第1話 推理
「美緒サン......静岡ナンバーの大きな黒いワゴン車だけじゃどうにもナリマセンネ......困りマシタ」
袋小路のどん突きにひっそりと佇む古びたアパート。そこは美緒とももが静かに暮らすアパートである事に他ならない。
ポールと美緒は、アパートを背にして仁王立ち。万策尽きたというところだろうか......
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
「......」
美緒は無言のまま、舗装されていない砂利敷きの私道を唐突に歩き始めた。
「ちょっと美緒サン、どこ行くんデスカ?」
「......」
そんなポールの問い掛けに対し、美緒は尚も無言。徐々に歩調が早くなる。
行動が唐突なのはいいんだけど、いつも説明が無いんだよなぁ......ポールはそんな不満を呟きながらも、遅れてはならじと足早に美緒を追った。
やがて美緒はT字路の手前で立ち止まり、鋭い視線を周囲に向ける。私道の先は、右へ進むだけの道幅広い一方通行......
誘拐した子供を荷台に乗せておいて、まさか一通無視をする事もあるまい。
警察に止められたりしたら厄介な事になる......
車はまずここで右折した事は間違いない......
「ポールさん。少しこの一通を歩くわよ」
美緒はポールに背を向けたままそう呟くと、再び歩き始めた。
「ハイハイ......どこへでも着いていきマスヨ」
一方通行と言っても道幅はそこそこに広く、先程の私道と違って路面もしっかりとアスファルト舗装されている。歩き始めた最初の3分位は、正に住宅街とも言えたその風景も、それを過ぎた頃になると徐々に店が出現し始め、商店街の様相を呈していた。しかしどこも開店休業......寂れた感は拭えない。
私道を右に曲がってからゆっくり歩いて5分。凡そ200メートルと言ったところだろうか......ここまで左右に何本か細い路地が出現しているが、どこもかなり細い道だ。大きな誘拐車両が好んで入っていくとは到底思えない。
誘拐車両は昨日この地点を通過した事はまず間違いなさそうね......私達が昨日エマさんからの招集でアパートを出たのが夕方の5時。近所の目撃者の話では、静岡ナンバーの誘拐車両がアパートを発したのは5時15分頃。
誘拐犯は犯行に及ぶに当たって、私達が出ていくのを待ち受けていた可能性が極めて高い。この道はいつも歩いてるけど、思い返せばあまり車と出くわした記憶がない。今日もこれまでたかが5分ではあるが、車とすれ違ってはいない。
黒の大きなワゴン車......
たかがそれだけの目印だけど、この道に限っては意外と目立つんじゃないかしら......
美緒は頭の中で推理を繰り広げながら、一方通行を更に西へと進んで行った。
多分美緒さん今頭の中フル回転なんだろうな......
こういう時は下手に話掛けない方がいい......
ポールは口を開く事なく、静かに美緒の後ろをただ歩き続けた。




