第4話 未来の過去
「こいつの家庭......結構色々あるんだよ」
美緒は煮え立った丸ごとトマトを圭一の小皿に乗せながら呟いた。
「それ、俺が食うんかい!」
「熊は雑食でしょ。文句言わない。はい、も~ちゃん。何食べたい?」
「ももね、鶏肉食べた~い」
美緒はもものリクエストに応えて、小皿に白菜と鶏肉を丁寧に盛り付けた。やがて未来が重い口を開く。
「おやじが死ぬまでは、全てが上手くいってたんです......いつもこうやって親子3人よく鍋を囲んでいました。すみません、急に泣いたりして。何だか思い出しちゃって......」
未来はキュウリをかじりながら、過去を思い出し、しみじみと語る。
「そうだ。前から聞こうと思ってたんだ。君はまだ高校生だろ。こんなに長期間家を空けてて大丈夫なのか? まぁ、事情が事情だけに家には帰れんけどな。お母さんは大丈夫なのか? 心配してるんじゅないか?」
圭一は醤油ベースの出汁にトマトを馴染ませながら問い掛けた。
圭一の言う通り、未成年が何日も家を空ければ、家族が不振に思うのは当然だ。何も連絡を取らなければ、警察に捜索願いを出しても良さそうなものだ。
「圭一さんが不思議に思うのは当たり前だと思う。でもそれは普通の家庭だったらの話。でも未来の家庭は結構複雑でね。色々あるのよ」
「複雑な家庭って......一体どんな家庭だ?」
圭一は煮えたぎるトマトを口に運びながら、なおも問い掛けた。
「そんな事、事件と関係無いでしょう。人には言いたく無い事だってあるんだから......それ位にしておいてあげて」
美緒は俯く未来を気付かった。
「いいんです話します。別に大した事じゃないんで......」
未来はしゃもじでホタテを掬いながら、視線を圭一に合わせる。
「ホタテあるんかい!」
「デリカシーの無い人間にホタテを食べる資格はありません」
そう言い捨てた美緒の目は釣り上がっていた。
「自分は家族から捨てられたんです」
再び未来が夫婦漫才の間に割って入る。
「家族から捨てられた?」
「はい......父親が病気で亡くなって間も無くの事です。当時母親は精神的に不安定な日が続いて、毎日近くの飲み屋で飲んでばかりいました。飲み屋で知り合った男なんでしょう。いつの間にそいつの子供を腹んじゃって......
まだ父親の喪が明ける前ですよ! あり得ない! 挙げ句の果てには、産むとか言い出して......それでとうとう自分の反対を押し切って、産みやがったんです。その頃には男も我が物顔で家に入り浸り初めて......」
未来の拳は真っ赤になるまで握りしめられていた。怒りが甦ってきたのだろう。
「それで家を出たって......訳か?」
「はい......そうです。その頃ちょうど自分は年上の女子大生と付き合ってまして。事情を話したら一緒に住もうって事になったんです」
「女子大生! うらやまし......いや......何でもない。確か自殺未遂の原因は女に振られたからって言ってたよな。その女か?」
「はい......ちょうど同棲を初めてから2週間位してからです。突然新しい彼氏が出来たから出てけって言われて......精神的にずたぼろだった自分の中で、彼女が唯一の生きる希望だったんです。
それなのに突然そんな事言われて......今思い返せば自殺なんて馬鹿げてる事くらい解るんですけど、その時はもう半分意識を失ってるって言うか、誰かに操られてるって言うか......訳も解らず気付いた時には樹海に足を踏み入れてました」




