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再転の姫君  作者: 須磨彰
15/79

チャプター14

竜の憂鬱





俺たちは中学生になった。

三人の仲は、表面上は小学校のころと変わらない。

しかし、俺の中ではたくさんの変化があった。

まず、俺は秋に惚れてしまったらしい。事故で仕方がなくとはいえファーストキスを奪うと、それに不満だった秋からやり直しを請求され、セカンドキスまでしてしまったのだ。

それに、出会った時は女の子の格好をしていたとはいえ、あの性格で女として意識するなんてありえなかったのだが。

ホテルでのあの晩俺は今まで気づいていなかったところで秋が女の子らしくなっていたことに気付かされた。





「うーん、ああん。もうたべられないよ。」


言っていることは秋らしく、女の子らしくはないのだが、声と寝顔がやばかった。


「なぁ、司。ねれるか?」


「無理ぃ。秋がこんなに女っぽくなってたなんてねぇ。」


「だよな。俺はまだしも幼稚園から一緒だった司が気づかへんところで女の子になってたんやな。これは反則だろ。」


「反則かどうかはわからないけどぉ。むしろ一緒にいたから気づかなかったんじゃないかなぁ。大会の会場なんかでは、男の人が鼻の下伸ばしてるの良くみたもん。」


「ああ、よく考えたら好美さんに似てるんやから、かなりの美人のおはずやからな。」


「お母さんがお嫁さんにほしがるわけだよぉ。」


「は?司のとこの母ちゃんそんなこといっとんのか?」


「なに他人事みたいにいってるんだよぉ。竜んちのお母さんも秋ちゃんを是非って言ってるよぉ。」


「まぁ、この寝顔と色っぽい声聞かされたら、悪い気はしいひんけどさ。それでも早過ぎるやろ。」


「まぁ、結婚はねぇ。でもさぁ。今は僕らの方がモテているけどぉ。中学校に入ったらわからないよぉ。というか絶対にモテルとおもうなぁ。」


「なんでだよ?別にかわらへんやろ?」


「今まで秋がモテなかったのは男勝りだったからだよぉ。それでも陰で人気があるくらいなんだからぁ。」


「秋が起きとったら破壊か残酷は覚悟したほうがいいぞ。その発言。」


「大丈夫だよぉ。声も大きくないしぃ、良く寝てるからこんな会話してるんでしょぉ。それで秋なんだけどぉ、中学に入ったら制服があるでしょぉ?」


司がそこまでいって俺はやっと納得した。


今まで女の子の格好をしていなかった秋が、セーラー服というどう見ても女の子にしか見えない服装をすれば、周りからの見方も当然変化が訪れ、秋は人気者になるだろう。


「せやな、俺らも精進しいひんとあかへんな。」


「それ、本気でいってるのぉ?竜はモテモテの秋を見ても平気なんだぁ?」


「ん?まぁ俺ら以外と一緒におるとけが人増えそうやからどうにかしないかんな。」


「そっかぁ。確かにそれもそうだねぇ。先に言っておくけどぉ。お母さんは秋ちゃんのことお嫁さんにっていってるけどぉ。僕は別に好きな子いるからねぇ。」


「いつの間に?誰?もう付き合ってるのか?」


「まだだけどぉ。よく知ってる子だしぃ。前のバレンタインでもチョコもらってるからたぶん向こうもオッケーだとおもうなぁ。」


「チョコって、あんなにたくさんもらってたら誰のことかわからへんやん。そんで、だれなんや?」


「竜が好きな子を教えてくれるなら教えてもいいよぉ。まぁ分かってるんだけどねぇ。」


「バカ。俺は別にいねぇよ。さっさと教えとけ!!」


「うーん。まぁきちんと答えもらったわけじゃないしぃ。内緒かなぁ。」


そんな話をしながら、夜は更けていった。秋をおこしてはまずいとできるだけ秋のベットから離れた部屋の隅に置いてあるソファーでこの日は司と恋愛について語り明かしたのだ。

よく考えると今まで恋愛とか意識していなかった俺は、この時初めて女の子というものを意識したのかもしれなかった。






「ああ、絶対俺秋に殺されるわ。あいつこの前浩太がおぼれた時からめっちゃファーストキスきにしてたやん。応急処置とはいえ結局俺が無理やり奪ったことになるんやろ?」


「大丈夫だよぉ。骨は拾ってあげるからぁ。」


なんの慰めにもなっていないが、病室から出た俺たちはこんなやりとりをしていた。

秋がバスに轢かれそうになった男の子をかばって倒れた時にはあせっており、冷静でいられなかったが、意識が回復し意外と元気な姿をみた俺たちはリラックスモードはいっていった。


「竜くん、司くん。秋が、話があるんだって、お医者さんも少しなら大丈夫とおっしゃってくれているし、命の恩人なんだから少し話してあげてくれないかしら?」


「命の恩人なんて大げさですよ。むしろ一緒にいたのに止められなくて本当にごめんなさい。」


「そんなことないわ。二人がいてくれて本当に助かったのよ。これからも秋を助けてあげてね。」


「「はい、」もちろんです。」


そういって俺たちは病室へとはいっていった。


「本当にもう平気みたいやな。」


「ほんとに今回は心配したよぉ。」


「心配かけてごめんね。あと、本当にありがと。」


普段はおてんばな秋がしおらしくそんなことを言うとなんだか照れくさい。


「なんだよ。あらたまっちまって。」


「みずくさいよぉ。」


「だって二人がボクの命救ってくれたんでしょ?誰も説明してくれなかったけど、あの場で対処できたのは二人くらいしかいなかったからね。」


「ああ、司が近くの民家に駆け込んで救急車を呼んでその間に俺が心臓マッサージをしたんだ。」


微妙に覚悟ができなくて人工呼吸のことは避けて事故の状況を秋に伝える。


「やっぱり、そうだったんだ。ということは胸さわられちゃったなぁ。どうしよう。秋は汚れてしまったわ。もうお嫁にいけないぃ。」


キスのことしか気づいていなかったが、そういえば胸もさわっていたのだった。

まぁ結構大きいのは聞いていたが状況的にそんなこと考えている余裕なんてなかったので覚えていないのだが。


「違うよぉ。前と違って呼吸も止まってたから人工呼吸もしてたよぉ。」



「「・・・・」」



何故わざわざ伝えたんだ?司は俺の骨をそんなに拾いたいのか?


「人工呼吸・・・ってことは??」


「ごめん、ファーストキスの相手は俺だ。」


死亡率を少しでもさげようと俺は精一杯の気持ちを表すために頭をさげた。

それでもフルコンボはなくても殺戮くらいは覚悟して待っていると、頭の上から予想外の声が聞こえた。


「いいわよ。緊急事態だったんでしょ。」


絶対に怒りだすと思っていた俺は唖然としてしまう。


「それに、初めてが竜でよかったわよ。」


「へぇぇ。秋ちゃんもたまには素直だねぇ。」


「バカ!!そんなんじゃないわよ。変態ロリコン男とか定年すぎのおじいちゃんなんかと比べたらましってだけよ!!」


なんだか、喜んでいいのか悪いのかわからない会話を司と秋が続けていたが、布団を引き上げようとしていた秋が声をあげた。


「いた!!」


元気にふるまってはいても、やはりけが人なのだ。

あまり無理をさせるのは良くない。


「まだ安静にしてろ。ブレーキ踏んでたとは言え、かなりの衝撃だったらしいからな。」


「うん、ともかく感謝してるの。これは本当よ。ありがとう。」


あらためて、秋は感謝の言葉を送ってくれた。こういう時にごめんねじゃなくて、ありがとうと言える秋はすごいと思う。

自分の悪かったところを謝るだけではなく、自分の失敗などを助けた人に精一杯の感謝ができる人間なのだ。


すると俺たちもこれからも頼ってほしかったのでたいしたことはないというとノックの音が聞こえて今度は看護婦さんが入ってきた。


「けが人なのでそろそろ面会は終えて安静にしてください。」


そう言うと、点滴やら秋の容態やらを確認しだしたので、俺たちは病室を出ることにした。

また明日もお見舞いにくるつもりだったし、秋の体調が良くなったらまた一緒に遊べるのだから。







「絶対にいやだぁぁぁ!!」


今日は運動会で賭けに負けた俺は秋の奴隷になるべく秋の家へと来ていた。昼についた俺は人生最大の選択を迫られている。


「そんなに嫌がるなら選択肢をあげるわ。奴隷に選択肢をあげるなんて優しいご主人様でよかったわね。」


「おぅ、それを着なくてすむなら感謝でもなんでもしてやるぜ。」


「じゃあ、この擬似メイド服を着て男を捨てるか、三人で決めた約束を破った罰としてボクの制裁を受けて命を捨てるか選ばせてあげるわ。」


おいおい、それのどこに選択肢があるんだ?というかもう既に殺る気まんまんですね?

その構えは幻のフルコンボとかいうやつですよね?

普段のつっこみなどでは使わないが、悪人に対しては結構容赦がない秋は時々これを使う。

この前カツ上げを止めにはいった秋にナイフを向けた不良は泡を吹いて倒れ、救急車で運ばれていった。


「あの・・・・別の選択肢は?」


「もちろんあるわよ。一本背負いの千本ノックの相手をするとか、服を着るのが嫌なら全裸になってもらって町を一周するとか?」


選択肢はなかったようである。


「メイド服でお願いします。」


「フフフ、素直にそう言えばいいのよ。ま、でもかわいそうだし家の中だけでいいわよ。今日は誰もいないし、夕方にお母さんが帰ってくるまでその姿でいてね。」


存在自体がむちゃくちゃな奴だが、基本は悪いやつじゃないので、きちんと俺へのフォローも考えていたらしい。

服の上からだし、下着までつけるわけでもないのだからこれくらいは我慢してやろう。

服にそでを通そうとすると何かいい匂いがする。

香水などとはちがう、太陽のような匂いだ。


「このエプロンとかもつけるのか?」


「もちろんよ。それと、今日の竜は奴隷なんだから口調もメイドっぽくしなさい。」


「ええ??なんで俺がそこまで。」


「なぜわたくしがその様なことまででしょ、あとボクのことはご主人様と呼ぶように。」


エプロンを着け終わった俺は言われたとおりにメイドっぽく話してみる。

といっても本物のメイドさんなんてみたことがないので雰囲気だ。


「これでよろしいでしょうか?ご主人様?」


「うん、よく似合う。」


そのあとちょっとした掛け合いをした俺たちは掃除をするべく秋の部屋をあとにした。

ところが普段掃除なんてしない俺はなにをやるにも秋に聞かないとわからず、結局秋が掃除するので重いものとかを運んだり、少し手伝うだけにおわった。


「お嬢様は普段からお掃除をなさっているのですね。わたくしは学校の掃除もさぼってばかりだったので何もできませんでした。」


「はぁ、なんでメイドよりもご主人様の方が働いてるのよ。」


「申し訳ございません。お嬢様。」


掃除は全くの役立たずでしかなかった俺だが、なんども訂正されたおかげでメイド口調は様になってきていた。


「本当は一時間くらいで終わらせる予定だったのに、二時間もかかっちゃったじゃない。」


「お嬢様一人でされた方が、早く終わったのではないですか?」


「いいのよ。竜にさせることに意味があるんだから、次は洗濯物を取り寄せるわよ。」


「はい。わかりました。」


俺は階段で二階に行くと少し段差になっているところからベランダへと出て行った。

洗濯物の数は多くないが、これは俺が取り寄せていいのか?


「下着とかばっかりじゃないか。」


ついついメイド口調がもどってしまったが、秋がいないのだからいいだろう。

掃除でも活躍できなかったのだし洗濯物を取り込むくらいはしないとかっこがつかないだろうと、誰に対してか言い訳をしながらリビングへと持っていく。


リビングに着くとまだ秋は帰ってきていなかった。

そのまま持っているわけにもいかないので、床に洗濯物を下ろすと、この前東京で買ったブラが目にとまった。


「Cカップって言ってたよな。意外とおっきいんだな。」


そう言って手に取ると普段は色気も何もないブラをつけているのにちょっとおしゃれにフリルなどがついたブラを眺めてしまって秋が帰ってきたのに気付かずに見つかってしまった。


「えっと・・・これは・・・」


「ボクとしたことがあまりにも掃除が大変で二階には下着泥棒に合わないように下着を干していたのを忘れてたわ。」


「え?怒らないのか?」


前だったら確実に一撃がはいっていたはずなのに、この前の事故以来なんだか優しい秋は怒ることもせずに自分の過失をあげた。


「いいわよ。指示を出したのはボクだし、変なことに使ってたわけでもないしね。」


「へ、変なことって、俺はただ、大きいなぁって思ってみていただけで、あ・・・。」


「そう、竜も男の子だもんね。でも前の事故の時に触ったんじゃないの?」


「あんときは、必死だったし、そんな余裕なんてなかったんだよ。」


「そうだったわね。今更だけど、ありがとうね。」


「これで何回目だよ。まぁ秋にありがとうって言われるのは嬉しいから別にいいけど。」


「ふふ、じゃあさっさと洗濯物たたんじゃおう。」


「かしこまりました。お嬢様。」


そのあとまた秋の指導を受けつつ簡単なタオルなんかをきれいにたたみ、談笑を交ながら洗濯物を片づけていった。



「お疲れ様、もうメイド服は脱いでいいわよ。」


「ふぅ、まさかこんな罰ゲームになるとは、他の奴には絶対に内緒だぞ?」


メイド服から逃れられるという安堵を覚えつつ秋の部屋へと向かう。

もう二度とこんな服は着たくないが、服装以外の命令は特に無茶な要求がなかったこともあり、特にいやな気分はしなかった。


「でも、司には見せてあげたかったわ。竜って整った顔してるから女装させても意外と似合うのね。」


「女装が似合ってもうれしくねぇよ。まぁ整った顔立ちっていうのは間違い違いないわ。」


「こらこら、自分でいうんじゃない。」


「秋だって時々冗談で自分のこと可憐な乙女とかいうやん。」


「それは、竜が男女とか男勝りとかお嫁のもらい手がないとか言うからでしょ。」


秋の部屋に着くと元々服の上から大きめのエプロンとワンピースを着ていただけなのであっさりと脱いでしまった。

まぁ下に何もきてなくても相手が秋なのだから問題ないのだが一応女の子だと確認したばかりなのでヌードショーは遠慮ねがう。


「ああ、フリフリのワンピースとエプロンだけじゃものたりなかったなぁ。でもお母さんのお化粧道具勝手に持ち出したらまずいし、というかばれるし、今回はこれで勘弁してあげるか。」


「ちょま、何か不穏な響きが混じっとったきがするんやけど?今回はとか化粧とか・・・。」


「やだぁ、あはは、冗談よ。でも竜がボクにひどいことしたら、その時は罰としてつかえるかもしれないわね。」


「もう二度としいひんわ。じゃあ、帰るわな。」


メイド服を脱いで落ち着いた俺は肉体的というよりも精神的に疲れたので帰ろうとすると、なぜか秋に声をかけられた。


「え?何で?」


「何でって、もう終わりやろ?運動会で疲れたし、精神的にもかなり疲れたから休みたいんやけど・・・」


「メイドじゃなくなったんだから、誰か帰ってきても平気でしょ?それに、奴隷契約は一日でしょ?せめて帰るまでは言うこと聞きなさいよ。」


「うーん。まぁ確かにそうやわなぁ。ま、俺も秋が無茶なことしいひんとおもってこんな約束したんやし、もう少しくらいやったら聞いたるわ。実際メイドの格好意外はまともな命令やったしな。」


「メイド意外まともに命令こなせてなかったけどね。」


「うるさいなぁ、わかったわ。煮るなり焼くなりすきにせぇ。」


「男に二言はないわね。ふっふっふ。」


「げ、そんなん言われるとなんかこええ。」


「まずこれを付けて。」


秋が取り出したのはアイマスクだった。

夜は快眠の俺はこんなのもの使ったことはなく、使い方もわからなかったがとりあえずメガネのようなものだと思ったので適当に装着する。


「まっくらやん。これ、あぶないんとちゃう?」


少しふらついたが、こんなことでコケたらカッコ悪いのでバランスを取ると真っ直ぐ立ってみせる。

そうするとやはり危なっかしかったのか秋がベッドに腰掛けるように促し、手を引いて導いてくれた。


「どう?真っ暗って何されても抵抗できないし、結構こわいでしょ?」


「ああ、少し動くだけでもなんかにぶつかっちまいそうでこわいわぁ。」


「じゃあ、はじめるわね。」


「うわ、なにをのせたんや?」


いきなり生暖かいものが手に触れ手を引っ込めてしまった。


「さっき台所を掃除しているときに見つけたナメクジよ。」


「ちょ・・・んなもん手にのせんなよ。」


「だめよ。うごかないの。」


そう言うと秋は俺の手足を拘束してベッドに寝かせられてしまった。


「おいおい、なんかやわらかいもん、あたっとんだけど。」


「ぬいぐるみよ。竜って意外と怖がりなのでかわいい。」


「いや、こんな重たいぬいぐるみ部屋になかったやろ。」


秋が乗っているのはわかっていたので冗談で言ったら殴られた。

普段と違い見えなかったので暗黒をくらったように不意打ちとなり結構いたかった。


「次はどこにナメクジおこうかなぁ。ここなんてどう?」


「首はやめろ!!流石にこそばすぎるわぁ。」


押さえつけられているので抵抗もできずされるがままになっていると調子にのった秋の行動はエスカレートしていった。


「しょうがないわね。じゃあこっちにしてあげる。」


「バカ顔はもっとあかんわ。」


流石に我慢ができなくなった俺はアイマスクを取り抗議してやろうとすると秋の顔が目の前にあった。



「あ・・・。」


「アイマスクを取るのは反則だよ。」


真赤になりながら秋は離れて行ったが、俺はまだ状況をよく理解できないでいた。


「ナメクジって?」


「冗談に決まってるでしょ、ボクだってわざわざ手に取りたくないもん。」


言われてみれば当然なのだが、初めてアイマスクをつかった俺は結構テンパっていてそんな簡単なことにも気付かなかったらしい。


「普通こういう時はスポンジか何かだと思ってアイマスクなんてとらないでしょうが。」


「そんなこといっても、動揺してたんだから仕方ないだろ。」


秋に舐められた羞恥心とナメクジと間違えたまま気付かなかった羞恥心とが一緒になって、間抜けな言葉しか出てこない。

頭がこんがらがってしまって正常に働いてくれていないらしい。


「まぁまぁ、おちつきなさいよ。ナメクジじゃなかったんだからいいじゃない。」


「いいわけあるか、ってかあれじゃまるで・・・」


キスみたいじゃないか、と言おうとしてその恥ずかしい発現に口籠もってしまう。


「だって、ボクあの時意識がなかったし、どうせならきちんと意識があるときに初めてをやりなおしたかったもん。」


勇気を出して言ったのだろう。

真っ赤になりながら言う秋は可愛いかった。

あれだけ気にしていたファーストキスだ。


秋が望むならかなえてあげよう。


「まぁ、確かにファーストキスうばっちまったもんな。いいぜ、やり直ししよう。」


「罪の意識あるんじゃない。じゃあやり直させてあげるわ。」


強がりを言っているが緊張しているのが分かる。

秋は目を閉じて立っているが、両手を握りしめているのが見えた。

俺はベッドから立ち上がると、優しく秋の右肩をつかみ、左ほほに手を添えてやる。

すこしビクッとしたが、さっき以上に目をきつく閉じて震えている秋に俺は止まりそうになかった。


「チュッ」


本当はもっと秋の唇を味わってみたかったが、ガチガチに緊張している秋がこれ以上緊張しないように軽く触れるようにキスをすると、体を離した。





その時は秋と付き合いだすことになるんだと思っていたが、秋は心友になろうと提案してきて、

司との三人の関係は確かに魅力的で俺もそれには賛成だったのでこれまで以上に仲良しの三人となったが恋愛的にはなにも変わらない日が続いた。

何故か毎月“優しくする日”なんてものを作られたが、それで日常が変わったわけでもなく三人の関係は今も続いている。





ところが、中学二年になってそれが大きく覆されることになった。

今までクラブ活動はちがったが、それ以外はクラスでも登下校でも一緒だったのだが、クラスが別になってしまい、秋や司と一緒にいる時間が短くなってしまった。

しかも一年生としてはいって来た真奈美ちゃんは今までの遠くから見ているファンクラブの連中とは違い積極的に秋と接しようとし、

それに影響されて周りも秋に対してアピールを開始したようだ。

今朝だってゲタ箱には大量のラブレターが入っていたし、部活に行く前だって俺に声もかけずに浩太と鈴ちゃんと話しながら美術室むかっていったのを見かけた。

彼氏でもないのに嫉妬なんてカッコ悪いが、しかも一番のライバルが女の子である真奈美ちゃんっていうのが悲しいが、それでも気持が落ち着かない。


「竜ぅ。まだ終わらないのぉ?」


「ああ、今日は体育館モップ掛けたら終わりだからもう少しまってくれ。」


今日は珍しく司の方が先に練習を終わったらしい。

司は荷物を置くと何やらいじりながらこっちを観察しているようだった。


「お疲れ様でした。司、待たせたな。」


「いいよぉ。それよりなにかあったのぉ?竜へんだよぉ?」


司ともかなりの付き合いだ、少しの変化もわかってしまったらしい。

元々隠し事が下手な俺は司には自分の気持ちを伝えていたので今の心情を相談してみる。


「気持はわかるかもねぇ。どっちの気持ちもねぇ。」


「どっちもってのは俺と秋のってことやんな?」


「そうだよぉ。三人の関係を続けていきたい秋と今まで以上を望む竜の気持ちがねぇ。」


「今まで以上ってわけじゃねぇよ。むしろ前に戻れるならその方がいいやん。」


「うーん、でも秋がモテてるんだから前に戻るのは無理でしょぉ?じゃあ今まで以上の関係にならないと竜の気持ちは晴れないんじゃないかなぁ?」


「まぁ、確かにそうかも知れねぇけど、秋はそんな気はねぇからしゃあないやん。」


「ふぅ。まぁ僕にも思うところがあるからぁ、もうしばらくは我慢してよぉ。」


美術室に向かいながら話していて、扉の目の前にきてしまったので司は扉をあけると固まってしまった。


「おい、どないしたねん。秋ぃ〜帰るぞぉ!!」


そう言って美術室の中を覗くと俺も石化してしまった。



「もうそんな時間か、じゃあみんな今日はここまでだ。出来上がった絵は一度持ち帰って明日も持ってくるんだぞ。

初めての作品だ。大事にあつかったらボクからいいものをプレゼントするから期待しておくように。」


「「はぁい。」」


「ん?どうしたんだ二人とも?ボクはこれを着替えてくるからちょっと待っていてくれ。みんなも帰る準備をして早く帰るんだぞ。」


「「はぁい。」」




もう一度部員たちは元気に返事をすると帰り支度を開始し、それぞれ帰って行った。


「ふふ、女神様って呼び名も間違いじゃありませんよね。」


俺たちの気持ちは真奈美ちゃんが代わりに代弁してくれた。

俺と司は秋が準備室から出てくるまでの間真奈美ちゃんと、どのようにして女神が降臨したのか話を聞いていた。


「おまたせ!ずっと動かなかったから体中がだるいよ。」


「お疲れぇ。モデルだったんだってねぇ。真奈美ちゃんから聞いたよぉ。」


「新入生に模写のモデルを頼まれてね。どうだった?あの服もボクがつくったんだよぉ。」


「うん、本当に女神みたいだったよぉ。」


「ありがと!司は正直者だね。」


「そこはもう少し謙遜するところだよぉ。」


「あはは、でも部員のみんなもだけど二人とも唖然としちゃってさ。作ってよかったよ。」


「服も素敵でしたが、女神様が着てこその女神降臨でしたわ。」


「真奈美ちゃんはまたそういうことをいう。でも悪い気はしないからいいわ。さぁ、帰りましょ。」


「ああ。」


俺はここにきてやっと声を出せた。

服はセーラー服にもどっていたが、おろした髪はそのままで、それのせいかさっきのドキドキが中々治まらない。

俺は本格的に秋に惚れているらしい。


「ねぇねぇ。どうだった?竜からは何も感想聞いてないわよ?」


秋は俺の荷台でそう言って体をくっつけてきた。

いつもより胸の感覚が柔らかい気がする。


「ああ、よかったと思うよ。真奈美ちゃんじゃないけど女神みたいだった。」


なんだか緊張してしまったがどもらずに言葉がでてくれた。


「ほんと?うれしい。あとね、あれ後ろがガバッとあいちゃうからブラつけれなくって、今も面倒だったからノーブラなんだ。」


「ちょま、ひっつくな!!胸あたってるから!!」


「嬉しい癖にぃ。竜くんはシャイなんだからぁ〜。」


「司!お前あとでおぼえてろよ。」


「そんな動揺しないの。それよりも、きりきり漕ぎなさい。」


そう言うと秋は体を離した。

ちょっと残念な気もするが心臓のためにも今はその方がいいだろう。

あんまりにも自転車を真剣に漕いでいるので鼓動がすごい勢いだ。


「それは自転車をこいでるせいじゃないよぉ。」


「うるさい!変なところで突っ込むな!」


「ふふふ、もうほとんど完成したみたいだけど明日も今日の続きする予定だから明日はあの服きてかえろっか?」


「バカ!私服なんて着て二人乗りしたら警察につかまるだろうが。」


「こんな田舎で警察なんて来ないよぉ。先生たちはヘルメットみて分かるからぁ別にあの服でも問題ないとおもうなぁ。」


「明日きちんと着替えなかったら後ろにのせてやらないからな。」


「じゃあ、司乗せてね。荷台ないけどステップのところで十分だしね。」


「どあほ、あんな服でそんなことすんな。」


「じゃあ竜が乗せてよ。今更歩いて帰れとは言わないでしょ?」


「ああ、もうわかったよ。その代り大人しく乗るんだぞ。」


「はぁい。」


しゃべりながらも自転車は進み、そのあとも結局なんだかんだと秋と司にいじられ続け、秋を家に届け、司ともわかれ道でさよならをし、家に帰るのだった。


「はぁ、明日はあれが荷台にのるのか。でも奇麗だったなぁ〜。」


「お兄ちゃん帰ってくるなりニヤケてどうしたの?」


「貴史!ニヤケてなんかねぇよ。」


「はいはい、どうせ秋姉さんが荷台から抱きついて胸でも当たったんでしょ。」


俺ってそんなにわかりやすいのか?

遠からず近からずの解答が貴史から帰ってきたのでとりあえずうなずいておいて、家に入っていく。

昔は祖母と母に任せっきりだった家事もメイド事件いらい手伝うようになり、着替えたら台所に向かうつもりだ。


「おかえり、竜。学校はどうだったの?」


学校のことを聞かれたのに秋のことを思い出してしまい顔が真赤になってしまう。


「そう、秋ちゃんとうまくいってるのね。着替えたら手伝って頂戴。」


「なんでお母さんまで分かるんだよ?」


「あら?竜ってすごく正直な性格してるわよ?今だって標準語になってるじゃない?」


「あ!そういえば俺秋の女神姿みてからずっと標準語だったかも・・・」


「え?秋ちゃんの女神姿?お母さんも見てみたいわ。明日はカメラ持って行っても良いから写真撮ってきてちょうだい。それがダメなら秋ちゃんを家に招待するのよ?」


「なんでやねん。とりあえず着替えてくるわな。」


うーん、今は意識して関西弁にしたが、これはやばいな。

家になんて呼んだら大変なことになるだろうし、カメラどこに置いてあったかなぁ?



そんなことを考えながら俺は着替えるために部屋へとはいっていく。











初めての竜視点でのお話でした。


あの時竜は、みたいな感じで書いたのですが、いいですね。この方法も♪



さて今回のテーマは〜別人格からの視点〜です。はい、そのまんまですね。

でも、AKIは一人しかいないのに、秋以外の竜の気持ちや司の気持ちを書くのはかなり大変でした。まぁ楽しんで書いていることなので苦痛ではないのですが、死神みたいに超越した人格ではないので人間味があふれる視点になっているかが不安です。



それではキャプチャー14を読んでいただきありがとうございました。



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