プロローグ
俺、田中崇に色々と問題があったのは確かだ。学生だが青春とは程遠い生活をしていた事なんて俺の問題の最たるものだと思う。どうにも子供の元気の良さについていけなかったのだと言い訳しても仕方がない。
取り敢えず、もし、今この状況が。地下で化け物相手に必死こいて生き残っているこのザマが、天罰だと言うのなら。流石に勘弁しろと、声を大にしてカミサマに言いたい。後、もう1つ言わせて貰えるのなら、邪神だからって女を地下に埋めるな。
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今日も今日とて何も無い生活。起伏のない素晴らしき日……友人1人居ないのは俺のクソザコナメクジな人徳がなせる技だろう。精神年齢とか元気とかが圧倒的に違うからしょうがない。
「よぉ、オタク野郎! 昨日も徹夜でエロゲとかしてたのかァ?」
「やめろよ、童貞君が可哀想だろ~」
今日も今日とて絡まれたなぁ……昼休みのしかも教室内なのにようやるわ本当に。毎日飽きもせずに……こいつら継続力高いから将来大成するのでは? 性格がダメだな。
「まぁな」
「なっ!? う、ウゲェェ! キモっ! その上昼休みにボッチでラノベとかないわ~」
エロゲやってるだけで動揺するとか本当に高校生かこいつ。初心にも程があると思うんだ。あとそのゲラゲラとした笑い方が幼稚っぽい。
クラスメイトは見て見ぬ振りだしねぇ、『いじめをみたらだめだよといおう』って小学校で習わなかったのかしら。まぁ、賢い選択ではあるけどな。正直な所俺に対するイジメは俺にも非があるし。周りと合わせるの苦手なのよなぁ。
「あ~……このまま平和が続くといいなぁ」
「あ、何言って……」
俺の独り言に過剰反応した野郎が何か言っていたが……おや、急に途切れたな。なんだなんだ? これはラノベ読んでる場合じゃなさそ……マジで?
「な、なんだよこの光!?」
「取り敢えず逃げないと!!」
「これなんてドッキリだ!?」
床全体が光ってるのか? これ……この教室床電灯とかなかったと思うんですが。はぁ……ドッキリとかマジでクソ。早く帰りたいのになぁ……どこだろ○BSかな? それとも○テレかな?
にしても……なんで誰も逃げないんだろうな。ドアの目の前に居る奴らも何人かいるのに。
「な、なんだよコレ!!」
「さっき似たようなこと言ってる奴いたぞ」
さっさと終わらないかと思っていると、視界がよりいっそう光に包まれた。何も見えない、立っているのか、座っているのか。前を向いているのか、それとも上を向いているのか。これがホワイトアウトってやつか、こりゃ事故るわけだ。
数十秒すると視界がクリアになった。周りの風景が教室から教会のようになっている。ステンドグラスには神かそれとも聖人か、人が描かれていた。
周りには神官と……騎士らしき人物。全員が全員喜んでいるのがわかる。耳を済ませてみると「これで戦争が……」「神からの使い……」「従わなければ奴隷に……」等と不穏なことが僅かに聞き取れた。
「ッ!?」
「なにィッ!?」
俺の体は不思議と、自然と動きだした。前世で培った生きるための技を全力投入で俺は騎士の足をかけ転ばせた。前世の技術は錆びているが朽ちてはいないようだ。
「誰が戦うかバーカ!!」
そして全力で逃げ出した。直感というかなんというか、恐らくこの世界に来た事で身体能力が今までと比べ物にならない程高くなっている。やはり筋肉は全て解決するんだな。
姿勢を低くして騎士の足をかけながら光が差し込むステンドグラスに向かって走る。本当に体がよく動く。
「借りるわ」
「ガッ!?」
若そうな騎士の顎を思いっ切り殴り、そしてその騎士から剣を快く貸してもらう。そしてそのまま剣を思いっきりステンドグラスに投げつける。
ガッシャァァン
と、大きな音がなりステンドグラスが崩れ落ちた。下見除くと高さは5m程で、下には芝生が広がっていた。俺は躊躇なくそこに飛び降りた。思ったより痛くない……てか全然痛くない。身体能力もあるだろうけど芝生がすごい柔らかいのもあるだろうな……。近代日本では見ない自然の多さだこと。
「……あそこが城下町か? 取り敢えずあそこに行くか」
小高い丘の上にこの教会は位置しているようで、この教会と融合するように巨大な城がそびえ立っていた。そしてそれを囲むかのような大きな町……と言っても日本の町に比べるととても小さいのだが。なんというか、好き。
「いたぞ! 反逆者を捕らえろ!!」
「「「ウオォォーーーーーーー!!」」」
「なんで反逆者……ステンドグラス壊したのがダメだったか」
マジであれ神か聖人だったんだろうな。やべぇ、やっちまったわこれ。こりゃぁ俺の人生詰んだかもしれないな……。日本の警察程ではないにしても一高校生が軍から逃げ続けることが出来るわけがない……、国外だ! そうだ、国外に行こう!!
国外なら問題ない! だってこの時代の国なら別に国外まで捕まえにこれんやろ。
「というか国外いかないと多分詰む」
国外までとは言わなくても取り合えずここから数キロ離れないと捕まるだろうな。そしてYOU DIEとなるわけだ。ハハッ……絶対生きないと。それじゃ、イクゾー!
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走りに走って城下町の路地。もしかしなくてもクラスメイトを見捨てた俺ってド腐れかも知りないと気づいた今日この頃。
「もしかしなくても俺って敵役だよなぁ」
こう、主人公達見捨てて逃げて死んだと思われてたら、後々平然と生きてて「お前たちのおかげで~~……」てな事言って主人公に倒されるっていう。割と俺って死亡フラグ立ってるな、死なないように頑張らなきゃ。
事実死亡フラグは実在するだろうしな。俺も実質死亡フラグ建てて死んだし。前世の戦友大半死亡フラグ建ててな気がしなくもない。まぁ、あの頃はそんな言葉無かったがな。
「さて、町の外に出る門らしき所に来たな……身分証明書とかないけど大丈夫か?」
一応追手の騎士とかはいないみたいだが……。まぁ、困ったら人に聞いてみよう。異世界転移あるあるで謎に言語は通じるみたいだし。取り敢えず門の近くにいる門番らしき人に話しかけてみるとしよう。
「すいません」
「ん、どうした?」
「町の外に出たいんですが、何か出るときに必要なものってありますかね?」
よし! よく喋れたぞ俺。最近コンビニと家以外で一言も喋ってなかったけどよく言えた! この人いい人そうだし、上手くいったんじゃないか!?
「必要なもの、か……特に無いが。まぁ、剣位は持っておいた方がいいんじゃないか?」
「そうですか……無くても別にいいんですよね?」
「別にいいが。さてはあんちゃん、持ち合わせが無いな?」
ニヒルな笑みでそう問いかけてくる門番の兄ちゃん。くそ、その通りだよ……。
「はい……実はーー」
「あー、皆まで言うな! 指図、盗みにあったんだろ?」
「は、はい……路地裏で」
なんか都合よく解釈してくれた、とりあえずこれに乗っておくか。いい人そうだから良心が痛むぞ、そうとう。
「カァー、そりゃあ災難だったなぁ。そうだ! ちょっと待ってな!」
そう言って門番の兄ちゃんは事務所と言うか待機所のような場所に入っていった。すごく申し訳ない気分だ……いつか絶対お礼しなければ。
余裕が出来たので当たりを観察すると、ここは町で1番大きい門なのか、それともここの立地が単純に良いのか、人も往来が多く平日通勤時間の東西線位人が居るように見えた。
商人や住民……あれは冒険者だろうか。多くの人が行き交う場所は見ていて少しワクワクした。この光景で異世界に来たという事実が本当なのだと思い、嬉しさ7割恐怖3割程の気分となった。
4〜5分程待っただろうか? 門番の兄ちゃんが剣と盾、そして革か何かで出来た鎧を持ってきてくれた。
「これって……?」
「俺のお古で悪いが装備一式だだ、俺があんちゃん位の頃に使ってたヤツだから型落ちだが……無いよりはマシだろう」
「あ、ありがとうございます!」
いい人すぎて泣きそうになってきた。現代日本の都会だとなかなか見れない温かさだ。やべっ涙が出てきた。
「おうよ、後はこれだな」
そう言って門番の兄ちゃんは俺の掌にギリギリ収まるくらいの革で出来た袋を渡してくれた。中を見ると水と食料が入っていた。
「な、何から何までありがとうございます……」
「おいおいあんちゃん、泣くほどかよ」
そう言って門番の兄ちゃんは照れ臭そうに笑ってから、真面目な顔でこう言ってきた。
「街の外は魔物や盗賊が出るかもしれん。気を付けてな」
「分かりました、本当にありがとうございました!」
最後に心を込めて礼をして、俺は街道を走り始めた。遠くにうっすらと町が見えている。あそこまでどれほど時間が掛かるか分からないが、久しぶりの人の温かさのおかげで直ぐにたどりつけそうな気さえする。
「取り敢えず、この世界には冒険者がいるみたいだし、ギルドかどこかで金を稼がないとな」