チャプター9
キャプチャー8の誤字修正と、キャプチャー3も発見いたしましたので修正をさせていただきました。
PVが気づいたら2万を超えていることにびっくりしております。
本当にありがとうございます。
日本で一番強いのは小学六年生(♀)???
「はぁ・・・いやだなぁ。」
溜息をつき憂鬱な顔をしているのは蟹津秋(11歳)だ。
今年の春に小学六年生になった秋は、いつもなら道着を着ると元気になるのだが、今日だけはそうもいかなかった。
「こんなことなら小学生の部でも手加減して負けておくんだったなぁ。」
道場で一番強かった秋だが、あまりにも強いので小学六年生になったのを期に一般の部門の大会に出されることになった。
これも思いつきなどではなく、入門の時に一本背負いを決めてから、お母さんと先生の中でいつかは全国大会にだそうと画策されていたようである。
中学にはいったら部活もあるので柔道をやめると知った二人が最後だけでも秋の実力をたしかめる場所をつくろうと考えたらしい。
そんなわけで、柔道連盟に掛け合い、小学生の部においては完全無敵で、時々出された地方の一般の部でも優勝していたことから、全国大会への出場が特例的に認められたのである。
さすがの竜もこの大会には参加できず、司と三人の家族と一緒に応援席である。
「せめて、負けてもいいんだったらなぁ。」
道場で手を抜いていたのは実は林先生には結構すぐにばれてしまい、それでも秋の意見を尊重してみんなには黙っていてくれていた。
しかし、手を抜けばばれるのは確実であり、この大会には有名な選手なども特別ゲストできているのでこんな大会で手抜きをしたら真剣にこの大会に向けて稽古してきた人に顔向けできない。
そして一番の理由は。
「もし秋ちゃんが手を抜いて負けたら、お母さんが素敵な男性を見つけて秋ちゃんのそのファーストキスを奪ってもらえるようにお願いしてあ・げ・る♪」
とのことで、全部の試合を本気で戦うことが義務付けられた。
しかも、この大会、なぜか階級の設定がなく、さらに男子と女子の優勝者で最後に試合をするという。
本当の意味での日本柔道の最強を決める大会らしく、手を抜けないだけでなく、下手をしたら不幸少女にさらに最強少女とかいう、あまり欲しくない称号まで付いてきそうで怖い。
しかも、ウォーミングアップをしながら参加者の人たちを確認したが、正直ただ体がでかいだけだったり、技ばかりみがいていたのか動きがとろかったりする人ばかりであまり強そうではない。
注)実際は日本の指折りの選手が集まっており、実力も経験もかなりハイレベルな大会である。
「まぁ、適当に優勝して男子はさすがに強いだろうから、そこで負けて終わりかな。」
秋がそうつぶやくと近くでアップをしていた選手が睨みつけてきた。
この人は確か一回戦であたるはずだ。
身長もそこそこだし、見た目はポニテのかわいらしい小学生の言葉に反応するあたり実力のほどが知れるというものだ。
そうしていると、開会式が始まり、一日目は参加人数が多いこともあって二回戦までしかされないうんたらかんたら、諸注意をすませると試合が開始された。
「はぁぁ!!」
バタン
「一本それまで!!」
「とりゃあ!!」
バダン
「一本それまで!!」
たったの六行で一日目の試合がおわってしまった。
確かに日本でも指折りの選手が集められた大会ではあったものの、秋のレベルはそれ以上だったらしい。
普段全力を出せるような相手がいないため本人もそして周りも気付かなかったが、本当に軽く女子の部門では優勝してしまいそうである。
「お疲れ様。」
「疲れてないわよ。試合時間二試合を合わせて一分未満よ?」
「まぁ相手の選手がかわいそうだったねぇ。あれでも結構有名な選手で二人目なんか前回のベストエイトらしいよぉ。」
「まぁくじ運もあるし、優勝とかしているような人だったら本物の実力者だから今日みたいな試合にはならないわよきっと。」
「いやいや、この大会でベストエイトなら地方大会とか階級別では優勝してるような人やから、しかも秋の階級は一番軽い階級やろ?」
柔道やスポーツのこととなると竜はまともなことをいうのでこれには秋も返答できないようだ。
実際本当の実力を知らない両親や林先生などは、この大会に出すことによって上には上がいることを教えて人生の教訓にしようなどと考えていたのだが、このままでは誤算もいいところだ。
まぁ優勝したらしたで嬉しい誤算なのだからそれも良いのだろう。
「やけに大きなことをいっているが、今回は手を抜かないか私もバッチリ監視しているし、知り合いの選手にもよく見ておくように頼んでいるから穴はないぞ。真剣に取り組みなさい。」
「はい、先生。今回は私のファーストキスがかかっているので絶対に負けません。」
竜と司はチラリと好美の方を見る。
そろそろ付き合いの長い二人なので、どんな取引がされて秋が本気をだしているかなどはお見通しなのだ。
「それに優勝したら、ワンちゃん飼って良いって約束したので♪」
小さい時から動物好きの秋は前からペットを飼いたいと言っていたのだが、家族の誰も家にいないので世話ができないからと許可が下りなかったのだ。
しかし、中学に進学して柔道をやめついでに今までのピアノやバイオリン習字などの習い事を全部やめれば秋は多少余裕ができるし、六つ上の武満は大学に進学するし、好美もパートの時間が減るのでそういうことならと犬を飼うことに決めたのだ。
実際利也などは負けたら落ち込んでいる秋をなぐさめるためにもと考えており、勝っても負けても犬は飼うことができるのだが、
そこは負けず嫌いな秋はわかっていても是非優勝してワンちゃん獲得権を正式に両親にもうしたてたいのだった。
「それだけやる気があれば優勝まちがいなしだな。」
「お兄ちゃん柔道全然しらないのに無責任なこといわないの。」
「柔道を知っとる。俺も秋は優勝するとおもうぞ。」
武満と竜から激励の言葉をもらい、今日の試合はもう終わったので近くのホテルへとむかった。
「わぁぁ。すっごい綺麗なホテル♪」
秋は思いのほか立派なホテルに歓声をあげている。
「秋ちゃんの晴れ舞台だからね。おじさんたちみんなはりきっちゃったんだよ。」
そう言ったのは司のお父さんだった。
「ほんとすみません。なんだかんだいって私たちの分までだしていただいてしまって。」
竜の家は母子家庭なのでお母さん一人だが、竜の親友の大会とあって少し無理して休暇をとって参加していた。
「それじゃあそれぞれの部屋に行って今日は休みなさい。特に秋ちゃんは明日が本番なんだからしっかり休むように。」
皆が話している間にフロントで鍵を受け取ってきた利也は鍵を渡しながら先頭にたって歩きだした。
「「「はぁい。」」」
子どもたち三人は元気に答えると、ぞろぞろと総勢九名の集団は各部屋に向かっていく。
「でもさぁ。お父さんたちも、よくこんな部屋割りゆるしたよねぇ。」
部屋に着くと初めに声を出したのは司だった。
三人ずつ人部屋になったとき、母親たち、父親たちプラス武満となり最後に子どもたちの部屋となったのだ。
さすがに交通費などもあり、大会に負けたらキャンセルをしなければならなかったのであまり多くの部屋をとることはできなかったのだ。
三日間ある大会なので明日負ける分には翌日は観光でもすればいいので、保護者たちは今日勝ち残ってくれた秋に心の中で感謝した。
「ま、三人とも幼馴染だし、気にしないってことだろ。」
「あんたたちねぇ。着替えとかお風呂とか絶対に覗くんじゃないわよ?」
「大丈夫だよぉ。それに昔は一緒にお風呂入ってたしぃ。」
「は?マジか?どんなだった?」
とりあえず竜には残酷の右手がヒットした。
右手なのに司の方を見ていた竜には暗黒の要素も加わっていたことだろう。
「司はそんなことしなさそうだし、大丈夫ね。竜!!絶対だめだからね。」
「バカ!!絶対しないよ。」
「じゃあ信じてあげる。」
竜は約束をしたら絶対に守ってくれるという安心から秋はあっさりと信じたのだが、もともとマセガキだった竜はそろそろ思春期を迎える年ごろなわけで、信じてもらって裏切れない気持ちと、覗きたい気持ちの狭間で苦悩するのである。
「竜ぅ。今日見てわかってると思うけどぉ、秋は強いよぉ。
普段のボケの突っ込みなんて完全に手加減してるんだからぁ。下手なことはしないでねぇ。僕まで被害がきちゃうからぁ。」
この司の言葉に、竜は生唾を飲んだ。
柔道では結構な強さをもつ竜は今日の試合を見て秋の強さが理解できた。
竜ならひょっとしたら善戦するかもしれないが、日本屈指の選手をいとも簡単に投げ飛ばす秋の実力はただものではないのだ。
「わかった。絶対に覗かない。」
「なんか、それはそれでむかつくわね。まぁいいわ。お父さんも言ってたけどまだ二日もあるんだもの。今日はもう遅いしお風呂にはいって寝ちゃいましょ。」
そう言うとパジャマを鞄から取り出し、バスルームの扉をあけてはいっていってしまった。
多少豪華なホテルとはいえ、ユニットバスなので、二人は秋が出てくるまでトイレを我慢しなければいけなくなり、いざとなったら隣の父親たちの部屋にでも行こうかと相談するのであった。
「ん〜。よく寝た♪」
朝食はバイキングのようで、広間に三人はむかった。
風呂から出た秋は交代で入っていく二人を置いて寝てしまったので、そのあとどうなったかしらなかったが、明るい場所で見ると、二人の目には大きなクマができていた。
「どうしたの二人とも?あんなにふかふかのベットだったのに寝れなかった?」
「僕らはね、今日秋ちゃんが女の子だってことを、睡眠時間を削って理解させられたよ。」
いつもは間延びする司が今日は伸ばす元気もなく秋には理解できない言葉で説明した。
「なに言ってるのよ。私は女の子に決まってるじゃない?」
「だって、まさかあんなムグ・・・」
「竜、それ以上言ったら秋から警戒されるだけだからやめとこ。」
「了解。」
そんな三人の様子を保護者たちは暖かいまなざしで見つめていた。
秋の両親は近頃女の子らしくなった秋のことをしっているし、全員三人が幼馴染で意識をしない関係なのをしっていたので、これはこれで良い成長なので悪くはない反応だと考えている。しかし、明日からの部屋割りは変更しなければならないだろう。
「まぁいいわ。とにかく今は大会に向けてご飯ちゃんとたべないと!!」
頭の回転は速いが、前世の記憶の影響で女の子としての自覚が足りない秋は恋愛関係に関しては意外と鈍いのだった。
まぁいつもそばにいる二人の意識が変わったのだから、今後の発展もあるだろう。
それでは第三試合を開催します。
今日は二日目ともあってある程度の実力者がそろっている。
今日の最初の対戦相手などは前回の優勝者で、今回も優勝確実だろうとされていた。
「互いに礼!!はじめ!!」
昨日と違い見た目で判断して油断してこない。
秋の様子をじっくり見ながらも大胆に踏み込んできた。
しかし秋は、『これなら、女子の部でなら竜も結構いいところまでいくんじゃないかしら?』なんて考えながら試合にのぞんでいた。
「一本それまで!!」
様子を見たぶん前の選手よりも時間はかかったが、秋の半径1Mに近付いた瞬間襟を取られ反応した時には受け身を取るのがやっとの状態だった。
「ありがとうございました。」
結局そんなこんなでそのあとも順調に進んでいき、準決勝も勝ってしまった。
明日は決勝戦と三位決定戦と男子との試合の三つしか行われず、選手的には2試合しかない。
それもそのはず、大会終了後にはかなり大規模な大会のため盛大な閉会式はトリフィーや賞金などの授与などもあわせて十分な時間をとってあるのだ。
「お疲れ様。」
「だからさぁ。つかれようがないわよ。」
「あのな、昨日とちがって今日は優勝候補といわれてるような人ばっかりだったんだぞ?」
「あれ?竜が標準語つかってる?やっぱり東京に来ると標準語にもどるの?」
「それ今ぁ、関係ないよぉ。」
あまりにも緊張感のない対戦ぶりに試合がない間休憩していたこともあって何とか復活した二人は元気になって秋に話しかけているのだが、秋の様子に結局力がぬけるのであった。
「ねぇ。お母さん。どうせ明日は試合あんまりないし、疲れてないから少し東京見物いっちゃだめぇ?」
今日の試合でも延長戦などもあり、かなり疲労がたまっている他の選手を尻目に、毎回一本だった秋は試合のためによく寝て、栄養を取っていてあり余った体力を発散させるべく、母親に懇願するのであった。
「だめ、っていって夜抜けだされたらそっちの方が心配だから少しだけよ。」
「まぁ秋だったらやりかねないからしかたないな。」
秋のことを理解している好美と武満はしぶしぶといった形ではあるが、承認するのであった。
「じゃあさ、娯楽施設だと時間的にあんまり遊べないからショッピングにしよ♪」
「まったく、じゃあ俺たちは先にホテルに帰っているから、お母さんとあと竜くんと司くんは一緒にいくだろ?」
保護者たちはホテルのバーでお酒を飲むのだろう。
武満は未成年だが、もう体は十分にできているので少しくらいなら大丈夫だろう。好美はひとり、お酒は飲めないのでこういう時はいつも子どもたちのお守りをするが、
本人も楽しんでいるのでよしとする。今後の方針も決まったので保護者達は電車で、子どもたちは秋のこともあるので少しリッチにタクシーで移動を始めた。
秋は不幸少女なのでこういう時に公共の施設を使うとたいてい事件に巻き込まれるので、できるだけタクシーなどの事故などの起こりにくい移動手段をとっているのだ。
「わぁ。このネックレスかわいい。」
百貨店のようなところに着くと、秋はショウウィンドウをなめまわすように見ながらアクセサリーや服などをみていた。
「やっぱ、秋は女の子だよな。」
「昨日実感させられたばかりじゃないのぉ。」
よく一緒に遊ぶとはいえ、元々田舎である海良町にいるときは一緒にショッピングなど行かなかったため、ここでも二人は女の子な秋の一面をみせられた。
「ねぇねぇ、どっちがいいと思う?」
「「・・・」」
「最近サイズが合わなくなったし、せっかくだから買ってくれるんだって♪」
男二人は、ふりふりのついたブラジャーを手に話しかけてくる美少女にかたまるしかなかった。
二人が無言のため秋は仕方なく母親に聞くためにまたランジェリーショップの中に入って行った。
「あれをこたえるのか?」
「いやぁ、僕らに聞くあたりは秋ちゃんらしいけどねぇ。」
「無理だよなぁ。」
「まぁ、あんまり意識しなかったけどぉ、女の子らしくなってきたのは確かだしぃ。」
「というか、普段は気付かなかったけど、秋って美人だったんだな。こうして他の女の人がいる場所に来ると意識させられる。」
「「はぁ・・・」」
この二日間で秋の意外な一面を存分に体験した二人はため息をつくしかなかった。
しばらくたつと、女の子の買い物は時間がかかると気づき、二人で好美に声をかけ、百貨店内にある紳士コーナーを回ることにした。
四人が合流し食事を済ませると時間はもう8時になっており、今からホテルに帰ればちょうど良い時間になったのでまたタクシーを拾いホテルへ帰ることになった。
「ねぇねぇ、ボクまたおっきくなってたんだよ。」
「そっか、成長期だから身長も伸びるよな。」
「違うよ。胸だよ。Cカップだってさ。」
「んな報告いらんわ!!」
「あ、今日初めて竜の関西弁聞いたかも。」
「そうかもぉ、今日は竜ずっと標準語だったもんねぇ。」
二人はそれぞれ秋を意識しないように必死だが、恋愛にとことん鈍感な秋は逆に二人の眠っている男の子の部分を刺激してしまっているようだ。
「おばさん。どうにかしてくださいよ。」
「どうにかって?何かあったかしら?」
後部座席に座っているので顔は確認できないが助手席であきらかにニマニマオーラをだしている好美に、二人はまたそっと溜息をつくのだった。
「もう、今日は朝から二人変だよ?どうしたの?」
「「なんでもない!」」
結局ホテルに帰ると部屋割りが変更されることになり、秋と好美が入れ替わることになった。
お酒を飲みに行った二人は部屋にいなかったので秋は不思議に思いながらもベットに潜り込むと、決勝の前だからほぼ一人部屋になるようにしたのかな?
と考えすぐに寝るようにした。
強豪選手が昨日の時点で倒されてしまったため、決勝戦は本当にあっけなく終わり、実力の拮抗した三位決定戦の方が、盛り上がったくらいである。
そして優勝が決まった秋は最後の男子との試合のために会場の隅でストレッチをしながら出番をまっていた。
決勝戦ともなると報道陣もあふれかえっており、特に小学生でしかもらくらくと勝ち上がった秋には取材やカメラが多数向けられ、肉体的には全く疲れていないが、精神的にはかなり疲れてしまう秋だった。
「すみません。まだ小学生なので取材などは保護者を通してください。大会終了後にあらためてきちんとした場所を準備しますので、会場内での撮影などは控えてください。」
林先生はスタッフの人たちと一緒になって秋を守るようにして立っていた。
こんな状態では応援している竜や司たちも近付くことができずに、応援席で心配そうにみているだけだった。
「それでは、男子と女子の優勝者による親善試合を始めたいと思います。両名中央へ。」
アナウンスが流れると、やっと報道陣から解放されゆっくりと歩いていく。この試合は他のものとは違い勝敗よりも親睦を深めることが目的のため試合の前に、それぞれ中央で握手をし会話を交わすことになっている。
「君が秋ちゃんか、小学生ってきいていたけど、とってもかわいいね。」
「ありがとうございます。良い試合ができるようにお互い頑張りましょう。」
秋がそう言うと相手の男は口の端を少しあげいやらしい目つきで胸の方をみてきた。おおかた寝技にでももっていこうと頭の中でエロいことを考えているのだろう。
元男の秋には相手の考えることがわかってしまい。
握手もそこそこに、最初の位置にもどっていった。
「これより親善試合を始めたいと思います。両名礼、はじめ!!」
男の方は女子の部門の試合を見ていなかったため秋の実力を知らない。
本来ならそれでも男子の方が圧倒的に有利なのだが、階級差の無いこの大会で軽く優勝していたことから秋にはそんなハンディはあってないようなものだった。
「本当はここまできたら流石にお母さんも怒らないからこの試合だけは負ける予定だったんですけどね。」
そう言うと、ゆっくり値踏みをするように近づいてきていた男に向かって踏みこむと
「一本!!それまで!!」
男は畳の上で受け身もうまくとれずに倒れてしまった。
「えへっ♪勝っちゃった♪」
舌を出しかわいらしく微笑む秋の姿を報道陣はまばゆいばかりのフラッシュで迎え、その日の夕刊や翌日からの新聞にはポニーテールを揺らしている秋の写真でいっぱいになってしまったのだった。
「俺、秋の前では失言しないように努力するわぁ。」
「僕もぉ、今までいじってきたけどぉ、流石に命の方が大事かもぉ。」
今後の秋との付き合い方について語り合う親友ふたりの横では、
先ほど秋がしたことの意味をあまり理解していない保護者たちは「やったぁ!!」などと浮かれてはしゃいでいる。
こうして名実ともに最強の不幸少女となった秋は、かなり多額な賞金と一緒に不名誉な称号を与えられることになるのであった。
<最強美少女現る!!日本で一番強いのは小学生の女の子!!>
「なによこの見出しぃぃ!!」
新聞の見出しをみてみて絶句する秋に周りは生暖かいまなざしをおくるのだった。
「良かったな。不幸少女から最強美少女に変更だ。」
「そうだよぉ。しかもぉ、美少女だってさぁ。」
「ボクが美少女なのはいいのよ。それよりも記事の内容と副見出しよ」
そこには、快挙をとげた勇士がつづられているのかと思いきや、秋の容姿を誉める文章や、
ロリコンたちの注目の的になっているという変な話、“ポニーテールの妖精”などを含めた巷での様々なありがた迷惑な呼称などなど、かなり本人とは関係のないものまで書かれていた。
「そっか、林先生が情報隠しとるんやったな。あんまりにも報道陣がきてたから多少の情報漏れはあるみたいやけど、全部公開すると秋たちの生活が狂ってしまうとかいうとった。」
「それは、わかってるわよ。でも情報がないからって、この記事はなんなのよ。一日目から取材にきている記者さんもいるんだからきちんとした記事書いてよ。」
「無理だよぉ。正確な情報を持っているのは一部だけだもからぁ。ほとんどが最終日にきただけだからねぇ。しばらくはデマとかが流れちゃうのはあきらめなきゃぁ。」
そんな話をしていると、教室の扉が開いて一つ学年が下の女の子がはいってきた。
「あの・・・サインください。」
彼女は道場でも一緒なのでよく知っている。
新聞をみてすぐに秋のことだとわかったのでわざわざ色紙まで用意して朝一番にサインをねだりにきたのだろう。
「サインなんてしたことないからてきとうだけどいい?」
「はい、できれば愛をこめて真奈美へって書いていただけると嬉しいです。」
「「「・・・・」」」
流石に無理だったので自分の名前と相手の名前を習字でならった点字で書いてあげた。
点字なので内容がわからないので本人は嬉しそうに色紙を抱きしめると教室をでていった。
「あっはっはっは!!良かったな。次の記事は<恋人は女の子?ホテルから出てくる最強美少女の傍らにはいたいけな少女が>これで決定やな。」
あほなことを言い出した竜には殺戮が待っていた。
失言を控えるとの言葉は早くも実行不可能なようだ。
逆にこういう時にかならず茶化す司は空気を呼んでおり、竜の介抱をする振りをしながら秋に見えないように笑うのだった。
「ボクはユリでもバラでもない!!ノーマルだ!!」
女の子がバラとか言っている時点でおかしいのだが今日の危機迫る秋の様子に突っ込みをいれられる人物のうち、
一人は最もダメージの高い殺戮の頭突きをくらって床に倒れており、もう一人は下手にあおることができないため、笑いをこらえながらも親友の勇士をながめるのだった。
ご愛読ありがとうございます。
伏線を少しだけ回収でき、さらにこれからの展開にたくさんの伏線をはる話になりました。
不幸体質な秋はあまり目立つ存在になるのは良しとは思いません。
あと、今回は初めて完全な第三者目線での字の文に挑戦しました。
というかこの話を伝えやすくするために挑戦させていただきました。
次の話でようやく洋司さんと本格的に話す機会があります。
この大会で優勝しちゃった理由などもそこで明らかにする予定です。
今回のテーマは“最強”です。気持ちいいくらい強い秋ちゃんが表現できていたらこの話は成功だと思っています。
もしみなさんの気持ちがAKIに協力してやろうと思いましたら意見・感想おまちしております。
今回もみなさんの貴重なお時間をAKIの小説のために割いていただいて本当にありがとうございました。