第13話 健介
『生板の鯉』......そんな言葉が存在するが、『十字架に掛けられたパンツ一丁男』......そんなのは聞いた事も無ければ、響きも余り良くはない。
何で俺は十字架に掛けられてんだ?!
なんちゅうホテルだ!
ちょっと懲りすぎだろう。
それと......あなた達お二人は、何でそんなに怖い顔をなされているのでしょうか?
それまで熱り立っていた下半身は、いつの間に萎んだ風船の如くすっかり悄気返っている。口ほどにも無い。
「お前達は一体何者何だ?! 俺が何したって言うんだよ......」
健介の顔は血の気が失せ、恐怖に全身がブルブルと震えている。床には剥ぎ取られた衣服が無造作に散らばり、健介の足下には一万円で膨れ上がった財布が石ころのように転げ落ちていた。
「俺が何しただって? お前......そんなちっぽけな金の為に一体何をやらかしたのか分かってるのか?」
長い髪の毛で顔半分が隠れ、その前髪の隙間から鋭い眼光を浴びせながら男がどすの効いた声で問い掛けた。
「なっ、何の事言ってんの?......お、俺にはよく分かんないだけど......」
健介は視線を落とし、転がった財布を見詰めながら弱々しく言葉を返した。
バコンッ!
「うわぁ!」
突然美緒は先の尖ったハイヒールで、健介の股間を蹴り上げた。
バコンッ!
「ヒーッ!」
バコンッ!
バコンッ!
バコンッ!
「やっ、やっ、止めろ! つっ、潰れちまう!」
バコンッ!
バコンッ!
バコンッ!
バコンッ!
バコンッ!
「痛い! 痛い! ああー!」
バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!
バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!
「わっ、分かった! はっ、話す! 話すって!」
バコンッ、バコンッ、バコンッ、バコンッ、バコンッ、バコンッ、バコンッ、バコンッ、バコンッ!
「がっ、ガキを誘拐した.....だから......もう止めてくれ......」
健介の額からは大量の脂汗が流れ落ち、顎を伝い絨毯へと流れ落ちていた。
ハァ、ハァ、ハァ......一方美緒は顔を紅潮させ、肩で息をしている。溺愛するももを誘拐した憎き犯人を前にして、ここまで感情を押し殺し、何食わぬ顔で接して来た莫大なるストレスが、ここで一気に放出されたのであろう。その気持ちは痛い程分かる。
「ももちゃんはどこだ?」
一人涼し気な顔で健介に問い掛ける圭一。しかし両の目は美緒同様、鋭い眼光を放っていた。そして地を這うような低い声だった。




