第5話 蒸し返し
「この話はもはや私一人の話じゃないの。神谷局長は私の古くからの友人。彼からの話を聞いて」
圭一は眉を潜め、考え込んだ様子。公安調査庁が今回の事件に加わってくると言う事は、正に国家が加わってくると言う事......そこの中部局長がわざわざこのような小さな偵事務所に訪れてくると言う事は、余程の事情があるに違いない。
まぁ、会ってみるしかないか......
断ったところで引き下がるとも思えんしな......
圭一は無言で入口の解錠ボタンを押した。すると防犯カメラに映る男が中に入って来る。
コツコツコツ......響き渡る踵の足音。やがてその男は程なく目の前に現れた。そしてソファにふんぞり返る圭一の正面で立ち止まった。
「......」
神谷は立ち止まったまま言葉を発しない。
「土偶じゃあるまいし座ったらどうだ」
公安の局長と言う肩書きを知りながら立って出迎える事もせず、くわえタバコのまま先制パンチを食らわす圭一。駆け引きは既に始まっていた。麗子の秘書は即座にソファから立ち上がり、神谷を誘導する。
何だか分からないが、空気を読んだ未来もソファから立ち上がった。その行動は賢明と言える。圭一の正面に腰を下ろした神谷は、真っ先に内ポケットからタバコを取り出すとすかさず火を灯した。
お前もか! 未来の涙は止まらない。
フゥ......気持ち良さそうに煙を吐く。
「公安の局長さんよ。まさかここまでタバコを吸いに来た訳でも無かろう。一体何の用だ?」
「極神島での死亡者数216名」
神谷はそっぽを向きながら独り言のように呟く。
突然何を言い出すんだこのおっさんは!......
「確かそんな事件あったっけかな......」
圭一は表情一つ変えず、すっとぼけた。
「全てが正当防衛と言えるか?」
「何が言いたいんだ?」
圭一は神谷を睨み付ける。
「『富士国の末裔』には強力なバックがついている。ただ単に連中を撲滅するだけでなく、バックが誰なのかを突き止め、更にはその証拠を掴め。黒幕をしょっ引く。それが出来たら、この話二度と蒸し返さない事を約束しよう」
「......」
圭一は言葉を発しない。
「私が命を狙われている理由......それは富士国の民を弾圧しようとしたからなの。これをやり遂げてくれたら お金は入るし、この人も蒸し返さないって言ってるんだからいい事ずくめじゃない」
麗子はソファの背もたれに両肘をつきながらまるで他人事。二回も命を狙われた事など忘れてしまったかのような口ぶりだ。
極神島事件について公安が自分等に目を付けている......それは圭一にとって実にショッキングな事実であり、EMA探偵事務所にとっては存続に関わる危機と言っても過言ではなかった。結局のところこれは交渉ではなく、国家からの勅命に他ならない。選択の余地は無かった。
「いいだろう。やってやろうじゃないか」
圭一は不適な笑みを浮かべながら、はっきりと言い切った。心の内に渦巻く動揺を押し隠すかのように......




