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再転の姫君  作者: 須磨彰
36/79

チャプター35

真実の愛





庭に出たボクと麻美は、しばらくのんびりと夜空を眺めていた。

街灯が多少あるとはいえ、田舎の海良町はネオンの光などにさえぎられることもなく、きれいな星空を見ることができた。



その時、車庫の隅で変な物音が聞こえた。



ガチャガチャ



「そこにいるのは誰?」


先ほどの武兄ちゃんの怪談を思い出して、ボクは麻美にしがみつくと、暗がりの方へと視線を送る。幸い生きた生物のようだ。


「武兄ちゃん?そんなところで脅かそうとしても無駄だよ?」


しかし、暗くて良く見えないが、武兄ちゃんにしてはあまりにも小さく、気配が薄い。やっぱり本当に幽霊がでたのかとおもって逃げ出そうとすると。


「ミャ〜オ。」


猫?確かにうちの周りにも野良猫くらいはいるが、こんなに弱々しい鳴き方をする猫はいなかったはずだ。

ボクは動物好きということもあり、少し顔を見たくなって車庫の明かりをつけてそちらに近寄っていった。



そこには、一匹の猫がヨチヨチ歩きでこちらに歩いてきており、今にも倒れてしまいそうになっていた。ボクは子猫に近付く前に、本来いるであろう、親猫を探した。

もし親猫がいるのに子猫に触れてしまうと、親猫が今後子猫に近寄らないようになり、そちらの方が子猫にとっては残酷なことになるからだ。


「麻美、子猫にさわっちゃだめだよ。とにかく親猫を探そう。足も強くないみたいだからきっと側にいるはずだよ。」


しばらく二人で探していると、車庫の隅に置いてあった段ボールの中でそれは発見された。カラスか何か鳥にやられたのだろう。

段ボールの中にはさっきの子の兄弟と思われる死体だけがあり、親猫の姿はすでになかった。

段ボールの裏に小さな穴があり、ここから入り込んで子育てをしていたのだろう。


「どうするの?この子の親はもういないみたいだし、放っておいたら死んでしまうわ。」


「ボクが育てるよ。ちょうど学園祭も終わって余裕はあるから、ボクがこの子の母親になる。」



ボクはそう麻美に告げると、今度は迷いなく子猫を抱きあげ、家の中に入って行った。





「秋どうしたの?お風呂にはいったとはいえ外なんかに長いこといたら湯ざめしちゃうわよ?」


「うん。少し風にあたるだけのつもりだったんだけど、この子がいたから。」


そう言って、ボクはお母さんに腕の中に抱いた子猫を見せる。


「まぁ、この子どうしたのよ?まさか母猫からさらってきたんじゃないわよね?」



ボクと麻美は先ほどみたことをお母さんと二階から降りてきたお父さんに説明をした。

最初は驚いていた二人だが、事情を聴くと納得し、真剣にどうするのか話し合うことになった。



「今さら車庫に戻してこいなんて言えないわね。でも、うちにはペコちゃんがいるから猫は無理よ。」


「じゃあ、みんなに引き取ってもらえるか聞いてみるよ。もし引き取ってくれる子がいたらそれでもボクはいいと思うし。」


ボクはこの子を育ててあげたいと思ったが、ペコのこともあるので、とりあえず今日来ているメンバーの中に子猫を飼える人がいないか尋くことにした。

同時に、ずいぶん弱っている様子なのでお父さんにコンビニまでミルクを買ってきてもらうようにお願いした。


「猫用のものがあったらそれが一番いいから。無かったらとにかく牛乳でも一番濃いのにして子犬用とかでも牛乳よりは良いはずよ。

分からなかったら電話してちょうだい。部屋に確かペコのと一緒に子猫の本もあったはずだからそれを見て指示を出すから。」



ボクは子猫を冷やさないようにタオルで包むと、麻美を連れて部屋へと戻った。



「メグどうしたの?私たちより先にでたはずだったのに。」


そこには、お風呂を出たばかりの和美と鈴もおり、武兄ちゃんも真美子さんを送って帰ってきたらしくみんなが輪になってUNOをしていた。


「実はね。この子がうちの車庫にいて。」


そう言ってボクは子猫を見せると、みんなに事情を説明した。


「協力したいのはやまやまなんだけど、僕の家はちょっと・・・」


浩太はそういうと、和美と鈴の方にも目を向けた。二人も首を横に振っている。司や竜や麻美の家では飼うことは不可能なのは分かっていたので頼みの綱は三人だったのだが、どうやら事情がありどこも駄目のようだ。


「ペコに見せて大丈夫そうならええんとちゃう?武ちゃんもそれならええと思うやろ?」


竜の言葉を聞いて、武兄ちゃんもしぶしぶといった様子で頷く。

お父さんやお母さんもペコのことを一番に心配していたので、とにかくペコがなんとかなればあとはどうにか説得できるだろう。


「じゃあ、ペコのところに行ってお姉ちゃんになってくれるように頼んでみるね。」



ボクは最近やっと甘えん坊からだいぶ卒業の兆しが出てきたペコのところに子猫を連れて向かった。

これでペコが鳴いたり、かみついたりしたら絶対にこの子を助けることができないので緊張する。



「ペコ。お願いがあるの。ペコにお姉ちゃんになってほしいの。」



「くんく〜ん」


『なに言ってるのよ。昔っから私の方がお姉ちゃんに決まってるでしょ。

今更お姉ちゃんだなんて呼ばなくてもいいわよ。』


「ペコ鳴かないんだね。良かった。ペコが許してくれるなら、きっとこの子もボクたちの家族になれるよ。」


『え?この子って?』


ボクはペコの前に子猫を差し出すと、ペコはクンクンと子猫をかぐと、子猫の頭をペロペロなめだした。


「ペコも気にいってくれたんだね。今日から君も蟹津家の家族だよ。」


『べ、別にその子がかわいかったんじゃないわよ。秋ちゃんが心配そうな顔するから。こ、これはサービスなんだから。』


ボクはペコにお礼を言うと、リビングに戻り、お母さんの説得に取り掛かった。

お母さんを味方につけたころ、お父さんはミルクを買って戻って来たので、お父さんも説得にかかる。

ちょうど子猫用のミルクがあったようで、それを子猫に飲ませながら話していると、最初は渋っていたお父さんも、ミルクを飲む姿に頬を緩ませ許可してくれた。







「みんな、この子飼ってもいいって。」



「メグ、よかったわね。おじさんたちオッケーくれたんだ。」


「お父さんは少し渋ってたけどね。これでこの子も家族の一員だよ。」


ミルクを飲んだばかりで、うつらうつらしている子猫を抱きながらボクはみんなに紹介をした。

そうすると、みんなでこの子の名前を決めることになり、それぞれ意見を出し合った。


「黒ネコなんだから黒。これで決定やん。」


「そんな安直な名前ダメだよ。それに、この子の毛は真っ黒じゃないもん。」


「じゃあさぁ。猫でいいんじゃないぃ?」


「司、あんた考える気無いでしょ?私はミーちゃんとかがいいわ。これもそのままかもしれないけど、可愛いじゃない。」


「秋がお母さんになるんだから、秋ジュニアにしましょうよ。私たちの初めての子どもよ。」


「はいはい、和美は少しお口をチャックしてようか。でも、実際メグがお母さんなんだから、メグが決めた方がいいんじゃないかしら?」


「確かにそうだね。お父さんかお母さんから名前をもらった方がその子にとってもいいとおもうよ。」


「お父さんってことは俺か?」


「なんで武兄ちゃんがお父さんになるのよ。じゃあ片親なんだし、ボクが決めるのが一番だね。」


武兄ちゃんのボケをさらりとスルーして結局ボクが名前を決めることになりそうだ。


「なぁ、黒が嫌なら黒ネコで思いつくジジでええんとちゃう?」


「あ、それいいかも、ジジか、魔女の宅急便だよね?ジジちゃん可愛いしそれにしようか。」


つい、竜がつぶやいた言葉に反応してボクは名前をジジに決めてしまった。ジジと呼ぶと子猫はニャーと反応をし、まるで自分に名前がついたことを理解しているようだ。


「そろそろもう一回ミルクあげてくるね。子猫の時は結構頻繁にミルクあげなくちゃいけないんだ。」


「ねぇ。私たちも一緒にいてもいい?」


「いいよ。みんなで一度リビングに行こうか。ミルクを温めないといけないからここではあげれないんだよ。」


そう言ってボクは立ち上がると、ジジを抱いて部屋をでた。みんなボクの後ろにぞろぞろと続いてリビングに向かう。後ろの麻美がボクに耳打ちしてきた。


「良かったわね。お父さんが名前をつけてくれて。」


「ちょ・・・」


ボクは真赤になりながらも、ジジが驚くといけないのでゆっくりとリビングに足を運ぶのだった。

たしかに竜が名づけ親みたいになったけど、お父さんとはまた違うんだから。





ジジはペコの時に買ったけどあまり使わなかった子犬用の哺乳瓶でミルクを与えると、元気よく飲みだした。

これだけ元気があれば心配ないだろう。明日は獣医さんのところに行って、きちんと手続きをしなくてはいけないな。


「可愛い。ゴクゴク飲んでるわよ。うちは家族みんな犬派だったんだけど、子猫も可愛いわね。」


「そうね。癒されるわ。」


「今回のミルクはあげおわったけど、今夜は特に弱ってるからつきっきりで見てあげないといけないんだよ。だから、ボクはリビングで寝るよ。麻美たちはボクの部屋で寝てくれる?」


ボクは子猫の排泄の手伝いを水にぬらしたティッシュを使ってしてあげながらみんなに今後のことを伝える。



「秋の部屋で寝るの?ベッドも使ってもいい?」



和美が不穏なことを言い出したので、麻美と鈴に監視しておくように頼み、男子もそれぞれ自分たちが寝る用に布団が用意された部屋へと向かって行った。

お母さんたちは、ペコの時にもなれているし、明日が日曜日なので心配もせずに自分たちの寝室へと行って寝てしまったようだ。


「みゃ〜。」


「ジジは気楽だね。もう少し発見するのが遅かったら本当に危なかったんだぞ?」


ジジは状況を理解しているのか分からないが、用意してあげた段ボールから抜け出してボクの手にじゃれついてきた。みんながいなくなってニ時間ほどたち、そろそろもう一度ミルクをあげるために電子レンジで温めていると、竜が起きだしてきた。


「どうしたの?寝れないの?」


「ああ、ちょっと喉が渇いてたんて。」


「冷蔵庫の中に牛乳があるから飲んでいいよ。ジジと一緒にミルクの時間ね。」


「それって微妙やな。まぁええわ。もらうで?」


「どうぞ。さぁ、本当にジジもミルクのもうねぇ。」


ボクが哺乳瓶でジジの口元にミルクを持っていくとジジはさっきと同じようにゴクゴク飲みだした。


「その子大丈夫なんか?結構よわってたんやろ?」


「ちゃんとジジって呼んでよね。竜がつけたんでしょ。」


「わりい。ジジは元気になるんか?」


「そうね。対処も早かったし問題ないと思うわ。一応明日病院にも連れて行くけど、これだけ元気にミルクを飲むならそこまで心配ないはずよ。」


ミルクを飲み終わったジジは、ボクの手でまたじゃれつきだした。


「ほんま、のんきなやっちゃな。秋のこと本当のお母さんやと思っとるんとちゃうか?」


「どうだろうね。赤ちゃんには、この可愛さだけが武器だから、自分の武器を目一杯使って生きようとしてるのかもよ。」


「赤ちゃんの武器は可愛さか。確かに可愛いっていうのは武器になるわな。」


「そうだよ。狼だって人間の赤ちゃんを育てた例があるくらいなんだから。ボクも将来赤ちゃんが生まれたらジジにしたように思いっきり可愛がってあげるんだ。」


「なるほどな。本物の猫かわいがりってやつやん。」


竜のつまらない冗談に笑うと、そのあとしばらくボクと竜はリビングでジジと一緒に話した。ジジは満腹になったので眠ってしまったので小声ではあるが、ちょっと幸せな時を過ごすことができた。






「そういえばさ。竜に聞きたいことがあったんだ。」


「ん?なんや?」


「竜ってモテるのになんで今まで彼女とか作らなかったの?」


これは、今日の罰ゲーム用に鈴たちと考えていた質問の一つだ。罰ゲームではないが、竜なら答えてくれるような気がした。


「う〜ん。そやな。昔っから好きな奴がおんねん。そいつ以外と付き合う気がせえへんから。これじゃあかんか?」


「ううん。十分だよ。その人と両想いになれるといいね。竜はカッコ良いからきっと相手も竜のこと好きになってくれるよ。」


笑顔でボクは竜に伝えると、竜は赤くなって答えてくれた。


「ありがと。そいうと付き合うことになったら一番に秋に教えたるわな。」


「分かったよ。約束ね。」


ボクと竜は照れながらも昔のように指きりをしておやすみをした。竜が部屋に戻っていくと、ジジが何事かと起きだしたので、ボクはみんなを起こさないように静かにジジの相手をしてあげた。



竜のことは大好きだけど、竜がそこまで相手のことを思っているんだったら、ボクは応援しよ。だって、竜は本当に素敵な心友なんだもん。


「良かったわね。メグ。」


「え?鈴?それに、麻美に和美?」


竜が先ほどリビングから出てきた扉から、麻美たちが現れた。


「大丈夫。竜くんにはばれないように隠れてたから平気よ。」


いやいや、ばれないように盗み聞きしていたってことね。ボクも竜が側にいたから周りに気を張っておらず、自宅内では危険も少なかったため、気配をさぐるのを怠っていた。


「麻美には負けるわ。ひょっとして司とかも知ってるの?」


「司は、竜くんが起きだしたことだけ私たちに告げて寝ちゃったわ。明日にでも説明を求められるだろうけどね。」


「なるほどね。竜の動きを間接的にみんなが監視していたってわけだ。全くボクと竜のプライバシーはみんなの前ではないのと変わらないね。」


「そんなことないわよ。秋たちがどんな状況になっても邪魔する気はなかったんだもの。」


「和美、本当にボクが服を脱ぎだしても目を閉じてまわれ右して部屋に戻れた?」


「ばっちり視界に収めて秋の姿を脳内にたたき込んでおいたわ。」


「流石に扉が開いたらボクだって気づくから。竜もボクと一緒にいろんな危険なことにあってたんだから、同じ部屋の中に不穏な気配があったら気付くとおもうぞ?」


「竜くんはどうかしらね。秋ちゃんしか見えてなかったみたいだったから気付かなかったかもしれないわよ。」


「なによそれ、それよりもさっきの会話聞いてたならもうわかったでしょ?竜は好きな人がいるの。ボクは竜をあきらめることにするよ。」


「「「え?」」」


なんで三人はそこで驚くの?さっきの会話は、どう考えても竜がボクに自分が好きな子がいるという相談している場面だったじゃん。ちょっと辛いけど、心友としては応援してあげないと。


「質問した内容が周りくどすぎたのよ。なんで私達が考えたみたいに、【ボクのことを一生愛してくれますか?】って質問しなかったのよ。そしたらめでたく結ばれてたのに。」


「そ、そんな恥ずかしいこと言えるわけないじゃないか。それに結果的に竜に別の好きな子がいることが分かったんだからいいじゃないか。」


麻美たちは、もう一度あきれたような顔をして代表で麻美がボクに竜の言葉の意味を説明してくれた。


「あのね。竜くんが昔から好きだったって言ったってことは、竜くんとずっと昔から一緒に過ごしていた子が好きだって意味でしょ?」


「うん。ってことは、小学校から一緒の子だね。ボクたちの小学校はあんまり女の子いなかったし、結構しぼれるね。」


「しぼれるどころじゃないわよ。小学校から一緒の子で竜くんに告白して断られていない子なんて二人しかいないんだから。そのうちの一人は司の彼女である私なのよ。」


「え?みんな竜に告白してたんだ。じゃあ残りの一人って誰?」


麻美はため息を吐くと、ゆっくりとボクを指さした。


「え?」


流石にボクもその事実に気付かされた。そう言えば、ボクって竜に告白していない人物じゃん。というか、昔から司を好きだった麻美以外の女の子はボクらの学年ではほとんどが竜ラブだったことを忘れていた。あんまりにも竜が告白などを断るから中学に入ってしばらくするとみんな別の男の子に興味を抱きだした。


「ということは?小学校から一緒で、竜に告白していないのってボクだけ?」


麻美は頷いた。ど、どうしよう。ということは、直接ではないとはいえ、ボクって告白されたってことでは?


「でも、同い年の子とは言っていないし、道場の子って可能性も。」


道場の子なら鈴も知っているだろうと鈴の方を見るも、首を横に振っている。


「メグ、恥ずかしさで混乱しているのは分かるけど、道場の子も全敗してるわ。というか、竜くんとメグの様子を見て諦めた子がほとんどよ。」


「同い年以外っていうのもないわよ。竜くんはバスケ部とかでも先輩後輩あわせて可愛いといわれている子たちの大半からの告白を断っているんだから。竜くんに告白していない子も大勢いるのは事実だけど、それでも、竜くんの様子を見ていたら、秋ちゃん以外にありえないんだから。」



どうしよう。ボクってそんなに鈍感だったのか。竜はずっと昔からボクのこと好きでいてくれたのに、全然気付かなかった。いや、気づいていたのかもしれないけど、気づこうとしていなかった。


「ボクどうしたらいいかな?」


「それは、明日の朝起きた時にでも返事を返してあげるのが一番なんじゃないかしら?」


「秋が今すぐ竜くんの寝ているところに行って、目覚めのキスで返事ってのもいいと思うわよ。」


「和美の案はちょっと、ボクにはできそうもないから、遠慮しておくよ。明日の朝一番か・・・」


話をしている間にジジがミルクをねだったので、とりあえず、レンジで温める。

ジジにミルクをあげながらも麻美たちと今後ボクがどうしたらいいのか話し合った。ジジがミルクを飲み終わり、眠りだしたのを確認してボクたちは大きな声で起こさないように少し離れた場所に移動して決意を述べた。


「決めたよ。ボク勇気を出すことにした。」


「あのね。それって勇気とかじゃないんじゃないの?それに、竜くんは精一杯がんばって秋ちゃんに気持を伝えたんだから、それはちょっとかわいそうよ。」


「ううん。やっぱり、ジジのこともあるし、きちんとけじめを付けた方がいいと思うんだ。」


「けじめって、それにそんなこと言ったら、司くんがなんて言うか分からないわよ?」


「大丈夫だよ。司にはきちんとわかってもらうし、気持ちが分かったんだからあとはボクの勇気さえあれば進展するとおもうもん。」


「確かに前進はしてるかもしれないけど、その結果がこれじゃあ・・・」


三人とも、ボクの結論には反対のようだ。でも、ボクの決意は揺るがない。


「メグ、本当にそれでいいの?クリスマスまでに間に合わなかったら本当に司くん怒るかもしれないわよ?」


ぐ・・・きっと大丈夫だもん。


「大丈夫よ。それに、劇の主人公を演じたとはいえ、元は顔に出やすい性格してるんだから、きっと問題ないよ。」


「それでも、気づかなかったことにするなんて、ちょっと酷過ぎないかしら?秋の鈍感さなら確かに気付かないって考えも分かるけど、現にこうして私達が教えちゃってるわけだし・・」


そう、ボクは、麻美たちに教えられないで、気づかなかったことにすると決めた。だって、竜がきちんとボクのことを名指しで言わなかったのが悪い。きちんと周りくどい言い方をしないで告白してくれたら問題なかったんだ。


「なんかさ。私、秋がもし今日竜くんに告白されてても、上手くいい訳を作って無かったことにしてたかもって思えてきたわ。」


「それは、前にやってるらしいわよ。小学校の時キスまで迫っておいて、心友の証渡してごまかしたそうよ。」


「麻美、それは言っちゃダメでしょ。ボクの中でも今では後悔してるんだから。」


「あのねぇ。後悔してるんだったら、同じ過ちを繰り返そうとしないでよ。」


「あの時はだって、司だけ仲間外れになっちゃうような気がして、嫌だったんだもん。」


「じゃあ今回は問題ないじゃないの。むしろ付き合ってないのは秋ちゃんと竜くんだけよ。和美のことはおいておいて、二人が付き合ってもなんら問題ない状態なのになんではぐらかすような真似するのよ。」


「それは、えっと・・・」


「メグ、そろそろ恥ずかしがるのもいい加減にしないと本当に竜くんあきらめちゃうわよ?竜くんに諦められたら一番困るのはメグなんだから。」


「そんなことは分かってるよ。ただ、ジジの世話もあるし、ボクの気持ちも整理がついてないから、こんな状態では付き合ええないっていうかなんというか・・・」


「ジジちゃんのことは関係ないんじゃないの?竜くんと付き合っていようがいまいが、ジジちゃんの世話はできるんだから。それ以上に問題なのは、その恥ずかしがり屋の性格をどうにかしなさいよ。恋愛になると本当にからっきりなんだから。」


「そんなこと言われても。」


「ええい。あんまりうだうだいってると、秋の代わりに私が竜くんもらうわよ?」


「和美が竜を?」


「私的には竜くんの代わりに秋をもらいたいところだけど、それが無理なら竜くんで我慢して上げるわよ。まぁ、竜くんも顔はいいし、優しいし、スポーツも勉強もできるしね。」


「ダメ!!」


ボクはつい否定の言葉を出してしまってはっとなる。和美はニヤリと笑うと、ボクの心まで見透かすように目を向けてきた。


「秋ちゃんのことだろうから、竜くんに好きな子がいるって思った時は応援しようとしたんでしょ?でも、実際に取られそうになるとどうしても許せない。違うかしら?」


「そんなことは・・・・ないとは言い切れない。」


「メグは竜くんのこと好きなのよ。それがわかったら、ごまかすなんてやめて、きちんと向き合わなくっちゃ。」


そのあとも、三人に説得され続けたが、結局、クリスマスまでに結論を出すということで三人には理解してもらった。話しながらもミルクの時間になり、ジジにミルクをあげると、もうずいぶんな時間になっており、三人はボクの部屋に帰って少しだけでも寝ると言った。




次のミルクの時間の前にお母さんが起きて来たので、ボクはリビングを離れる気にはならなかったが、その場で毛布を使って朝食まで少し寝ることにした。



「いやん。秋の寝顔って超可愛い。」


和美に頬をつつかれてボクは目を覚ました。和美や麻美や鈴も結構遅くまで起きていたので、さっきまで寝ていたようで、お母さんがみんなの分の朝食を準備していた。


「おふぁよう。みんなは?」


ちょっと欠伸をしながら挨拶をすると、麻美が状況を説明してくれた。どうやら、浩太と司と竜もあのあと遅くまで起きていたらしく、まだ起きていないようだ。竜に寝顔を見られなくてちょっと安心した。


「大丈夫よ。私たちしか秋ちゃんの寝顔は見ていないから。顔を洗ったら、竜くんたち起こしてあげて、私たちもみんなが揃うまで待ってるわね。」


「分かった。ジジにミルクはあげた?」


そう言って、ボクは顔を洗いに行った。ボクの背中にきちんとミルクをあげたことをお母さんが報告してくれた。ボクって夜も朝もそんなに得意じゃないのに、一晩中ミルクなどジジの面倒をみるために起きていたから、頭が働いていない。


顔を洗ってすっきりすし、司たちの寝ている部屋に着くと、竜以外の二人はすでに起きだしており、朝食ができたことを告げると、竜を放置して先に行ってしまった。


「もう、相変わらず朝は弱いんだから。」


竜と司は何度もボクの家に泊まりに来たり、一緒に旅行に行って外泊しているが、いつも竜は朝目覚めが悪く、こうしてボクが起こすのも何度目かになる。


「和美が昨日変なこというから・・・」


目覚めのキスで答えるなんて和美の言葉を思い出して、いつもみたいに起こせないでいる自分に変な気分になる。なんだろ、こうしてゆっくり竜の寝顔みてると、なんだか可愛く見えてしまう。熟睡してるみたいだし、キスしても起きないかな?


変なことを考えながら竜の顔を見ていると、竜が身じろぎをして、本当に竜の唇がキスできる場所にきてしまった。どうしよう。でも、ばれなきゃいいよね?


「秋〜。ばれないうちにしちゃいなさいよ。」


ビクッ


「和美?こ、これは別に・・・」


「秋が返ってくるのが遅いから様子を見に来たら、お邪魔だったかしら?昨日は見てたら分かるみたいに言ってたけど、やっぱり気付かないじゃないの。」


「そ、それは起きたばかりで頭が回転してないし、っていうか。別にボクは起こそうとしただけで何もしてないんだから。」


「はいはい、今は何もしてないのよね。お腹すいちゃったし竜くん起こして早くご飯にしましょ。」


和美は誤解してるだけなんだから、ボクは本当に何もしてないもん。確かに、和美が来なかったらひょっとしたら・・・。いや、絶対何もしてなかったと、思う。たぶん。


そのあと、竜をたたき起して、みんなでご飯を食べると、ジジを病院に連れて行くべく日曜日に開業している獣医さんを探し、解散となった。



ボク本当にどうしたらいいんだろう。






う〜ん。そろそろ、引っ張るのも無理になって来ましたね。

今回だって、軽く告白しちゃってるし、竜のセリフを書いてから、あれ?告白してんじゃない?とAKIも気付き、それなら麻美たち使って気付かせちゃえとなったわけですが、まさか、まだ引っ張る要素があるとはAKIもびっくりでした。さっさと付き合っちゃえばいいのに・・・・


今回のテーマは“秋の可愛さとジジを含む周囲をどれだけ書けるか”でした。

AKI≠秋という話は、ブログでも書いたのですが、それにしても秋の可愛さは異常ですね。本当に、こんな献身的で、ジジに対してもそうだし、竜に対してもすっごく可愛い反応をする秋に作者であるAKIはびっくりです。AKIの頭の中にこんな人物が眠っていたとは・・・・


さて、今後の秋たちの展開が気になるところではありますが、それは次回からのお楽しみということで、

35話を読んでいただきありがとうございました。


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