第9話 号泣
やがて3人目の出演者が『舞台』に現れた。3人と言っても、1人はぶら下がっているだけで、セリフを言う事は無いが......まぁ、役者なら実に楽な仕事だ。
「あらっ、驚かしちゃったみたいね。ごめんなさい。あたしは決して怪しい者じゃないから......まあまあ、ちょっと落ち着いて」
ポールが待ち受けていた『誘い人』......今、目の前に現れたその者は、ポールが予めイメージしていたその者とこれまた随分違っていた。全く予期して居なかったと言っても過言ではない。
それはどこにでも居るオフィス街のOL。それ以上でもそれ以下でもない実に平均的なワーキングガール......そんな女性だった。未来から聞いていた話とはまた随分違う。日替わりで担当が代わるとでも言うのだろうか。
気付けば、腰が抜けたように倒れ込むポールに笑顔で手を差し伸べている。
自分は決して怪しい者ではない......木にぶら下がった遺体をまともに見詰めながら、よくそんな戯言を言えたものだ。普通の人間ならまず腰を抜かすであろう。しかもこんな時間にこんな場所でだ。
明らかにこの状況がここにある事を知っていて、それを隠すつもりなど毛頭無い。そんな意思表示でもあった。
「あっ、アンタ。こっ、こんな場所に一体何しにキタンダ!」
それに対し、ポールの声は完全に裏返っている。正に名演技だ。一体どこでこんな技を身に付けたのだろう。
「それはこっちが聞きたいわ。あなたこそなんでこんな所にいるのよ。あなたが答えたら、私も答えてあげる」
この女、自分の後ろで風に揺れる遺体が目に入っていないのか? オブジェくらいにしか思っていないのだろうか?
例え予めそれを知っていたとしても、人間なら目を背ける、額にシワを寄せる程度のリアクションを起こしてもバチは当たらない。しかしこの女には、そんな身振りが全く見受けられない。過去にこのような遺体を何度も見ていて、自分は慣れているという意思表示なのだろうか......
「オッ、オレハ......自......自......」
「自って何? はっきり言いなさいよ。あなた男でしょう」
いつの間に女は、へたれ込むポールの前で仁王立ち。そしてその口調は明らかに威圧効果を狙ったものだった。
こいつは、一体どういうアプローチの仕方をしてるんだ?
自分が相当弱く見られているという事なのだろうか?
そうであるなら、それこそがポールの狙っていたところではあるが、余りの横柄さに戸惑いを隠せない。さては、考える時間を与えずに、一気に了承させようって腹なのか? まぁ、よく使う手ではあるが......
ポールは更に狼狽えた表情を浮かべ、なおも奮える唇で訴えた。
「自......自殺に決まってるダロ! もう......コンナ人生送るのヤナンダヨ......頼むよ......死なせてクレヨ......お願いダカラ......ウッ、ウッ」
いつの間にポールの目からは大粒の涙がこぼれ出し、頬を伝い手の甲へと垂れ落ちていた。見ているだけでも痛々しくなるその振る舞い......さぁ、どういうリアクションが返ってくる?
更に畳み掛けてくるのか?
それとも、慰めてくるのか?
ちょっと見物だ。
すると......
「うっ、うっ、うっ......」
なっ、なんだ?
ポールは涙にくれた目で顔を上げると、そこに現れたのは......なんと号泣する女の姿だった。
ヘッ、なんだ?




