第2話 ドライブ
ブルルルン!
麗子がヒールの爪先でアクセルを踏み込むと、流線型が美しいその外車はスロープを一気に駆け上がり、ネオンの光が乱舞する夜の街へと飛び出して行った。
この麗子様が、イブに一人で寂しくドライブ? 私も落ちたものだわ。フッ......
麗子はそんなぼやきを吐きながら、いつものごとくFMラジオのスイッチをオンにする。
If you search for tenderness,
It isn't hard tofind
You can have the love you need to live......
シックな色合いに統一された広い車内に広がった音楽は、ビリー・ジョエルの名曲『Honesty 』孤独を祝福するかのような静かなるバラードだ。麗子は聞きなれたフレーズに、思わずはもりを加える。
「Honesty is such a lonely word
Everyone is so untrue......」
『Honesty』......直訳すると『誠実』という言葉になる。周りの人間は、すぐに有ること無いことををでっち上げ、事あるごとに自分を非難する。誰が何と言おうが、自分は常に『誠実』に生きているつもりだ。確かに自分が『誠実』を貫く事により、他の誰かが不利益を被る事はあるだろう......しかし私は正しいと思う道を『誠実』に進むだけの事。
私が命を狙われている?確かに、この間殺され掛けた事は事実。だから何だと言うのだ! 私は暴力ごときに屈しない!
「Honesty is such a lonely word......!」
麗子は更に力を入れて、サビに『はもり』を加えた。まるで気弱になり掛けた自分の心と闘うかのように......
やがて車はクリスマス一色に彩られた繁華街をすり抜けると、片側二車線の山手通りに差し掛かる。クリスマスイブとは言え、夜の10時を過ぎたその頃になると、走る車の数はめっきりと減り、大排気量の麗子の車は、水を得た魚の如く、その巨大な馬力を遺憾なく発揮した。
快調に飛ばすその車は疾風の如く山手通りを南へ南へと突き進む。甲州街道、青山通りを立て続けに越えて、車は一気に中目黒を通過して行く。
麗子の大邸宅は麻布十番に位置する。方角からして、自宅に帰る訳では無さそうだ。では一体麗子はどこに向かっているのだろうか?......謎は深まるばかりだ。
そして『品川まで1Km』......そんな看板が前方に現れたその時だった。急にハンドルが重くなったかと思えば、コンソーリパネルに複数の警告ランプが点灯を始めたではないか!
!!! 一体車に何が起こったのか?......
麗子は訳も解らず慌ててブレーキを踏んだ。車は減速を始め、やがて路肩に停止する。その直後エンジンは勝手に止まり、何度キーを回しても再び掛かる事は無かった。
外車は壊れやすい? そんな噂を耳にした事はあるが、この車に限って言えば過去にそのような事は起きた事がない。
麗子は特に慌てる素振りも見せず、落ち着いて車を降りた。
周囲を見渡すと、車は何台も立て続けに猛スピードで通過して行くが、歩道を歩く人は見当たらない。
困った......麗子は途方に暮れたような表情を浮かべる。




