チャプター30
ボクは不幸な少女がお似合い?
二学期が始まり、今日の残りの授業はHRだけだ。ボクは司と鈴と学園祭について話しながら吉川先生が来るのを待っていた。
ガラガラ
「ああ、今日はあいさつは帰りにまとめてやるから、今日のHRはクラスでする劇を発表するぞ。
クラス委員前にきて進めてくれ。」
「はい。」
クラス委員の和美ちゃんと要くんが前に出てきた。
「台本はクラスの代表者で先に決めてあります。今から配りますので各自目を通してください。」
和美ちゃんがそう言うと要くんが台本をみんなに配り、その台本には
“オズの魔法使い”と書いてあった。
5分くらいすると和美ちゃんはクラスを見渡してから話し出す。
「有名な作品なので、知ってる人も多いかと思います。
劇用に時間を短くしてあるので、少し内容が変わっていますが、基本的な登場人物は同じです。」
「和美。台本の中に歌が出てるんだけど、これ英詩じゃない。こんなの歌えないんじゃない?」
「大丈夫よ。鈴、だって、その
“Over the rainbow”を歌うのは女神ちゃんだもの。
女神ちゃんならこれくらい大丈夫よ。」
「ちょま、なんでボクが歌うことになってるの?
今日は配役を決めるんじゃないの?」
「まぁそうね。主人公のドロシーをやりたい人いますか?
いないみたいなので推薦ありますか?」
さっきの和美ちゃんの発言の影響か、クラスの全員がボクの方をみている気がする。
「気がするだけじゃないよぉ。全員が秋にドロシー、って思ってるよぉ。」
「鈴、助けて。」
「助けてあげたいけど、確かに“Over the rainbow”を歌うならドロシーはメグしかいないかな。」
一応最後の希望をとばかりに浩太の方に目を向けると、手のひらを上に両手を肩まで上げるポーズ。
お手上げということか。
「じゃあ、希望者もおらず、クラスの総意もあることだし、女神ちゃんにドロシーはやってもらうわ。
その他の配役は黒板に書き出すから希望のところに名前を書きに来てね。」
主人公だけ決め方が違うし、まるでボクを狙ったかのような決め方だった。
ボクは一年の時も同じように主人公にされた記憶があり、学校中に決められているような気分になる。
「う〜ん。本当に先生も含めた全員が秋の主人公を期待してると思うよぉ。」
「また口に出てた?」
「出てたわよ。というか、メグ以外が主人公をしたら学園祭の観客席が保護者だけになるから仕方ないわ。」
「え?去年は保護者だけじゃなかったっけ?」
「今年はぁ、色々な人が見に来るらしいよぉ。
教育関係のお偉いさんが来るからぁ、先生たちもぉ、秋が出てくれないと困るんだってさぁ。」
「司はよくそんなこと知ってるな。ま、そう言うわけだから頑張ってくれよ。」
先生は前にいたはずなのに、クラスのみんなが黒板に集まっている隙にボクの席の側に寄ってきていた。
「先生の給料がかかってるからボクを生贄にしたんですか?」
「まぁ、それもないとは言えないが、浩太から聞いた話によると、
周りからある程度支持されていた方が問題が発生しにくいんだろ?
それも考えて和美と要にも秋には主人公をと言ってあった。」
「う〜ん。そんな風に言われたらがんばるしかないじゃないですか。」
「そういうことだ。ドロシーみたいに異世界に飛ばされるかわいそうな少女なら条件にぴったりじゃないか。」
「間接的にボクのことも不幸少女だって言ってませんか?」
「まぁな。それより二人とも黒板に行かないでいいのか?
やりたい役全部もっていかれるぞ?」
「ボクの役はぁ、人気があるからぁ、すぐに決まることはないよぉ。」
「私のは逆に誰もやりたがらないから問題ないわ。」
黒板の方をみると、かかしが一番人気でブリキ・ライオンなどは数名が集まっており、
悪役である西の魔女のところには、誰も名前がなかった。
「鈴って、西の魔女をするの?」
「ええ、北の魔女も捨てがたかったけど、やっぱりヒールに徹してメグのことをいじめるのが良いとおもうの。」
「ボクも西の魔女がいいなぁ。西の魔女なら箒に乗って飛びまわったりするんでしょ?」
「本当に飛べるみたいに言わないでよ。
それにそんなこと言ったらドロシーだってたつまきで飛ばされるんだから、かなり激しい動きもあるわよ。」
「そっか、上手く悲劇のヒロインを演じながらも、冒険を楽しめばいいんだね。」
「メグらしいけど、舞台で人を投げ飛ばしたりしないでよ。」
「そういうのは、ライオンとかの役だからね。ライオン浩太にならないかな?
うまくボクの動きに合わせてくれたら、隠れて投げ飛ばせるのに。」
「普段は可愛いのに、ブラックメグが出てきてるわよ。
今回は、ヨッシーの言う通り、メグを思っての画策でもあるんだから怒っちゃダメよ。」
「はぁい。」
鈴は、そこまで言ってボクの隣から立ち上がり、黒板に向かった。
西の魔女のところに名前を書くと和美ちゃんと話し、帰ってきた。
「西の魔女で決まってよかったね。」
「聞こえてたの?」
「唇の動きで決まったっぽいことが分かっただけだよ。」
「読唇術?メグにできないことって何があるのよ・・・・」
「え?空も飛べないし、魔法だって使えないよ?」
「そんなこと分かってるわよ。普通の一般人が、なんで読唇術なんて覚えてるのよ。」
「う〜ん。小さい時に警察の人が教えてくれて覚えたから?」
「そうよね。何かと事故に巻き込まれているうちに、危機察知の知識が莫大な量になったんだったわね。」
「おかげで最近では安心して街で買い物ができるんだよ。」
「普通の人はみんな買い物くらいで安全確認しないわよ。」
「え〜。
だって、お金が動くところでは、色々な私利私欲が動くから、お買い物に行くのが一番危険なんだよ。
女性専門店とかだと問題起きたことがないのは不思議だけどね。」
「理由はだいたい分かるわ。
女性だけの場所なら確かに嫉妬じゃなくて尊敬の念の方が強くなるでしょうね。」
「なんで尊敬?
っていうか男の人がいると嫉妬ってそんなにボク男の人に嫌われるようなことしたかな?」
「違うわよ。男の人が嫌ってるんじゃないの。むしろ男の人からは好かれてるわよ。」
「ええ?じゃあ何で嫉妬されるの?」
「いいわ。メグにこれ以上話しても無駄な気がしてきたから、今度ゆっくりこの話はしましょうね。」
なぜか、話の途中で、鈴が頭を抱えてしまったのでボクはこれ以上聞くことができなくなった。
ちょうど、浩太がジャンケンでライオンの役を勝ち取ってこちらに来たのでそっちに声をかける。
「ライオンそんなにやりたかったの?」
「ライオンがよかったんじゃなくて、メグちゃんがドロシーなら周りの配役をある程度ボクらで埋めた方がいいと思ってね。」
「ああ、だから司もかかしをやろうとしてくれてるんだっけ、
去年は竜と二人で脇を固めてくれたから、今年は浩太なんだね。
鈴には悪いけど練習や本番では浩太のこと借りるね。」
「いいわよ。どうせメグの気持ちは誰かさんで一杯なんだから浮気の心配もないし。」
「はぅ。そ、そんなことは・・・」
「赤くなっちゃって可愛い!!」
鈴に抱きしめられてしまった。
というか、これはマッチポンプなのでは?
いじめておいて抱きしめて慰めるなんておかしいぞ。
「ところで、浩太の呼び方が夏休みくらいから、また変わった気がするのだが、気のせい?」
そう言って、鈴から離れる。
まだ少し顔が赤いかもしれないが、たぶん大丈夫だろう。
「ああ、鈴と話してるうちに移っちゃってね。
鈴も女神ちゃんからメグに変わったみたいだし、仕方無いかな。
まぁ、女神ちゃんより呼び易いしいいじゃないか。」
「うん。女神って呼ばれるよりもなんか良いよ。」
「そうだね。僕たちがメグちゃんって呼んでいればファンクラブでもそれが広がるかもしれないね。」
そんな会話をしていると司もかかしに決まったらしく、ボクの前の席に着くと、
グッと親指を立ててきたのでボクも返しておいた。
放課後、美術室
「女神先輩のクラスは“オズ”なんですか。ドロシー役の女神先輩・・・ふふふ。」
「真奈美ちゃん。なんでボクがドロシーってわかったの?」
「だって、ドロシーは女神先輩しかいないじゃないですか。
北の魔法使いという手もありますが、やっぱり舞台の中心で悲しげに微笑む女神先輩が一番ですよ。」
「ボクってそんなに不幸少女が似合うのかな?」
「そんなことないです。普段の秋先輩はどちらかというと不幸なんて全く感じさせません。
だからこそ、逆にギャップにみんながクラッと来ると思います。」
「ギャップねぇ。まぁ、一生懸命練習するし、ドロシーやってみせるよ。」
「でも、主人公なんて大丈夫なんすか?
女神先輩って学園祭の時作品もだすのに、そんな余裕あるんすか?」
確かに、ボクは学園祭の時に作品をいくつか出すことになっており、そちらでも忙しい。
「メグちゃんなら大丈夫だよ。そのために、後輩を育てたんだからね。」
「浩太の言う通りね。
メグの作品は夏の間に、ほぼ完成しているし、紹介はコンテストのリベンジも兼ねて真奈美ちゃんたちに頼むことにするわ。
ケーキの配布もほとんど真奈美ちゃんたちを中心にしてもらうつもりだしね。」
「そういうこと、ボクも全力でサポートするつもりだから心配はいらないけど、
学園祭は美術部にとって一番のイベントなんだから真奈美ちゃんたちには、
張り切ってもらわないとね。」
「うちの発言が藪蛇だったっす。うちらにそんな大役、荷が重いっす。」
「なに言ってるのよ。
私たちだって、去年は三人しかいなかったんだから、花火ちゃんと同じ年で同じことをやったのよ。
花火ちゃんたちなら大丈夫だって部長が言ってるんだから頑張りなさい。」
「鈴先輩。去年はどんなことしたんですか?」
由香ちゃんの質問から、去年の作品紹介の様子や今年との違いなどを説明することになり、
今日はほとんどの時間を学園祭の打ち合わせで使ってしまった。
明日からも準備で忙しくなるだろう。
「秋。そろそろ帰るで。」
「竜。わかったわ。じゃあみんなも明日から学園祭まで忙しくなるけど頑張りましょ。」
美術部のメンバーはそれぞれ学園祭での仕事が決まり、やる気とちょっとの不安を抱えて帰宅の道に着く。
「竜、また、ボク主人公になっちゃった。」
「ほんまか、大変やろうけどがんばるんやで。」
「でもぉ、秋はその劇の中でぇ、僕とのキスシーンがあるんだよぉ。」
「ちょま、そんなん中学生であかんやん。」
「もうぅ、台本も配役もきまっちゃったしぃ。」
そう言って、司と麻美は笑っている。ここは合わせるところかな?
「みんなで決めたことだし、仕方無いよ。麻美も許してね。」
「演技で仕方無くとは言ってもねぇ。竜くんはどう思う?」
「いや、それは、まぁ・・・」
後ろからだから見えないが竜が何かに焦っているのはわかった。
「冗談だよ。中学校の学園祭でキスシーンなんてあるわけないじゃないか。
助けてくれたお礼に手にキスをするだけだよ。しかも衣装の上からね。」
かかしの人気が高かったのはこれが原因でもあるらしいのだが、
思春期の男の子なんだからラブシーンに期待をしてしまうのも頷ける。
ボクも司で無かったら意識していたかもしれない。
「秋ちゃんは、いつも助けてくれているナイトにお礼はしないのかしら?」
ギクッ。麻美がからかいモードに入っている。
「ボ、ボクはいつもお礼は言ってるよ。ここは日本だからきちんと頭をさげてるもん。」
「麻美ぃ。ちゃんとナイトにはお礼のキスをしてあるから大丈夫だよぉ。
人工呼吸でだけどねぇ。」
「ちょま、あれは緊急事態で、そんなんじゃない。」
「そ、そうだよ。ボクは意識がなかったんだし。そういうのじゃないんだから。」
「そうだったねぇ。お礼のキスは運動会の後だったねぇ。」
「はぅ・・・」
顔が熱い。
竜の後ろに乗っているので竜にはバレていないが、その代わりに麻美と司のニヤニヤ顔をずっと眺めていなければならない。
そのあとも二人にからかわれて自宅に着く。
ボクは自分の部屋に入ると、昔買ったCDを探す、
“over the rainbow”〜虹の彼方に〜と邦題のタイトルが入ったものを見つけてデッキに乗せると聞き始める。
素敵な歌だよね。
こんな風にボクは歌えるのだろうか。
和美ちゃんも、ボクならって言ってたけど、こんな風にボクが歌えるとは思えない。
翌日からボクらは劇の準備に追われることになった。
衣装や小道具・大道具を脇役をしてくれてる友達が作成し、ボクらみたいな出番が多い子たちはその間も台本の読み合わせなどで大忙しになる。
「女神ちゃん!!そんなんじゃドロシーっぽくないわよ。」
意外と和美ちゃんは本格派なのか厳しく指導される。
要くんもブリキ役でセリフは多いのだが、恵美ちゃんと交代制で今は道具製作班の指示を出している。
「和美。なんか、メグに対してやけに厳しくない?
私が失敗してもあんなにきつく言わなかったんだけどな。」
「主役だから、一番出番も多いし、がんばってほしいだけだと思うよ。」
「まぁ、それだけならいいんだけど、もしメグのことを嫌いとかだったら劇中とかに不幸が起きる危険があるから。
注意しておくのよ。」
「うん。もしそうだったら、本番までに対策を練らないとね。」
「女神ちゃん。休憩してないで、台本は覚えたの?」
鈴と話していたら、また和美ちゃんに怒られてしまった。
台本の内容は覚えてしまっているので問題ないが、不幸少女というのに抵抗のあるボクはどうしても役になりきれず、注意されっぱなしだ。
「私はそろそろ、要くんと交代してくるから、私がいないからって練習さぼらないでね。
特に主役の女神ちゃんは、役になりきるまで台本を何回も読んでもらうから。」
そう言って、和美ちゃんが要くんを呼びに特別教室に向かうと、浩太と司が声を掛けてきた。
「和美ちゃんさぁ。かなり頑張ってるよねぇ。」
「そうだね。さっき鈴ともそのことについて話してたんだよね。」
「彼女はファンクラブにも入ってないから、ひょっとしたらメグちゃんのこと嫌っているかもしれないな。」
「女の子でファンクラブに入ってないからって、嫌う理由にはならないわよ。」
「いや、メグちゃんのファンはかなりの確率でファンクラブに入っているから、
ファンクラブにいない子のほとんどが、メグちゃんに嫉妬した子だと考えた方がいいと思う。」
「確かにねぇ。アンチ秋は大抵の子が竜とか僕がらみだからねぇ。」
「でも、和美って男の子に興味無いって感じだったわよ?」
鈴は先ほどとは違い和美ちゃんを擁護にまわった。
「そういう子の方が、裏で何考えてるのか分からないんじゃないかな?」
「浩太の言うことは分かったよ。
とにかく、和美ちゃんにきちんと理解してもらえるように話し合った方がよさそうだね。」
「そんなにぃ、心配しなくていいと思うけどぉ。
一応、秋と二人で一回話してみた方がいいかもねぇ。
その時はぁ、僕らが近くで控えるから、勝手に話しようとしないでねぇ。」
「うん。
でも、和美ちゃん一人くらいなら、そんな危険な目には合わないと思うから大丈夫よ。」
「メグの場合、危険な目にあっても、それが相手に及ばなければ良いとか思ってそうで怖いわ。」
「鈴ぅ。流石にボクだってそんなお人よしじゃないよ。
自分の命が危険になった時はそっちを優先するよ。」
「どうかしらね。あ、要くんも来たし練習再開しましょうか。」
話に区切りがついた時、ちょうど要くんが和美ちゃんと交代して戻ってきたため、
ボクらは練習を再開する。
要くんはブリキ役で恵美ちゃんと違いセリフも多いので練習する場所はかなり多い。
そういえば、和美ちゃんは北の魔女という重要だが、
出番が少ない役なのに、ボクらの方に要くんよりも多くいる気がする。
やっぱり何かあるのかもしれない。
ボクもみんなから恋愛関連についてはかなり鈍いといわれているし、きちんと観察しておかないといけないな。
翌日から、授業中や、休憩時間なども、恵美ちゃんの様子をうかがうようにした。
そうすると、明らかに目をそらされたり、声を掛けようとすると上手くはぐらかされる場面が多いことに気づいた。
劇の練習の時だけは、目をそらされることも、避けられることもなく、厳しく指導された。
部活が終わって帰り道。
今日は麻美と司がデートなので、竜と久しぶりに二人っきりだった。
「竜。また新たなアンチ秋の子が見つかったかもしれない。」
「ちょま、また俺の関係者か?」
「ううん。それは分からないけど、普段は顔も合わせてくれないのに、
劇の練習の時だけすっごく厳しいの。」
「それって、前に司たちが言ってた委員長の和美ちゃんやっけ?」
「うん。和美ちゃんって、テニス部だから司とも竜ともあんまりつながり無かったから気付かなかったけど、
この反応はやっぱまずいよね。」
「せやな。俺は今クラスちゃうから難しいけど、できるだけ一人になるなよ。
練習中に不幸とか起こってないんやったら、司たちが側におったら危険はないって事やし、
ひとりにならへんかったら大丈夫やとおもうでさ。」
「うん。じゃあ、朝と夕方は竜が守ってね。」
ボクが後ろから竜の背中にギュッと抱きつくと、
ちょっと照れているのか、「まかせとき。」と一言だけ返ってきた。
そこから会話はあまりなかったけど、ボクは竜に守られてるんだと思うと自然に顔がにやけてしまい。
家に着いてからも、和美ちゃんに嫌われているかもしれないことなんて気にしないで、
ゆっくり眠ることができた。わかれる時に竜が、
「俺にできることって少ないかもしれへんけど、秋のこと守ってやりたいから、
なんかあったらすぐに俺に言うんやで。」
そう言ってくれたのも嬉しかった。
最近竜なしの生活なんて考えられないな。
竜依存症なのかな?やっぱり、ボクは竜のこと大好きだよ。
数日すると、台本合わせは終わり、動きも入れての練習に入りだした。
和美ちゃんはやっぱり厳しくボクの動きなどを注意してきた。セリフも多く、
動きまで加わったのでどうしても簡単にはいかずに周囲の子も中々うまくできないみたいだ。
「はい。ちょっと休憩入れるわよ。」
みんなが悪戦苦闘しているのを見て和美ちゃんが休憩を入れた。
休憩に入ると、和美ちゃんはボクの方にきてみんなに聞こえないように小声で話しかけてきた。
「女神ちゃん、次最後のシーンするから、ちょっと来てくれるかしら?」
最後のシーンは、北の魔女がボクに魔法を掛けてカンサスに送り返すシーンだ。
最後のシーンでとっても大切な場面だし、
二人の動きとセリフのタイミングで照明などもいじらなくてはいけないので、
二人の呼吸が合わなくてはいけないからその打ち合わせだろう。
司たちも、やっと入った休憩なので、ゆっくりしてるし、ボクは注意されていたけど、
少しくらいならと、和美ちゃんについて廊下に出た。
「女神ちゃん。先にちょっと練習しましょ。私あんまり劇とかやったことなくて心配なの。」
厳しくビシバシ指示を出していたので慣れているのかと思っていたら、
和美ちゃんも手探りだったらしい。
慣れていないからどうやって指示を出してよいか分からなくってそれで変に厳しくしちゃったのかな?
そう思うとなんだか今までのことが可愛く思えてきてボクは頷いた。
「いいよ。和美ちゃんって緊張屋さんだったんだね。」
「う、うん。すっごくあがり症だから治るようにってクラス委員に立候補したの。」
「そうだったんだ。しっかりしてるからみんなをまとめるのとか慣れてるのかと思ってた。」
「そんなことないわ。それよりも休憩の間に一回通したいから早くしましょ。」
「うん。カンサスに帰るところでいいんだよね?」
「ええ、じゃあ始めるわよ。」
そう言って、和美ちゃんはボクの肩に魔法のステッキを置くと、セリフを言いだした。
「あなたを、カンサスに帰してあげましょう。さあ、眼を閉じて、カンサスの風景を思い出すのよ。」
あれ?
最後ってこんなだったっけ?
台本を見ながらセリフを言っているので間違いないだろうと考え、
ボクは次のセリフがどんなだったかを思い出しながら目を閉じた。
「さぁ、こっちを向いて、私にカンサスの風景を見せてちょうだい。」
そういって和美ちゃんはボクの顎を持ち上げると、顔を寄せてきたのが目をつぶりながらもなんとなくわかった。
あれ?
カンサスの風景を思い出せって言ってたのに頭じゃなくて口に近付いてない?
ガラガラ
「メグ。そろそろ・・・あんたら何やってるの?」
「ああ、もうそんな時間か。
和美ちゃんが最後のシーンの練習をしたいって言うから、ちょっと先に練習してたんだよ。」
「ああ、そうなんだ。とにかく、時間だからメグは先に行っててくれる?
私ちょっと和美と話があるから。」
ボクは和美ちゃんがあがり症で厳しくしていたことを、そっと鈴に耳打ちしておいた。
鈴が誤解して和美ちゃんに、変なことを言ったらかわいそうだと思ったのだ。
「ええ、大丈夫よ。私と和美は同じ小学出身だから良く分かってるつもりよ。
この子の性格とか好みもね。」
???
良く分からないけど、そういえば和美ちゃんと鈴は仲が良かった記憶があり、
ボクが竜たちと一緒にいて、鈴の側にいない時は良く話しているのを見かけたことを思い出した。
ボクは、教室の中にはいると、仲良しの邪魔をしてはいけないと、司と浩太の方へ行き、休憩しながらもさっきおかしかった、台本の確認をした。
新しいキャラクターたちが出現しましたね。
要はセリフもないし、特に絡みはありませんが、和美はかなり今後の展開にかかわってくる予感がしますね。
AKI的に中学生編でこれ以上キャラが増えるのはどうかと思ったのですが、キャラが少なすぎてオズの配役がクラスメイトAとかBとかになってしまうよりは良いかなと思い出現させました。
今回のテーマは“秋の鈍感力の強化”です。恋愛音痴な秋が竜に口説かれているところなど上手く書けていたら嬉しいです。
行き当たりばったりなAKIではありますが、今後も暖かい目でみていただけるとありがたいです。
それでは読者の皆様、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
大変申し訳ないのですが、更新あまりしなくなるかもしれません。