悪巧み
「やっとだ,やっと完成した!」
僕は緑色の液体が入ったフラスコをかかげながら,思わず叫んでしまった。
でも,仕方のないことだ。
中学生になってからの二年間,理科室でせっせと制作していた,超能力を発現させる薬品が,遂に完成品が出来上がったのだから。
この二年間,人体に関する論文や学術書を読み漁ったり,薬品の製作方法や取り扱い方法,保存方法などを学んだりしながら,並行して裏社会にコネクションをつくったりと,本当に大変だった。
だが,そのかいもあって,こうして薬品は完成することができたし,日本有数の情報屋になることもできた。
これで準備は整った。あとは,計画を実行するだけだ。
まずは,この薬品を―――
「零,完成したのか?」
不意に後ろから声が聞こえ,思考を中断し振り返る。
そこには,一人の男子が立っていた。
「ようやくね」
「そうか,これで計画を始動できるな」
「ああ,そうだね」
彼の名は,月宮 闘也。
僕の幼馴染であり,協力者だ。
闘也は,日本最大の暴力団 月宮組の次期組長で,僕が裏社会に入り込む時に協力してもらった。
彼には,計画のことを「世界征服のため」と説明しており,僕の真の目的は明かしてはいないし、明かすつもりもない。
「まずは、その薬品をばらまくんだったよな?」
「うん、そうだよ。」
「でもよ、どうやってばらまくんだ?
月宮組でさばくにしても、目標の割合に達するには、なかなか手間だぞ」
「それについては、無問題だよ。」
「ほぉ、我に秘策あり、てか。」
闘也は、挑発するようにこちらを見る。
「秘策って程でもないさ、誰でも簡単に思いつくことだよ。
ねえ、誰もが毎日確実に摂取するものってナンだと思う?」
「いきなりなにいって・・・
ああ、そういうことか。水だな?」
「そう、水に混ぜるのさ。
そうすれば、誰もがこの薬品を口にすることになる。」
「なるほどな、それじゃあ水道水なんかに混ぜればいいな。」
「うん、月宮組に頼んでいいかな?」
「おう、任せとけ。」
そう言いながら闘也は、あくどい笑みを浮かべる。
そんな顔を見ていると、僕もつられて笑ってしまう。
「おいおい、お前そんな笑い方する奴だったけ?
すごい、あくどいぞ。」
「ん?ああ、練習したんだ。魔王らしいだろう?」
そう言うと、闘也は苦笑した。
「ああ,凄くそれらしいな。」
「それは,良かった。」
(本当に良かった。僕はしっかりと魔王になり始めている。)
僕はそう思いながらもう一度笑った。