第3話 林道
「おう、そこ左だ」
「分かってるって」
追尾されている事など知る由もない『見届人』。ある種お目出たい気もする。眠気眼を擦りながらのドライブだ。深夜の3時ともなれば無理もない。
やがて車は二車線の一般道から側道へと進んでいく。するとそこはうっそうとした森の中。いわゆる林道というやつだ。それまでは舗装されたアスファルト上を走る快適なドライブとも言えたが、路面が均一ではない林道に一歩入り込むと、その走行は不快そのもの。気を抜くと天井に頭をぶつける。
オフロード仕様の四駆ならまだしも、彼らが乗るセダンのような車にはちと荷が重い。タイヤに弾かれた小石が、幾度となくボディにあたり、弾け飛ぶ。
「また車にキズが増えるな」
助手席に座る男は、ダッシュボードに両の手を置き、揺れに耐えながら口をへの字に曲げた。
「まぁ、仕方ないだろう。うちらが悪いわけじゃないし。こんな道をこんな車で走らせる上役が悪いんだよ」
「まぁ、そうさな」
ガッ、ガッ、ガッ......
ガッ、ガッ、ガッ......
車のボディが軋む嫌な音が継続的に立ち上がる。林道の横には川が流れているようだ。耳を澄ませば川のせせらぎが聞こてくる。
「おう、そろそろだな」
オフロードとも言えるようなデコボコ道を、悪戦苦闘しながらハンドル操作する細身の男が、目を細めながら呟いた。
「ところで大丈夫かな? 直接この目で死亡確認して無いのに、確認したって言っちゃってさ」
「あの状況だと絶対見れっこ無かったし、だからと言ってそれを正直に言っちゃうと面倒くせー事になるだろ。伏せとくのが一番だ。あのカップルが死んでる! って叫んでた訳だから大丈夫だ。お前もっと心を大きく持てよ。この場に及んで勘弁してくれ!」
「.....」
「まぁ、そうだよな......解った。もう迷わん」
「ほんと頼むよ」
そんな気弱な問答を繰り返しているうちにも、車は林道から更に分岐を側道へと進んでいく。
そこから100メートル程進んだ所だろうか。やがて眼前に大きなゲートらしき物が見えてきた。左右に抜ける道は無さそうだ。袋小路と思われる。
キィー!
車はブレーキの嫌な音を立ち上げながら、ゲートの前で停止した。
「よっこらしょっと」
助手席の男は、座席に根が生えた尻を気だるそうに持ち上げる。そして車外に出ると、徐にポケットからカードキーらしき物を取り出し、ゲートのタッチパネルにあてた。
すると......鉄製の頑強なゲートは、車の前照灯に照らされながら、大きな音を立ち上げて観音開きに開き始めた。ゴー......結構な音だ。地響きのように聞こえる。
よくよく見れば至る所に防犯カメラが設置されているようだ。見えるだけでもゲートの左右に2個。さらにゲートの内側に2個。恐らくではあるが、この一本道に入った時点ですでに監視されていたと思われる。
こんな森の中に一体何があると言うのだ? 謎は深まるばかりだった......
※ ※ ※
一方、『見届人』の車両の追尾を続けるエマ......
その目は常にナビゲーション画面上を移動する先行車両を追いかけていた。
おやっ、止まった!
信号など一切無いうっそうとした山道だ。車両が止まったという事は、その地点が目的地という事になる。エマは車両を路肩に止めて、食い入るように画面を睨み付けた。そしてナビゲーション画面を拡大していき、追跡車両が止まった地点を確認する。
エマはその地点を確認すると、突然大きく目を見開いた。
なっ、何だと?!
ナビゲーション画面には思いも寄らぬ文字が浮かび上がっていた。
まさか?!




