チャプター24
渚のビーナス
「おはようございます。」
「真奈美ちゃんは朝から元気がいいわね。」
「女神様も起きていたんですね。もう一度女神様の寝顔を拝見しようと急いできたのに残念です。」
「え?寝顔なんて見られてたの?恥ずかしい。」
「ああ、羞恥心に顔を赤らめている女神様も素敵です。」
「はいはい、変なこと言ってないでご飯にしましょ。昼食は海の家で済ませる予定だけど朝は旅館に頼んでおいたから大部屋に行くわよ。」
「鈴先輩、今日は海に行くんですよね?ということは先輩たちも水着を着るんですよね?」
「そうよ。水着までメグも作る余裕なかったから各自持って来たわよね?」
「はい。ちゃんと準備してきました。」
「ご飯にしましょ。鈴・秋ちゃん行きましょ。」
「あれ?麻美が鈴のことを呼び捨てにしてる?」
「ええ、心友になったからって昨日秋ちゃんが寝たあとに二人でお互いを呼び捨てにしようって話しあったのよ。」
「ずるい。ボクも呼び捨てでいいよ。そういえばボクはいっつも呼び捨てなのに麻美はちゃん付なんだもん。」
「う〜ん。秋ちゃんはずっとこう呼んできたからこれが一番親愛を込めての呼び方なのよ?」
「えへへ。じゃあどっちでもいいや。麻美の好きなように呼んで。」
「ああ、なんか先輩たちすっごく仲良しオーラを出してますね。女神様、私たちももっと親密になりましょ。」
そう言って真奈美ちゃんはボクにすり寄ってきた。
「その女神様ってどうにかならないの?それがなかったらボクも、もうちょっと打ち解けられると思うんだけどな。」
「会員規約ですから。」
「まぁ、真奈美ちゃんが決めた規約だからね。秋ちゃんがそういうなら僕も何か考えようかな。“様”って部分がよそよそしいんだろうから女神ちゃんならどうだい?」
いきなり声をかけられて四人は入口の方をみる。
「浩太、それに司も?ノックくらいしてよね。仮にも乙女の寝室だよ。」
「その乙女の寝室に入れないからって困っているパジャマを着替えたい後輩たちがいるんだけど?」
「あらら、由香ちゃんたちの着替えもこっちにおきっぱなしだっけ。二人に入るように言っておいて、あと女神ちゃんの方が断然今よりいいよ。」
「了解。」
浩太はおそらくどちらも了解したのだろう。外にいた二人に声をかけると大部屋の方へ司と一緒に向かっていったようだ。
「真奈美ちゃん?これはどういうことかな?」
「えっとですね。女神様にふさわしいような敬称をと考えた時にですね・・・・
私もこれから女神先輩って呼びます。それで許してもらえませんか?」
「ふむ。あのまま言い訳を続けていたら分からなかったけど、それで許してあげるわ。」
笑顔で許してあげると真奈美ちゃんは安心した顔になった。ちょっと頬が赤いのはいつものことだ。
「さ、あなたたちも着替えたら大部屋に来てね。すぐに海に行くから下に水着着ておくのよ。」
鈴に促されてボクらは大部屋に、真奈美ちゃんたちは着替えに取り掛かった。
「おはよう。竜たちは寝れた?」
「おはよう、秋。俺たちはしばらく話してたんやけど、武ちゃんに言われて寝たから十分睡眠はとったで。」
「引率ご苦労様。夜はボクも苦手だから助かったよ。」
「おう、明日はちゃんとこっちで寝てくれよ?何もないとはいえ男女混合の部屋なんて父さんにどう報告したらいいかわからないからな。」
「はぁい。」
会話をしていると、仲居さんが朝食を持ってきてくれた。
昨日の晩とは違い軽めではあるがとてもおいしそうだ。
コンテストの賞金が出たので、ボクも結構奮発している。
料理の準備が出来上がるちょっと前に真奈美ちゃんたち三人も着替えを終えて来たので、みんな揃ってご飯だ。
「朝からごちそうですね。」
「由香ちゃん。これは女神先輩だからよ。来年はこんな風には絶対にできないから、今のうちに楽しんでおきましょ。」
「そうっすね。女神先輩のコンテスト優勝なしではこんな贅沢できないっす。」
「さぁ、みんなもそろったんだし食べましょ、いただきます。」
「「いただきます。」」
ボクの掛声とともに食事を開始する。
みんな素直でいい子たちだ。
竜たちも既に着替えてあり、ご飯を食べたらすぐに海に向かえるだろう。
「うわぁ。すごい人ですね。まだ夏休み前とはいえ連休はやっぱり混みますね。」
「真奈美ちゃ〜ん。パラソル建てるのてつだいなさぁい。」
「はぁい。」
鈴の声に呼ばれて真奈美ちゃんは荷物を置いておくパラソルの設置に向かった。
麻美や浩太はインドア派なので、おそらくあそこでのんびり過ごすのだろう。
運動は苦手ではないが、鈴もたぶん浩太と一緒にいるかもしれない。
「秋ぃ。ビーチバレーしようぜぇ。武ちゃんが午前中は焼きたいから荷物の番してくれるってさぁ。」
あら、そういえば武兄ちゃんがいたんだっけ。
すっかり忘れてたわ。
「武兄ちゃんありがと、午後からは遊び疲れたメンバーがいると思うからゆっくり焼いてね。オイルでも塗ってあげようか?」
「妹に塗ってもらっても微妙だっつの。」
「だったらうちがやっるっす。バレーは人数が奇数になるし、午前中はうちもパラソルの側にいることにします。」
おお、花火ちゃんも積極的だね。
まぁ、武兄ちゃんの雰囲気みてると、完全に子どもの相手をしているお兄さんだけどね。
「じゃあ、チーム作るわよ。実力が均等になるように、
竜・司・鈴・真奈美ちゃんチームと
ボク・浩太・麻美・由香ちゃんチームでいいかな?」
「秋先輩?どこが均等なんですか?」
「いや、たしかに寄りすぎとるな。
司と浩太を交代して秋はサーブ・スパイクしないってくらいがベストやろ。」
「ええ?スパイク打ちたかったのにぃ。竜のケチィ。」
「女神先輩と一緒のチームじゃないんですか。」
「まぁまぁ。真奈美ちゃんも由香ちゃんもぉ。始めたらこれでもハンディ少ないとおもうはずさぁ。」
「メグの能力はあり得ないからね。スパイクもサーブも誰もとれないからこれは仕方ないわ。」
「大丈夫よ。竜と司ならなんとかなるって。」
「いや、あれは俺にも無理や。コースとタイミングがわかっとれば、何とかなるかもしれんが、フリわけられたら取れても百球に一回で良い方やで。」
「またそういうデマを後輩に流す。一回軽く打ってみて決めましょうよ。」
「必要ないと思うで?まぁそんなん言うならあげたるわ。司〜とりあえず死ぬなよ。」
「ええ?僕がうけるのぉ?」
「あほか、他の奴が受けたら午前中お寝んねやろが。」
「仕方がないなぁ。じゃあ四割までにしてよぉ。」
「オッケー!元々そんな強く打つ気はないわよ。」
そう声をかけると、竜がボールを上げてくれる。竜はバレーもいけるかな?
結構打ちやすいところに上げてくれる。
バシンッ ゴー ボンッ
「いったぁ。四割って言ったのにぃ。」
「ごめんごめん。竜が良いとこに上げてくれたからついね。」
「えっと?秋先輩?あれで何割くらいなんでしょうか?」
「ん〜と、つい力が入っちゃったから五割くらいかな?」
「五割で十分世界狙えますよ。秋先輩って本当に文武両道なんですね。」
「というよりも女神よね。メグのスペックは神の領域よ。」
「ですよね。女神先輩素敵です。」
「あらら、やっぱりサーブとスパイク無しでいいや。一発撃てたからすっきりしたしね。」
こうしてビーチバレーは始まった。
試合はボクにハンディが付いたことによって結構いい感じで白熱した。
竜たちはみんなで拾って鈴が上げ、バスケで活かしたジャンプ力と元々の身長でかなり良いスパイクが落とされる。
ボクの方に飛ばさないので結構得点を稼いでいた。
こちらもボクがレシーブやトスをあげると司がうまくスパイクを決めたり前に落としたりしていた。
「ナイススパイク!!」
バシンと司とハイタッチを交わす。
「流石に幼稚園からコンビ組んでるだけあるわね。即席コンビの私たちじゃ、ちと荷が重いわ。」
「そんなことないわよ。確かにあの二人ほどぴったりじゃないけど、竜くんの身長とジャンプ力があるから良い試合になったじゃない。」
「麻美の言う通りだね。ボクがハンディあったとはいえ、良い試合だったし、楽しかったよ。」
「でも、みんな砂まみれになってまったな。そして秋はいつになったらシャツ脱ぐんや?」
「ふふふ、シャツを着ている状態でもこれだけ視線が集まってるんだから、メグがシャツ脱いじゃったら一番困るのは竜くんじゃないかしら?」
「鈴ったら。ボクらの集団は可愛い子多いから確かに視線を集めてるけど、ボクが脱いだくらいで変わったりしないよ。」
そうなのだ。ボクはまだシャツを着ている。
最近大きくなった胸の影響で今まで使っていた水着が着れなくなったので新しいのを買ったのだが、鈴に強引に進められ結構露出の多い水着なので恥ずかしい。
鈴や麻美はそれぞれツーピースの水着を着ており、麻美は腰のところからパレオをつけた黒のもので、鈴は青にパンツのついたものを、どっちも良く似合っている。
真奈美ちゃんと由香ちゃんはそれぞれ胸にコンプレックスがあるのでワンピースタイプの、真奈美ちゃんはちょっとフリルのついた、由香ちゃんはプリント柄の可愛い水着を着ていた。
「それに、ボクの水着姿なんて微妙だし、みんなみたいに似合ってないから。」
「女神先輩に似合わない水着なんてないですよ。もし似合わなくても、それは女神先輩の責任では絶対にないです。」
「そうよ。秋ちゃんはスタイルもいいんだから、きっと浜辺の男子全員を振り向かせるわ。」
「それは逆に嫌なんだけど、みんながそういうなら。」
そういってボクは下まで隠すように着ていた大きめのシャツを脱いだ。
なんかみんなの視線がいたい。そんなにジロジロ見ないでほしい。
「似合ってないかな?」
何も言ってもらえないので恥ずかしくなって尋ねると、一番に鈴が答えてくれた。
「似合ってるけど、やっぱりシャツは着ておいた方がいいわ。海に入る時だけ脱ぐようにしましょ。
ということでさっそく海に入るわよ。あんまり浜辺でぐずぐずしていると人が集まってくるわ。」
似合ってはいるらしいが、注目を集めるようなデザインらしい。
赤と白のストライプに犬の足跡がついた可愛い水着なのだが、ちょっと奇抜なデザイン過ぎたらしい。
「秋ちゃん。違うわよ。というか、口に出す癖治らないわね。時々こんな風に恥ずかしがったり、混乱してると口に出てるから。」
「ありゃ、これでも気をつけてるんだけどね。」
「まぁそんなことは良いよぉ。とにかく海に行こうぅ。海の中に入っちゃえば水で見えないから安心だよぉ。竜も見とれてないでいくよぉ?」
竜は見とれていたらしい。
感情が表に出やすい竜なので、わかりやすい反応をしてくれるので安心する。
竜がそんな感じということはそこまで悪くはないだろう。
「由香ちゃん、真奈美ちゃん。ボールとこのシャツをパラソルのところまで持って行ってくれる?ネットは武満さんが片付けてくれると思うから。」
「はい。早く女神先輩を安全な海に連れて行ってあげてください。」
安全な海って、真奈美ちゃんは海の怖さをしらないんだな。
結構危険なんだぞ。
「秋、俺から離れるなよ。不幸体質が発動するのも危険だが、今はもっと危険な状態にある。」
竜、標準語になってるよ。そんな焦るほど危険があるなんて。
せかされる形となったが、竜たちと海に入って行った。
冷たい水がバレーで運動してほてった体を癒してくれる。
「気持良い♪」
「秋ちゃんは泳ぐのも平気よね?」
「人体って元々浮くようにできてるからね。ボクは沈む方が難しいと思うんだけど。」
「いやいや、普通は泳がなかったら沈むわよ。ってメグってどうやって泳いでるの?」
「ん?今は地面に足がついてるけど?キャッ!!」
ザバーン
ボクは何者かに足の下に潜られて、その上に立っていたようだ。
「ちょっと、何するのよ。」
「秋にも泳げない人の気持ちを分かってもらおうと思ってな。」
「そうだよぉ。浩太を見てごらんよぉ。あれ以上先は深いからぁ、絶対にいかないんだよぉ。」
今ボクたちは、浩太と鈴を置いて深い所まで来ている。
浩太は泳げないので浅瀬で鈴に泳ぎの特訓をうけるそうだ。
というか鈴に泳げないことがばれて強制的らしい。
「こうしてみると、あの二人って結構うまが合ってるのかもね。」
「そうだねぇ。浩太がもう少し歩み寄れば自然と良い雰囲気になると思うよぉ。」
「なぁんだ。結構みんなにばれてるんだね。麻美はいつから知ってるの?」
「私はクラスも違うし、確認を取ったのは昨日の晩よ。鈴の気持ちに気づいたのは宝探しの時ね。お弁当に浩太くん用があったからね。」
「そうやったんや。鈴が浩太を好きやったなんて知らんかったわ。
だから、昨日あんなことしたんやな。」
「あのねぇ。そうじゃなかったらわざわざあんなところ見せたりしないわよ。」
「竜ぅ?何があったのぉ?」
こういう質問の時にボクじゃなくて竜に尋ねるあたりは昔からの仲だけはある。
竜なら隠そうとしてもボロが出るから隠しきれない。観念したボクは二人に事情を説明した。
「へぇ。秋ちゃんの体をそんな風に、竜くんも大胆ね。」
「この場合秋が大胆なんだよぉ。触って欲しいのぉ。なんて言って竜を誘惑したんだよぉ。」
「ちょま、きちんと話を聞いてたのか?俺は、秋の体の異常を調べるためにだな。」
「はいはい、真っ赤になってるわよ。」
「ついでにぃ、標準語になる時はぁ、動揺してるかぁ、嘘をついてる時だからぁ。」
「あらそうなの。ってことは何を隠してるのかなぁ?秋ちゃんの体をちょっと触ったくらいで浩太くんが誤解するはずないものね。」
「そうなの。ボク汚れてしまったの。」
「まてまて、なんで秋までからかうんだよ。足を触ってるところを浩太たちに見せて、鈴に誤解するように伝えてもらっただけだろ?」
「怪しいねぇ。まだ標準語が抜けてないってことはぁ、まだ何か隠してるねぇ。」
「実際のところどうなの?秋ちゃんはどこまで竜くんにされたの?」
「えっと、鋭い目つきで視姦されて、情熱的に揉まれました。」
「ちがぁう。違ってないけど違う。
真剣なのは秋の体が心配だったからだし、揉んだのは足でそれも筋肉をきちんと調べるためだ。」
「「あははははは。」」
「竜ぅ。そんなことはわかってるんだよぉ。」
「そうよね。何の意味もなくそんなことしたら、竜くん今頃サメの餌よ。
秋ちゃんも、人が悪いわね。」
「だって、竜があんまりにも焦るからおもしろくって。」
「なんやねん。こっちは災難やわ。」
「竜、ありがとね。ボクのことを心配してくれたのが今のですっごくわかったよ。」
「あほう。心友なんやから当然やろ。」
「ふふふ、心友って素敵ね。体中をなめまわすように触ったりするんだ。
私にはしないでね竜くん。」
「あほか、秋いがゴニョゴニョしない。」
麻美はきっちり最後まで竜をからかうのを忘れないようだ。
ボクも犠牲になったことが何度もあるからこれには勝てない。
竜は真赤になって何かつぶやいている。
「竜いじめも楽しいけど、せっかくの海だし泳ごうよ。
あんまり、竜と離れるとサメとか出てきちゃまずいからボクは竜と泳ぐけど、麻美と司は自由に泳いでいいのよ?」
「う〜ん。最近はさぁ。きちんと自分たちの時間も作れるようになったからぁ。
四人でいる方が楽しい時は四人で遊ぶよぉ。」
「司に賛成ね。私も秋ちゃんと一緒にいて楽しいもの。それとも二人っきりになりたいのかしら?」
「ううん。ボクも麻美と司と一緒にいれて楽しい♪」
みんなといるのがすごく楽しかったボクは麻美と司に笑顔で答えた。
司が竜に何かを言っていたが、どうせまたさっきみたいにボクにいたずらを考えているだろうから注意しておかないと。
そのあと結局四人でじゃれあいながら遊び。
真奈美ちゃんたちもネットを片づけ終わったらしく合流して竜と司が空腹を訴えるまで泳いだ。
「久しぶりに、いっぱい泳いだね。うちの中学はプール無いから、こうでもしないとおよげないから嫌だよ。」
「あら?秋ちゃんの髪の毛、色が変わって見えない?」
「ホントです。女神先輩の髪の色が緑に見えます。」
「ああ、なんか臨死体験したあとから緑色の髪の毛が生え出しちゃってさ。家族と相談して染めてるのよ。海でちょっと落ちちゃったかな?」
「その色も悪くはないんやけど、結構目立つからっておじさんが染めるようにいうてたな。」
「どうするのぉ?黒染めもってきてるぅ?」
「一応海に入るからって用意はしてきたけどしばらくは良いわよ。
どうせ昨日の写真で活動報告は済むんだから、学校に見せるわけでもないから今日の夜にでももう一度染めるわ。」
「でも、秋先輩の色奇麗ですよ。染めるなんてもったいない気がします。」
「う〜ん。自毛が緑だなんてあんまり自慢できないわよ。
昔はちょっと茶色が混ざってるだけだったから良いけど、緑だと生徒指導につかまっちゃうわ。」
「秋ちゃんも大変ね。普通に染めるだけならいいけど、生え際が緑なんじゃ市販のものでごまかすしかないものね。」
ボクの場合、プリンになったら染め直すというわけにもいかず、髪を切りに行く時は専門の人にしてもらうこともあるが、どうしても生え際などの処理のために自分で薬局の黒戻しを使っている。
こうして水につかったりすると時々とれてしまうのは仕方がない。
「おかえり、メグ、その頭どうしたの?」
「いやぁ。海藻にまで好かれるみたいでこびりついちゃったのよ。」
「嘘つかないの。鈴、実はね。」
さっきの説明を麻美が、鈴たちにもしてくれる。
元々知っている武兄ちゃんは特に反応はみせないが、初めて聞いた浩太と鈴と花火ちゃんは驚いていた。
「まぁそういうわけだから、しばらく緑の髪の毛よ。気にしないでね。」
「それより、早くシャツ着た方が良いみたいやな。髪の毛で目立つし、みんなもシャツ着たら海の家いって飯にしよか。」
「俺たちはさっき食べてきたんだ。海で最後まで泳いでいた六人で行っておいで、浩太くんと鈴ちゃんは引き続き泳ぎの特訓かな?」
「そうね。だいぶ浮くようになってきたから息継ぎさえ覚えたら問題ないわ。」
「へぇ。小学校の先生がいくら教えても泳げなかったのに、鈴って教師とか向いてるかもね。」
「ああ、鈴の教え方は意外とうまいぞ。今まで泳げなかったのが馬鹿みたいだ。」
浩太と鈴も中々うまくいってるらしい。
金鎚だった浩太が今は泳げるようになるのが楽しいみたいだ。
「じゃあ、ご飯食べてくるねぇ。午前中荷物見ててくれてありがとう。武兄ちゃんと花火ちゃんもボクらが帰ってきたら海行っておいでよ。」
「おう。まぁゆっくり食べておいで、お兄ちゃんものんびり待ってるから。」
海の家に向かっているボクらの後ろで、武兄ちゃんが花火ちゃんに
「一人で大丈夫だし、行っておいでよ。」
なんてことを言っている。
武兄ちゃんの中では完全に子どもなのだろう。
まぁロリコンなのは困るが、花火ちゃんの様子に気づいてない鈍感なのもちょっと困りものだ。
「さすがぁ、秋の兄妹だねぇ。」
「確かにね。あの鈍感さは秋ちゃんとそっくりよ。」
「どういう意味よ。ボクは武兄ちゃんほど鈍感じゃないよ。空気だって読めるもん。」
「武ちゃんもぉ。空気は読めるよぉ。ただしぃ、自分に対する気持ちだけは鈍感になるんだよねぇ。」
「う・・・確かに似てるかも。」
ボクはこれまで何度も告白を受けてきたが、決闘の申し込みか何かと思って竜や司を連れていくことは結構ある。
司などは途中から一緒に来てくれなくなったが、竜は断りやすいだろうと思ってか毎回来てくれて、実際告白を断る時に便利だ。
「焼きそばください。」
海の家で食べる焼きそばってなんでこんなにおいしいんだろう。
すっごい幸せだ。
「秋ちゃんって本当に幸せそうに食べるわね。」
「竜や司にはまけるけどね。二人の食いっぷりは異常だし。」
「なんでやねん。俺らは成長期なんやからええんや。午前中いっぱい泳いだし、これくらいくったかて太らへんからな。」
「竜は食べた分だけ大きくなったねぇ。僕もたべてるけどぉ竜ほどじゃないよぉ。」
「武ちゃんの財布もってきたんやろ?おかわりしてええか?」
「いいわよ。ボクは次も焼きそばだなぁ。イカ焼きそばお願いしまぁす。」
「まだ食べるんですか?竜先輩って体が大きいから食べれるんだとは思ってましたが、すごいですね。」
「女神先輩も竜先輩と同じくらい食べてません?それだけ食べても太らないのは竜先輩よりもある意味すごいですね。」
ボクと竜は武兄ちゃんの財布があるので、お腹一杯食べる気満々だ。
司もそこそこ食べているが、竜はこれで焼きそば一つとカレーを二杯、次はラーメンを頼むようだ。
「海の家の焼きそばだから入るのよ。普段はこんなに食べないわよ。」
「いやいや、秋ちゃんは昔から男の子と同じだけの量食べても太らなかったわよ。」
「そうだっけ?まぁ運動してたからね。」
「焼きそばとラーメンお待ちどうさま。」
「いただきます。」
ボクは合計三皿目となる焼きそばに箸を伸ばした。
うーん、美味しい。
「御馳走様。三皿も食べるとおなかいっぱいね。」
「武ちゃんに感謝やな。」
「ホントだねぇ。食べ過ぎたしパラソルのところで休憩しようかぁ。」
「御馳走様でした。私はそんなに食べてないけど、三人の食べっぷりにお腹がいっぱいよ。」
「「私もです。」」
女の子三人はそんなに食べなかったが、ボクらの食欲をみて満腹らしい。
つい、昔みたいに竜と司と張り合って食べてしまったのでボクもおなかいっぱいであまり動きたくない。
パラソルの場所で武兄ちゃんと交代した。
「花火はずっと武満さんと一緒に荷物番してたでしょ?午後からは私たちと一緒に行きましょ。武満さんも一緒に遊びましょうよ。」
「ああ、ひとりで泳いでもつまらないから、一緒にいかせてもらうよ。」
完全に保護者の対応だな。
花火ちゃんがんばれ、でも武兄ちゃんにロリコンになってほしくもないかな。
複雑だ。
「声にでとるぞ?ほんま俺らとおると油断しまくりやな。」
「いやぁ、竜とか司とか麻美と一緒にいると油断しちゃうことがわかりましたな。」
「昨日の夜も話しとる途中で寝るんやから。まぁ、俺らの前ではええけどな。って昨日も同じこと言ったか。」
「へぇ。昨日の夜そんなのことがあったんだ。私にも詳しく聞かせてほしいなぁ。秋ちゃんのひ・み・つ♪」
「麻美さん、黒い水着を着ているはずなのにピンク色のオーラが出てますよ。」
「麻美ぃ。ここは根掘り葉掘り聞いたって面白いことは出てこないからぁ。二人っきりにしてあげるのがいいよぉ。」
「それもそうね。お邪魔虫は退散したほうがいいかしら。」
結局二人にからかわれて過ごしていると、
「痛い。お腹が・・・」
ボクは先ほど食べ過ぎたのか、焼きそばのイカに当たったのか意識を失った。
『やっほぉ。秋ちゃん!!』
『え?えええ?霞さん?なんでこんなところに?』
『実は、洋司様の担当地区以外は私が来るようになってるのよ。といっても予定ではあまり回数ないんだけどね。』
『そうなんですか。じゃあ今回は記憶を操作して、もどして終わりですか?』
『お話をするくらいはできるけど、特に伝えることはないわね。
というか、私はずっと洋司様とあなたの動向を見てきたから初対面じゃないけど、なんであなたは私のことを知ってる雰囲気なの?』
『あ、そっか。霞さんは再転してるから過去の記憶とか無いんですよね。はじめまして。』
『え?どういうことかしら?秋ちゃんって臨死体験が多いからって理由で冥界に保護される予定の子よね?』
『あ、そうです。あんまりにも臨死体験がおおいので、冥界の業務が滞るってことで女の子になりました。』
おかしいな。洋司さんの話だと、ボクは鬼人になっていくはずだよね?
この対応だとまるで一般人を相手しているみたいだ。
『洋司様から聞いている話だと、通常よりも特殊な体験をするから保護するようにってことだったんだけど。』
『はい。ボクは現世で最も冥界に近い存在らしいです。今も三度目の臨死体験を経験してますし、今後36回もこんなことがあると思うと憂鬱です。』
『え?36回も臨死体験?それはすごいわね。というか、エンマ帳を見てないのに何故そんなことがわかるのかしら?』
『えっと、なんだか洋司さんと話が食い違ってるみたいなのでボクの方から説明できないと思います。』
『そう、でもさっきまでの会話で、何かあるのだけはわかったわ。さてと、ちょっと食当たりしただけだからもう息を吹き返すはずよ。』
そういって霞さんが取り出したエンマ帳は今まで見たものとは全く違うものだった。
『そのエンマ帳ボクのじゃないですよね?』
『ああ、洋司様がお持ちになっている原本を見たことがあるのね?
エンマ帳の原本なんて滅多に持ち出せないから、普段はこうして、大勢のデータをまとめたものを持ち運べるようになってるのよ。』
うん。
確実に何かあるね。
洋司さんはそういえば再転後にボクのエンマ帳を開いたことはない。
前ならエンマ帳を覗きながら生きかえるタイミングを確認したりしていたような場面でも出さなかったのは今思うとおかしい。
『わかりました。次に洋司さんに会う時にはボクの方でも確認を入れておきます。』
『えっと、何がどうなってるのかわからないけど、記憶を現世用のものに戻すわね。
冥界の記憶だけ消して臨死体験の時は戻すなんて私は初めてのことだからちょっと時間がかかるから話はまた今度にしましょ。』
『はい。未緒さんの時にも言われたのでわかってます。』
『ほんとどうなってるのかしら?』
最後まで混乱していたが、流石にエンマの娘だけあって洋司さん程ではないがさほど時間もかからないと言っていた。
そしてボクは現世に戻っていく。
「うぅ。」
「武満さんおきました。救急車大丈夫です。」
「麻美?またボク死にかけてた?」
「そうみたいね。武満さんも砂浜にケータイなんて持ってきてなかったからさっき司が旅館に向かっていったんだけど、救急車はいらなかったみたいね。」
「あはは、食当たりで倒れるなんて恥ずかしい。」
「メグ、よかったよぉ。」
鈴は起き上ったボクに抱きついてきた。
鈴の他にも電話をかけに行った司とそれを止めにさっき走って行った武兄ちゃん以外全員が心配そうに顔を覗きこんでくる。
「泣かないで、今回はただの食当たりなんだから大丈夫だよ。前なんてバスにひかれたんだからこんなのでボクは死んだりしないよ。」
「バスにひかれて生きてたんすか?女神先輩はすごいっすね。」
比較的落ち着いている花火ちゃんが反応してくれた。
あとのみんなは涙を流していたりとかなり心配したようだ。
しかし、麻美はこんな時にも笑顔をみせてくれた。
ボクら六人の中で一番事故などに巻き込まれたら危ないかと思っていたが、精神面では一番強いかもしれない。
「とにかく秋ちゃんが無事でよかったわ。でも、倒れたんだから一応旅館に帰りましょ。他のみんなはどうする?」
「ボクが決めても今の状態じゃ説得力ないから浩太と鈴で今後について考えて、とりあえずボクは麻美と竜の三人で旅館にいってくるよ。
この状態で竜と離れるのは余計に危険だから。」
「ほんま、心配かけやがって、流石に食当たりまでは俺でも回避できへんわ。」
そういうと、竜はボクを御姫様だっこした。
「ちょっと、みんなが見てるのにこれは恥ずかしいよ。」
「気にすんな。それに昨日の夜も秋が寝てもうたから、こうして部屋まで運んだんやぞ?」
「余計に気にするよ。恥ずかしい。おろして。」
「あかん。心配かけた罰やで、これぐらい我慢しい。これくらいせえへんと俺も気が落ちつかへんねん。さっきは、なんも対処したれへんかったからな。」
そこまで言われると反論できない。
羞恥心に顔を赤らめながらも、竜の大きな体に抱かれて旅館に向かった。
久方ぶりの霞さん登場です。
さて、今回のテーマは“秋の秘密”でした。主人公なのに謎が一番多いのは秋ですよね。ちょっと自分のことには鈍感な秋は実は色々なところでだまされてますよ的なノリです。伝わったでしょうか?霞がそれらの鍵になってくれることでしょう。
本編は秋の幸せをつかむことと、臨死体験に伴って判明する鬼人や冥界の謎の二つのストーリーが混ざっております。どっちも秋に影響を与えるため手を抜くことができません。でも、一つのストーリーにしておけばと後悔もしています。冥界の話は最初の構想のときからあったので仕方ないか・・・・
とにかく頑張ってみます。
それでは、今回もありがとうございました。