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傷だらけのGOD 樹海の怪 地獄のサバイバル!  作者: 吉田真一
第10章 死に人なる者
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第7話 夫婦

「元々この地域は小さな洞窟が点在し、彼らはそれらを掘り繋ぎ一大要塞を築き上げた訳だ」


「この『富士国』だった土地に今住む者が不穏な動きを始めているの。日本各地から極道を破門になった者や、左翼思想を持った者などが男女を問わずこの地域に集結を始めている。私の愛する富士でこんな事は絶対に許さない!」


麗子は拳を強く握り締め、顔を高潮させて言い切った。


「あんたが命を狙われる理由はよく分かった。でもそれを調べるのは俺達みたいな探偵じゃなくてあんたら公安の仕事じゃないのか?」


圭一の当然とも言える質問に、神谷は苦り切った表情を浮かべた。そんな事は解ってるよ!......そんな意思表示に違いない。


「もうとっくにやってるわな。すでに何人もスパイを潜り混ませているけど、みんな死んじまってる。死体こそ上がってない奴もいるけど、みんな音信不通だ。生きているのか死んでるのかも分からん。情報が完全に漏れてる。


それとどういう訳か本丸の調査庁も積極的に事に当たろうとはしない。大きな黒幕が圧力を掛けている事は明らかだ。もうこれ以上公安から死人を出すと社会問題になっちまう。だからあんたらに頼んでるんだ。極神島を生き抜いた君ら以外にこの案件を解決出来る人間は居ない。頼む、引き受けてくれ!」


「自分の部下は死なせたくないから俺達に死ねって言ってるようなもんだな......全く! よしっ、分かった。やってやるよ。って言うか、エマさんもう行っちゃってるし」


「有り難う! じゃあ後は頼んだぞ」


そう言いながら、神谷はすでにパソコンとプロジェクターをかたし始めていた。長居は無用そんな意志が露骨に行動に現れている。


「全く......丸投げだな。ああ、もう出て行きやがった」


神谷は道具を片付けると、あっという間に外へと消えて行った。階段を駆け上がっていく足音が響き渡る。


「今公安の中はスバイだらけ。彼もここに来るのは命懸けなの。許してやって」


「命懸けね......それにしても神谷局長とは随分親しそうじゃねえか。これか?」


圭一は薄笑いを浮かべながら親指を立てた。


「旦那よ。私の本名は神谷麗子。覚えといて」


「なんだ......そうだったのか」


空気が軽くなったせいだろうか。それまで俯いてばかりいた未来が初めて顔を上げた。そして自然と麗子と目が合う。


「ちょっとあなた、どっかで見た顔ね。え~と......どこだったかしら?......え~と......え~と、あっ、思い出した!」


麗子の目が点になる。


「ひえ~!」


未来は奇妙な呻き声を上げると慌てて顔をそむける。しかし、時すでに遅し。麗子の顔はみるみる赤みを帯びていった。


「あんたあの時はよくもあたしを殺そうとしてくれたわね。お陰でディナーショーが台無しになったじゃない! どうしてくれるのよ。こんちきしょう!」


麗子は未来に馬乗りになり、往復ピンタの連打を始めた。


パシッ、パシッ!


パシッ、パシッ!


「ごめんなさい! ごめんなさい! 痛い、痛い!」


パシッ、パシッ!


パシッ、パシッ!


トゥルルルルー......


トゥルルルルー......


突如圭一のスマートフォンが、振動を伴いながら鳴り響いた。


誰だ?......


ポールか......


「圭一だ。そっちの方はどうだ?」


パシッ、パシッ!


パシッ、パシッ!


「美緒サンのアパートには何も証拠トナル物は残ってイマセン。近所の聞き込みも、隣の家のオバサンが静岡ナンバーのワゴン車を見たというダケデそれ以外何も出てキマセン。困りました......ももチャンが心配デス。トコロデ......電話の裏で聞こえるパシッ、パシッて音何なんデスカ?」


「ああ......この音か。餅ついてる音だ。気にするな」


「ナンデ事務所で餅つきやってるんデスカ?」


「少し黙れ......」


圭一の顔が俄に曇る......最愛のももが誘拐されて手掛かり無しともなれば、美緒の頭は錯乱しているに違いない。ただでさえ感情の起伏が激しい性格だ。無茶な行動を起こす事だって十分に考えられる。


パシッ、パシッ!


パシッ、パシッ!


「美緒さんの様子はどうだ?」


圭一は恐る恐る問い掛ける。胸騒ぎが止まらない。


「ソレガ......奇妙なまでに落ち着いてイマス」


「落ち着いてる? そうか......落ち着いてるか......よしっ、でも絶対目を離すなよ」


「分かってマス。安心してクダサイ。アトもうちょっと聞き込みやったら、美緒サンと事務所に帰りマス」


「分かった......気を付けてな」


「了解デス」


ツー、ツー、ツー......


電話は切れた。



その時、エマはもとより圭一も神谷も知らなかった。『富士国』のど真ん中に『聖経院』が位置している事を......


『富士国の末裔』......千七百年も経った今でも、そんな者達が本当に存在するのだろうか?


ただのおとぎ話だろう......この時点で圭一はそんなたかをくくっていたのは事実だ。



 ※  ※  ※



「あれっ、龍貴さんの指ってめちゃくちゃ長くないですか?」


厨房で精進料理を仕込む龍貴の指を見詰めながら、エマが問い掛けた。


「あら、見てたのね。あなたはそんな事気にしなくていいのよ......エマさん!」


その頃『富士国』のど真ん中では、そんな他愛ない会話がなされていたのである。他愛ない? あくまでもこの時点での表現に過ぎないが......



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