第10話 連れ込み
駅前こそは繁華街と言えたその街並みも、車で10分も走ればその様相は大きく変化していく。左右どちらを見ても寂れた街並みだ。県道とは言え、深夜ともなると走る車は少く、おのずとそのスピードは増していった。
先走る気持ちが、アクセルを踏む彼の足を強く押し出させていたのかも知れない。まぁ気持ちは分からないでもないのだが。
途中で「やっぱ帰る」なんて言い出したってもう遅いぜ......俺のスイッチは完全に入っちまった。泣き叫ぼうが、何しようがもう手遅れだ!
この時点で自分が泣き叫ぶ事になろうとは夢にも思っていない。哀れな青年だ。
「そこ左に曲がって」
沈黙を破るかのように、美緒が指を左に向ける。左に曲がる路地の手前には、大きな看板が威風を放っていた。看板の下からは複数のスポットライトが上向きに当てられており、『ホテル マーメイド』と書かれた文字が妙に目立つ。
今日東京から来たって割りには、しっかり調べてんじゃねえか......この女よっぽど手慣れてんな。おお、もうダメだ。我慢出来なくなってきた......
健介の股間は破裂寸前。本当に破裂する事になろうとは、この時点で誰が想像出来ただろうか。
美緒は悪魔のような薄笑いを浮かべながら、更に指示を続ける。
「そこよ。入って」
胸を踊らせながら、健介は『ホテル マーメイド』の駐車場へと車を進めていった。
駐車場は全部で20区画。 すでに停められている車は一台のみ。スポーツタイプの立派な外車だ。
何だか高そうな車だ......金持ちでもこんな田舎のラブホテルに来る事あるんだな......
健介は美緒の後に続きながら、横目で外車を見詰めそんな呑気な事を考えていた。これが圭一の車である事など勿論知る由も無い。
やがて二人が駐車場を抜けると、自動ドアが自然に開いた。
おっしゃ! いよいよだ!
ヒーヒー言わせてやる!
自分がヒーヒー言う事になるとは未だ思っていない。この時点ではまだ幸せな青年だったと言えよう。




