第11話 高鳴り
美緒は脇目も触れずにつかつかと1階のホールを通過していった。ラブホテルに入って最初の楽しみと言えば、まずは部屋のチョイスと言えよう。最近では色々思考を凝らしたユニークな部屋も多く、選ぶのに意外と悩んだりもする。この業界は競争が激しく、部屋も個性豊かでなければ生きてはいけないと言う事だ。
俺はリッチだ!
今日は一番高い部屋を選んでやる!
健介は全ての部屋の写真が羅列されたボードの前で足を止めた。見れば一番ゴージャスで最も高い部屋のみ明かりが消えているではないか。
さてはさっきの高級外車の奴か?
くそっ、先を越されたか!
「あなた、何そんな所でぼさっと突っ立ってるの? 早く行くわよ」
美緒は自分の後に続いて来ない健介に対し、苛立ちの表情を隠せない。
「だって、ここで部屋選ばないでどうするんだ?」
「そんな必要ないの。予約してるんだから。いいから早く着いてきなさい!」
予約???
ラブホに予約???
最近はラブホの制度が変わったのか?
ここのところすっかりご無沙汰とは言え、そんな急に変わる事も無かろう.......
「着いて来ないんならもう帰るわよ」
美緒は更に苛ついた表情を浮かべながら回れ右をする。その体は出口に向けられていた。
「いや分かった。分かったって......」
健介は焦りの表情を浮かべながら、小走りで美緒の元に駆け寄って行った。
「......」
美緒は無言のまま再び回れ右をすると、足早にエレベーターの中へと消えていく行く。そして直ぐ様クローズボタンを押した。
「おい、ちょっと待てよ!」
健介は閉じ掛けるエレベーターの扉に肩をぶつけながら血相を変えて飛び乗った。
コイツ俺を置いてく気か?
それと、フロント寄ってないけど......鍵どうするんだ? 予約してるって言ってたから、鍵は開いてるのか? 何だかよう分からんけど、まぁいいか......ヒッ、ヒッ、ヒッ。生意気な女ほど食べ甲斐があるってもんだ......
健介がそんな妄想に更けている間にも、エレベーターはあっという間に5階に到着する。最上階だ。美緒は赤絨毯の上をつかつかと歩き進め、一番奥の部屋の前で立ち止まるとドアノブに手を掛けた。
ドクン、ドクン、ドクン......
健介の心臓の鼓動が早くなる。
そう言えばゴム持って来て無かったな。多分部屋の中にあるか......
はっきり言ってそんな心配は無用である。そんな事を心配する事自体が茶番と言えた。




