第9話 そして再び
ももはももなりに必死の作り笑顔。逆に、痛々しく見えてならない。
「も~ちゃん。それじゃお母さん行くね。おばあちゃんに迎えに来て貰うよう言っておくから。いい子にしててね」
美緒は美緒なりにこれまた必死の作り笑顔。更に痛々しく見えてならない。こんな小さな少女を一人残して、生きて帰れるやも知れない いばらの道に突き進む自分......それが断腸の思いであった事は言うまでもない。美緒は煩悩を振り払い立ち上がった。その時の目は、母親の優しい目から自称ワイルドな探偵の目に変わっていた。
よっしゃ、行くか!......美緒、圭一、未来の三人は互いに頷き合う。そして振り返る事なく、続けざまに外へと駆け出して行った。
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嵐の後の静けさとはよく言ったものだ。色とりどりだった視界が、いきなりモノクロームになったような錯覚に囚われる。さして広いとは言えないこの部屋も、小さな少女一人だけともなると、妙にだだっ広く感じてならない。
あ~あ......みんな行っちゃった......
病院にいた時みたいにまた一人だ......
ももはランドセルを見詰める。何を貰ったって嬉しくない。寂しいのはもう嫌だ......ももの大きな目からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。そしてその涙は、小さな手に流れ落ち、手首に巻かれたピンクのミサンガに染みていった。
その時だ。
ピンポーン......
ピンポーン......
突如来訪者を知らせるチャイムが鳴り響く。
誰か来たの?
ももの体は鉛のように固まった。
おばあちゃんが迎えに来てくれたの?......
ももは首を傾げた。
更に......
ピンポーン......
ピンポーン......
ももを追い詰めるように再びチャイムが鳴り響く。
「誰なの?!」
ももは小さな体で精一杯の大声を張り上げた。
すると......
「宅急便です」
静かな声が帰ってくる。
そうか。荷物が届いたんだ! さっき宅急便さんと言う人が来た時、お母さんは荷物を受け取ってたっけ。なんだ、ビックリした。
「は~い。ちょっと待ってくだしゃ~い」
ももは背伸びをしてドアノブに手を掛ける。
もしさっき、宅急便が来ていたのをももが見ていなければ......もし、ももの身長があと3センチ低かったなら......
この後、ももに降り掛かる悲劇を回避する事が出来たであろう。しかしこの時、神はももに容赦しなかった。
カシャ!
無情にも、扉はももの手に寄って今解放されてしまった。
「......」
「宅急便です」
ドアの前に立つ宅配業者は、大きな封の開いた段ボールを抱え持っている。
「はい、はんこですよ。御苦労様で~す」
ももは美緒の見よう見まねで、はんこを押す素振りを見せた。
「お荷物を受け取りに参りました」
宅配業者は深く帽子を被り、その表情は伺い知れない。
「はい。はんこですよ」
「受け取る荷物は......」
「はんこ......」
「お前だ!」
それまで空を赤く染めていた真っ赤な太陽はいつしか地平線に消え失せ、エマ達四人、そしてももにとって最も長い夜が始まろうとしていた。
ドアの前には、はんこと無惨に切れ落ちたミサンガが、無造作に散らばっている。宅配業者は、重そうな段ボールを抱えて、必死に階段を駆け下りていく。そしてアパートの前に停めてあったワゴン車に段ボール箱を投げ入れると、何事も無かったかのように、車は走り去って行った。
ゴー......
静寂した住宅街に響き渡る車のエンジン音......静岡ナンバーのその車は、西へ西へと突き進んで行ったのであった。




