原点
僕,白浜 零には幼い頃から好きな人がいる。
彼女は,勉強ができ,運動神経がよく,何をしても成功する。そんな,絵に描いたような天才だ。
それでいて,そのことをひけらかすようなことはせずに,ひたむきに努力を続けて,才能をのばしていく。
そんな彼女を周りは,褒めた。彼女は,そのたびに照れくさそうに笑った。
僕は,その表情が好きで,何度も彼女をほめた。彼女は何度でも笑ってくれた。
しかし,次第に彼女を褒める声は少なくなくなっていた。
「彼女ならできて当たり前」
そんな考えが,広がっていったからだ。
日に日に,彼女のことを褒める人は減っていき,遂には彼女の両親でさえ,彼女を褒めなくなった。
それでも,彼女は笑っていた。でもその笑顔は,何処か悲しげだった。
僕は,その表情が,嫌いだった。
なぜ彼女が,そんな顔をしなくてはならないのか?
成功者は褒められるべきではないのか?称えられるべきではないのか?
そんな疑問が,僕の頭の中でめぐっていた。
そんな中,ふと思った。
「誰もできないことを成功させれば,誰もが褒め称えざるえなくなる」
そう思いついてからは,誰もできないことを必死に探した。
しかし,この世の中ほとんどことは誰かができるし,
やっとの思いで見つけたとしても,僕では到底支援できないことだった。
僕は絶望した。僕では彼女の笑顔を,取り戻すことはできないのだ。
そんな時,一冊の本を見つけた。
魔王が世界を恐怖で支配していて,それを勇者が仲間とともに倒し,世界を救てハッピーエンド。
そんな,どこにでもあるような,ありふれた物語だった。
この本を読んで,僕はあることを思いついた。
「この物語を,再現しよう」
誰もできないことがないなら,誰もできないことを作ればいい。
魔王が世界を恐怖で支配して,勇者が仲間とともに倒し,世界を救う。
そうすれば,誰もが彼女を褒め称えるだろう。だって,世界を救うなんて誰にもできない偉業なんだから。
さあ,僕が魔王になる準備をしよう。
さあ,彼女を勇者にする準備をしよう。
するべきことは,たくさんある。
さあ,始めよう,
勇者が魔王を倒す物語を。