第2話 依頼者
「ちょっと。もしあたしが暫くこのまま仕事出来ないとしたら、損害はどれ位になるの?」
麗子は急に神妙な表情を浮かべると、マネージャーに生々しい話を始めた。マネージャーはスケジュール表を細かく見ながら電卓を打ち始める。
カタカタカタ......
カタカタカタ......
「まあざっとこんなもんです」
マネージャーは何食わぬ顔で電卓に浮かび上がった数字をそのまま麗子に見せた。
「ちょっとやだ。 何て事!」
麗子は現れた数字を見て俄然とする。
「年末年始もかきいれ時ですが、2月に入るとほぼ毎日地方公演が入ってきます。これが無くなると正直やばいですね。あとあまりブランクが長くなると、スポンサーの信用を失って戻れなくなる可能性があります」
「......」
麗子は下を向いて何やらもの思いに更けている様子。
「......」
尚も無言を貫く。
テーブルの上には3体の可愛らしい南米人形が飾られていた。『導きの3姉妹』そんな名の人形だ。人が悩んだ時、その人形達に語り掛けると、不思議と答えが浮かんでくるという言い伝えがある。
エマも悩むとよくこの人形達に話掛ける。3体の人形はそれぞれ実に個性的な顔をしていた。いつも笑顔のその人形達も、気のせいか今日ばかりは少し暗い表情に見える。麗子の視線ははいつの間にその『導きの3姉妹』に向けられていた。
よしっ......やがて麗子は小さく頷くと、視線を圭一に向けた。その表情には迷いは無く、死に掛けていた目に光が戻ったようにも見える。そして恭しく口を開いた。
「あなた達に私から仕事を依頼します。私の命を狙う組織を撲滅して下さい。ただし期日は今日から1ヶ月。何がなんでもその期間でやり遂げて下さい。お金はこの電卓が弾き出している数字だけ払います。シャンソン界に戻れないなんて冗談じゃない! あなた達に拒否権はありません。いいですね!」
圭一は電卓に浮かぶ数字を覗き込んだ。すると圭一の目が丸くなる。
「ふぅわぁ~すげえな!」
「す...... 凄い」
それまで一番隅で黙りこくっていた未来が初めて会話に参加した。
「なんだお前居たのか? 存在感無さすぎだぞ」
「だって全然話に入れなかったし...... 」
「お前も金払ってくれるのか?」
圭一がちゃかしたような口ぶりで未来に問うた。
「出世払いなら......」
真面目に答えるのもどんなもんか。
「安心しろ。お前は間違っても出世しないから支払い義務は生じない。良かったな。ハッハッハッ」




