第4話 富士国
「富士国」
麗子は下から見上げるような視線を圭一に向けながら、ぼそりと呟いた。
「富士国? 何だそれ?」
圭一はソファの横で行儀よく腰掛ける未来と思わず顔を見合わせた。
「そう......富士国。3世紀の初期、我が国に実際存在した小さな強国の名です。当事の日本はいくつもの国が乱立してて常に戦が絶えなかった時代」
圭一の顔は増々???だ。ここで日本史が飛び出す理由が分からない。
「まあ......昔そんな国があったって訳だな。で、それが命狙われてる事とどういう関係があるんだ? さっぱり解らんぞ。お前分かるか?」
圭一は半ば呆れた表情を浮かべながら未来に問い掛けた。
「自分もさっぱりです。ゲホッ、ゲホッ......」
未来は煙幕にむせかえりながら答えた。麗子はお構い無しに続ける。
「それから4世紀に入ると、奈良に始まった一つの強国が次第に勢力を強めていって、4世紀半ば頃には、九州から関東までを統一したそうです」
「大和朝廷...... 」
未来が珍しくカットインを入れた。
「そう......大和朝廷よ」
「なんだお前凄いな。さすが学生だ!」
圭一は愉快そうに笑いながら、未来の肩をパンパン叩いた。冗談にしてはかなり強烈なヒットだ。
「圭一さん......結構痛いんですけど」
「そんな中、富士国は超大国である大和朝廷相手に一歩も引かなかった。戦いを挑む度に大和朝廷の軍は散々に打ちのめされて、結局討伐を諦めざるを得なかったらしい。最終的には両国間で和睦が成立し、互いの国境を侵犯しないという事で落ち着いたそうです。その後200年富士国は存続しています。
本当かどうかは解らないけど、それが一部の地域では実存する伝説として、今でも言い伝えられているそうです。その地域の人達は今でも自らを『冨士国の末裔』と名乗っていて、我らこそが真の日本国の継承者だと本気で思っているらしい。そいつらが実に厄介!」
「厄介? どう厄介なんだ?」
圭一はいつの間に、麗子の話を身を乗り出して聞き入っていた。
ビー、ビー、ビー!
ビー、ビー、ビー!
突如事務所の壁に設置されたスピーカーが、侵入者を知らせる警報音を発し始めた。圭一は焦りまくった表情を浮かべて、防犯カメラを熟視する。
「この人は私が呼んだ人です。確かな人だから安心して。中に入れてちょうだい」
「ちょっと待ってくれ。ここは極秘のアジトだ。どういうつもりなんだ?!」
圭一は血相を変えて叫んだ。
「もう来ちゃったんだからしょうがないでしょう」
「だから誰なんだ? こいつを入れるか入れないかを決めるのは俺だ。あんたじゃない!」
圭一は眉間にしわを寄せながら、吐き捨てるように言った。
「国家公安調査庁 中部公安調査局の神谷局長よ」
「こっ、公安の局長?! なんだと!」




