第3話 誘惑
すると......
「ナニカお困りデスカ?」
突如歩道から、若い男の声が響き渡る。反射的に麗子は振り返った。そしてそこに立っていた人物は......
高貴な雰囲気が漂う背の高い男だった。見た目20代前半と言ったところだろう。堀の深いその顔立ちはハーフと思われる。麗子は思わず目を見開いた。
ほう......
「車の故障なのデスネ」
そう声を掛けながら、男は軽い身のこなしでガードレールを飛び越える。
「ええ......突然ハンドルが重くなって警告ランプが点灯したんです。車の事は全く解らなくて......困りました......」
麗子は八方ふさがりなこの状況下においても、その顔は微かに笑みを浮かべていた。視線は車ではなく、男に向けられている。『上目遣い』そんな表現がぴったりだ。
青島麗子は若い男を金で買っている......無類の男好きとの噂はやはり本当だったのか?
男を見詰める玲子の目は、明らかに誘惑の意を含んでいた。男はそんな熱い視線に気付いているのか? いないのか? 気に留める様子もなく、車のボンネット開く。
「チョット見てミマショウ」
「ええ......お願いします」
12月ともなると、さすがに吹き付ける夜風は冷たく、自慢のミンクのコートと言えども、体温の低下を抑えきれるものでは無い。自分だけ車の中に避難するのも如何なものか......シャンソンの女王と言えども、そこは辛うじて理性が勝っていたようだ。麗子は自慢の外車に寄りかかり、コートのポケットに手を入れて寒さを凌いだ。
「寒いですカラ車の中で待っててクダサイ」
色男だけあって熟女への心遣いも一級品? なのだろうか......
「あなたは私の為に尽くしてくれている......何で私だけ暖を取るような事が出来ましょうか......」
この麗子という女......やはり只者ではない。年の差など、ものともしない言葉の魔術を匠に使う美魔女と言えた。普通の女性であれば、白々しくもあるそんなセリフも、美魔女が言うと美辞麗句に聞こえてしまう。恐ろしさすら感じる程だ。
「私は寒くアリマセン。アナタを見た瞬間、体温が10度上がりました。このままアナタを見ていると、オーバーヒートしてしまいそうなので、私の為にドウカ車の中でお待ちクダサイ」
この男も、言葉の魔術の使い方を心得ているようだ。
麗子はニヤリと笑顔を見せると再び口を開く。
「では車の中で待たせて頂くとします。車が直りましたら......お礼に私が貴方の体をもっと暖めてあげましょう」
「望むところデス」




