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傷だらけのGOD 樹海の怪 地獄のサバイバル!  作者: 吉田真一
第6章 深すぎる森
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第8話 千両役者

頭上を覆う深い枝葉が無ければ、百万ドルの夜景を拝めたに違いない。空気は澄み、雲一つ無い夜空には、無数の星が散りばめられていた。それらが発する天然の明かりは、深い森の僅かな隙間を潜り抜け、吊り下がる男の足元を舞台のように照していた。


黒の古びた鞄......男の遺品と思われる。


一本のタバコが飲み口に突き刺さったコーヒーの空き缶......自殺する前に最期の一服を楽しんだのであろう。


そしてタバコの箱......箱の上には、一本のタバコとライターが並べて置かれていた。箱の中は空のようだ。


「......」


ポールは無言で星明かりに照らされたその『舞台』の正面に立ち、神妙な表情を浮かべている。


何なんだ? この違和感は......ポールが違和感を感じ、瞬きもせずに見詰めているもの......


それは、『タバコ』だった。


ここに到達した時点でのタバコの残りは2本。1本はすでに吸殻となって、空き缶の飲み口に突き刺さっている。そしてもう一本は、箱から出され、ライターと共に箱の上に置かれている。


自分は喫煙者だから思うのかも知れないけど......果たして喫煙者が最後の1本だけ残して死ぬか? 箱からわざわざ出してる訳だから、吸うつもりでいた事はほぼ間違いない。でも結果として吸わなかった。


............


いやっ......


もしかしたら......


吸わなかったのではなくて......


吸えなかったのではないか?!


一本目を吸い終えた時点で何かが起こり、結果として吸う前に死んだ。そんな仮説は成り立たないだろうか?


この男......


もしかして!


いやいや......ちょっと考え過ぎじゃないか?


ただ単に吸いたく無くなったのかも知れないではないか? 確かに妄想が妄想を呼んでしまっている感も否めない。


ポールが『舞台』の前でそんな自問自答を繰り返していた正にその時だった。


ザッ、ザッ、ザッ......


ザッ、ザッ、ザッ......


なっ、なんだ?!


ザッ、ザッ、ザッ......


ザッ、ザッ、ザッ......


背後から忍び寄る不敵な足音。それは正にポールが待ち望んでいたものだった。


よ~し、来たな!


ポールの血圧は急上昇し、いつしか顔は赤みを帯びていた。目は爛々と輝き、みなぎる闘志は、身体中に武者震いを巻き起こしていた。


おっと......いかん、いかん。自分は人生に絶望した自殺志願者だ。闘志をむき出してどうする!


相手もそれなりに経験を積んでいるであろう。心の底から廃人に成りきらなければ、見破られてしまう。


ザッ、ザッ、ザッ......


ザッ、ザッ、ザッ......


足音はもう目と鼻の先だ。ポールは大きく深呼吸し、沸き上がる闘志を体の心底に封じ込めた。


よしっ、ここからは名役者ポールの登場だ!


「ウワァ、誰だ? 誰ナンダ!」


ポールは足音が響いてくる後方へと向き直ると、見苦しい程に腰を抜かして倒れ込んだ。


ちょっと白々しかったか?......


まぁ、少し大げさ位でちょうどいいだろう......


ポールは体をブルブル震わせながら木にしがみつき、慟哭の表情を浮かべた。


「アワワワワ......」


唇は感電しているかのようにブルブルと震え、恐怖と驚きに満ちたその表情は、正にムンクの叫びと見紛う程。役者が見ても役者には見えないであろう。正に渾身の演技と言えた。


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