第14話 殺意
「お、俺は雇われただけだ。何も知らない!」
健介は必死の形相で訴える。
バコンッ!!!
「ノウワァー!」
再び響き渡る鈍い打撃音。今度は何となくグシャっと聞こえたような気もする。気のせいか? 健介の股間を容赦無く再び蹴り上げたのは圭一だった。美緒の一撃とは桁外れの衝撃だ。蹴り上げられた瞬間、健介の体は完全に浮き上がったかのように見えた。
血は繋がっていないとは言え、ももを心配する圭一の気持ちは美緒と何ら変わりは無い。そんな耐え難い気持ちが怒りのパワーに変換され、股間を蹴り上げる足に宿ったと言っても過言では無かった。
「話さないんだったら、もう1発だ!」
圭一はそんな殺し台詞を吐きながら、再び振りかぶった。
「まっ、まっ、まっ、待ってくれ!」
「待てねぇよ!」
バコンッ!!!
「ああ......」
シャー
......
......
人はそれを失禁と呼ぶ。健介の股間から突如流れ落ち始めた液体は、足を伝い、地べたに敷き詰められた絨毯に小さな池を形成していった。池からは鼻障りな臭気と湯気が立ち上がっている。
「マンタ洞窟......」
「何だって? マンタ?」
圭一は首を傾げる。
「マンタ洞窟だよ! そこの手前でガキを受け渡した」
鼻からは大量の鼻水。目からはマンガのような大粒の涙。股間からはナイアガラの滝......そんな芸術を披露しながら、健介は遂に真実を吐露したのである。
「誰に渡したのよ? 誰にももを渡したのさ?!」
美緒は突如狐の如く目を吊り上げ、健介の喉元を力任せに押し絞めた。
「グエッ、グエッ、知らねえ! 本当に知らねえ! 聞かされてねぇんだって! い、息が出来ない......」
すかさず唯一冷静な圭一が、自身の見解を示した。
「美緒さん......多分こいつの言ってる事は本当だ。ただの運び屋にわざわざ自分らの身分を明かすバカもおらんだろう」
しかし美緒に手の力を緩める気配は無い。むしろ足を踏ん張り、更に力を加えているようにも見える。美緒の細い両腕は、ブルブルと震えていた。恐らく全身の力を両腕に込めているのだろう。
「グエッ、グエッ......」
健介の身体は徐々に痙攣を始め、気付けば白目を剥き出している。このままじゃ本当に死んじまう! 圭一は顔面蒼白だ。
「ちょ、ちょっと美緒さん!」
美緒の顔には明らかな殺意が滲み出ていた。彼女は言わずと知れた極神島の血を引きし者。怒りと言う感情から作り出されるエネルギーは計り知れない。
エマ達と接する事に寄り、感情をコントロールすると言う技を幾分かは取得した美緒であったが、潜在的に体内を流れる極神島の濃厚な血液は、決して希釈された訳では無い。そんな美緒の特性を熟知している圭一は、美緒の心の中がまるでスケルトンのように見えていた。




