表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再転の姫君  作者: 須磨彰
48/79

チャプター47

優花の変貌




期末テスト前に面倒なことが起こったとはいえ、優花にはテスト勉強に集中してもらったし、あとのメンバーは元々そこまで成績を気にする必要もなく、テスト週間に入った。



ボクの予想した問題が出たし、この問題ならすべて配った問題集に同じ方法で解けば出来る問題ばかりだから問題ないだろう。暗記問題についてはもちろん完璧に当てた。先生が授業中に二回も同じ単語を言ったりと、大事なところを把握できていたためだろう。



「今回のテストはかなり良いわよ。これなら、私たちクラスでもトップとっちゃうんじゃないかしら?」



和美がテスト終了と同時に話しかけてきて、そう言った。実際ボクも先ほど同じ様に思っていたのでうなづいておく。



「私も、信じられないくらいできたわ。いつも落としていた応用問題も、ひょっとしたらできたかもしれないわ。」



前の席から、明実もそう言っている。今日はテストなので出席順に座っているのだが、先生の配慮でボクの周りだけはこの二人がいて、端に座らせてもらっている。二人とも普段から成績や授業態度が良いため、ボクの答案を写すなんてことはしないだろうと言うのもあった。



そして、成績不振のため席が離されてしまっていた優花が歩いてくる。



「やばい。うち天才になったかもしれん。答えが分からなかった問題が数個しかなかった。」



「そりゃ、秋の問題集やったんだもの当然じゃないの。むしろ、時間がなかったり、ケアレスミスといった問題がなければ満点とれる問題集だったわね。」



「そこまで言われると恥ずかしいからやめてよ。でも、優花もできたみたいだね。問題用紙は手元にあるんだから、どこが分からなかったか言ってくれたら教えられるよ。」



今回テストがみんな良かったみたいだが、実はテスト後というのは大事である。一回受けて終わりとしてしまうと、実力テストなどの時に忘れてしまっており、テストを受けた意味が半減してしまうので、こうして自分にどこができてどこができなかったのかを確認する作業はとっても大切なのだ。



優花も、普段なら空白だらけなので終わったそばからゴミ箱に捨てていたらしいのだが、今回は取っておくように言ったとこもあり、自己採点に参加できた。



「なるほどね。じゃあ、ケアミスとかがなければ、平均以上ありそうね。この前の中間が平均60点くらいだったから、大丈夫だと思うわ。」



「ケアミスなんてこのうちがするわけないじゃない。ってのは嘘で、今回はかなりできたもんだから、普段なら書き終わったあと寝てるんだけど、見直ししてたのよ。たぶん問題ないと思うわ。」



優花のテストに対する態度が良い方向に大きく変わってくれたことが嬉しい。実際の話は数学などは時間ぎりぎりになったので見直しする時間がなかったらしいが、全体をとおして今までなおざりだったテストに対して、テスト前、テスト中そしてテスト後でさえも楽しんで挑んでいるようだ。



「優花が一番勉強の極意を会得したかもしれないね。すっごくテストが楽しそうだよ。」



「まさか勉強嫌いの優花がこんなに楽しそうにテストについて話をするとわね。中学からこうだったら、この高校だって余裕で入れたんじゃないの?」



「いや、うちもびっくりだよ。実際今回は何でか知らんけど、途中であきらめたりしなかったんだよね。これも、ツンのおかげかな?」



「ちょっと、その略し方はやめてよ。」



「いいじゃないの。”あんた”って呼ばないってことはそれだけクーちゃんに心を開いてる証拠なのよ。あだ名とはいえ、固有名詞を避ける優花が名前で呼ぶってことはそれだけの価値があるのよ。」



「そうなんだ。でも、やっぱりツンは困るなぁ。」



「大丈夫よ。きっとツンなんて秋のことを呼ぶのはこの一週間くらいのものよ。」



和美の言っているのは、大木鈴のことだろう。テストが帰ってきて成績を配布されたら優花にはボクが大木鈴であることを伝えるため、大木鈴に関するあだ名が付くと言っているのだろうが、それはそれで何となくやな予感がする。



「ん?どういうこと?」



「良いのよ。優花ちゃんも時が来れば自然にわかることだから。」



和美はそう言ってこの場はおさまり、そして夏休み前の一週間で成績などが返ってきて、正体を伝えるとそれが真実となった。



「え?マジで?」



「うん。今まで隠してきてごめんね。」



今は美術室だ。今日もバスケ部の部活があるのだが、部長に諸々の事情を伝え美術部の方に顔を出したいというと、絶対にバスケ部のマネージャーを辞めないという条件のもと、美術部に顔を出すことを許可してもらえた。



「優花にも伝えたことだし、蟹津さん?いえ、大木鈴って偽名を使ってもいいわ。本腰を入れて美術部に入らない?」



「バスケ部の方からも、絶対にマネージャーを辞めないという条件のもと今日はこちらに顔をだしているので、申し訳ないのですが、兼部という形は変えられません。」



「もったいないわ。ねぇねぇ。絶対に美術部に入った方がいいよ。花梨が直接勧誘するなんて滅多にないことなのよ。陽子も入って欲しいよね?」



静香先輩もボクを熱烈に勧誘してくれ、静香先輩の言葉に陽子先輩も首を縦に振る。優花も元々一緒に美術部にと言ってくれていたので、これで部員全員から勧誘を受けたことになる。



「優花とは心友ですから、何度も訪れると思いますよ。それに、以前もお願いしたようにここを避難所にさせていただきたいので、その時もただ避難するだけじゃなくって、作品を作ったりもできると思います。」



「それは勿論歓迎するんだが、週に数回とかでも良いから、もっと本腰をいれて美術部に来てほしいっていう話なんだよ。」



そのあと、河合部長からの熱烈歓迎をバスケ部のマネージャーを盾にしてどうにか断っていると、放心状態からやっとのことで解放した優花が後ろから抱きついてきた。



「ちょま。優花どうしたの?」



「今までのご無礼をどうか水に流して、美術部に入ってくれませんか?ツンいや、ツン先生のお力が必要なのです。」



「ちょま。まず、無礼とか何にもしてないじゃん。それと、その先生っていうの辞めて。」



ある程度覚悟していたが、優花がこれほどまでに大木鈴に傾倒していたとは、美術好きの優花らしいとは言えるのだが、これはいきすぎだ。



「そんなことはありません。入学以来色々な生意気なことを言ってしまったこともそうだし、先生と知っていれば、あのようなこと絶対にしなかったのに。本当に申し訳ありませんでした。」



そう言って、優花は抱きついていた腕を離すと地面に頭がつかんばかりに下げ謝ってきた。土下座なんてされても困るボクはただ動揺するばかりだった。



「やめてよ。あれはもう喧嘩して済んだことでしょ?お願いだから頭をあげて。」



ボクは優花の側に膝をつくと、優花の肩を抱いて頭を上げさせる。



「優花が心友になってくれて、本当にうれしいんだよ。そんな態度を取って自分から壁をつくらないで欲しい。美術部に入らないのは、バスケ部のマネージャーをすることを昔から竜と約束していたからだから、優花の責任じゃないよ。」



「でも、うち本当にツン先生の作品が好きで、ファンだった。だから、一緒に美術部で活動できたらって夢に見てきたの。」



心友の言葉が効いたのか、敬語はなくなったが、それでも先生という呼称はやめず、しかもうっすら涙まで流しだしてしまった。ボクは優花の頬に伝うそれを指で拭うと、ゆっくりと落ち着かせるような声で語りだす。



「ボクはね。優花のお願いを聞いてあげることはできないんだ。美術部に所属しているって周囲に知れたら、絶対に美術部のみんなに迷惑がかかるでしょ?



それでも、優花に大木鈴の事実を伝え、美術部の人たちにボクの正体を明かしたのは、優花のことが大好きだからだよ。ボクにとってここは絶対な憩いの場になると思うんだ。



だから、美術部員じゃないからって悲しまないで、教室で一緒に勉強することもできるし、今回みたいに、バスケ部の許可を得て遊びに来ることだってできるんだからさ。」



ここまで、言い聞かせて、優花の頭を撫でてあげる。普段はボクよりも少し身長の高い優花だが、地面に座り込んでいる優花と膝を立てているボクとでは少しボクの方が高い位置にあった。



「まるで、別れを惜しむ女性となだめる男性みたいだな。このまま二人とも動かないでくれるか?絵に残したい。」



「河合部長。やめてくださいよ。ただでさえボクには男性だったころの記憶が残ってるんですから、困ります。」



「禁断の愛・・・・」



その一言に全員がガバっと振り向く。そこには既にキャンパスに筆を走らせている陽子先輩がいた。ボクが美術室に訪れたのは二度目だが、ここまではっきりとした声を聞いたのは初めてかもしれない。



「陽子・・・こういうの好きなの?」



かろうじてといった雰囲気だが、静香先輩がそう言うと、注目されたことと、自分の趣味をばらしてしまった羞恥からか、キャンパスで顔を隠した陽子先輩は、筆は動かしたまま答えた。



「描いたり読んだりするだけなら好き。秋ちゃん。この前来た子ともう一度来てほしい。モデルになって欲しいの。」



小さい声だったが、意味は理解できた。この前来た中で、陽子先輩の需要をかなえると言ったら和美しかいない。というか、初見で見抜いているところを見ると、観察眼はものすごいのだろう。この人は美術で成功するかもしれない。



「ボク個人にというのならお受けします。しかし、本人に確認してみないと分からないので、もう一人の方は何とも言えません。」



「え??ちょっとまって、この前来たって、明実と和美ちゃんだよね?どういうこと?」



「明実って女の子女の子してるからかな?陽子先輩もあんまりそんなことは言わないでください。本人はすごく気にしているかもしれないんですから。」



「そう。ごめんなさい。でも、モデルについてはお願いしてみて、恥ずかしいというなら誰もいないところで個人的に描くことにするから。」



あれだけ話さなかった陽子先輩だったが、この話になると、小さい声ながらもきちんと話て来れる。それだけ好きなのかもしれないが、和美がこのことを知ったら怒るかな?ボクは和美に絶対に内緒にするって約束してるのに。



河合先輩の方を見ると、フムフムと納得したように頷いており、この人も侮れないから、和美のことがばれたかもしれない。どうせバレてしまうなら口止めをした方が安全なので、和美と相談して、来ることになるだろう。



「と、とにかく。ボクやその周りについてはしばらく内緒にしておいてください。事情は以前話したようにかなり深刻なものなので、絶対に夏休み中もバスケ部の活動で暇ができたら、遊びに来るのでそれで許してください。」



「まぁ、事情があるんだから仕方がないな。それはいいとして、いつまで陽子のためにモデルをやってるつもりだ?」



河合部長のその言葉で、優花を慰めた状態で止まっていたことに気づくと、ボクと優花は真赤になりながら立ち上がった。



「大丈夫、眼に焼き付けたし、もうほとんど描きあがってる。」



「やめてください。その作品は発表しないでくださいね。」



そのあと、陽子先輩の描いた絵を見たり、この前の時間じゃ話切れなかったボクの記憶についてや体質についての話をした。



途中陽子先輩が竜との男の子同士の絵も描きたかったなどと言ったためもう一度全員で唖然としてしまったが、概ねの内容は伝えることができ、そして最後に。



「そんなに大木鈴って人物に憧れをもっていただいていたのは意外だったので、ちょっと渡すのは恥ずかしいのですが、よかったらもらっていただけませんか?」



そう言ってボクが出したのはミサンガだった。この先輩たち三人ならば大丈夫と考えて今日は持ってきていたのだ。そしてミサンガを渡したあと、優花に。



「こっちはボクの新作だよ。お揃いのものを明実と和美の分も作ったから、一緒に海にでも行こうね。」



そう言って、水着を渡した。テストまで何かとあったため、昨日出来上がったばかりなので、どんな感じなのか分からないが、つけてほしいと渡した。



「これ本当に手作りなの?すっごい嬉しいよ。先生の作品を身に着けられるし、作品自体もすっごくおしゃれだし。」



喜んでもらえたようだ。美術室での目的も一応終わったし、そろそろバスケ部の方も終わって竜から連絡が来るので今日は帰ることにした。



美術部の人たちも夏休み前ということもあり、これ以上残っていく人たちもおらず、一緒に自転車置き場まで向かうことになった。



今回多少短くなってしまいました。というのも、次回の話と一つだったのですが、あまりにも内容が変化していることから、ふたつにわけた方が良いのではないかと思いました。

今回テーマ〜秋の信者を増やす〜です。優花と秋の仲はもう最高潮といった状態、中学の時の友人、特に竜と司にはさすがに及ばないものの、高校に入って一番の心友となってくれることが確定しました。

次回:なんとあの人と対決します。え?なんであそこで避けちゃうんだ?



えっと、バトル物っぽく次回予告したかったのですが、残念ながらなっていませんね。次回もバトルではありませんが、ついに直接対決をします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ