勧誘
会話多めです
僕と緑川は、雫によって無理やり和解させられた。僕は別にそれでよかったが、緑川の方は納得していない様子だった。
「いくら雫ちゃんのお兄さんでも、雫ちゃんを泣かせたことは許さないのですよ!」
「だから私は泣いてません!!あなた何も反省していませんね!」
訂正、全然和解できていなかった。泣かせてないのに、泣かせたと言う彼女の思考回路が分からない。
(でも、困るな、和解できないと仲間に引き入れられないだろうし、どいしよっかな?)
僕はそんなことを考えていると、今まで口を挟まず後ろの方で話を聞いていた闘也が前に出てきて、緑川に喋りかける。
「あ~実はな、雫ちゃんを泣かせたのは俺なんだわ。だから、零の奴を責めないでやってくれ」
彼なりに機転を利かせた様だが、どう見ても僕の仲間である闘也の言葉を鵜呑みにするほど馬鹿ではないと思うが・・・
「そうだったのですか!?
早とちりしてしまたのです!」
馬鹿だった。物凄い馬鹿だった。
どんなに能力が希少でも、こんな馬鹿を組織に入れていいのか、とても悩み所だ。
闘也の方を見てみると、同じことを考えたようで苦笑いをしていた。
「申し訳ないのです!」
「本当だよ!いきなり、殴りかかってくるなんて!!怪我したらどうするの!!!」
「うぅ、申し訳ないのです・・・」
頭を下げる緑川に対して、何故か怪我どころか攻撃すらされていない山内が怒鳴る。それを聞いて彼女は身を縮めてもう一度謝罪する。
それを見かねた僕は、山内を宥めながら緑川を許すように促す。
「まあまあ、僕も怪我してないし、許してあげようよ」
「むぅ、零さんが良いなら、私は良いですけど」
「許してもらえるのですか?」
「うん、許すよ。だから、この話はお仕舞い」
それを聞いた緑川は、おずおずと言うように聞いてくるので、僕は笑顔を浮かべて肯定し、話を終わらせる。自分の質問が肯定されてホッとした様子の彼女を見て、和解できたと考えていいだろう。
「あの、兄さん」
「なんだい?」
「和解できたようで嬉しいんですが、
そもそも兄さん達は何でここに来たんですか?」
そんな中、雫が質問をしてくる。僕はもう帰ろうと思っていたが、丁度いいから話すことにした。
「さっきも言ったけど能力者狩りをしに来たんだよ」
「はい、ですから――」
「分かってる、何で能力者狩りをしているのかが、知りたいんだよね?」
僕の言葉に、雫は頷く。
「それは、僕たちの目的のために、君達を勧誘しに来たんだよ」
「その目的とは何ですか?」
「世界征服さ」
「は?今なんて?」
「だから、僕たちの目的は世界征服だって」
「ち、ちょっと待ってください!」
僕の言葉に雫は動揺し、話に待ったを掛ける。
(まあ、いきなり世界征服なんて言われたら、僕でも驚くけど。
正直、早く帰りたいから話の腰を折らないでほしいな)
「なんで、そんなことしようとしてるか知りませんが、世界征服なんて大それたこと、出来るわけないじゃないですか!!」
「そこのところは大丈夫。僕の計画が上手くいけば早くて5年、遅くても10年で世界の主要都市全て掌握できるよ」
「えー・・・」
僕の言葉を聞いて雫は、救いを求めるように闘也を見る。そんな雫に対して、闘也は僕の言葉を肯定するように頷く。その様子を見て雫は諦めたのか、僕の方に向き直る。
「兄さん達が本気なのは分かりました。
ですが、なんで世界征服をしようなんて、考えたんですか?」
雫の質問は想定内だったので、予め用意していた理由を答える。
「雫は今の社会をどう思う?」
「え?」
「僕は嫌いだね。
才能の有る者が才能の無い者に嫉妬されたり、足を引っ張ったりし、それを当たり前とする環境が、
正しい発言や行いを少数派という理由で否とする考え方が、
そして、それを容認する社会が、僕は嫌いだ。
だから僕が、僕たちが一度世界を統一して、創り上げようと思うんだ」
「創り上げる?」
「そう、才能の有る者が正当な褒賞が与えられる環境を、
正当性が有れば少数派だとしても是とする考え方を、
そして、それらを絶対とする社会を、ね」
話し終えると、雫は絞り出すように言う。
「そう、ですね。
確かにその社会は、今の社会より何倍も良い社会ですね」
「そうだろう?だから、雫たちにも協力しほしいんだ」
僕の申し出に対して、雫は少し考えた後、俯きながら口を開く。
「即答は・・・できません。少し、考えさせて下さい」
「そっか。まあ仕方ない、突然こんなこと言われて、即答できる方がおかしいもんね」
そう言うと僕は、闘也と山内に声を掛ける
「そういう事だから、今日は一先ず解散ってことでいいかな?」
「ああ、それでいいぜ」
「了解!」
二人の返事を聞いて、漸く帰れると僕は思った