第5話 宅急便
「誰かに操られてるかのように......? それは初めて聞いたわね」
いつしか鍋は正面が見えなくなる程の湯気を立ち上げていた。美緒はホットプレートのスイッチを保温に変えながら呟いた。
「はい。何て言うか頭が真っ白って言うか......上手く言えないけど......夢遊病者みたいだったのかもしれません」
未来はホタテを平らげ、しゃもじで今度はエビを掬いながら答えた。
「今度はエビかっ!」
「ももエビ食べたい」
「はいも~ちゃん。エビよ。いっぱい食べて」
美緒はしゃもじで残り3尾のエビを全てももの小皿に乗せる。ももは美緒から渡された小皿を圭一の前に置き、「おじさん一緒に食べよう」と一言。
「有り難う......もも......ちゃん」
男涙に暮れる圭一。どうかこの義母のようにだけはならないでくれ......心の中で呟くばかりだった。
「未来、ちょっとやな事思い出させちゃうけどごめんね。その彼女だった人ってどんな人?」
「どんな人って?......女の人だけど」
「当たり前だろ。BL小説じゃないんだから。何か特徴は無いのか?」
「特徴ですか......強いて言うならスキンヘッドだった」
「ス、スキンヘッド? 丸坊主って事か?!」
「はい。仏教大学に通ってる尼さんです。普段はカツラ被ってるから、はたから見れば殆ど分かりません」
「尼さんて男禁制なんじゃ無いのか? 男と同棲なんて無しだろ」
圭一は激熱ホタテを口の中で転がしながら、驚嘆の表情を見せた。 余りの熱さに美味しいんだか、不味いんだかよく解らない。
「それは表向きだけらしいですよ。むしろ肉食系の方が多いみたいです。 あとは......コーヒー入れるのが得意な子でした。何種類か豆買ってきて、いつも自分でオリジナルコーヒー作ってました。自分か追い出される日もコーヒー飲ませてくれて......すごい美味しかった。今でもその味は忘れられません」
未来は当時の事を思い出したのだろう。先程、鍋を見て流した涙とは別の涙が頬を伝っていた。
「お前それはちょっとおかしくないか? 追い出されたあとの事は夢遊病者で、その直前に飲んだコーヒーの味は覚えてるのか? 何か府に落ちんな」
「まぁ、言われて見れば変かも知れませんね。でもそれは全て事実です」
未来の不可解な話に圭一と美緒が思わず顔を見合わせたその時だった。
ピンポーン......
ピンポーン......
突如チャイムが鳴り響いた。
「誰だ? 美緒さん誰か来る予定は?」
「特には無いわ。荷物かしら?」
美緒は警戒した顔つきでキッチンを抜け、玄関へと向かう。
「どちら様?」
美緒はそう声を描けながら、ドアスコープを覗き込んだ。
「宅急便で~す」




