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再転の姫君  作者: 須磨彰
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チャプター15

秋の憂鬱




この服は普段男のものしか着ないボクが鈴の奨めで女の子らしい服を試作的にデザインから起こしてみたのだが、人気は上々だ。

みんな誉めてくれるし、模写は新入生もそれなりの作品に出来上がり、ボクが作った額縁をプレゼントしたら大事にしてくれると皆約束してくれた。

初めての作品なので思い出として取っておいてほしいと考えたのだが正解だったらしい。


「なぁ秋、変な頼みなんだけどお前の家についたらちょっと写真を撮らせてくれるか?」


「ん?どうしたんだ?おばさんに頼まれでもしたのか?」


「そゆこと、昨日ついこの服の話をしちまってん。そしたら写真を取ってこいってうるさいから一枚だけでええから撮らせてほしいねん。」


「いいわよ。せっかくだから三人で取りましょ。学生服とってのがちょっと変だけどまぁいいでしょ。」


「いいよぉ。じゃあ僕と竜が交代でとってぇ。秋のお母さんに頼んで三人のも取ってもらおうよぉ。」


「せやな、それがええな。」


「写真か、遠足にもっていく使い捨て買うの忘れてたわね。」


「そう言えばぁ。タイムスケジュール決まったのぉ?」


「ある程度はね。また明日鈴と一緒に見せるから二人がおっけーなら先生に出しちゃうわ。」


「今年は秋と司と鈴でまわるん?」


「そうだよぉ。竜は誰と周るのぉ?」


「クラスの班やで、麻美とかもおるし途中で合流できるかもな。」


「麻美と一緒なんだ。ボクも麻美と周りたいよ。」


「聞いとくわ。でも俺の班数少ないアンチ秋メンバー結構いるからわからへんけどな。」


「ああ、なるほどねぇ。竜もたいへんだねぇ。」


そんな会話をしているうちにボクの家についた。

お母さんを呼ぶと最初は三枚の予定が悪乗りして結局フィルムの残り10枚近く撮ってしまった。


「ほな、またあしたな。」


「おやすみぃ。」


この時ボクは遠足であんなことが起こるとは思いもしなかった。








「わぁ〜。平日とはいえやっぱり混んでるわね。」


「これはタイムスケジュール通りには無理っぽいわ。」


今日は遠足の日だ、鈴も司もタイムスケジュールには賛成してくれて、竜は班員の反対があって結局三人で周ることになったのだ。

ところが、平日だからと絶叫系もすいているはずだったのだが、ここは結構人気の遊園地でいい天気に恵まれ過ぎてしまい、大学生らしい人やら家族連れやらで客がかなりいる。

多少スケジュールの変更は余儀なくされるようだ。


「あのジェットコースターは絶対乗りたいからいくつか別の絶叫をあきらめてあとは待ち時間を見て乗れそうなものに乗っていきましょうか。」


「そうね。基本はメグに任せるわ。司くんもいいでしょ?」


「いいよぉ。タイムスケジュールに合わせて楽しめないよりいいからねぇ。」


「竜もそれでいいでしょ??」


「秋ぃ、今日は、竜はいないよぉ。」


「あ、そうだっけ。遊ぶ時っていっつも一緒だったからなんかボケちゃったわ。」


「メグったら、じゃあ改めてしゅっぱぁつ!!」


学校行事のため朝一でならんだりできないのでもう既に開園から2時間以上たっており、

ある程度列などはもうできているのでまず並ばずに乗れるバイキングやら小さめのジェットコースターに乗ると、

お昼の時間は各自で取るようになっているのですいている間に一番人気の高速ジェットコースターに並んだ。


「今の時間ならすぐ乗れると思ったのにね。」


「仕方がないわよ。一番人気だしメグと同じように考える人もいるんだから。」


「確かにねぇ。でも待ち時間30分は早い方だよぉ。来てすぐ向かった班は1時間以上待ったみたいだよぉ。」


「なんで司がそんなの知ってるのよ?」


「それはねぇ。竜たちの班だからだよぉ。」


「なるほどね。さっき並ぶ前に声掛けてたのは竜たちだったんだ。ってまだあそこに・・・・?」


「あ、ホントね。でもあの班女の子ばっかりじゃない?」


「アンチ秋のメンバーってそういうことだったのね。」


遠くに見えた竜たちの班はお弁当を食べているようだった。

しかし四人班のうち三人が女の子でクラス内の人数は男女均等なのでおそらく竜のファンの子たちが無理やり班を作ったのだろう。

アンチ秋とは要するに竜や司といつも一緒にいる私を煙たがっている竜ファンのことであり、司ファンの子たちはそうでもないのだが、竜ファンの子たちは結構露骨にボクのことを悪くいったりするのであまりボクも仲良くしたいとは思わない。


「竜くんも大変ね。司くんのファンと違って頭悪い子がおおいから。」


「鈴、そんなこと言ったらかわいそうだよ。」


「まったくお人よしね。でも、あの子たち二人は大丈夫よ。メグのこと悪口言ってて竜くんが惹かれるわけないわ。」


「あのねぇ。竜がだれと恋愛しようと関係ないの。ボクらは心友なんだから。」


「あら?そう言ってる割にはさっきからずっと竜くんの方ばっかり見てるじゃない?メグは素直じゃないんだから。ほらほらお姉さんに相談してごらん。」


「そんなんじゃないわよ。」


そうはいったものの、少し気になって目がいってしまうのは事実で、ちらちらと竜の方を確認してしまう。

すると、竜ファンの女の子二人はトイレかジュースでも買いに行くのかどこかに歩いて行ってしまい、竜と麻美の二人だけになった。


「ねぇ、ボクって視力いいよね?」


「ええ、メグは両目ともかなりいいわよね。上限が2.0だからそれ以上はわからないけど、この前なんて300M以上向こうで落ちたスズメを見つけて介抱してたわよ。」


「そうだよね。ボクには二人がキスしてるように見えるんだけど、あれは錯覚?」


「うーん、角度的によく見えないけど、あれだけ長く顔を近づけるのはキス以外では思いつかないわね。まぁベタなところでいえば目にゴミが入ったってところだろうけど。」


「目にゴミね。うん。」


ボクには二人がキスしているようにしか見えないよ。

なんだか胸の奥がキュってなってすごいつらくなってしまいこれ以上見ていることができなくなったので、ジェットコースターの列を確認するフリをして、反対側を見た。


「そういえばさっき竜と話した時にぃ、結局午前中はこれしか乗れなかったしぃ、班でこれ以上行動するのも面倒だから昼食べたら合流しよぉってさぁ。

だからぁ、お昼食べる場所教えておいたよぉ。」


なんで司は今このタイミングでそんなこと言うの?

普段だったら竜と一緒に周れるんだからうれしいはずなのに、さっきの光景が目に焼きついてしまって素直に喜べないよ。

鈴だって恋人同士が班に合流してきたらいやに決まってる。


「いいわよ。どうせだったら浩太も呼んじゃってもいい?今回の班あんまり仲良くないらしくって結構浮いてるらしいのよね。」


「あ、うん。いいよ。」


まさか鈴がおっけー出すと思っていなかったので今さら反対もできずに結局竜と麻美と浩太と合流することになり、

ジェットコースターの順番もそろそろなのでその話はそこでおしまいになった。

人気のジェットコースターだけあってすごい迫力だったのだが、なんだかノリ切れなかった。


「メグ大丈夫?」


「うん、あんまりの迫力にちょっと酔っちゃったかも知れない。とりあえずお昼にしよう。少し休憩したら元気になるよ。」


そういってジェットコースターから少し離れたところにある机やらがたくさん置いてあるエリアに着くとお弁当を広げた。

今日は張り切って早起きをして作ったのだが、今はあまりおいしそうに見えないのでサンドイッチを一つだけ手に取るとモシャモシャと口を動かした。


「あ、うまそうやん。一個頂戴。」


竜はいつの間にかボクの後ろにたっており、ボクのお弁当の中からハムサンドをとって食べだした。


「ホント、秋ちゃんって昔から何でもできたけど、お弁当も美味しそう。」


もちろん麻美も一緒だ。

麻美はおいしそうとはいったもののさっきお昼を食べたばかりなので食べようとはしなかった。


「ボクさっきのジェットコースターで酔っちゃって食欲ないから食べてもいいよ。司たちもどうぞ。」


そういって机の真ん中にお弁当を置くとさっきのハムサンドはもうたべてしまっていたらしい竜はもう一個今度はツナサンドを手に取り、

司と鈴もそれぞれひとつずつサンドイッチを食べた。

麻美も一つくらいならとトマトやキュウリを挟んだ野菜サンドを食べるとお弁当は残り半分くらいになりあとは司と竜でたいらげてしまった。

二人は男の子なのでボクの分くらいぺろりとたべてしまうとごちそうさまといってゴミを捨てに行ってくれた。


「女神様ぁ。おまたせしました。」


「浩太おそいわよ。もう少し早くくればメグの手作りお弁当食べれたのにね。」


「なにぃ!!女神様の手作りだと??なぜ待ってくれなかったんだ。」


「私に言わないでよ。ほとんど食べたのは竜くんと司くんなんだから。」


「竜ぅ。司ぁ。許せん。俺の編み出したギャラクシークラッシャーをお見舞いしてやろう。」


「浩太は相変わらずやな。そんなおなかがすいとるんなら鈴のおにぎりが一個残ってるからそれをくえばええやん。」


「食べる?メグのサンドイッチたべちゃったらお腹一杯になっちゃったのよ。」


「うむ、女神様の手作り料理が食べられなかったのは残念だが、いただこう。もぐもぐ、意外とうまいな。シャケ好きなんだ。」


「そう、よかったわ。一応それも私が握ったんだからね。」


「なに?鈴は料理のできないお嬢様じゃなかったのか?」


「あのねぇ。中学からしか知らないんだから、仕方ないんだけど、私これでも柔道してたり、箱入り娘とは程遠い存在よ?」


「そうか、だから一年の時は髪が短かったのか。鈴の意外な一面を見つけたな。」


「まったく、メグが可愛いし性格も運動も頭もいい完璧少女なのはみとめるけど、私だってそこそこいい女なんだからね。」


「うむ、確かに女神様は完璧少女だ。」



「「・・・・・」」



「さぁ、ご飯も食べ終わったみたいだしアトラクションまわりましょ。」


空気をさっして移動を促したのは麻美だ。

その提案には全員が賛同し、次のアトラクションに向かうことにした。


「でもさぁ。またアトラクション混んできちゃったわね。」


「そうだねぇ。午後からのフリーパスで入る人もいるから今からは人がおおくなっちゃうからねぇ。」


司はどこでその情報を手に入れたのだ?

ほわほわした話し方をするが結構活発な性格である司には意外と謎が多いような気がする。


「あ、あれなら人も少ないし、お昼食べたばっかりだからちょうどいいんじゃない?」


そういって麻美が指差したのはお化け屋敷だった。


「いいねぇ。あれにしよう。」


「俺はええよ。浩太も鈴ちゃんもいいよね?」


どうやら全員が賛成のようだ。


「ボクちょっとまだ酔いがさめてないみたいだからここのベンチで待ってるよ。」


「歩いていくタイプのお化け屋敷だから乗り物にはのらないわよ?」


鈴は善意で教えてくれているのだろう。

しかし、他の四人は明らかに顔がニヤニヤしている。さすが幼稚園からの付き合いである。

(竜は小学校からだが、仲が良いので関係ない)


「鈴、女神様は基本的に完璧少女ではあるが、やはり人間なのだよ。」


「そうね。秋ちゃんもこればっかりはね。」


「え?なに?ひょっとして中学生にもなってお化けが怖いの?」


「・・・そうよ。怖いわよ。っていうかなんでみんな平気なの?お化けだよ?病気でもないのに学校にも仕事にもいかない存在なのよ?」


「おいおい、それはアニメの話やろしかも微妙に間違ってるし、それただのニートやん。」


「じゃあ、ナイスミドルのおじ様やキャリアウーマン風のお姉さんや和服なのにはっちゃけてるお嬢様に『あなたは鬼なのよ。さあいっしょに冥界にいきましょう。』ってつれていかれちゃうのよ。」


「それは秋の夢の話でしょぉ。」


「メグの夢?」


「ああ、何でも交通事故で臨死体験をした後から見だしたとかいうやけにリアリティのある夢のことよ。」


「僕を助けたあともナイスミドルのおじ様ってのは夢に出てきたって言ってたよね。」


「夢の話だけど、そんなのどうでもいいの、ボクは絶対にお化け屋敷にははいらないからね。いくならみんなでいけばいいよ。」


「でもねぇ。ここのお化け屋敷は二人ずつ入る様になってるから一人あまっちゃうんだよねぇ。ってことで秋も入ることは決定してるんだよぉ。」


「司、タイムスケジュールにお化け屋敷がないのに行くわけないでしょ。」


「確か列をみてその場で臨機応変にうごくんじゃなかったっけぇ?」


「く・・・」


司は絶対にこうなることをしっていたわね。

タイムスケジュールにお化け屋敷が入っていないことも、当日人が多くて臨機応変に動くことも、ひょっとしたらお昼の位置からすべて計算されてたんじゃないかしら?

被害妄想な気もするけど、司ならそれくらいやりかねないわね。


「わかったわ。ボクの負けだよ。でも司か竜のどっちかが一緒にはいってね。

暗いところだとボクの場合は幽霊もだけど不幸の確率も格段にあがっちゃうから。」


「そうね。じゃあ一番安全な竜くんと一緒に入りなさいよ。私は司といくから。鈴ちゃんも浩太くんと一緒でいいでしょ?」


麻美はなぜか彼氏であるはずの竜をあっさりボクにゆずると鈴と浩太に確認を取った。

何故か司には拒否権はないようだ。


「私はそれでいいわよ。」


「女神様と一緒に行けないのは残念だが、この場合は仕方ないな。」


「あんたらね。昔から知ってるとは言え不幸少女を疑わないなんてどうよ?」


「慣れじゃないの?うまく付き合えば問題ないし実際竜くんが横にいれば滅多なことがない限り不幸はおきないじゃない?」


「うーん。確かに不思議なんだけど、竜と一緒にいる時は不幸のエンカウント率低いのは確かなのよね。もし起こっても一人の時と比べても全然問題ないレベルだしね。」


「そうだねぇ。小学校に入って竜と出会ってからはみんなある程度平和になったよねぇ。」


「おいおい、俺を魔除けの札みたいにいうなや。秋の不幸はともかく俺のはいいがかりやろ。」


「まぁそんなこと言ってる間に順番がきたわよ。まずは私と浩太が行くわね。浩太の叫び声でメグちゃんがおびえているところが見れないのが残念だけど、仕方がないわ。」


「鈴ちゃんも結構、秋慣れしてきたねぇ。」


「どういう意味よ。まったく、不幸少女扱いするわ。女神あつかいするわ。ボクをなんだとおもってるんだよ。」


「う〜んと、今は何か話して気晴らしをしているぅ。か弱い少女ってところかなぁ。」


「うるさい!!わかってるんだったら。」


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


ビクッ ガシッ ブルブル



「あれは浩太くんの声よね?」


「そうだねぇ。ところで秋ぃ。そろそろ竜をはなしてあげないとかわいそうだよぉ。」


「え?何してんのよ!!変態!」


ボクはそう言ってさっき思わず抱きついてしまった竜に黄金をいれた。

でも明らかにボクがわるいので軽く。


「理不尽すぎるやろ。いきなりすさまじい力でベアハグされたかとおもったら黄金って。」


「もう行ってもいいみたいだから僕らはいくねぇ。僕らが見てないからって逃げ出しちゃだめだよぉ。」


っひぃ。

司たちが行ったら次はボクの番じゃないか。

ああ、神様。あんまり信じてないけど今だけは信じるので時間を止めてください。


「秋・・・そんなに怖いならやめとくか?司はあんなこといっとったけど、別に今ならやめれるぞ?」


「う・・・大丈夫、たぶん、おそらく、maybeメイビー。」


「後半全部同じ意味やん。ほれ。」


そういって竜は手を差し出してきた。


「お金はらったら入らなくてもいいの?」


「ちゃうわ!手をつないで行ったるって意味じゃ、そしたら少しは怖くないやろ?」


「なんだぁ。真剣にお金で解決するならとか考えちゃったよ。」


「あほか。お化け屋敷は作りもんや中身人間やから入ってみたらそんな怖くないんやぞ。」


「絶対だね?でもやっぱり怖いから手は離さないでね?」


そういうと、ボクは竜の手を握った。

竜も怖いのかな?

ちょっと汗ばんでるかも。

でもおっきくてあったかい。


いつの間にか背も見上げなきゃいけなくなったし、男らしいその手にお化け屋敷とはちょっと違うドキドキが始まった気がする。








「あははは!!なにこれぇ。面白い。」


「おいおい、入る前と態度違い過ぎやん。」


「だってぇ。あ、あそこに人いるわよ。ちょっとまってね。」


そういうと、少し竜を下がらせ、お化け役の人が出てくる寸前でこちらから

「ばぁ!」と脅かしてみる。

すると向こうもそんなことをしてくるとは思っていなかったのか腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「ああ、お化け屋敷って面白いんだね。ボクは本物の幽霊さんたちがとらえられている箱を順番に開けて行って幽霊さんたちにお説教されるところだとばっかり思ってたよぉ。」


「どんなお化け屋敷やねん。つかそれ教えたの武ちゃんだろ?」


「うん、あれは別のところだったんだね。」


「いや、お化け屋敷はたいていこんなもんやぞ?むしろそんなお化け屋敷は聞いたことあらへん。完全にからかわれとんな。」


「なにぃ、武兄ちゃんの明日のお弁当は全部涙巻きにしてやるぅ。」


「おお怖。お化け屋敷よりもこええな。」


「ふっふっふ、ボクをだますとどうなるのか武兄ちゃんに思い知らせてやるのだ。」


「ほどほどにしとけよ。」


「はぁい。」


そんなこんなでお化け屋敷を出てきた。

途中から全く怖くはなかったのだが、なんとなく手を話す気にもなれずに、ずっとつないだまま外に出てきた。


「あれぇ?メグちゃんが涙を流しながら出てくると思ったら意外と元気じゃないの。」


「鈴、ボクはお化け屋敷というものを把握した。今度からはお化け屋敷は怖いものではなくなったのだよ。」


「涙を流すのは秋じゃなくて武ちゃんになりそうやわ。」


「武ちゃんって秋ちゃんのお兄ちゃんの?中で何があったのよ?」


あ、今声をかけてきたのは麻美だ。

そしてボクは竜の手を握ったままだった。

幼馴染とはいえ彼氏の手を女の子が握っているのはあまりうれしくないだろ。

そうおもって手を離しておく。


「どうせぇ、武ちゃんが秋に嘘のお化け屋敷でもおしえていたんでしょぉ。

というか、出てくる時にこうなっているのは予想できたしねぇ。もちろん手の方も予想済みだよぉ。」


「ばか、何言ってるのよ。ボクがあんまりにも怖がってたから竜が仕方なく握らせてくれただけでこれは何もないんだからね。」


「秋ちゃんったら、真っ赤になっちゃって、可愛い。」


へ?

それをなんで麻美が言うの?

あれ?あれ?何がどうなってるの?


「女神様そんなに怖いなら僕の手をどうぞ。」


「ん?この中で怖がってたのって浩太だけじゃなかったけ?ボクは結局中にはいったら平気だったよ?」


「がーん!!」


「口で言わないの。そうなのよ。私より怖がっちゃってさ。」


「鈴、それは言わない約束では?」


「詳しいことまではいわないわよ。でもあれだけ大声だしてたらみんなある程度わかってるとおもうわよ。」


みんなで頷くとそれが事実なんだとわかり浩太はうなだれた。


「さぁ、思ったよりもお化け屋敷で時間使っちゃったから集合時間まであと一個くらいしか乗れないわよ。どうする?何か乗りたいものあるかしら?」


「そうね。私は観覧車に乗りたいけど、秋ちゃんは何がいい?結果はどうあれさっきは嫌々お化け屋敷に連れて行ったんだから選ばせてあげるわ。」


「うーん。特にお化け屋敷以外嫌なものもなかったしみんなで決めて良いよ。でも最後だしみんなで乗れるのがいいかな。」


「だったら大観覧車にしよっかぁ?普通のよりも乗車定員がおおいから回転率も良くてぇしかも結構高い所まであがるんだよぉ。」


「それいいやん。じゃあ大観覧車にみんなで乗ろうぜ。」


「「賛成」」




大観覧車は本当に大きくて、六人でのってもまだスペースがあるくらいだった。

さっきまでのモヤモヤもいつの間にかなくなって、六人でにぎやかに話しながらのり、頂上付近では海の地平線が丸くなっているのとか待ちの景色とかちょっと遠くに山なんかも見えた。

もしこれが暗い時間だったらそれもまた綺麗なんだろうなと思った。

頂上を過ぎた時に気づいてカメラを取り出し下に着くまで六人で思い思いに写真にとり、午前中の分も合わせてあと一枚しかフィルムがのこらない状態になってしまった。


「今日は楽しかったね。」


「ホントね。私と竜は班員とこれから合流してから集合場所にいかなくっちゃ。」


「あ、うん。ところでさ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」


「ん?どうしたの?」


「麻美って竜と付き合ってるの?」


「え?竜と?付き合ってないわよ?じゃあ秋ちゃんたちも集合場所に遅れないようにね。」


「あ、ちょっと麻美!」


麻美は言いたいことだけいって竜をひきつれていってしまった。


「もう、まだ聞きたいことがあったのに。」


「女神様。僕も班員と合流しないと帰れないから。また集合場所で。」


「うん。どうせクラス単位で電車のるから一緒に行けばいいんだけどね。」


「一応先生たちにばれているとは思うけど、最後くらい班の奴らと一緒に行くさ。」


「うん、またね。」


浩太も班員と合流するべく立ち去った。


「ねぇ。鈴、気になることがあるんだけどさ。」


「なぁに?メグのためならお姉さんなぁんでも教えてあげちゃうわよ。」


「浩太の班って仲良くなかった?」


「ええ、昔はしらないけど、浩太は芸術の女神ファンクラブの0番だし班員と折り合いがつかないなんてことはないわよ。

っていうかごめんなさい。お願いだからその握りしめたこぶしをほどいてくださいメグ様。」


「まぁいいわよ。どんな理由があったかわかんないけど、結局楽しめたのは事実だしね。」


「そうだよぉ。さぁお土産買って集合場所に向かおう。もうみんな着いてるかもしれないよぉ。」


司はボクらを促して集合場所にむかって歩き出した。

なんだか話題をそらされたけどこれ以上問い詰めても結果はかわらないだろうと考えボクもそれに従った。







「ねぇねぇ。竜ぅ。秋ねぇ。教えてほしいことがあるんだぁ。」


学校まで戻ってきたボクたちはいつもとは違いなぜか竜と二人で帰ることになった。

司や鈴は帰りの電車の中でもうまくボクの追求を時には流し、時にはボクが乗りそうな話題をふってとうまくごまかされてしまった。

しかし、正直者の竜ならもし何か知っていればすべて話してくれるのでこうして荷台から抱きつきながら教えてもらおうとしているのだ。


「どないしたんや?変な声なんてだして。」


やさしく抱きしめてあげていたのに、ちょっと力をこめてやる。


「そんな強く抱きつくな。胸あたっとるぞ。」


「もう、そんなことはどうでもいいの。今日の司たち変じゃなかった?何か知ってるならすべて洗いざらい吐きなさい。」


「いやいや汚物とちゃうんやで、とりあえずなんか出発前に麻美と司がなんや画策しとったってことくらいしかしらへんぞ。

俺も二人が話しとるんを見ただけやから内容まではしらへんし。あの六人で集まるためいろいろしてただけやろ?」


「うーん。そういわれるとみんなで集まりたかったって気持ちは同じだし、実際今日は楽しかったからいいんだけどね。なんだかそれだけじゃない気がするのよ。」


「なんやそれ?まぁ秋の第六感がはずれたことはないから間違いないんやけど、いやな感じがすんのか?」


「嫌な感じとは違うんだけど、なんとなく今まで感じていたのと違う。う〜ん一番近いのがファンクラブのメンバーのたくらみに似ているような。そんな感じなのよね。」


「ああ、意味がわかったわ。司と麻美この前のバレンタインからつきあっとんねん。その変な感覚って恋とか憧れとかの感覚だろ?」


「ええ?ほんとに?知らなかった。麻美と司って昔から仲良かったけどやっと付き合いだしたんだね。」


ん?

待てよ。

何か大事なことを忘れている気がする。

というか麻美と司が付き合っているなら、お昼のあれはなんだったのだ?それに今日の感覚は司と麻美のラブラブモードにあてられたようなそんな感覚ではなかったはずだ。


「ねぇ。竜ってさ。お昼麻美と一緒に食べてたんでしょ?」


ボクは直接聞くのも恥ずかしかったのでジェットコースターの並んでいる時に見ていたことを隠して質問した。


「ああ、ホントは他にも二人女の子がいたんやけど、麻美が追い払ってくれて助かったわ。」


「うん。知ってる。ボクあの時近くのジェットコースターに乗るために鈴と司と並んでてちょっと遠かったけど竜たちのこと見てたもん。」


「え?マジか。じゃあひょっとしてあれも見てたのか?」


お、これはうまく言えば全部話してくれるかもしれないな。


「そうだよ。あの時麻美と仲良くしてるのを見てたんだから。司も当然一緒にね。」


「あいつ、だからあんな指示をだしてきたのか。道理でおかしいと思ったぜ。」


「ん?どういうこと?」


「麻美が司に頼まれたとか何とかいって俺の顔に変なシールやらを貼りやがって、しかもそれが取れないとかいってずっとくっついてたんだよ。」


「ほぅ。つまり今日の出来事はすべて裏で司と麻美がたくらんでいたことだったってわけですな?

あれを見たボクが竜と麻美が付き合っていると勘違いをするようにしかもそのあと合流するようにと。」


そういうと、ボクは竜の腰をちょっと強く締め上げた。


「まてまて、たくらんだのは司だろ?なんで俺に八つ当たりしようとしてるんだよ。」


「たぶん正確には鈴も一枚かんでただろうね。浩太はわかんないけど鈴のあの態度は今思うと変だったもん。」


「たぶんせやろな。あいつらはいったい何考えとんねん。」


「うーん。理由はなんとなくわかるけど今は教えてあげない。」


「なんやそれ、全くこんな悪戯しやがって。あとで秋のお仕置きがこわくないんやな。」


「ふふふ、ボクを甘くみてもらっては困るというものよ。」


ボクらはこのあとどのようにして報復をするか話していたのだが次第に今日の遠足の話になり、ボクは荷台で揺られながらも竜との時間を過ごした。

ボクは今まで気づかなかったことに司たちのせいで気づかされたので報復は手加減をしてあげようと思っていた。


「ねぇ。使い捨てカメラのフィルム一枚余っちゃったんだ。」


「一枚くらいええんとちゃう?また何か取りたいもんとか出てくるかもしれへんやろ?」


話している間に家の前まで着いてしまったので、カメラの最後の一枚を残しておくのも、もったいないので竜と撮ろうと提案する。


「でも早く現像したいから撮っちゃいたいから一緒にとろ?」


「ええけど、どやってとるんや?」


「こうやって撮るのよ。」


そういってボクは竜の隣に立つとカメラを持っている腕を目一杯伸ばした。


「これって失敗しやすい撮り方やん。」


「ちょっと、ボクの身長に合わせてよ。ただでさえ一枚しかないんだからね。」


「はいはい、って顔近すぎじゃね?」


「恥ずかしがって映らなかったらいやじゃないの。笑ってね。」




「はい、チーズ。」


家の前は街灯があるとはいえ暗かったのでフラッシュくらいできちんと撮れたか分からないが、現像するのが楽しみだ。


「じゃあ、また明日ね。」


「おやすみ」





暗かったので竜は気付かなかったみたいだが顔が赤くなっているのは自分で分かる。

最後の写真は綺麗に撮れていたら大事にとっておこう。

顔の熱が引いたのを確認してボクは家に入って行った。


「ただいまぁ〜。」


「おかえり。楽しかったかい?」


「うん、お兄ちゃんにお土産あるんだよ。」


「お、本当か、なになに?」


「お土産話だよ。今日は一杯いろんなことがあったからたくさんお話してあげるね。」


「おかえりなさい。」


「ただいま、お母さん。お土産あるよ。」


「お土産話でしょ?武と話してるのが聞こえたわ。」


「違うよ。お父さんとお母さんには買ってきたよ。」


「あらあら、お母さんもお父さんもお土産話が一番のお土産なのよ。」


「うん。そっちも期待しておいて。」


「秋?なんでお母さんたちにはあって俺にはないんだい?」


「冗談よ。お母さんとお父さんだけじゃないわ。」


「おお。さすがわが妹よ。」


「ペコちゃんの分もきちんと買って来たわよ。」


「お兄ちゃんはペット以下ですかぁ〜。」


ペコちゃんは小学六年生の冬に新しく家族になったビーグル犬だ。

大型犬だとお散歩が大変なので小型犬をとなったのだが、ペットショップのショーウィンドウで垂れた耳と愛らしい目を見た秋が一目ぼれをし、新しい家族となった。


「お兄ちゃん、遊園地のアトラクションで何か思い出すことはないかしら?」


「アトラクション?ジェットコースターとか、あ・・・・」


「というわけでお兄ちゃんにお土産はなしなのよ。」


「秋ぃ。お兄ちゃんが悪かったよ。怖がる秋が面白くってつい出来心だったんだ。」


「みんなに【中学生にもなってお化け屋敷が怖いなんて】っていじめられたんだからね。」


「今度からは絶対嘘はつかないよ。だからお兄ちゃんを許してくれ。」


「絶対だめ。もうお兄ちゃんなんかしらないんだから。」


そうは言ったが実は武兄ちゃんの分のお土産も買ってきた。

しばらく反省してもらって寝る前にでも渡してあげればいいだろう。

そう考えるとボクは食卓についた。

今日はボク一人遅れて帰ってきたので一人でご飯を食べるのだが、食べながらお土産話をしているのでお父さんもお母さんも武兄ちゃんもテーブルの周りに集まってきているからさみしくない。

お化け屋敷の話をした時はきちんと武兄ちゃんに今後嘘はつかないと約束してもらい、蟹津家の夜はいつもみたいに、一家団欒で更けていくのであった。







いかがでしたでしょうか?中学生編初のイベントでした。


投稿前に修正のために読みなおしながらニヤニヤしてしまったAKIです。このメンバー書くの楽しいですね。



でも、キャラクターが増えると書き分けが難しいです。一応個々人が分かるように工夫はしておりますが、少し慣れるまで分かりにくいかもしれません。




さて、今回のテーマ“秋の本当の気持ち”です。

秋は優しすぎる。というか和也時代から好きな人を友人に譲ってしまうキャラ設定でしたので、完全な両想いにならないと秋に春はきません。この話でも麻美に譲ってしまおうとしています。


さてそれではキャプチャー15を読んでいただきありがとうございました。是非AKIと一緒にニヤニヤ読んでしまったという方は感想コーナーにて交流をお願いいたします。




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