チャプター32
ついに感動の最終回??
読み進めていただければわかります。
私たち海良中学美術部の作品
「ああ、それだったら、麻美や鈴と同じくらいの雰囲気があったよ。
和美ちゃんは前世では恋人だったかもしれないね。」
鈴に前世の記憶に関することを聞かれてた秋はそう答えた。
「ええ?じゃあ、和美は男の子のメグと付き合っていたってこと?」
「たぶんね。三回も臨死体験して、感覚が鋭くなっているから間違いないと思うよ?
でもそれがどうしたの?」
「変ね。和美が男の子メグと付き合うなんてあるはずないのに。」
「その言い方なんか嫌だな。それって、竜に聞いたの?
確か、竜以外には言ってないとおもうんだけど。」
「ああ、浩太に聞いたのよ。
竜くんも司くんと浩太になら相談しても大丈夫と思ったんでしょうね。
私にも相談してほしかったところだけど、まぁそれは仕方がないと思うわ。
竜くんも前世とはいえ元カノかもしれない人間にそれを伝えるのは抵抗があっただろうし。」
鈴の言葉に秋は良く分からない様子だ。
一応、心友たちに内緒にしていた後ろめたさから謝っておくことにしたらしい。
「ごめんね。
前世の記憶については、完全にオカルトの話だから確証があったわけじゃないし、ボクが昔男だったなんて言い辛くって。」
「別に良いわよ。今は浩太と付き合ってるんだしね。麻美にはこのことは言ったの?」
「言ってはいないけど、気づいてるみたいだよ。前に叱られたこともあるしね。」
「そうなんだ。
なんて叱ったのか私も分かるからそれは良いわ。
でも、一応ちゃんと自分の口で説明した方がいいと思うわ。」
「うん。分かったよ。
麻美と鈴にはお世話になってるし、隠しごとはできるだけしたくないんだよね。」
「お世話だなんて、みずくさいわよ。
まぁ麻美も今は司くんと付き合ってるんだしきちんと話したら分かってくれるわよ。
それよりも、もうすぐ学園祭だけど、作品の方は大丈夫なの?
最近劇の練習ばかりで作ってる暇なんて無かったんじゃないの?」
ここのところ忙しく、確かに秋は作品作りはしていない。
アクセサリーの方は出来上がっているのだが、もう一つの絵の方は最近美術室に置きっぱなしで何も手をつけていなかった。
「それなんだけど、昨日、和美から電話があって、
練習はだいぶ進んだから美術室に多少行けるようになったんだよね。」
「え?主役がいないで大丈夫なのかしら?」
「おはよう。鈴、女神ちゃん。」
二人の会話を扉の向こうで聞き耳を立てていた和美が入ってきた。
確かに盗聴器などはつけていないが、こうして何度も鈴と秋の会話を盗み聞きしていたのだ。
「おはよう。今日も扉の側にきて入って来なかったからボクらの会話を聞いてたの?」
「え?
ごめんなさい。盗み聞きしてたんじゃなくって、込み入った話っぽかったから私の話題が出るまで入り難くって。」
必至になってごまかしているが、秋は近くにいた気配に気づいており、
それには気付いていなかった鈴も、
こうして何度も会話を盗み聞きしていたことによって昨日の話ができていたことに気づいてしまった。
「う〜ん。女神ちゃんはすごいわね。
扉はさんでいても私のことを分かってたなんて、何か運命的なものを感じるわ。」
案外和美も鈴の親友だけあって肝が据わっている。
秋にはあがり症だなんて言っていたが、人生という舞台で普通の女の子を演じてきた和美にとって学園祭の舞台などさほど緊張するような場面ではないだろう。
「全く、聞いてたのはもう忘れろなんて言っても無理だからいいけど、言いふらしちゃだめよ。
本当に何が起こるかわからないんだから。」
「了解したわ。
さっきの話の続きなんだけど、昨日脇役の子たちを見たら、
女神ちゃんの演技は素晴らしいことが分かったから、
場面が多いから完全に休んでもいいようにはできないけど、
少しくらいなら美術部の活動ができるように合わせることにしたのよ。」
「ありがとう。
和美ちゃんも大変だろうけど、部長だから少しは美術室にいかないとまずいからごめんね。」
「そんなのいいわよ。
それより、さっきみたいに呼び捨てで、和美でいいわよ。
昨日の電話でも言ったけど、女神ちゃんとはもっと仲良くなりたいのよ。」
「じゃあ、ボクもその女神ちゃんってのどうにかしてほしいかな。
秋でいいよ。ボクも呼び捨てなんだし。」
「わかったわ。秋って呼ぶわね。」
女の子で呼び捨てにするのは和美だけだとういのも、アドバンテージのように考えているのだろう。
鈴にはそれらが分かった。
昨日の宣言通りに秋に優しく接することによって関係を深めたいのがわかったのだろう。
「はぁ、これじゃあ和美の思うままね。学園祭では竜くんに頑張ってもらわなきゃ。」
「ん?竜たちのクラスはそんなに大変なの?
竜って今年は主役とかしないで小道具係って言ってた気がするけど?」
鈴の言葉を目ざとく拾った秋だが、その真意に関しては全く理解していなかった。
もう一度大きくため息を吐くと鈴は和美に顔を向けた。
「どう?私の言い分も理解できたでしょ?
これなら私だってチャンスがあると思うわけよ。
まぁ、そうならなくったって前世の恋人をないがしろにしたいなんて私も思わないから平気よ。」
「そ、そんなことまで聞いてたの?
え、えと。前世の話は完全なオカルトだから信じないで、ボクもそんなことがあるかどうか分からないからさ。」
真赤になって和美に弁解する秋だが、それが和美にも鈴にも照れていることが伝わってしまっていた。
「ああ、本当に可愛いわ。
前世の私を呪ってあげたいわ。こんなに可愛い秋のことを手放したなんて許せないわ。」
そういって、立っていた和美は座っていた秋の頭を抱きよせた。
鈴はちょっと引きつった顔をしているが、ここで無理やり引き剥がしても、
逆に要らない心配ができるだけなので秋の対応に任せることにした。
「和美。苦しいよ。
まぁ、前世では付き合ってたかもしれないけど、今度は女の子同士なんだし、友達になってね。」
「ええ、もちろんよ。
まだ、心友って言われる六人に入れるほど関係はできてないかもしれないけど、
今後お互いに知り合っていけば私も心友の仲間に入れると思うわ。」
「ごめんね。
本当にまだあんまり話したことないからボクも判断がつかないけど、
学園祭を通して和美と仲良くなれたら、みんなと同じように心友に証をプレゼントするね。」
「うふふ。楽しみにしてるわ。絶対に秋に私のことを理解してもらうわ。」
和美のここでの私への理解というのは色々な意味が含まれているのだが、
秋には伝わるはずもなく、素直にうなずくのであった。
鈴は本当にどうしたものか判断がつかず、とりあえず、司たちに相談すべく、
今は二人のやりたいようにさせておくのだった。
和美のことが危険ではないことも分かり、美術室にも定期的に来れるようになると秋も余裕ができたのか、
作品も仕上がり、役の方も自分が出る場面は、本人はほとんど完璧になっていたため、
小道具などの手伝いをするようになった。
秋が手伝いだすと、普段から美術部で色々なものを作ってきた秋は手先が器用で、衣装などもかなり立派なものができ、舞台背景なども、かなりきれいな絵が描かれた。
「本当に秋が手伝ってくれたら、あっという間に準備が終わったわね。
将来舞台女優兼衣装係、として就職したら間違いなく売れっ子になれそうね。」
「それはできないかな。
小学校の時に武道家の道をあきらめたのと同じ用に、あんまり目立ったことはしたくないんだよね。
和美は知らないかもしれないけど、ボクはこれでもすでに結構有名なんだよ。」
「最強美少女のことよね?大会優勝後に悲劇の事故で選手生命が絶たれた日本で一番強い小学生でしょ?」
「あら、やっぱり有名なんだね。中学校じゃそこまで詳しくは、うわさになってないとおもってたんだけど。」
秋のことを調べていたことがバレそうになってちょっと苦笑いをしながら和美はごまかす。
「ちょっと聞いたことがあったのよ。中学校じゃ最強美少女って名前しかあんまり知られてないかもしれないわ。」
不穏な響きに気づく秋だが、和美が何か隠したいことがあると気づいても、
言いたくないならば掘り起こすのも悪い、と考えて秋の方もそのことについて追及はしないことにした。
「とにかく、明日の学園祭はがんばりましょ。」
「ええ、美術部も明日は展示があるし、大変だろうけど、こっちも手を抜かないでよ。」
明日は1,2年生の劇と美術部の展示がある。そして次の日には三年生と先生たちが劇をすることになっている。
本来なら三年生の方が注目をあびるのだが、今年は作品展示もあるので、役員の人たちは一日目に集中してくるらしい。
「それぞれのクラスの演劇を見ていただく前に、私たち美術部の展示の時間をいただきまして、
ありがとうございます。
今年からは部員も増えましたので、私からではなく、それぞれの作品の制作者と後輩三人から作品の紹介をしていただきます。
それではみなさん舞台中央をご覧ください。」
舞台の端に立ち、秋は最初のスピーチをした。
挨拶が終わると、マイクを真奈美たちに渡してしばらく休憩だ。
最後の挨拶も秋がすることになっているが、
去年はそのほとんどを鈴と浩太と三人でやっていたことを考えると、今年の秋は余裕がある。
それぞれの作品を紹介していき、後輩たちの作品もかなり好評のようだ。
鈴の作品が終わり、浩太の作品となった。
「僕は、去年から蟹津秋さんの作品にずっと触れてきました。
色々な分野で才能を展開する彼女に影響されて、
僕にも何かこれだけはという才能がないのか模索するようになり、
今年になってこの彫刻というものに出会いました。」
浩太が挨拶をして上に掛けてあった布を取り去ると、
そこには木の彫刻でできた二人の人物象があった。
作品自体はとても小さいためスクリーンを通しての映像だが、
観客たちはその作品の出来栄えに驚いているようだ。
「木というのは、削りやすい場所削りにくい場所があり、思うような形を作るまでかなり苦労しましたが、
最後にできたこの作品は本当にこの形になるべくして存在していた様な木でした。
元々は二つの像を作る予定でした、しかし、
ここに出来上がった二人は、手のところがとても硬くてこれ以上削ることができません。
もし、これ以上無理に削ろうとすると、割れてしまいます。
そして二人の顔の部分は常に微笑みの形になっています。
二人の愛をこの木は示しているかのように感じ、僕はこれが完成形だと確信しました。」
会場からは大きな拍手が起こった。
浩太はこの像を作るために夏休み全部かけていたので美術部のメンバーも、
浩太の作品が認められたことに本当に喜びあい。
浩太に激励を送っている。
「それでは、最後になりましたが、私たち美術部の部長である蟹津秋先輩の作品を代表で私が紹介します。」
コンテストの時は失敗してしまった真奈美だが、
何度も練習し、秋たちに相談をし、ここに立っている。
今回はあの時の失敗を繰り返さないためにも、失敗は許されないとばかりに気合十分である。
「まずは、アクセサリーをお見せします。
これらの装飾品は、一部を除きすべて自然のものを使っております。
手造り故の歪みも、自然を由来とした材質と相まってとても美しい仕上がりになっています。
実際に数点を美術部員の花火が装着しておりますのでこちらもご覧ください。
今は制服姿ですが、実際に私服姿になっても全く違和感なくつけることができます。」
ここで、花火が舞台中央でゆっくりと回転する。
シルバーアクセサリーと違い、光を反射しないので遠目では良く見えないところもあるが、
そこはスクリーンに移されている画面で後ろの人たちにも見てもらう。
「一つずつ部長の小さな手の温もりが伝わってくるような、そんなアクセサリーとなっています。
自然由来の素材と部長による生き生きとした曲線がこれらのアクセサリーを芸術にしています。
続いては、部長の絵画を紹介します。」
真奈美の声に従って花火は舞台上に残ったアクセサリーを持って舞台袖に引くと大きな布を掛けた絵を持った由香が舞台中央に歩いてくる。
「布をとる前に作品の紹介をさせていただきます。
これは部長からのたっての願いですので、皆さんも目を閉じて先にこの中に描かれている内容を想像してみてください。」
そう言って真奈美は会場の客たちが目を閉じるのを待つ。
「この作品のタイトルは“幸せな時”です。
部長の蟹津秋にとって、これ以上幸せな時が思い出せないほど、
この時幸せを感じた風景を、この一枚のカンバスに写し取りました。
ある晴れた日、心友と一緒に小学校の中庭でみんなで作ってきたお弁当を食べ、
笑っている風景がこのカンバスには描かれています。
それでは、みなさん。目を開けてみなさんの想像したイメージと私たち美術部の描いた幸せの時を比べてみてください。」
会場の人は目を開け、秋の描いた絵を見る。
そこには、芝の上にお弁当を広げ、輪になって笑いあう六人の少年少女が描かれていた。
長身の男の子は手におかずをもっており、それを少し小さい男の子が奪おうとし、
それをたしなめている肩まで髪の毛の伸びた女の子がいます。
もう一人の男の子は、ショートヘアーの女の子と笑顔でその様子を眺め、
そんな五人を見ているロングヘアーの女の子も幸せそうに微笑んでいるのでした。
「このロングヘアーの女性は部長本人を表しています。
他の五人は部長にとって心から信頼できる心友なのです。
親しい友達という親友を超えた心の友と過ごした昼下がりの一時、
どんな楽しい遊びをするよりも、どんな美味しいご飯を食べるよりも、
部長にとってこの時が一番幸せな時だったのです。」
真奈美ちゃんの言葉が終わると会場中から割れんばかりの拍手が起こった。
真奈美ちゃんも笑顔でお辞儀をして舞台袖で待機していた花火が舞台の幕を下ろす。
幕が降り切るのをまって秋は袖から出てお辞儀をする。
会場からはまた大きな拍手がおこり、拍手が収まるのをまって、マイクを使って話しだす。
「これで、美術部の作品展示を終わります。
みなさんからの温かい拍手に迎えられ、私たち美術部も来年に向けてより一層努力することができます。
私たち海良中学美術部の作品をご覧いただき誠にありがとうございました。」
もう一度秋がお辞儀をすると、また会場から大きな拍手が起こった。
秋は顔をあげると笑顔で舞台袖へと戻って行った。
「お疲れ様でした。」
「真奈美ちゃんもお疲れ様。良いスピーチだったわ。」
「本当に、夏から成長したわね。これで私たちも心置きなく引退できるわ。」
「そんなことありません。今回は女神先輩や浩太先輩の作品が会場の人たちに認められてこんな反響があっただけです。」
「確かに、浩太の作品はすごかったけど、真奈美ちゃんたちの作品だって、会場の人たちは注目してたはずよ。」
「うちらの作品の時と拍手がちがったっす。やっぱり女神先輩たちの作品はすごいっすよ。」
「ボクが最後に言った言葉聞いていなかったの?
“私たち海良中学美術部の作品”って言ったでしょ?ボクや浩太の作品だけじゃないわ。
みんなの作品を会場の人たちにはみてもらったんだから。」
「そうだな。僕から見ても、みんなの作品をそれぞれ、感想をもってみてくれていたように感じたよ。
作品紹介前の真奈美ちゃんたちが作ったケーキも含めてね。」
「浩太先輩。なんだかやっぱり浩太先輩が凄い良い人に見えます。」
由香の一言で全員が笑いだす。
浩太も、自分がらしくないことを言った自覚があったのか大きな口を開けて笑っていた。
「全く、由香ちゃんにはかなわないな。
まぁ、僕たち美術部の展示は成功したとおもう。
あとは片づけをしてクラスの劇を頑張ろう。」
「確か、次は由香ちゃんと花火ちゃんのクラスよね?
片づけは私たちに任せて舞台設置の方に行っていいわよ。」
「大丈夫です。
元々、美術部の仕事があるからってクラスには伝えてありますので、美術室に作品を運んですぐに向かえば間に合うように私たちの出番は遅めになってます。」
「そうっす。さぁ、そういうことなんで一緒に美術室に行けるっす。」
それぞれの作品を手にとり、秋たちは一度体育館を離れ美術室へと向かった。
秋の作品は量が多いし大きいので花火や由香が手伝っていた。美術室に着くと、
由香と花火は走って体育館の方へと戻って行った。
「本当にこれで女神先輩たちは引退なんですね。」
真奈美は秋たち三人の顔を見て、涙をためながら話しかける。
「泣かないで真奈美ちゃん。これでお別れっていうわけじゃないんだからさ。」
そう言って秋は真奈美を抱き寄せる。
あとにも先にも秋から真奈美を抱きしめたのはこの一度だけかもしれない。
「だって、ヒッグッ女神先輩ぃ。」
真奈美は本格的に泣き出してしまった。
浩太と鈴も、そんな真奈美の様子を優しく見守っている。
真奈美の嗚咽が少し治まってくると、ゆっくりと体を離し、秋たちは今後のことについて話しだした。
「ボクたちから真奈美ちゃんにお願いがあるんだ。」
「私たちは、どうしても美術部を続けていくことはやっぱりできないの。
だけど、時々は顔を出すつもりなのよ。」
「だから、そんなに泣くな。
あと、メグちゃんは中々来れないだろうけど、鈴と僕は三年になってからも学園祭まではサポートしに来るつもりだからね。」
「はい。それは分かってます。」
「だからね。
ボクたちが美術部を訪れた時に、美術部のみんなが泣いてたら嫌だなと思うんだ。
ボクらが美術部を早期引退したこと、後悔するくらい楽しい部活に、真奈美ちゃんたちにはしてもらいたいんだ。」
「後悔させるくらい?」
「そうだよ。
そうしたらボクらはもっと美術部に愛着を持ってついつい訪れてしまうかもしれないね。
そうなったら、真奈美ちゃんたちには温かく迎えてほしいんだ。」
「わかりました。先輩達が、う〜んと後悔するくらい良い部活にして見せます。」
「ありがとう。
じゃあ、部長は真奈美ちゃんにお願いするね。
花火ちゃんや由香ちゃんにはすでに了解を取ってあるから、
四月になって、ボクがこれなくなるまでに、部長の仕事をたたき込むからしっかりついてきてね。」
「はい。私女神先輩みたいには無理かもしれませんけど、一生懸命がんばります。」
秋は真奈美の力強い言葉を聞いて、真奈美の頭をなでた。
自分は体質の影響で美術部を途中で投げ出してしまうことになるが、真奈美たちがいれば、
今後もきっと美術部は楽しい部活になるだろうと感じていた。
「さぁ、由香ちゃんたちの次は真奈美ちゃんたちのクラスだよ
。涙のまま舞台に上がりたくなかったら涙を拭いて笑って舞台に向かおうよ。」
そう言って、真奈美の頭をもう一度優しく撫でると、秋たちは美術室を後にした。
美術室の中には、秋たちの作品が静かにその様子をうかがっていた。
「女神先輩から初めて抱きしめられてしまいました。」
「真奈美ちゃんもさっきまで、泣いてたかと思ったら強かだな。」
「ふふふ、女の子の涙は武器ですから。女神先輩に抱きしめられて、涙を流した記憶は私には一生の宝です。」
「真奈美ちゃん。嘘泣きしてもボクには分かるから、今後涙で抱きしめてもらおうなんて考えても無駄だからね。」
「ええ?そんなこともわかっちゃうんですか?もう少し泣いていればよかったです。」
「こらこら、泣くなとは言わないけど、部長になったら泣いてる暇なんて滅多にないんだぞ。」
「女神先輩も合宿の時に泣いてたじゃないですか?私だって辛いことがあったら泣いちゃいますよ。」
「そうよね。メグの泣き顔はホント可愛かったわ。
でも、今度から泣く時はメグにじゃなくて、由香ちゃんや花火ちゃんと一緒に泣いた方がいいわ。
その方が真奈美ちゃんにとって“幸せな時”が来るはずよ。」
「女神先輩の作品みたいにですか?だったら、私もそうします。」
「そうだね。由香ちゃんや花火ちゃんなら真奈美ちゃんの本当の意味での心友になってくれると思うわ。」
「はい。あの絵の中の先輩たちの用に心からの笑顔で話せる心友になって見せます。」
「でも、あの絵は反則よね。私なんて浩太を叱ってる所じゃないの。」
「僕は竜のお弁当を奪おうとしてるところだぞ?」
「だって、あの時本当に幸せだったんだもん。」
「もう、恥ずかしい場面を描かれたはずなのにそんな風に言われたら、怒れないじゃないの。」
「全くだ。メグちゃんには負けるよ。」
三人はお互いに微笑みあい、そんな様子をみて真奈美もこれから美術部を頑張ろうと心に誓うのだった。
体育館に着くと、司や麻美、竜も秋たちのことを迎え入れ、先ほどの絵の用に微笑みあう六人の姿があった。
“幸せな時”それは人によって違うが、秋にとって、心から信頼できる友人たちとの一時それこそが本当に幸せな瞬間なのだろう。
「秋の絵はすごかったな。まるで本当にあった場面を抜き出したみたいやったやん。」
「竜ぅ。まるでじゃなくてぇ。本当にあった場面だよぉ。」
「え?ほんじゃあ、あれってやっぱり宝探しの時のなん?」
「そうだよ。ボクにとってあの宝は本当に大切な宝物だったからね。
思い出として絵に残しておきたかったんだ。」
「そっか。
あん時の写真もみんな大切に持ってるみたいやし、俺らにとって一番の宝ってやっぱ心友なんやろな。」
「そうね。私も秋ちゃんと今みたいな関係になれて本当に良かったと思ってるわ。
でも、欲を言えば、もっと親密になってほしいところが一か所あるけどね。」
「ん?もっと親密に?」
竜は司に、秋は麻美に、二人が付き合ってくれたら良いといった内容を耳打ちする。
「ちょま。そ、それはだな。えっと・・・」
「麻美ぃ。幸せな時だったんだからいいじゃないか。」
それぞれ真っ赤になりながら反論するのだが、お互いにテンパっており、互いに何を耳打ちされて反応しているのか気付いていない。
「どう?メグにとっての幸せな時って意味わかった?」
「そうね。私も秋から認められてあんな風に絵に残してもらいたいと本気で思ったわ。」
「ふふ、和美が男の子メグに惚れちゃうのも分かるわ。
メグは生まれ変わってもきっとメグだもの。
男だからとか女だからとかそういうのを超越して、周りを幸せにする何かを持ってるのよ。」
「そうね。私も秋が男の子でもきっと恋してたと思うわ。」
「あ、和美。鈴も和美と話してないで助けてよぉ。麻美がいじめるんだよぉ。」
「私も混ぜてもらおうかしら。秋の真っ赤な顔は可愛いから私もからかってみたくなるわ。」
「そんなぁ。和美までボクのことをいじめようとするなんて。ボクの味方はいないの?」
「私たちはいつだって秋ちゃんの味方よ私たちは心友だもの。
ただ、秋ちゃんの反応が可愛いから少しいじめたくなっちゃうだけよ。そうよね?」
麻美の言葉に和美も含めた六人が頷く。
そこには、新しい“幸せな時”が築かれようとしていた。
FIN
麻美(以降麻)「ちょっと待ちなさいよ。何よこのファインって。」
司「そうだよぉ。まだ、秋と竜付き合ってないじゃないかぁ。」
作者(以降作)「ごめんごめん。なんかすっごく良い感じだったからこれで終わりってのもありじゃないかと思ってね。」
麻「いい加減なこと言わないでよ。次は秋ちゃんのドロシーが待ってるのにこれで終わりなんてダメよ。」
司「そうだよぉ。劇のことあれだけ説明しておいてぇ。ここで終わりなんてぇ。読者のみなさんも許さないと思うなぁ。」
霞「私の出番もすくな過ぎじゃないかしら?」
作「ちょ、霞は司や麻美とは別次元の登場人物なんだから出てきちゃダメでしょ。」
霞「いいのよ。作者が出てきてる時点で本編とは関係ない場所なんだから。」
作「まぁそうだけどね。じゃあ、なんで作者がFINなんてつけたか説明しよう。」
三人「「「そうしなさい(ぃ)」」」
作「それはね・・・・シリアスに耐えきれなかったからだよ。」
三人「・・・」
麻「全然シリアスじゃないと思うわよ?」
作「だって、あそこの最後はもうちょっと秋とかが暴れ出したり、竜が失言したりしてほしかったんだよ。でも、流れ的にできなかったんだよね。」
司「まぁねぇ。あそこで秋を暴れさせたらぁ、作者の神経を疑うよぉ。」
作「でしょ?しかも、次の“オズ”はぶっちゃけコメディにしようと思ってるからさ。ワンクッションこうしてボケを挟まないと執筆が進まないんだよ。」
麻「だからって、こんなパラレルワールド作ってまでブレイキングタイム作らなくってもいいと思うわよ。」
霞「まぁおかげで、ここのところ出番がなかった私もセリフがあるわけだけど。」
作「ああ、霞は当分の間は出番ない予定だよ。」
霞「え?本当に?」
作「本当だよ。だって、旅行では竜たちに守ってもらって臨死体験しない予定だし、基本旅行先でもない限り洋司さんでことが足りちゃうってのが現状の設定だからね。」
霞「じゃあ、私なんで前回思わせブリな発言させられたのよ?」
作「だって、秋の謎に迫るなら従順で仕事一本やりな未緒よりも、エンマの娘という立場にありながら破天荒な霞のキャラの方が使いやすそうじゃない?」
霞「誉められてない気がするわ。」
作「まぁ、今後秋の謎を解く時には活躍してもらう予定だから今はゆっくりキャラを温めていてよ。」
麻「ねぇ?高校で私たち秋と一緒にならないのよね?」
作「そうだよ。心友メンバーに囲まれてたら秋が臨死体験しないからねぇ。」
麻「ということは、私たちが活躍できるのって、中学生編までじゃないかしら?」
作「確かに、高校とか大学のキャラ新しいの考えないと。作者のお気に入り達がみんな高校編で一旦とはいえ、離れてしまうのは作者的にもダメージが大きいよ。」
司「僕ってさぁ。初めて出会った心友なんでしょぉ?離れても執筆できるのぉ?」
作「う・・・司に関しては、書き分けもすっごく楽だし、離したくないのが本音だけど、計算してみたら臨死体験の数が少なすぎて、45までに36回も臨死体験できないんだよね。このまま行ったら。」
司「それで、僕たち心友を高校時代切り離して、回数を稼ごうってわけぇ?」
作「まぁ、そこは大人の都合ってことで。」
麻「全く、きちんと最終回までプロット作っておかないからこうやって序盤の設定の埋め合わせをすることになるんだから気をつけなさいよ。」
作「すみません。なんで、作者が自分の作ったキャラに叱られてるんだろう。」
麻「そんなの自分でキーボードたたいてるからに決まってるじゃないの。」
作「小説のキャラは自分の手を離れて独り歩きするって言うけど、本当だったんだね。AKI的にはもっとキャラたちは違うイメージだったんだけどなぁ。」
司「まぁ、良いんじゃないかなぁ。読者様はこんな作品だから読んでくれているわけだしぃ。」
作「そうだね。読者の皆様には本当に感謝してます。これからも、再転の姫君をよろしくお願いします。」
麻「何勝手にきれいにまとめようとしてるのよ。FINとか勝手に入れるし、パラレルワールド利用して今後のネタバレまでしたんだから、きちんと謝罪しなさいよ。」
作「麻美って、作中とここでのキャラが違う気がする。」
ギロリ
作「なんでもありません。読者の皆様突然このようなパラレルワールドを書いてしまい本当に申し訳ありませんでした。FINは嘘なので二話からもどうか再転の姫君を見捨てないで読んでください。」
霞「二話ってなによ。次話のことね。本当に誤字多いんだから、今後も誤字などありましたら報告お願いします。作者であるAKIも一生懸命書いていますが、漢字苦手だったり、修正忘れたりあると思いますので、どうか温かい目で見てあげてください。それでは、次回は秋がドロシーになってオズの魔法使いの世界を演じます。」
作「結局キャラ達に・・・」
司「まぁまぁ。今後頑張っていこうよぉ。」
作者は司に肩を叩かれ慰めだれるのだった。
作者も後悔しています。
途中までは宝探しの回くらい良い出来栄えだったようなそんな気がしています。
ただし、途中から本気でFINにしかけたことにより、だめだ、ここで終わってはいけないと考え、パラレルワールドを展開いたしました。
ドロシー秋も書かなくてはいけないし、秋の謎について全く放置のまま終わってしまうのはまずいし、中学生編だけでもFINにしたいという気持ちもありましたが、それだとドロシー秋を完全な番外編で書くしかなく、番外編は短い文章にしようと考えているのでそんなこともできずに、こうしてパラレルワールド出現という形になりました。とりあえず、今回のテーマを発表いたします。
“幸せの定義”です。作者にとっての幸せの定義をみなさんに押しつける気持はありませんが、作者にとっての幸せの定義をみなさんに伝えたくて、宝探しの時と同様に大切な宝物として心友を出させていただきました。
このような稚拙な文章ではありますが、お付き合いいただき本当にありがとうございました。
本当に次回に続きます。