第11話 殺人依頼
「ナ、ナ、ナ、ナント?!」
ポールは余りの驚きに、口から心臓が飛び出さんばかりの狼狽ぶりを見せた。思わず尻餅をついたその姿は、まるでコントの一幕。こんな姿を美緒達に見られたら、後々何を言われるか解ったもんじゃない。
「まぁ、そんなに驚きなさんなって」
木に吊り下げされた『屍』?は、非常識にもそんな言葉を発しながら、慣れた手つきで複雑に巻き付けられたロープを振りほどき始めたではないか。
ポールは口をあんぐりと開け、ただその様子を見続ける事しか出来なかった。もしこれがドッキリTVだとしたらかなり質が悪い。テレビ局の電話はクレームでパンクするだろう。
『屍』かと思われた個体は正真正銘、魂が宿る人間。もはやその事に疑う余地は無かった。
バサッ!『屍』は体に巻き付けられたロープを全て振りほどくと、素早い身のこなしで地面に着地。動きにキレがある。
「別に驚かすつもりは無かったんだ。悪く思わないでくれ。見ての通り俺達は自殺志願者のスカウトなんだわ。とにかくこの森は広い。一旦森の中に入っちまうと、有能な人材を見付けるのは本当に困難でな......
ここにぶら下がってると、こっちが探さなくてもみんな『屍』に気付いて集まって来るんだよ。頭いいだろう」
紫色に変色したその顔は得意満面。さぞかし持論に酔いしれているに違いない。それにしても『屍』メイクは実に良く出来ている。その点だけは評価に値する。
「ちょっともう話してもいい? あんたが凄いのはよく解ったからさ」
『誘い人』の女は、『屍』の長話に痺れを切らせたのだろう。無理矢理会話に割り込んで来た。
この二人がグルである事はもはや疑う余地が無い。自殺志願者がこの場に近寄ると、何らかの手段で『屍』が『誘い人』を呼び出すシステムが出来上がっているのだろう。この二人、あまり仲は良さそうではないが、チームワークだけはしっかりしているようだ。
「ごめん、話を戻すわね......今そこの死に損ないが言ったように、あなたに人一人殺して欲しいの。これは悪い事ではなくて、むしろ世の為になる事なのよ。殺す人は悪人なんだから。死ぬ前に良い事してご遺族に謝礼が支払われるんだから、こんないい話はないでしょう。引き受けて貰えるわよね?」
『誘い人』は満面の笑みを浮かべながら、諭すように語り掛けて来た。
ここが一番大事なところ......あまり拒否し過ぎても具合が悪いし、簡単に引き受け過ぎても不自然だ。
拒否しつつも、諭されながら最後には引き受ける......ポールの頭に浮かんだストーリーはそんなとこだったに違いない。
ポールは頭の中でシュミレーションを重ねながら、満を持して口を開く。
「あんた達のイッテル事ヨク解らない......大体自分に人ナンカ殺せるワケないじゃナイカ! 人殴ったコトダッテ無いノニ......そんなの無理ダヨ。お母サンにお金を残せるのは嬉しいケド......」
お金は欲しいけど、自分に殺す行為を成功させる自信が無い。言い方を変えれば、殺し方さえ教えてくれればやっもいいと遠回しに言っているようなものだった。まずは満点に近いような口火の切り方と言えよう。
『誘い人』と『屍』は顔を見合わせ、互いに頷き合う。脈ありと感じ取ったに違いない。やがて『誘い人』が口を開いた。
「あなたなら出来るわよ。大丈夫......私達がいっぱい教えてあげるから。あなたは本当に親孝行な息子さんになれるのよ。私達を信じて!」
自殺して親孝行出来る訳無いだろ!
こいつらバカか?
何だか妙に腹が立ってくるポールだった。しかしそんな気持ちが外面に出てしまったら、元も子も無い。ポールは怒りを必死に押し殺しながらポツリと呟いた。
「親孝行...... 」
「そうよ。親孝行よ!」
「お前やってみろよ。みんなやってるぞ」
ここで一気にけりをつけてやる! 二人の気色ばんだ顔つきは、そんな気持ちの現れなのだろう。
「......殺すって......一体誰ヲ」
「知りたいか?」
「ハイ......」
『誘い人』と『屍』は互いに顔を見合わせた。どうする? 言っちゃう?......そんな心と心の会話がなされたのであろう。
やがて『屍』がポールの正面に立つ。そしてはっきりとした口調で言った。
「青島麗子だ! 奴を殺せ!」
「!!!」
時刻は夜の7時......深すぎる森に長過ぎる夜が訪れようとしていた。そんな深い森を、意気揚々と出口に向けて歩き始める『誘い人』『屍』『スナイパー』の3人。
この事がいかに危険な行為なのか......この時点ではまだ知る由も無かった。




