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傷だらけのGOD 樹海の怪 地獄のサバイバル!  作者: 吉田真一
第2章 フラッシュバック
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第1話 ELV

挿絵(By みてみん)


どこへ行ったんだ?!


『金色の間』を飛び出した所で足に急ブレーキを掛けた女は、騒然とした空気の中で即座に四方を見渡した。メインホールであるその会場が豪華絢爛であれば、そこを出たピロティもまた煌びやかである事この上もない。高すぎる天井から吊り下げられたシャンデリアは、まるでダイヤを散りばめたかのような輝きを放ち、床に広がる艶やかな絨毯は、まるで中世のヨーロッパを彷彿させる。


そんな神々しくもある一流ホテルの空間を極限まで手を振り上げ、ドラッグレースのごとく一直線に駆け抜けていく一人の青年......その後ろ姿は瞬きする度に小さくなっていき、やがて非常階段の扉の向こうへと吸い込まれていった。その速さは、正に陸上選手並み。自分の足で追い掛けたところで、到底追い付けるものではない。


たまたま通り掛かった初老のゲストは、弾丸とも言えるドラッグカーに引かれそうになるも、直前に気付き間一髪難を逃れた。その拍子にバランスを崩し床に倒れ込む。


階段か......女は過ぎ去った青年の残像を頭に浮かべながら、思考をフル活動させた。上か? それとも下か? 確率でいったら、どちらも二分の一。しかしその場の環境、その時の精神状態などの側面を正確にインプットしていけば、確率は必ずどちらかに偏りを生じる。女の脳内コンピューターは目まぐるしく活動し、正確な数値を瞬く間に弾き出した。


良し! 上......絶対に上! 頭脳は、行動の方針を『上』に確定させると、直ぐ様自らの足に、エレベーターホールへ向かうよう指示を送る。


タッ、タッ、タッ......

タッ、タッ、タッ......


女は丈の深い絨毯に、ヒールのエッジを効かせながら瞬く間に移動していく。


あの顔は間違いなく死を受け入れた顔だった......人は絶体絶命のビンチに陥った時、生命の危険を察知し、その表情は鬼の形相へと変貌する。しかし生命の存亡を一旦諦めてしまうと、瞬時に全てのストレスから解放され、今度は安らぎの表情へと変貌する。あの青年の表情には、間違いなくその後者が多く含まれていた事を女は見逃していなかった。並外れた慧眼の持ち主。そう言わざるを得ない。


そして......死を意識に含ませた人間が取り乱すと、なぜか屋上へと行きたがる。その事に関しては、決して根拠のある話ではなかった。しかし女には100%の確信があった。1年前の自分......それが答えだった。


女は疾風のごとくエレベーターホールに駆け参ずるも、4基あるエレベーターは全て他階を移動していた。早く来い......早く来い......女は地団駄を踏んで、その到来を待ち受ける。たかが数秒の間が、数分......いや数時間にすら感じる。


よし来た!


スー......


扉か開き始めると全開を待たずに、間をすり抜けて篭内に飛び込む。そしてすかさず最上階の10と書かれたボタンを押した。ホテルが一流ならば、エレベーターもまた一流。扉は音とも言えない程度の音を立ち上げながら静かに閉じた。幸いにも中は無人だ。実に運がいい。


エレベーターの壁には『青島麗子生誕60周年記念ディナーショー』と書かれたポスターが大々的に掲示されている。ホテル側にとっても一大イベントだったに違いない。しかし女はそんなポスターには目もくれなかった。


3F......4F......


早く上がれ......早く上がれ! 


階段を必死に掛け上がる青年の姿が脳裏に浮かぶ。


5F.. ....6F......


屋上に到達する前に、何としても抑えなければ! 私が今居るホテルで自殺なんか絶対に許さない......


所詮は今日初めて見る赤の他人。女はなぜそこまで彼の生に執着するのか? その答えは彼女でなければ正確には解らないが、恐らく、一種の職業病的なものだったのかも知れない。青年を救うという事に関して、迷いなどは一切無かった。


7F......8F......


カチ、カチ、カチ......


彼女の体内時計が正確に時を刻む。遅い......遅い! まだか?!


9F......10F!


よし、到着だ!



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