第6話 ランドセル
小さな丸いドアスコープの先に見えたもの......それは段ボール箱を脇に抱えた某宅配業者の制服を着た青年だった。顔は逆光でよくは見えないが、特に不審な様子はない。
美緒は警戒心を解く事なく、慎重にチェーンロックを外し、扉を5センチ程開けたところで一旦止めた。そして5センチの隙間から、肉眼でその者の姿を確認した。やはり、怪しい素振りは見えない。
「誰からの荷物かしら?」
「ちょっと待って下さい」
青年は段ボール箱に貼られた伝票を確認する。
「え~と......金山君子さんからですね」
段ボール箱は40センチ四方。それなりの大きさではあるが、さほど重そうには見えない。
社長......いや、お母さんか......美緒はその名を聞いて、安堵の表情を浮かべる。今日は何と言ってもクリスマスイブ。母からプレゼントが届いても決しておなしな話ではない。
「ご苦労様です」
美緒は笑顔で青年に労いの言葉を掛けると、荷物を受け取り伝票に判を押した。
「有り難うございます」
宅配業者の青年は帽子のつばに手を掛け美緒に一礼すると、長居は無用と言わんばかりに早々とその場を去って行った。次の配達があるのだろう。彼も早く仕事を終わらせて、恋人と共にイブを過ごしたいと思っているに違いない。まぁ、憶測を超えた話ではないが......
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
階段を駆け下りる足音が響き渡る。
「美緒さん誰からだ? なんだその荷物は?」
圭一はももと仲良くホタテを食べながら問い掛けた。余り興味なし......そんな表情だ。
「お母さんからよ......中身は何かしら?」
美緒はキッチンのテーブルに段ボール箱を置くと、素早くガムテープを剥がす。何だろう......箱を開けると、その中にあったものは、更なる箱だった。
よくよく見れば箱の真ん中にはロゴマークが......どこかで見た事のあるような有名なロゴマークだ。『ルイ・ヴァトン』そこにはそのように印字されていた。なっ、なんと!
更なる箱を開けると、その中に入っていたものは、驚くなかれ......ランドセルだった。
『ルイ・ヴァトン』のランドセル!
勿論、柄はモノトーンだ。
「この人やっぱ頭おかしい。ルイ・ヴァトン柄のランドセルよ。こんなの小学校に持ってったら、超目立つじゃない。ももが虐められるわ!」
ももは来春、晴れて小学生となる。しかし今はまだ真冬のクリスマス。入学祝にしてはちょっと早い気もするが......
「金山社長らしいな。それ......どう考えても特注だろ。一体いくらするんだ?」
「そんなの知らないわよ。あの人お金有り余ってるから......これやっぱ送り返す。もも使わないし」
同封されていたクリスマスカードには、『メリークリスマスももちゃん! 君子おばあちゃんより愛を込めて』そんな能天気な言葉が連ねられていた。
「金山さん、ももちゃんが愛しくてしょうがないんだろ。たった一人の孫娘だもんな。使わなくてもいいから貰っといてやれよ。送り返したりしたら、金山さんショックで死んじゃうぞ。なぁ、ももちゃん」
圭一はももと一緒にホタテを食べれてご満悦の様子だ。醤油仕立ての丸ごとトマトを食べた後だ。その美味しさはまた格別だったに違いない。
「あれ......この本な~に? 女の人が裸だよ」
一方ももは、何やら棚の隙間に挟んであった一冊の如何わしい雑誌を引きずり出していた。
「あっ、そっ、それは!」
未来は目を覚ましたかのように立ち上がると、慌ててももから雑誌を奪い取った。
「お前もっと奥に隠しとけよ。バカだなぁ......ハッ、ハッ、ハッ」
圭一は腹を抱えて笑い始めた。




