第7話 遭遇
ここまで歩いて来た遊歩道は、所謂、探索ツアーなどでも利用される『観光歩道』。こんな所で自殺する者などはまず居ない。しかし遊歩道から一歩外へ踏み出したなら、そこは正に霊道とも言える世界。何が待ち受けているか分かったものではない。旅立った魂の亡骸に出会わない事を祈るばかりだ。
もうどうにでもなれ!......ポールは一度大きく深呼吸すると、力強く第一歩を踏み出した。
ガサッ、ガサッ、ガサッ......
ガサッ、ガサッ、ガサッ......
道なき道は、歩く人間の都合など全く考えてはくれない。木の根が一面に張り巡らされ、そんなものに足を取られたならば、突然現れる斜面を転げ落ちる。打ち所が悪ければ、その気は無くとも自殺者のカウントを一つ増やす事になる。ポールはゆっくりと慎重に、深すぎる森を着実に奥へと奥へと進んで行った。
しかし、歩けども歩けども一向に『誘い人』が近寄って来る気配は無い。もしかして今日は『お誘い業』お休みなのか? 決して油断している訳ではないが、空振りを予感した正にその時だった。
一瞬木の根につまずき、よろけた拍子に投げ出した左手が何かに触れた......というよりかは何かを掴んでいた。当然そこに木があると信じて投げ出した左手ではあったが、木の割りにその感触は柔らかい。
???
???
............
............
............
アッ、アッ、アッ......ギエー!!!
ブラ~ン......
ブラ~ン......
ポールが手を離すと、その『個体』は振り子のごとく左右に揺れた。
ブラ~ン......
ブラ~ン......
無数の木々が天高くそびえ立つ深い森の中で、一際目立つ大木にロープで吊らされたその『個体』......それが『遺体』であることは明らかだった。
わずかに差し込む星明かりが、その『遺体』をスポットライトのように照らし出し、揺れに乗じて見え隠れするその目は、まるで突然の訪問者を見詰めているかのようだった。
疲れたスーツに疲れたワイシャツ......
疲れたネクタイに疲れた革靴......
サラリーマンのユニフォームをまとったその男は年齢凡そ50というところ。勝手な想像ではあるが、上からも下からも叩かれる『中間管理職』......そんな代名詞が一番しっくりとくる。まぁ、実際のところは解らないが......人生全てに疲れきった男が選んだ道は、正に永遠の安らぎだったのであろう。紫色に変色したその顔は、どこかほっとしたような表情にも見える。
一度は狼狽えたポールであったが、『個体』に遭遇する事は、ある程度森に入る前から想定していた事。自分は大事な任務でここを訪れているのだ。こんな事で狼狽えている場合ではない。
落ち着け、落ち着け......ポールは一旦呼吸を整え、目を瞑り、静かに両の手を合わせた。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏......安らかに眠って下さい。ポールは静かに目を瞑り亡骸を弔った。




