っただろうシートベルトを外すと、車から引きずり出し、先ほどからガソリンのにおいのする車から距離を取って地面に横たえる。
「優花。119に電話。ハンカチ持ってる人は貸して、血に触っちゃダメだよ。」
駆け寄ってきた先輩や優花に指示を出すと、応急処置をしていく。出血が激しいことからも心臓が動いていることがわかり、傷口の止血をしていると、意識も取り戻した。
「大丈夫ですか?」
「お、俺は人を轢いてしまったのか?」
「いえ、轢きかけたのはボクたちですよ。こうしてあなたの応急処置ができるくらい元気なので大丈夫です。それよりも意識をしっかり持ってください。もうすぐ救急車が来ますから。」
「そうか、じゃあ、俺は一人で事故してこんな状態なんだな。」
「そうですね。でも人を轢いていたよりはずっと良かったじゃないですか。もしボクが轢かれていたら今頃まだあの車の中ですよ。」
そう言って指を指した方向には先ほど乗っていた車があり、気が付くちょっと前にガソリンに火が引火して爆発を起こしており、大破した様子がうかがえる。
「あんな事故をしたのに、俺は生きてるし、誰も轢いていないなんて、奇跡みたいだな。」
「奇跡なんかじゃないわ。全部蟹津さんのおかげよ。」
「ほ、北条さん。」
「これで二度目ね。あなたに助けられるのは、これじゃああなたのことを恨んでいた私が馬鹿みたいじゃないの。それに、さっきの救出といい、応急処置といい。あなた何ものなの?」
「ちょっと待ってね。応急処置だけ全部終わってからきちんと話すことにするから、動かないでくださいね。シートベルトのおかげで命は助かりましたが、逆に背骨を痛めているみたいなので、首を固定します。」
自分も前にこうして竜に応急処置をしてもらったのかなとか考えながらだが、的確に応急処置を施していく。ボク自身が臨死体験をした時は不可能だが、こうして周囲の人が巻き込まれてしまうことも何度かあったのでその手際は悪くないはずだ。
首やハンドルに打ちつけた腕などを固定し終わると、救急車が到着し、ボクと北条さんも一応病院に行くことになった。
「悪いんだけど、竜に一緒に帰れないって言っといてくれる?ボクが事故で怪我したわけじゃないから安心してってそれも伝えてくれる?」
「どあほう!!何が安心してやねん。俺も一緒に行く。付き添いさせてください。昔からの幼馴染なので、家族との連絡もできるので絶対に一緒に行った方がいいと思います。連れて行ってください。」
あちゃ〜。応急処置とかに忙しくって事故に集まってきていた野次馬の中に竜がいることに気付かなかったよ。というか、竜の気配だけは時々気づけないんだよね。いつの間にかボクと同化してるっていうか、いるのが当たり前になっててさ。
救急隊の人も同意してくれて、ボクと竜と北条さんは運転手の人とは別で駆け付けた先生の車にのって病院に向かうことになった。優花たちが心配そうにしていたので、笑顔で手を振ってあげた。
「秋。左足見せてみろ。」
車の中に入ると、竜に言われた。
「ちょっとぶつけただけだよ。」
「きちんと一から十まで説明してくれ、心配なだけなんやから。」
そう言って、竜は鞄からコールドスプレーを取り出すと、ボクの左足に振りかける。
「冷たい。っていうか、見る前にやらないでよ。きちんと見せるからさ。」
そのあと、車の後部座席で北条さんと三人並んでいるにも関わらず竜の膝に足を上げ、コールドスプレーをかけられた。北条さんを抱えて跳んだ時に打って、その足で大人一人を車から引きずり出したことを伝えると、思いっきり叱られた。
「んな無茶なことすんな。足を怪我してるんやったら、優花ちゃんとかおったんやから手伝ってもらえば良かったやないか。」
「だって、ガソリンが漏れてたから、危ないと思って。」
「その危ないところに自分はなんのためらいもなく駆け寄ったんやろ?」
「う・・それはそうだけど・・・」
「今さら危険なことをするなって言えへんのやけど、お母さんと約束したんやないのか?自分の命を大切にするってさ。」
「違うもん。【どうしてもじゃない時を除いて絶対に自分の命も大事にする】そう約束したんだもん。」
「今回の場合はどうしてもってのには入らへんかったんか。まぁ、こうして無事やったからええけど、俺の寿命縮むかとおもったわ。」
「全然良くないわよ。あなた蟹津さんの彼氏なんでしょ?止めなさいよ。」
ボクと竜の会話にずっと耳を傾けていた北条さんがここにきて口を挟む。事故を目の当たりにしたにしては落ち着いていると思っていたが、やはり動揺しているようだ。
「彼氏やから、秋のこと良く知ってるから止めないんや。見とって分かったやろ?秋の場合脊髄反射的に自分を犠牲にして人を助けようとしてるんかと思うぐらいのお人よしやねんて。俺だって、こんなことがなければええと思うけど、既に七回も臨死体験するくらい不幸な人間やからな。」
「七回!!た、確かに高校に入ってから既に二回も大きな事故にあってるけど・・・」
「実際はもっと多いで?秋じゃなかったら死んでるような大きなものだけカウントしとるだけで、細かい事故とかはそんなん数え切れへんな。」
「あんまり不幸って強調しないでよ。ボクだって一生懸命努力してるんだから。」
「せやけど、その結果がこれやろ?この前の猪と一緒で原因はこの北条さんなんとちゃうの?」
「いや、確かに北条さんをかばって怪我したんだけど、ちゃんと仲直りしたから大丈夫だよ。」
「ああ、じゃあ、そっちの話もしてもええん?」
「う〜ん。それは後で三人になってからね。」
ボクと竜の会話に疑問符を浮かべながらも、先ほどと一緒できちんと話すことを後回しにされたことに多少不満のようだ。しかし、さっき二人で話していた時と違い、あからさまな嫌悪がなくなっており、どちらかというと自分だけ知らないことに拗ねているみたいな雰囲気がある。
「後できちんと説明するから、拗ね無いでね。」
「す、拗ねる!!そ、そんなわけないでしょ。私は、隠しごとされているのが嫌なだけよ。」
「おいおい、あんまりからかうなよ。車の中で不幸が起こるとは思わへんけどさ。」
「そうだね。とにかく、事情は複雑だから落ち着いたら話すから、もうしばらくまってね。」
プライドの高い北条さんをいじるのは面白いのだが、竜の言ったとおり、あまりあおり過ぎても危険なので、病院も近付いてきたし、このあたりでやめて大人しく座席に座っていることにする。
「ところで、いつまで彼氏の膝に足を乗せておくつもり?」
「あ・・・」
ボクは真赤になると、おずおずと足をおろしてスカートの裾を直す。その様子に今度は北条さんがニヤリとする番だった。
成績を返されたその日です。まだ夏休みには入っていません。
北条さんがなんだか可愛くみえてきました。AKIはツンデレキャラ好きかもしれませんね。いえ、好きなんでしょうね。男の子のツンツンしている可愛い子も欲しいなぁ。あ、そういえばあの子の裏設定そうだったなぁ。そろそろあの子の裏設定が分かるような話を書き出さないといけませんね。
今回のテーマ〜和解〜です。
北条美香という人物は悪役的立場で出してきたのですが、AKIにとって本格的な悪役の出番はもう少し後になりそうです。え?悪役いらない?話の山がなくなるので、流石に悪役は出します。その代りハッピーエンドが目標にあるので、きちんとそこら辺も構想はねってあります。
それでは、48話読んでいただきまして誠にありがとうございました。