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傷だらけのGOD 樹海の怪 地獄のサバイバル!  作者: 吉田真一
第6章 深すぎる森
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第5話 珠(たまき)

尼であるが故に丸坊主。


尼であるが故にノーメイク。


そんなハンデをもろともしない美貌に、ポールはすでにメロメロ。赤らめた頬に伸びきった鼻の下。自殺志願者にあるまじき表情と言ってよい。もし今ここにエマが居たならば、「しっかりやれ!」と怒鳴られていたに違いない。


そんなポールの下心丸出しのリアクションに対し、尼の方はというと、表情一つ変えず至って冷静。目を瞑り両の手を合わせると、静かに口を開いた。


「有り難うございます。あなたの未来に、ご多幸をお祈り致します......南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏......」


彼女にしてみれば、日に何回も行うルーティンみたいなものかも知れないが、その声は湧水の如く透き通り、聞く者全てに癒しを与えた。


そんな恩恵をまともに頂戴したポール......いつもなら「このあと食事でもいかか?」などと、色男モード全開になるところではあるが、ここでそれをやったら人間失格。さすがのポールでも理性が勝っていたようだ。


「有り難うゴザイマス」


ポールも尼に習い、気を静めて両の手を合わせる。そして軽く一礼をすると、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしていった。


まだ随分若そうだったけど......


何で尼になったんだ?......


人には色々事情があるって事か......


いかんいかん、今は煩悩に負けている場合ではない。職務に集中せねば! さぁ、行くぞ! ポールは秘めた闘志を再び燃焼させ、樹海の入口へと足早に進んで行ったのである。


そんなポールの背中に突き刺さる視線......それは他でもない。尼の2つの目から発せられたものだった。尼はポールの後ろ姿を見詰める。そして尚も見詰める。やがて尼の目は狐のように釣り上がり、鬼の形相へと変化していった。


人間の顔とは瞬時にここまで変わるものなのか?......今もしポールがこの顔を見たら、間違いなく腰を抜かすであろう。


やがて尼は、苛ついた表情を浮かべながら足元にツバを吐く。そして小声で呟いた。


「自殺志願者を装ったって私は騙されない......」


だそうだ。


すると、後方から......


たまきさん。今日も一日ご苦労様」


そう声を掛けて来たのは、閉店準備に忙しい売店の店主だった。白髪頭がまるで雪のように見える。汚れのない笑顔が実に美しい。手には、ほうじ茶とお茶菓子。呼び掛けの内容からして差し入れと思われる。


声を聞くなり、珠なる尼の顔は瞬間的に未仏の顔に変貌する。カメレオン並みの変わりようだ。振り向き様に珠は溢れんばかりの笑顔を披露。役者もびっくりだ。


「こちらこそ、有り難うございます。あっ、そのお茶菓子頂けるんですか? ラッキー! 私甘いもの大好き!」


珠なる尼は、満面の笑みを浮かべながら茶菓子を受け取り、口に頬張った。


「いやぁ、聖経院せいきょういんの皆さんがこうして来てくれるようになってから、自殺者の数が激減してねぇ......本当に感謝してるよ」


「感謝なんて、そんな......私達に出来る事なんかこれくらいしか無いんで。自殺者が減ったのであればそれはほんとに良かったです......あっ、ほうじ茶もいいですか?」


「珠さんがもし毎日来てくれたなら、自殺者は間違いなくゼロになるんだがな。珠さんに諭されて改心しないヤツなんぞこの世におらんだろう。それから......さっき来た外人顔の青年......そのまま樹海に向かったようだが、大丈夫なのかのう?」


店主は寒さに身を竦めながら、不安気な表情を浮かべている。


「ああ......彼なら大丈夫。何回もここに立たせて頂いてると大体分かるんですよ。何しに来たかは知りませんが、彼にそんな意思はありません。安心して下さい」


「珠さんがそう言うんだから間違いないじゃろう。そうか、それは良かった......おう、そろそろ車のお迎えが来る頃だったな。湯呑みはそこの棚の上に措いといてくれ。明日もまた誰か来てくれるんだろう。宜しく頼むね」


店主は安堵の表情浮かべながら珠に一礼すると、そそくさと店内に戻って行った。


一方、珠は再び樹海の方角に視線を向ける。すでにポールの姿はそこに無い。


「............」


珠はただじっと樹海を見詰め、微動だに動かない。


いつしか日はどっぷりと暮れ、深すぎる森に長すぎる夜が訪れようとしていた。


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