チャプター34
七不思議のラスト
「二人ともどういう訳か説明してくれる?」
ボクは本気で怒っていた。本当に演技の失敗でアドリブが入ってしまったのならこんなに怒ることはないのだが、司と鈴と和美のは、あきらかに狙ったものがあり、特に最後の和美のキスは本番前までは額にフリをするだけのはずだったのだ。
「ごめんね。メグ、私も和美があそこまでするなんて思ってなかったのよ。」
「秋のセカンドキスうばっちゃった。ふふふ・・・」
和美はさっきのキスを思い出したのかどこか遠い世界へと旅立っていた。
「和美、ボクもう二回竜とキスしてるし、最近ではペコと何度もキスしてるから全然セカンドじゃないよ?」
「ええ?竜くんと二回も?人工呼吸の一回だけって聞いてたのに。まぁいいわ。秋とチューできたのには違いないんだもの。」
「え〜と、詳しい説明をしてくれるかな?和美はちょっと黙っててね。」
「えっとね。メグはもう分かってると思うけど、和美って女の子が好きなのよ。それで、二年くらい前からずっと片思いだったらしくって。」
「なるほどね。それで、なんでボクはキスされなきゃいけなかったのかな?」
「私だって、本当にキスするなんて思ってなかったわよ。私と司の狙いは、メグの弱点をみんなの前でさらすことによって、みんなの保護欲をかきたてようってそれだけだったんだもの。」
「鈴はたぶん本当ね。司は正直あやしいけど、そこでなんで和美がでてくるのよ?」
「それは、最近仲良くなってるし、メグの秘密も結構知ってしまってるから、今後も手伝ってもらうこともあるだろうと考えて、委員長の立場を使って今回も台本の修正をお願いしたのよ。」
色々ボクのために考えてくれるのが伝わり、これ以上怒れ無くなってきた。でも、一つだけはっきりしておかなければならないことがある。
「ボクのために色々してくれたのは分かったよ。ただし、ボクはノーマルだ。和美とは付き合えないんだから、和美には余計に嫌な思いをさせたんじゃないか?」
「そんなことはないわ。私も秋との思い出ができたし、すっごく幸せよ。たとえ今後秋と竜くんが付き合うことになってもね。」
「ちょま、なんで・・・」
ボクは自分が真赤になっていることが分かった。さっきまで怒りで早かった鼓動が別の意味で早くなっている。
「そう言うことよ。和美は変態だけど、純愛なの。だから、私は信じて和美のことを仲間にできるとおもったのよ。浩太たちはまだ信じられないみたいだけど、私は小学校から一緒だし、和美に昔告白されたこともあるから、だから良く知ってるのよ。」
「そうだったんだ。じゃあ、浩太には悪いけど、元さやってことであきらめてもらおうか。」
ボクの中での一番平和な案を二人に提示してみる。
「無理よ。だって、今は私秋一筋だもの。鈴には申し訳ないけど、本当の恋を知ってしまったら元には戻れないわ。」
「全然申し訳くないって、それより本当にメグはノーマルなの?」
「レズジュツなんてのは、真奈美ちゃんの影響でできたあだ名だよ。ボクはノーマルだ。」
ボクの中でもゆずれないことの一つだ。
例え前世が男だろうと、これだけは守っていこうと決めている。
「今はそういうことにしておくわ。あと、かってなんだけど、私が秋のことを好きっていうのは内緒にして欲しいの。それをきちんと守ってくれるなら、きっと秋が竜くんのことを好きでも私は秋のことを大切にできると思うんだ。」
「う〜ん。別に言いふらしたいわけじゃないから構わないけど、ボクって顔に出やすいから、麻美とか司とかにはバレると思うよ?」
「ああ、大丈夫よ。そこらへんはもう知ってるから。
メグの周りで知らないのは、竜くんとメグだけだったからね。」
「ええ?じゃあ、四人はもう知ってたのか。つまり、ボクはその四人以外に内緒にすればいいんだね?」
「竜くんはちょっと、メグ以上に顔に出る性格だからしばらくは内緒にしてあげて、麻美と司くんについては、教えたっていうよりも知ってたって言う方が近いから、秋が隠すまでもなかったのよね。」
「あのカップルは本当に良く分からん。二人が仲間だから怖くはないけど、敵に回ったらもっとも恐ろしいとボクは思う。」
「私たちだってそれは同じよ。司くんなんて、普段間延びした受け答えなのに、能ある鷹は爪を隠すって感じよね。」
「全然隠しきれてないと思うのは、昔から知ってるからかな?
とにかく、和美のことは理解したよ。その上で、みんなが納得できるなら、ボクも心友の証を渡してもいいと思う。」
ボクの了承も無しにキスしてきたことには腹が立ったが、学園祭までの間に和美は本当にボクのことをサポートしてくれていた。
今思うと、鈴や麻美と一緒にいる時のように、安心して不幸がこない状態を和美は作ってくれていたのだ。
そんな和美なら、約束通り心友の証をプレゼントしても良いと思えていた。
「本当に?やっぱり、秋って私のこと愛してくれているのね。」
「違う。友愛であって、恋愛の愛情とはまた別なの。」
「照れちゃって、怪談におびえる秋が可愛くってついキスしちゃったけど、秋からチューしてくれてもいいのよ。」
「ボクからキスすることは絶対にない。それだけは確かだ。」
「焦ると、男言葉にもどる?」
「え?そんなことはないはず。」
最近男の子として扱われることがなかったので、言葉づかいも女の子らしくなっていたはずなのだが、変なところでまだ抜けきっていないのかもしれない。
まぁ、それが焦ったから出たとかじゃないだろう。
とっさの瞬間に時々男言葉になるだけだ。
「まぁいいわ。それよりも、秋のお兄様にはあいさつに行かなきゃね。七つ目の不思議を聞きだして、秋が怖がっているところをしっかりと見させてもらわなきゃ。」
ギクリ。
そうだった、すっかり忘れていたが、浩太と司の発言により、ボクの一番の苦手は完全に把握されており、その怪談にボクの周辺の人間で最も精通しているのが武兄ちゃんであることまでもバラされてしまっていた。
「武兄ちゃんは大学で忙しいから、そんなに家にいないと思うな。」
「さっき、劇の前に確認とったら、学園祭も終わって美術部が暇になるなら、週末遊びにおいでって言ってたわよ?」
鈴・・・・
そんなにボクのこといじめて楽しいのかな?ボクはやっぱり何か前世で悪いことをしたんだろうか?
「大丈夫よ。メグが前世で悪いことなんてするわけないじゃないの。みんなで集まる時は竜くんを呼んであげるからそれでいいでしょ?」
確かに、竜がいるのといないのならいた方が怖くはないのだが、怖い話自体をやめてほしいのがボクの本音だ。
「言っとくけど、和美も心してかかった方がいいわよ。武満さんの怪談は合宿に行った時に竜くんと司くん以外の全員を眠れ無くさせるくらい怖かったんだから。」
「合宿って美術部の?なんで竜くんや司くんがいるのよ?武満さんに限っては中学生ですらないじゃない。」
「まぁ色々あってね。その時は麻美も合わせて10人もいたんだから、事前に知っていた竜と司以外の全員が恐怖におののく、そんな怪談なの。だから和美もやめておこ?」
武兄ちゃんの話がどれほど怖かったかを切実に語り、今回の計画をなくそうと頑張ったのだが、
「私、がんばるわ。秋のためだもの、たとえどんなに怖い話でも耐えきってみせるわ。」
変な闘志を掻き立てただけに終わってしまった。
和美の様子に諦めたボクはとりあえず全員の予定を思い出し、来週の土日が部活もなく、武兄ちゃんも家にいるはずなので、その日にみんなを呼ぶことにした。
武兄ちゃんにそのことを話すと、どうせ話すなら暗い方が盛り上がると土曜日の夜に泊りにくることになり、真美子さんまで呼ぶことになってしまった。
ボクはやな予感しかしてこない。当日逃げるにも、仲の良いメンバーが集まるので、友達の家に泊まりになんて逃げ口実もできず、週末を迎えるのだった。
「「こんばんわ。」」
「いらっしゃい。今日はみんなが来るって言うから、私と秋でいっぱいごちそう作ったから遠慮なく食べてね。」
みんなが揃うと、まず晩御飯を食べることになった。怪談を聞きにきたとはいえ、みんながせっかく来てくれたので、ボクもご飯の手伝いをした。
とはいっても、大人数に対応するには普段からパーティなどをしているわけでもないので、大きな鍋に具材をいれただけなのだが、みんなおいしそうに食べている。
「野菜はほとんど家で取れたものだから、本当に遠慮しないでね。竜くんも司くんもこんなにおおきくなっちゃって。」
お母さん、その発言は年をとってきた証拠なんだよ。ギクッ
「秋ちゃん。みんなに飲み物取ってきてくれるかしら?」
お母さん。なんで思ってることが分かるんですか?
何となく逆らえないオーラがあったので、ボクはみんなのためにお茶とジュースを運ぶのだった。
「秋のお母様って美人ですね。秋の容姿はお母様譲りでしょうか?お父様もかっこいいですが、どちらかというと、秋はお母様の方に似ている気がします。」
食事に夢中になっている竜や司などは放置しておいて、和美がなぜかお母さんにおべっかを使っていた。
まぁ、お母さんは実際ちょっと童顔だが、整った顔をしており、嘘を並べているわけでもない。
「まぁ、そんな、和美ちゃんだっけ?秋と仲良くしてあげてね。」
「はい。秋のこと大好きですから。」
その大好きにはどんな意味があるのかな?心友としての大好きなら歓迎なんだけど、もっと深い意味が込められてるよね?
「ごちそうさまでした。」
結局鍋の中身の半分以上を司と竜に食べられた気がするが、残すよりも作った方としては嬉しく、鍋の後のおじやまで完食してしまった。
「ほな、そろそろ武ちゃんの部屋に移動しよっか。」
「本当に怪談するの?ボクの部屋でトランプでもしない?」
「それはぁ、怪談の後にしよぉ。どうせみんな寝れなくってぇ、秋の部屋で夜を過ごすんだからぁ。」
寝れなくなるくらいならやめておけばいいのに、真美子さんも合わせて、八人もの人数が武兄ちゃんの部屋に入ると、結構広めの部屋が狭く感じる。
「眠れ無くなるってそんなにお兄様の話はこわいんですか?」
「そうだねぇ。武ちゃんの怪談は昔からリアリティあるからねぇ。」
話を始める前に、和美が武兄ちゃんに何か色々とボクの昔話だったり、家族関係だったりを聞きだしている。その様子は今日知り合ったばかりとは思えない親密な雰囲気が漂っていた。
「真美子さん、良いんですか?彼氏が女の子とあんなに仲よさそうにしているのに?」
「大丈夫よ。話の内容はほとんど秋ちゃんのことだし、武ちゃんはシスコンではあるけど、ロリコンではないわ。
それにね、どうせ怪談が始まったら武ちゃんに近付こうなんて思わなくなるわ。」
真美子さんと武兄ちゃんの中で絶対の信頼関係が出来上がっていることには驚いたが、確かに、武兄ちゃんの怪談はボクのトラウマになるほどの威力があり、納得できた。
「司と竜くんはメグの部屋にはいったことあるんだよね?どんな感じだったの?やっぱり男の子っぽい部屋だった?」
「そうでもないよぉ。ぬいぐるみとかも置いてあったしぃ。秋って動物が好きだから、メルヘンってわけじゃないけど、昔から部屋は動物の写真とか絵で一杯だったからねぇ。」
「せやな。あの部屋でアイマスク付けた時は、絵とか写真とかから本物の動物が出てきそうでこわかった思い出があるわ。」
「アイマスクって、例のナメクジの話でしょ?どんな風に迫られたの?」
「竜は黙ってなさい!!」
ゴグッ グハッ
竜が余計なことを言いかけたのでボクは強制的に竜の口をふさいだ。このまま放置しておけば、武兄ちゃんの話が終わるまでは夢の世界から帰ってこないだろう。
「竜大丈夫か?さて、そんじゃそろそろおまちかねの怪談話でもしようか。豆球を残して明かり落とすぞ?」
「待って、竜起きなさい。あんたが寝てたら誰が魔除けになるんだよ。」
自分で眠らしておいて可愛そうだとは思うが、怪談話の時に竜が寝ているのはボクにとって死活問題になる。ちょっと無理やりでも起こさないわけにはいかなかった。
「秋、私が竜くんの代わりに秋のこと守って・・・」
和美は最後まで言わせてもらえずに、隣にいた司になだめられた。麻美や鈴も必死になって説得をしているようだ。まぁ、ボクとしても、竜以外が被害をこうむるのは問題ありだと考えているし、賢明な処置だろう。
「秋にベアハグされて気を失うなんて別に平気よ。むしろ足蹴にしてもらいたいくらいだわ。」
とりあえず、和美の願いを聞き入れて黙ってもらうことにした。
ゴッ・・・
「メグ?あんた今日は容赦ないわね。和美は竜くんと違って普通の女の子なんだから、下手したら怪我じゃ済まないわよ?」
「一応人体に影響はないように暗黒を入れたよ。起きた時は何が起こったのかわからないはずよ。」
そんなことをしていると、竜が復活した。最近竜の回復力が人とは違う気がする。何故か和美もすぐに起き上がり、やはり状況がつかめないようでキョトンとしていた。
「秋の暴走も収まったみたいだし、そろそろ始めてもいいか?」
そのあと、明かりを落とし、武兄ちゃんの怪談が始まった。
部屋の配置は、武兄ちゃんのベットの上にボクと竜。これは周りに被害を出さないためだそうだ。ボクは武兄ちゃんの布団を被って、竜の背中に隠れながらおびえている。
ベットから逆側の隅にある、勉強机に備え付けられているイスには真美子さんが、そこから時計回りに浩太・鈴・和美・司・麻美・真美子さんへ戻るという順番に部屋の形に合わせたいびつな輪になって座っている。その輪の中心には今学校の七不思議の六つを一番から順番に説明している武兄ちゃんが座っている。
劇の時にそれぞれの主題を聞いただけでビビっていたボクは、武兄ちゃんにそれぞれの詳しいいきさつや伝承を説明されて今でさえ泣きそうなのに、まだ、最後の七つ目が残っていると思うと気が遠くなりそうだ。七つ目を語る前に、武兄ちゃんはふっと窓の方を見て、溜息をついてから、言葉を押し殺すようにして引き出す。
「実はね。七つ目って言うのは、もうここにいる全員が体験することができるんだよ。他の六つと違い七つ目の不思議には体験するための重要なカギがある。それは・・・」
「きゃ〜!!!」
真美子さんの悲鳴を聞いて、全員がそちらを見る。すると真美子さんは窓の外を指さして、がくがくふるえている。ボクは怖いのを我慢して、そちらの方を見ると、窓の外にはゆらゆら揺れている人魂があった。
「おい。秋?大丈夫か?しっかりしろ。」
ボクはあまりの恐怖に気を失い。竜の声で目を覚ましたらしい。
「うええぇぇん。竜ぅ〜。」
気を失う前のことを思い出してボクはみんなが見ているのも構わすに竜に抱きついて泣きだしてしまった。
「だからやめようって言ったじゃないの。武ちゃんって秋ちゃんに甘い割にはこういういたずらは好きよね。」
「本当だよ。メグちゃんほどじゃないけど、僕らも怖かったんですから。」
「いやぁ、しかし、メグのおびえ方と気を失ってる時の寝顔は格別だったねぇ。」
「確かに、秋の様子は最高だったわ。普段はあんなにしっかりしているのに、このギャップがたまらないわね。」
「そうだねぇ。これだからぁ、僕らもぉ、秋をからかうのはやめられないよぉ。」
「そうね。秋ちゃんの可愛い姿は人生の活力源ね。」
それぞれが、好き勝手なことを言っているが、ボクはそれどころじゃない。何があったのかは良く分からないが、とにかく怖くて安心できる場所が欲しくって竜にしがみついたまま泣きじゃくった。
「そろそろ、落ち着けって、あれは武ちゃんの悪戯で本当の人魂とちゃうんやから。」
「え?人魂じゃないの?」
「そろそろ種明かししてあげなさいよ。秋ちゃんこんなに泣いてるじゃないの。」
真美子さんの言葉により、武兄ちゃんはボクに説明をしてくれた。というか、気絶している間に一度種明かしがあったらしく、ボク以外のメンバーは笑いながら聞いている。
「つまり、また司と武兄ちゃんが共謀してボクをだましたってことね?」
「今回はぁ、真美子さんも一緒だよ。そうじゃなきゃあんないいタイミングでみんなが窓の外を見れるわけないからねぇ。」
仕掛けは簡単だった。武兄ちゃんが思わせ振りな話をふる。真美子さんが悲鳴と共に窓のそとを指さす。司が隠しもっていたペンライトで人魂を再現する。たったそれだけのことだった。
「ペンライトの光なんてちゃちな仕掛けでこんなにみんなが怖がってくれるなら、今度は本物の火でも使ってみるか?」
「そうだねぇ。でもぉ、本物の火なんてぇ、どうやってタイミングを合わせるか難しくなるしぃ、どこでだってできる仕掛けだから良いよぉ。」
決めた。今後武兄ちゃんのお弁当は一週間は涙巻きだ。あと、司と武兄ちゃんを一緒にするとろくなことがおきない。今度からこういう時には司は絶対に呼ばない。
「涙巻きのお弁当はお母さんに言って、作らせないように頼んでおいたから。
あと、司と竜はどうせこういう時に絶対に呼ぶんだから、離そうなんて考えても無駄だな。」
「分かったわ。涙巻きはあきらめてあげる。でも、司は今後ボクの家への一時的不可侵を申請するわ。真美子さんの浴衣がどうなってもいいなら、司を連れてきてちょうだい。」
「司、浴衣ができるまでは秋ちゃんの家に行くことを禁止するわ。」
ボクは真美子さんという強い味方を手に入れて司の侵入を阻止した。しかし、真美子さんも今回は一役かっていたのだが、真美子さんには流石に何もできない。
「お姉ちゃんだけ許されるなんてずるいよぉ。」
「私は、二人に言われて悲鳴を上げただけだもの。主犯格である司を取り締まることで罪は帳消しよ。」
真美子さんはボクのことを良く理解しているようだ。真美子さんには絶対に司と武兄ちゃんの接触を防いでもらわければならない。
「電話とかはもちろん。矢文さえも送れないように監視しておくわね。」
「矢文って、流石に司もそんなことまではしないだろ?」
「浩太は知らないのね。小学校の修学旅行先で買ったおもちゃの矢と弓で武満さんと司は時々やりとりしてるのよ。秋ちゃんにバレないようにそっと打ち合わせをするには窓と外が一番安全らしいわよ。」
「何?ボクもそれは初耳だ。そんなことまでしてボクのことを怖がらせようとしてたのか。」
そのあとしばらくボクは二人を説教して、真美子さんは明日バイトがあるとかで武兄ちゃんに送ってもらい帰り、男子から順番にお風呂に入って、ボクの部屋で遊んでから寝ることになった。
「はぁ、今日はさんざんだったよぉ。」
ボクは男子を待っている間部屋に着くと、溜息をもらし、ベットに寝そべりながら愚痴をこぼした。
「いいじゃないの。秋ちゃんは竜くんに抱きしめられてたんだもの。」
「麻美〜。そのためにわざとこんな計画に乗ったんじゃないでしょうね?」
「あらそうよ?秋ちゃんが怖がる姿を見たかったってのもあるけど、一番の目的は竜くんとの関係の向上だもの。」
麻美は隠すことなく、しれっとそんなことを言う。ボクだって何となくそれは分かってるんだけど、やっぱりこういう雰囲気で竜と関係を深めても駄目だと思う。
「竜との関係はちょっと違うんだよ。お化けみたいなドキドキっていうよりも、竜と一緒にいるとほっとするって言うか、安心できるっていうか。とにかく、お化けに怖がってドキドキしても竜との関係は良くならないの。」
「あら?でも、怖い話の後に竜くんに抱きしめられて安心してたでしょ?それでさっきの話も納得できるじゃないの?
飴と鞭よ。怖い話を聞いたご褒美に竜くんに抱きしめてもらえるんだからいいじゃないの。」
「う・・それはそうだけど・・」
「メグはあのままでいいのよ。とにかく、問題は竜くんなんだから。メグは抱きしめられて喜んでたけど、竜くんは周りを意識して顔を真っ赤にしながら困った顔してたんだから。」
「そうねぇ。あそこは周りを気にせずにブチューとキスでもしてあげたら秋ちゃんも恐怖なんて忘れられるのにね。」
「私が代わりにチューってしてあ・げ・る♪」
百合発言をしだした和美はとりあえず置いて、確かに竜は積極性には欠けると思う。他のことはそうでもないのだが、竜は今まで告白とかはされるのに誰とも付き合ったことはなかったし、ボクらがちょっとからかったり、ひっついたりするだけで真っ赤になる。
「あのねぇ。そこは、ボクらじゃなくて、秋ちゃんがからかったり、ひっついたりするから赤くなるのよ。」
「ありゃ?口に出てた?怪談の影響でもう今日はズタボロだよぉ。」
「う〜ん。そうなのかぁ。秋は少し恥ずかしがったりする方が好みなのね。」
「べ、別に竜がそういう態度を取るから好きになったわけじゃないもん。」
「じゃあ、秋は竜くんのどんなところに魅かれたのかなぁ?」
和美はそう言って、ボクににじり寄ってきた。ボクは今ベットの上におり、後ろは壁で逃げ場はなかった。
「和美。それくらいにしておかないと、本当に我慢できなくなるわよ。」
「もう限界かも、真っ赤になって後ずさる秋見てたら本当に欲情してきちゃったかも。」
おいおい、そんなことで欲情しないでくれ、ボクはノーマルだぞ。
「まぁ、可愛いと思う気持ちは分からなくはないけど、今はダメよ。メグが許してくれたらその時はきちんと節度をもってお付き合いするのよ?」
鈴はお姉さんみたいな雰囲気で和美に諭しているが、伝えている内容はあんまりボクにとって良いものではない。
「秋ちゃんは一応今はノーマルなんだから、そんな話を本人の前でしないの。
それより竜くんのことよ。秋ちゃんのことだから、竜くんからきちんと気持ちを伝えられたら二人は付き合いだすと思うのよね。」
「あの〜。なんだかさっきから竜がボクに告白するみたいな話がちょくちょく聞こえるんですが、竜の気持ちもきちんと考えてあげない・・・・」
三人になぜか憐れんだような、ちょっとかわいそうな子を見るような目をされてボクは最後まで言い切ることができなかった。
なんで??ボクは相手の気持ちもきちんと確かめるべきだと言っただけなのに。
「良いわ。じゃあ、今夜ゲームで負けたら、秋ちゃんの好きなように竜くんの気持ちを尋問できるようにしましょ。どうせこのメンバーなら竜くんは負けるに決まってるんだから、それでいいわよね?」
「まぁ、心理戦のゲームなら竜は負けると思うけど、いきなりそんなこと言われても、何を質問していいのかボクには分からないよ。」
そのあと、ボクらは男子が全員お風呂から出るまで質問内容について話し合った。長風呂の司がなぜか一番に入っていたらしく、途中から司も議題に入ってきた。
「お先に、どうも。女の子たちはどうやって入るんや?男子と違って一緒に入るん?」
「時間がもったいないから一緒にはいっちゃいたいんだけど、この場合ちょっと問題があるから、鈴と和美ちゃん。私と秋ちゃんの二回に分けましょ?」
「そうね。私なら和美が一緒でも安心だからそれが一番ね。」
竜は頭にいっぱいはてなマークを浮かべているが、女の子たちは着替えを持ってリビングに降りて行った。ボクの部屋に男子だけが残ることになるが、竜たちが悪さをするとも思えないので、あまり気にしないことにする。
「私も秋と一緒にお風呂はいりたいなぁ。」
「今の和美は歯止めが利きそうにないからダメよ。それに麻美が一緒っていうのは、メグにとって竜くんと司くんを除いて一番安全なんだから。」
「まぁね。過去にいろいろあったみたいだけど、今では小学校から一緒だし竜たちと同じくらい信頼してる心友だからね。」
そのあと、なぜか先に入ることを拒んだ和美と鈴を残してボクと麻美は一緒にお風呂にはいった。湯沸かし器があるので、最後の方とはいえ、あったかいお風呂につかることができ、もう10月とはいえ、少し体が熱いような気持ちになり、鈴と和美が出てくるまで少し外の空気に当たることにした。
この行動によって、さっきまでボクの部屋で話し合っていた計画がほぼ無駄になるとは今のボクには思いもよらなかった。
どうも、真夜中の告白か?と思わせておいて、裏切る展開をまたしても考えているAKIです。本当にどうしようもない作者ですね。
今回のテーマは“秋にどれくらい怖がってもらえるシーンを作るか”です。前回のドロシー秋にもう少しやれたのではないかという後悔があったため、今回は失神してもらいました。
さて、次回で新キャラ登場です。次のキャラは両想いの二人を引き裂く、秋の気持ちを揺さぶるキャラが登場いたします。え?大丈夫ですよ。この物語はハッピーエンドを目標として書かれておりますので、ドロドロしたものは極力少なくなっております。
それでは、また次回もよろしくお願いします。そして、ここまで読んでいただきありがとうございました。