第1話 アパート
『続いてニュースになります。世界中が賑わうクリスマスイヴの今日未明、東京の中心部でまたしても惨劇が起こりました。渋谷から中継が入っています。田中さんどうぞ』
『はい、こちらは渋谷108正面玄関前です。若者達で賑わうこの繁華街で、悲惨な銃乱射事件が発生しました。犯人は19歳学生、すでに駆け付けた警察官により身柄は確保されています。現在確認出来ているだけで死者6名、負傷者10数名。現場は複数の救急隊員、警察官などでごったがえしている状況です。今私の目の前に全身血塗れになった若い女性倒れています。全く動いていません。
これから救急隊員による心臓マッサージが施されようとしています。これは本当に現実に起きている事なのでしょうか? 目を疑うような光景が眼前に広がっています。詳しい状況が解り次第、再度報告させて頂きます。現場からの中継は以上。田中でした』
ふう......
西側の窓からオレンジ色の夕日が差し込む古びたアパートの和室。テレビの前であぐらを組み、一人ため息をつく『追われ人』未来。ボサボサの髪の毛に、手入れのされていない無精髭。『居候』『引きこもり』そんな代名詞が一番しっくりとくる風貌だ。
全く......
銃なんか持ったって、ろくな事ない......
大体何で学生なんかが銃持ってんだ? 日本もぶっそうになったもんだ。そう言えば、この間も九州でこんな事件あったっけ。あれも銃乱射だったような気が......まぁ、自分には関係ないか。
「ちょっと未来! お鍋出来上がったからテーブル拭いてホットプレート用意して。押し入れの一番奥にあるから」
包丁で切り刻んだ野菜を鍋の中に落としながら、少し苛ついた表情を浮かべ、美緒は未来に指示を出した。
「あっ、はっ、はい......」
未来は突然声を掛けられ、慌てて立ち上がるも足がもつれて倒れそうになる。美緒は野菜を全て鍋の中に入れ終わると、食器棚から箸と茶碗と小皿を手際よく取り出す。
「も~ちゃん。これテーブルの上に持ってって」
「は~い」
少女の元気な声が帰ってくる。
「あっ、そうだ忘れてた。も~ちゃんにクリスマスカードが届いてたわよ」
美緒は思い出したかのようにそう告げると、下駄箱の上に置かれたクリスマスカードを手渡した。
「あ~玲奈ちゃんからだ! ももが贈ったカードもちゃんと届いてるかな? お母さんあたし心配......」
「大丈夫よ。戻ってきてないから、ちゃんと届いてるんじゃない。も~ちゃんは心配性ね」
お母さんと呼ばれた美緒は、優しい笑顔を浮かべながら、不安気な表情を浮かべるももに言葉を返した。
「そうだよね。もも安心した」
ももは安堵の表情を浮かべながら、箸と茶碗と小皿を和室のこたつの上に運ぶ。
「ちょっと......どこにあるんだよ......」
そんなももに対し、未来はホットプレートを探すべく押し入れの中で悪戦苦闘していた。
「あたし分かるよ。一緒に探してあげる」
そう声を掛けながら、ももは狭い押し入れの中に突入していった。
「おいっ、ちょっと狭いって! あいたたた......」
ホットプレートの上に積み上げられていた荷物が未来の頭に容赦なく崩れ落ちてきた。
「ちょっと下に迷惑だから、静かにやりなさい」
美緒は腰に手を当て少し呆れた様子だ。
築30年の木造アパート......決して防音が優れているとは言い難い。




