第2話 もも
でも本当に回復して良かった......
手術直後の状態から考えると、今のこの元気な姿が奇跡のように思える。心臓移植手術を行わなければ、余命1ヶ月......一年前の今頃は正にそんな状態だった。実の子であるももを、極神島で命を掛けて守ろうとした姉の恵子......そんな姉も、今はこの世に居ない。
極神島の事件から無事帰還した美緒は、姪にあたるももを迷うことなく引き取った。最初は美緒に心を開かなかったももも、美緒の献身的な心が通じたのか、今では『お母さん』と呼ぶまでに二人の関係は進歩した。そんな美緒も、実の母親としてももと接している。叱るところは叱り、褒めるところは褒める。喜ぶ時は共に喜び、悲しむ時は共に悲しんだ。
一年前の極神島事件以降、美緒を精神的に急成長させたのは、美緒の『子』となったもも本人であり、また美緒を母親に作り上げた環境そのものであったに違いない。
そして二人がひっそりと暮らすこの古びたアパート......それは東京の下町に位置する。姉と暮らしていた頃の環境に、少しでも近付けてあげたい......それはそんな美緒の心遣いであり、ももも、それを歓迎した。
下町育ちの幼い少女が、突然東京一等地のマンションに暮らしの場を変えたところで馴染める訳がない。そんな事は解りきった事だった。
そして突如やってきた『追われ人』未来......最初はももが嫌がるのではないか? そんな不安もあったのは事実だが、いざ来てみれば『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と妙になついている。
そんな心配が取り越し苦労である事に気付くまでは大した時間を要さなかった。とは言え、この場所が未来を匿うのに最適と言えるのだろうか? その事に関しては、事務所内でも議論されたところではあったが、結局のところ未来の警護を買って出た美緒の意思を尊重する形で話は落ち着いた。
但しそれには二つの条件があった。
一つ......未来は絶対に外出してはいけない。
二つ......一日一回、必ず圭一が様子を見に行く。
以上だ。
そして『帝徳ホテル』での一件以降、すでに2週間が経過しているが、これまではまだ何も怪しい事は起きていない。この先の事は解らぬとは言え、現時点ではそれが正しい判断だったと言い切っても過言ではなかった。
ピンポーン......
ピンポーン......
突如、チャイムが鳴り響く。
「誰かなぁ?」
ももがチャイムの音に気付き、ホットプレートを抱えて押し入れから出てきた。
「熊五郎でしょう」
美緒は一瞬嬉しそうな表情を浮かべるが、直ぐにハッとしたようにいつものクールな顔つきに戻る。全く素直でない。美緒はエプロン姿のまま、静かにドアスコープを覗き込んだ。
ドアの前に立つ人間は予想通り圭一だった。何やらいっぱい荷物を抱えているようだ。
「未来。ドア開けるから外から見えない所に移動して」
美緒は振り向き様に声を掛ける。
「まだ押し入れの中だよ」
未来は崩れた押し入れ内の荷物をまだ片している最中だった。
よし......美緒は、静かにドアチェーンを外し、扉を開けた。
「メリークリスマス! ももちゃん元気か?!」
やたらとハイテンションの熊五郎は、真っ先にももに声を掛けた。すかさずももが反応する。
「わ~い。熊五郎おじちゃんだ! メリークリスマス!」
「ももちゃん、クリスマスプレゼント買ってきたぞ。因みに俺は熊五郎おじちゃんじゃなくて、圭一お兄さんだ。ももちゃんは賢いから分かるよなぁ?」
「有難う熊五郎おじちゃん。プレゼント楽しみ!」
ももは圭一の話など全く聞いていない。頭の中はプレゼントでいっぱいのようだ。




