チャプター22
ご都合主義全開でまいります。
合宿始動
「まず始めにみんなにボクからの注意点があるから聞いてちょうだい。」
武兄ちゃんの車が着き、旅館に全員が着くと、大部屋にみんなを集めてミーティングを開始した。
一応着替えなどもあるのでもう一つ部屋を借りたが、どうせ夜中までみんなで遊んで過ごすので物置代わりとコンテストのために借りたような部屋だ。
「これは、あくまでクラブの活動の一環なので羽目を外し過ぎないように、特に男子は浪漫に走って女湯を覗こうなんてしたら明日はないものと思いなさい。」
「ちょま、なんで俺だけ睨むねん。この中で一番やりそうなのは浩太やろ。」
「僕は壁をよじ登るほど体力がないからってことじゃない?」
「正解よ。司は麻美がいるから安心だから唯一覗きができる竜と武兄ちゃんが心配ね。二人とも絶対にしないでね。」
「「了解。」」
「次に、今回の合宿はコンテストの参加と創作のための見聞を広めることが目的よ。
普段とは違う場所でこんなものが作りたいとか、この風景を残したい、など思いついたら忘れないように各自しっかりメモを取りなさい。」
「「「はぁい。」」」
部員たちからは良い返事が返ってきたので安心だ。
「じゃあ、あとは部員として恥ずかしい行動をとらなければ基本は自由よ。
今日はコンテストがあるので海はいけないから近くの町並みを見たりしてコンテストの準備を考えて5時にはこの旅館に帰ってくること。
解散。」
「わ〜い。」
創作の題材探しなどと言っているが、メモを持っている以外はほとんど旅行に来たのと変わらない。
ボクは下手に街にでると面倒が起るので、部屋で作業の予定だ。
「秋、どうせぇ、自分は部屋にいるつもりなんでしょぉ?僕たちものころうかぁ?」
「いいよ。司と麻美はせっかくなんだからデートしておいでよ。
部員たちは残りたいって言っても行かせるけど、竜はどうする?」
「うーん。司らについて行ったら邪魔になるだけやしな。武ちゃんどっか一緒にいかへん?」
「俺はさっき花火ちゃん達に誘われたから一年生の子たち三人についていくよ。」
「そっか。ほな、俺もここでのんびりしとるわ。いってらっしゃい。」
こうしてボクと竜を残してみんなは街へと出て行った。
一年生集団はお兄ちゃんに色々な昔の話を尋ねるだろう。
先手を打ってお兄ちゃんには恥ずかしい過去を言ったら涙巻き弁当を友人の分まで用意することを伝えてあるので問題ない。
浩太と麻美は美術部の部員なのでお店などを回ったりしていることだろう。
この旅館の近くは民芸品などの店が多いのと自然が豊かなので遊んでいるだけで創作のヒントなどが見つかるだろう。
司と麻美はどうせラブラブだ。
「竜、暇でしょ?」
「ん?そうだけど、何か手伝ってほしいのか?」
「うん、もう一つの部屋に一緒に行って荷物を運んでほしいの。」
「いいぜ、今度は何を作るんだ?」
話しながら立ち上がり、もう一つ取ってある部屋へと向かった。
「浴衣に合わせて髪飾りなんかをね。といっても当日作ってたら間に合わないからほとんでできているんだけど。」
「すげえな。これだと全身が秋の作品を展示するショーウィンドウになってまうな。」
「まぁね。美術部って言ってるけど、芸術作品ならオールオッケーな部だから、こういうのもあるってのを見せる意味でもいい機会だからね。」
「なるほどな、でもその髪飾りとかもあげちゃうんやろ?」
「もちろんタダではあげないわよ。エントリー者の情報はつかんだから、入賞したらあげるってみんなには伝えるつもりよ。
お金で賞を買おうとしてた人は全部事前に潰しておいたから、今回のエントリー者はたいしたことない人が集まってくれたのよ。
自信もついて、お金ももらえて、みんなへの思い出をプレゼントできて本当に助かったわ。」
「部長やっとるんやな。俺らはまだ先輩らおるからついてっとるだけやわ。」
「夏の大会終わったら先輩たち引退でしょ?この合宿終わったらすぐじゃない。」
「せやな。でもキャプテンとか俺のキャラにあわへんから誰かにやってもらうつもりやねんけどな。」
話している間に部屋についたので、まとめておいた箱と作業用の道具をもって先ほどの部屋に戻る。
「竜ならできると思うよ。これで結構頼りになるとこあるしね。」
「キャプテンになったら忙しくなるから秋の側におれへんやん。俺がおらんとまた不幸少女になってまうぞ?」
「う〜ん。それは困るかも。じゃあさ、高校生になって同じ高校に通うようになったらキャプテンになってよ。
ボクがマネージャーしてあげるからさ。
キャプテンとマネージャーなら一緒にいれるでしょ?」
「それならええな。秋はどこ受けるつもりなん?正直どこでも行けるやろ?」
「前ほど不幸少女に抵抗はなくなったとは言っても、目立って不特定多数の人と関わりをもつのはやっぱり嫌だから、そこそこの高校に行くつもりよ。
T高なんてどう?竜なら十分いけると思うし、特待生制度があるから、がんばればお金かからないわよ。」
「T高か、妥当なところやな。海良からも近いで、電車とかに乗らんですむし、ええと思うわ。」
「その代わりしっかり勉強もクラブも頑張りなさいよ。
どっちの手を抜いても竜はもったいないんだから。」
「まぁ、特待生は無理でも準特待生くらいにはがんばれば、なれそうやもんな。」
「そうね。受験のシーズンになったら今度は勉強合宿ね、でもごめんだけど主席はボクがなるよ。」
「しゃあないやろ。前世の記憶やっけ?
この前大学受験の試験問題が満点やったってことは、前世はすっげぇ頭良かったんやな。」
「それなんだけどさ。まだ確証はないけど、変なのよね。」
ガラガラ
部屋に着いたので作業を始めながら話す。
デザインを考えたりする時は無理だが、今はデザインの通り作るだけの流れ作業なので問題ない。
「変って?前世の記憶がある人ってオカルトの世界ではあるけど、おるんやろ?」
「ボクも感覚がやけに研ぎ澄まされてからは一応調べてみたのよ。
やっぱり原因は二回の臨死体験だったみたいで、小学六年生の時の大会もひょっとしたらあれで一気に強くなってしまったのかもしれないのよね。」
「臨死体験したことで前世の記憶がもどって今までより強くなってたってことか?
それなら納得いくやん。
力を隠しとったって言うても全国大会でしかもトップ選手を圧倒ほど強くはなかった気がしとったんて、それが浩太を助けて溺れてから一気に強くなって完全に置いてかれたもんな。」
「ボクもあの時は浩太を助けて溺れたのがちょっと悔しくて、
がんばったからだろうっておもってたんだけど、二回目以降は本当におかしかったもん。」
「せやな。あんとき結構大きなけがしたはずなんに、すぐに治るし、前よりもごっつレベルあがってたわ。」
「まぁ、臨死体験で前世の記憶が覚醒したのは間違いないんだけど、気になるのはそのことじゃないのよ。」
「なんかあるんか?」
「他の人の体験談とかを調べてみたら、前世で出会った人ともう一度出会うなんて滅多にないことみたいなのよ。」
「え?秋って結構おらへんかったっけ?」
「そうよ。普通の輪廻転生の考え方の場合、本当にさばくの中から針を見つけるような感覚のはずなのに、
今ボクが、仲がいい人はみんな前世で仲が良かったとか分かるのよね。」
「お前、それって全然ちゃうやん。秋の関係者なんて両手で数えられへんぞ?」
「そうなのよ。竜とか司とか家族とかさ。それでさ、仮定を立ててみたの、
“男として生まれてきたボクが、あまりにもすごい事件を起こしてしまい。
神様はタイムマシンで過去にもどってボクを女の子に生まれなおさせた。
その時に何かの不都合で男として生まれていた時の記憶が一部残ってしまった。”
どう?これなら結構すんなり納得できない?」
「うーん。それやと頭はともかくとして運動とかはどうなっとんのや?あきらかに人のレベルを超えとんで?」
「人を人外みたいに言わないでよ。でも、確かにそうなのよね。
もしかしたらそれが原因でもう一度赤ちゃんからやり直して、男よりも筋肉の発達しにくい女の子に生まれ変わらせたのかも。」
「秋ってホンマは筋肉無いやろ?
柔道で一緒に稽古してる時から変やとおもてたけど、腕つかんでも柔らかいのに投げ飛ばされとったからな。」
「柔道は力のスポーツじゃないから関係ないわよ。
でも筋肉関係がないってのは本当かも、前から気になってたんだけど、ボクってやっぱり変なのかな?
自分じゃわからなんだよね。
ちょっと触ってもいい?」
「えええ?なんか微妙だぞ?まぁ確かめるためだから仕方ないけど。」
「そんな動揺しないの。あとでボクの筋肉も確認してくれる?
自分の判断だけだとおかしいことに気づけないかもしれないから。」
そういってボクは作業の手を休めた。ボクは自分が変なのは前から知っていた。
今日は竜とその秘密を共有したくてわざとこんな話を振ったのだ。
ペタペタ・モミモミ
「う〜ん。ボクより断然硬いね。ボクの感覚だとこれだけ筋肉があれば、
100M走でオリンピックで金メダルとれちゃうかも。」
「そんなわけないだろ。ただの中学生が金メダリストなんて普通はねぇよ。」
「もう、そんなに緊張しないでよ。言葉が完全に標準語になってるよ。」
「無茶言うな。いきなり体をペタペタ触られて緊張しないわけがないだろ。」
「まぁ緊張しててもいいから触ってよ。やっぱり竜の意見も聞いておきたいからさ。」
竜にあんなことを言ってもボクだって緊張する。
しかも結構強引に触ることを認めさせてしまった。
「後でフルコンボとか言うなよ。」
竜も覚悟をきめたのだろう。腕を触りだした。
一番無難で問題がない個所を選んだ結果だろう。
「人体で一番大きくて分かりやすい筋肉は足だから、足にしてよ。」
ちょっと大胆かもしれないが、理由もきちんとあるので触ってくれるだろう。
「うぇ。それはちょっと、まずくないか?」
「誰もいないんだから大丈夫よ。あくまでボクのおかしい体の構造を調べるんだから変なことはしないでよ。」
「わかったよ。」
竜もしぶしぶ頷くと、足を触りだした。
自分の足と比べながらじっくり見ていく。
「力入れてみろ。」
指示までだしたということは真剣に調べてくれているのだろう。
ボクが足に力を入れるとまた同じようにボク筋肉を握ったり自分のと比べたりしている。
「なんとなくわかったかも。」
「ほんと?どうだったの?」
「結論からいうとたぶん秋は筋肉の性質が違うだけで筋肉はあるんだと思うぞ。」
「どうゆうこと?」
「筋肉の構造とか成長の仕方って秋はしってるか?」
ここでボクはありったけの筋肉の知識を教えた。
横紋筋と平滑筋の違いから、筋繊維の成長の仕方や骨格筋の構造までかなり詳しく説明すると竜は理解してくれたようだ。
「じゃあ、秋には筋肉はあらへんわ。」
「は?さっきあるっていったよね?」
「ああ、すまん。秋にはそれらの普通の筋肉はあらへんわ。
俺らは筋肉を発達させるには筋繊維を傷つけて修復して太くなると力が増えるんやろ?」
「ええ、太ければいいというわけではないけど、おおむねそんな感じね。」
「秋の体には、その太くなった筋肉と同じくらい強い力を持った細い筋肉のようなものがはいっとるみたいやな。
俺らの筋肉が紙でできた筋肉としたら秋の筋肉は鋼でできた筋肉みたいなもんや。
素材が違うってことやろな。」
鋼とか、紙とか言われるほど違いがあるのか。
でもこれで一つ謎が解けた。
これで目的の一つは達成できたな。
その時、
ガラガラ
・・・・
「失礼しました。」
「待て、あれはどういうことだ?」
・・・・・
もう一つの目的もこれで完成だ。
「今の浩太と鈴だったよな?」
「うん。」
「どうするん?」
「正直に言うよ。“竜に体のあちこちをなめるように触られてた”ってさ。」
「んなあほな。」
ま、そういうこと。
竜に体を触らせたのはこの現場を浩太と鈴に見せるためでもあった。
集合時間まで、まだずいぶん時間があるので竜は油断していたが、
鈴と浩太は竜が残ると決める前に外に出て行っておりボクは事前に部屋に残ることを言ってあったので、様子を見に来たのだ。
ついでにお昼でも一緒にと二人は考えていただろうが、もう外に出てさっきの状況を二人で話しているに違いない。
お昼は二人で食べてくることだろう。
「なぁ?まちがいなく勘違いされとらへん?」
「いいんじゃない?これで浩太の私贔屓が減るならもうけものだし、しばらく勘違いしておいてもらおっか。
でも鈴にまで隠すと竜が追及されたらバレちゃうから鈴には伝えておくね。」
「う〜ん。なんかうまいこと使われた気がするが、浩太のためなら仕方がないか。」
「そゆこと、浩太もそろそろボク以外の三次元の世界に興味を持ってもらわないとね。」
このあとお昼を食べ終わった鈴と浩太は先ほどのことをきちんと確認するべく部屋に戻って来た。
浩太には分からないように鈴に事情を説明すると、
「鈴、女神様はどうなっていたんだ?」
「私の予想通りだったわ。
仲がいいのは分かるけど、昼間からしかもみんなが泊まる部屋であんなことしないように言っておいたわ。」
と言って嘘はつかずに勘違いをさせておいてくれた。
ボクや竜からではなく鈴からの言葉だったので、浩太もボクらが付き合っていると信じてしまったようだ。
「これより第22回宮海浴衣コンテストを開催いたします!!」
会場は開会のあいさつとともに熱気に包まれた。
コンテストの方法はいたって単純だ。
一人ずつ浴衣を着て観客席中央に設置された舞台を通り、審査員の前を通過し舞台袖に一回もどる。
その時に浴衣と立ち居振る舞いを見られて審査員の判断で20名予選通過を決められる。
そのあとは、ひとりずつマイクの前で自分の浴衣のアピールをし、予選通過者の中から各部門の優秀賞と総合の三位までが選ばれておしまいだ。
結果発表までの時間を使って参加者の少ない男子の部を挟み、最後にカップルイベントが行われる。
カップルの場合は先ほど一人で歩いたところを二人で歩き、アピールの時も二人で行うのだ。
毎年男子と女子の部門の入賞者がカップルイベントにでればほぼ入賞は決まっているらしく、
カップルイベントは盛り上げるためにあるらしい。
「それでは、美女たちの登場です。今年もたくさんの夏の花達が集まっております。」
司会の声と同時に審査のスタート。
ボクたちは舞台袖で会場の雰囲気に耳をそばだてていた。
全部で200以上の参加者がおり、かなり大規模のコンテストなので、それなりの反応があるようだ。
ボクらの先陣はインパクト部門を目指している真奈美ちゃんだ。
「「おおお」」
「これは斬新なデザインの浴衣美女が登場しました。ピンクの浴衣の可愛いらしい少女に会場の熱気も再加熱か??」
司会が良いコメントを付け加えているということは人気も上々なのだろう。
二人ほど人をあけて花火ちゃんの出番だ。
「おお、先ほどのピンクの浴衣に勝るとも劣らないデザインですね。これは手作りでしょう。これは新作賞の最有力候補の登場か?」
司会の人は良い目をしているようだ。
今までにないデザインを的確に言いであてる、これなら審査員の信頼性もかなりのものだろう。
新作賞とインパクト賞は花火ちゃんと真奈美ちゃんがもらったね。
控え室などでかなりインパクトのある浴衣を着ている子もいたが、二人の歩き方は印象に残りはするが、下品なものにはなっておらず、審査員たちの評価は高いだろう。
「落ち着いていけば大丈夫よ。歩き方も一生懸命練習したでしょ?
由香ちゃんのことをみんなに見てもらいましょ。」
鈴が由香ちゃんにエールを送っている。
引っ込み思案の由香ちゃんは今も緊張でガチガチだ。
鈴ががんばって励ましているのでボクも何か言ってあげよう。
「由香ちゃん。ボクは由香ちゃんなら大丈夫だと思ってこの浴衣や髪飾りを選んだんだよ。
由香ちゃんが緊張する気持ちも分かるけど、自分に自信がないなら、ボクのことを信じてくれないかな?
ボクが作った浴衣なんだから、大丈夫だってそんな風に考えてくれない?」
由香ちゃんはボクの顔を見ると、今まで震えていた手もしっかりと落ち着き、うなずいてくれた。
「はい。自分に自信はないけど秋先輩のことは信じています。
そうですよね。私が気負う必要無かったんですね。
先輩の浴衣をみなさんに認めてもらってきます。」
う〜ん。
ちょっと言い過ぎちゃったかな?
由香ちゃんの部門は総合と一緒で狙ってくる人が多いからかなりの難易度なんだけど、
まぁ予戦くらいは通過するからいいか。
「いってらっしゃい。」
笑顔で送り出してあげると、由香ちゃんも緊張が少し和らいだのか、さっきよりも自然な笑顔が出ていた。
「メグ・・・他の二人は大丈夫だろうけど、由香ちゃんは落ちちゃったら結構傷つくと思うわよ?
大丈夫なのあんなこと言って?」
「部門賞はわからないけど、予戦は通過すると思うわ、
部門賞は由香ちゃんの頑張りに期待ね。」
「なんかまるで私たちのためにコンテストがあるみたいな言いかたね。」
「言ってなかったっけ?裏金とか使って応募してきた人たちにはお願いをして辞退してもらったの。
だ・か・ら、ボクらみたいな一般人のためのコンテストよ。」
「大きなコンテストってことは知ってたけど本当にそういうのがあるのね。
おっと、そろそろ私の出番だ。行ってくるわね。」
「頑張ってきてね。」
本当に鈴は肝っ玉母ちゃんみたいだ。
由香ちゃんたち後輩の前では緊張してないフリをしていたが、ボクもかなり緊張してしまっているのに。
「秋ちゃん、私の前では弱いところ見せても良いのよ?」
そういって後ろから肩を抱いてくれたのは麻美だ。
ボクの気持ちを察して声をかけ、触れてくれる優しさに心があったまる。
司、ごめんね。今だけ麻美を貸してね。
「ありがと、落ち着けたよ。麻美ももうすぐ順番だしがんばってきてね。」
「ええ、私は賞をめざしてないから気楽なものよ。」
普通はそれでも人前に出ていくのだから緊張すると思うが、麻美はいつも自然体だ。
司もこのほんわかした雰囲気に惚れたんだろうな。
「本当にありがと。楽しんできてね。」
がんばれというのも変だったので、こうして声をかけた。
麻美も頷くと舞台袖近くに向かった。
「おお、漆黒の浴衣をまとった姿はまさに大和撫子!!今大会の優勝候補のお出ましか?
浴衣の雰囲気と自然体な微笑みは高得点間違いなしだ。」
相変わらず司会の人は良い目をしている。
これならボク出なくってもよかったな。
あんまり目立ちたくないのだが部長だし仕方がないか。
「さぁ、後半に入って続々と美しい夏の花が出てくるもあと残すところ十名ほどとなりました。
次はエントリーナンバー250番の登場です。」
ある程度間隔をあけて入場してはいるが、
時間の関係で流れ作業に近いそれでも入場のコールとコメントを送っている、司会の人も大変だろうな。
・・・・・
ボクが出ていくと会場が静まり返ってしまった。
「申し訳ありません。司会が見とれてコメントを忘れるなんて、今私は会場と気持ちを一つになりました。
一言であらわすなら、完璧です。」
「「おおお!!」」
司会のお兄さんも大変だな。
一人ずつある程度のコメントを述べていたのだが、後半になってボキャブラリーが尽きたのだろう。
ボクは舞台の中央に着くと審査員席の脇まで歩いて舞台袖にはけた。
同時に司会の人の次の人の紹介が始まったのだが、本来なら舞台の中央付近でするはずであり、
コメントが思いつかなかったのが進行を遅らせてしまったらしい。
「お疲れ様です。女神様の魅力に会場中が止まってしまいましたね。」
「そこまですごくはないよ。真奈美ちゃんもよく頑張ったね。みんなはどこに?」
「はい、結果発表まで20分ほどの休憩がありますので、控え室の方にいますよ。」
「じゃあみんなと合流しましょっか?竜先輩たちはみなくていいんですか?」
「いいわよ。勘違いしたチャラ男しかエントリーしてないみたいだったから予選通過は決定してるようなものよ。」
ボクたちはしばしの休憩のために休憩室へと足を運んだ。
結果からいうならば、全員予選通過だ。
ボクの後に出た女の子たちは結構可愛かったし浴衣も凝ったデザインだったのだが何故か落ちてしまっていた。
「仕方がないわよ。メグを見たあとじゃ審査員の人たちも目が曇ってしまうわ。」
「なんだよ。ボクが何か悪いことしたみたいじゃないか。」
「もう少し秋先輩は自覚をもった方がいいと思うっすよ。」
「花火ちゃんまで、ボクは一生懸命がんばっただけなのに。」
「女神様が本気を出せばコンテスト自体が成り立たないことがわかりました。全ての賞を一人で取れたかもしれませんね。」
「窓口を広くとるために一人一つって決まってるんだからそんなわけないでしょ。」
「だから成り立たないんですよ。女神様なら大会規定を覆しても不思議じゃないってことです。」
「もう、そんなこと言ってないで、最終審査始まるわよ。
みんなコメントはしっかり考えてきたんでしょうね?」
「バッチリです。女神様の素晴らしさを皆さんにしっかりアピールしてきます。」
おいおい。
自分のアピールをしっかりしてくれよ。
自発的行動を促すためにコメントなんかはすべて任せてしまったが大丈夫かな?
「それでは予選通過の人たちの登場です。」
司会者のコールがあったのでみな定位置に向かうべく会場に入場する。
真奈美ちゃんと花火ちゃんは順番が近かったので隣だし、由香ちゃんの隣に鈴一人あけて麻美も近くにいるのでお互いフォローができる状態だ。
一人離れたところにいるボク以外は大丈夫だろう。
「それではエントリーナンバー50番の方アピールをお願いします。」
「はぁい。」
元気に挨拶をしてマイクの置いてある中央に向かった。
新作部門とインパクト部門を狙うのでまぁ悪くはない対応だ。
二人以外の浴衣はオーソドックスな形が多いしこれなら部門賞は大丈夫だろう。
「私たちの着ている浴衣はこのコンテストの出場者の中にいます。
その人は女神のような容姿で赤い浴衣を着ています。
髪飾りや小物まですべてデザインから起こした新作となっています。」
あちゃぁ。
一番言ってはいけないことを言ってしまったな。
新作賞を目指すためにオーダーメイドを主張したかったのは分かるが、あれでは新作賞の候補にボクたち六人全員が登ってしまう。
そのあとみな無難なコメントを言ってボクの順番が来てしまった。
審査員の質問でボクらが同じ中学から来ていることなどは全部知られてしまったので言うことがない。
「エントリーナンバー250番の秋と言います。
頑張って作った浴衣なので、評価していただけたら嬉しいです。」
あまり言葉を飾るよりも良いだろう。
ゆっくりとお辞儀をすると会場から拍手が起こった。
みんなボクの作った浴衣を気に入ってくれたのかな?
中学生ということも加味して温かい反応をくれたのだろう。
「それでは、審査員の方、各部門発表と総合の結果発表をお願いします。」
・・・・・
「えええぇぇん。女神様ごめんなさいぃ。」
今泣いているのは真奈美ちゃんだ。
声は出していないが、由香ちゃんも泣いている。
真奈美ちゃんと由香ちゃんは、予選通過はしたものの、部門賞は取り逃した。
花火ちゃんはインパクト賞を麻美は総合の副賞を、そして鈴が新作賞を取ってしまった。
まぁ当然だろう。
鈴の浴衣はボクの中でも傑作だと思うし、流石に全員賞を取ってしまっては審査員側が海良中学と癒着があるのではと考えられてしまうため、わざと避けたところもあったようだ。
「まぁ、自分たちのアピールだけじゃなくて、相手の立場も考えないといけないってことよ。
由香ちゃんも真奈美ちゃんも予選通過はしたんだからメグだって満足よね?」
「うん。予選を通過したってことは、純粋に評価した場合美術部のみんなは認められたってことだからね。
みんな本当によく頑張ったね。
コメントなんかもこれから練習したらいいよ。
学園祭の時はみんなにも頑張ってもらう予定だからどんな風に作品を伝えたらいいかの勉強になったでしょ?」
「ヒックッ。秋ゼンバイ。ほんどうにゴベンなさい。」
「もう、由香ちゃんも泣かないの。
由香ちゃんなりに一生懸命やってくれたんだからボクは怒ってないわよ。
むしろ誇らしいわ。部員がこんなに成長してくれたんだもの。」
「びええぇぇん。」
普段おとなしい由香ちゃんだが、みんなの前で泣くことはない。
それだけボクらの前でさらけ出してくれているんだ。
コンテストに参加して本当によかった。
「総合優勝はエントリーナンバー22番竜くんだぁ!!」
「男子の方も終わったみたいね。鈴、花火ちゃん、ボクらは行くから由香ちゃんと真奈美ちゃんのことよろしくね。
会場の隅で見ててくれると嬉しいかな。」
「はい、二人が落ち着いたら参加者の特別ブースの方に向かますね。」
「浩太にもこっちに来るように伝えておいてちょうだい。」
「了解。麻美、行きましょ。」
男子は連続になるが、特に問題ないだろう。
竜たちと合流すると、竜たちもそれぞれ受賞してきたらしい。
コメントなども無難な感じでまとめ、体の大きい竜を見ても中学生だとは気付かれなかったのも良かったかもしれない。
「浩太、鈴たちは、トラブルで受賞できなかった二人が落ち着いたら参加者のブースから観るみたいだから合流しておいて。」
「ああ、しかし本当に女神様の見立ては良く当たるんだな。
女の子たちももう少しだったんだがな。」
「ええ、でもいい勉強になったと思うわ。ボクにとっても真奈美ちゃんたちにとってもね。」
「ああ、結果がほぼ決まっているとはいえ頑張ってくれ。」
「ありがと、じゃあまたね。」
「優秀賞おめでとさん。」
「ありがと、竜も司もおめでとう。」
「ありがとぉ。麻美も副賞おめでとう。次も副賞だろうけど、がんばろ。」
「秋ちゃんがいるんじゃ仕方がないわよね。」
「ベストカップルは司たちがとると思うわよ?ボクらは本当に付き合ってるわけじゃないからオーラがちがうからね。」
「秋ちゃんがそういうなら期待しちゃおうかしら。」
「どっちが取ってもええやん。
賞金のおかげでタダで旅行できとる俺らにとってはどっちがすごいとか関係ないしな。
どっちもすごいでええやん。」
竜の言葉にちょっとドキドキしてしまった。
本当にその通りだと思ったし、ボクの気持ちを代弁してくれたような、共感してくれたような。
とにかく四人で参加できてよかった。
「ベストカップル賞は〜〜!!エントリーナンバー43番司くん麻美ちゃんカップルだ!!」
「おめでとう。やっぱり本当に付き合ってるわけじゃないから友達感覚が審査員に伝わっちゃったね。」
「そうだねぇ。もし二人が付き合いだしたら勝てなかっただろうねぇ。」
「また、勝ち負けなんてどっちでもいいでしょ。秋ちゃんのおかげですごい良い思い出ができたんだから私はそれで満足よ。」
「そうだねぇ。写真どうするぅ?どうせなら鈴ちゃんと浩太にもあげたかったんだけどねぇ。」
受賞者は大会側から記念の写真が届く。
鈴や浩太も各部門で撮ったそれぞれの写真はとどくだろう。
「みんなで集まって撮った方がいいんじゃないかな?
武兄ちゃんに頼んで旅館の前で取ってもらえばいいでしょ?
結構良いカメラ持ってきたみたいだから、プロの人ほどじゃないけど奇麗に撮れると思うわよ。」
「いいねぇ。コンテストで疲れちゃったし、旅館に戻ろうか。」
「女神せんぱ〜い。こっちっす。」
花火ちゃんの声が聞こえた。
参加していなかった武兄ちゃんとも合流するために集合場所を決めておいたので、これで全員が集まった。
「お疲れ様。
記念写真とるだろ?ここで撮るか?
それとももっと明るい場所に移動するか?」
「うん。みんな疲れているし、旅館に移動してそこで撮ってもらおうかなコンテストの間も撮っていたんでしょ?フィルム残ってるの?」
「予備のフィルムも持ってきたんだ。
でも全体写真用にあと6枚しか残ってないから明日のからの分はまた買ってくるよ。」
武兄ちゃんは本当に妹の考えていることをしっかりと理解してくれているみたいだ。
それでもフォルム限界まで撮ってしまったのはきっとシスコンが働いてシャッターを切りすぎたのだろう。
そのあと旅館の前で一年生三人の写真と、部員だけの写真と仲良し六人組の写真、全体の写真をとってあとに二枚になってしまった。
上手に取れなかったらいけないからと全体のものをもう一枚撮ったところで旅館の前で撮影をしていたのに気付いたのか女将さんが出てきて武兄ちゃんもいれた写真を撮ってもらった。
「お疲れ様。じゃあみんな着替えて晩御飯とお風呂にしましょ。
ご飯は大部屋に運んでもらうように頼んでおいたから女子は着替えたら大部屋に行くわね。」
こうして無事コンテストは終わった。
みんなの中に様々な想い出ができたことだろう。
合宿編は元々構想していたわけではなく、作品を書いているうちにこの話を入れた方がと考えたため、執筆が難航しております。
さてそれではテーマを発表します。“どれだけ秋たちの様子を伝えられるか”で書きました。、書きたいことが多すぎてテーマとして、伝わりずらいですよね、ごめんなさい。
これがAKIの目一杯の表現です。
それではみなさんのご来訪に感謝を、本当にありがとうございました。